ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ

文字の大きさ
上 下
2 / 19

1.美少女をお持ち帰りですか?

しおりを挟む
 近所にコンビニがあると便利だ。
 高校生になったのを機にマンションで一人暮らしを始めてから一年。近くにコンビニがあるという状況になって、その利便性に気づかされた。もし引っ越すことがあったとしても、近所にコンビニがあることを条件にしたいと思っている。
 思い立ったら気軽に夜食を買いに行けるし、発売したばかりの漫画雑誌を手に取ることができる。二十四時間営業に感謝である。
 そんなわけで、まだ肌寒さを感じる四月の月明かりの下を歩き、今夜も夜食と漫画のためにコンビニに訪れた。

「あれ? ……誰だっけ?」

 コンビニに入店すると、入口横にある雑誌コーナーから聞き覚えのある女子の声がした。反射的に声の方を向けば、俺と同じ高校の制服を着た金髪ギャルがこっちを指差していた。
 内心で「げっ」と漏らす。
 クラスメイトの渡会さんだ。俺は彼女が誰なのかすぐにわかったが、自分から声を上げた渡会さんの方は俺の名前を思い出せないようだった。「見たことあるはずなんだけどなぁ~」と首をひねっている。見たことあるっていうか、クラスメイトですけどね。
 渡会さんとはまともに話したことがないけれど、勝手ながら一方的に苦手意識を持っていたりする。金髪にピアスって、俺のような人畜無害な男からすればそれだけで恐怖の対象だ。
 だからって、回れ右をして帰るのは逃げだ。ビビっていないことを主張するためにも、ここは気づかない振りをして買い物を済ませるのだ。

「どうしたのアスカ?」
「どっかで見たことある男子がいてさぁ……。んー、ここまで出かかっているのに出てこない~」
「あれ、室井くんじゃない」

 渡会さんの後ろからひょっこり顔を出した女子に、あっさり名前を言い当てられてしまった。
 内心で冷や汗を流す。そんな胸中を悟られないように、聞こえない振りをしてお目当ての食品売り場に直行した。漫画は諦めるしかない。
 ていうか、今俺の名前を当てた女子って桐生さんだったんじゃないか?
 典型的なギャルの渡会さんと、真面目で清楚な見た目の桐生さんという組み合わせは、なんだかアンバランスに感じた。
 桐生さんも同じクラスだけど、二人が一緒にいるという印象はあまりなかった。まあ俺が知ってるのって教室の様子だけなんだけども。
 とにかく、早く買い物を済ませてしまおう。近くにクラスメイトがいるのってなんか落ち着かない。これもぼっちの宿命か。
 心の中で「補導される前に早く帰るんだぞー」と制服姿の二人に注意を促しておく。実際は目も合わせないけどね。

「よっ、室井。偶然じゃない」
「あっ、ども」

 俺の心の声が漏れたわけじゃないんだろうが、レジに向かおうとしたタイミングで渡会さんに声をかけられた。咄嗟に会釈しながらあいさつを返す。
 同い年相手でも反射的に頭を下げちゃうのってなんなんだろうね? 自分自身の行動だけどわかんない。認めたくないものだが、陰キャの習性なのかもしれない。

「何よそれー。すっごい他人行儀なんだけど」

 俺の反応がよほど面白かったのか、渡会さんはケタケタと笑った。
 そりゃあ他人ですからね。ていうか笑いすぎだよ。店員さんに見られて恥ずかしいだろ。

「ごめんね室井くん。アスカったら急に声かけるから驚かせちゃったよね?」
「えー、あたしのせいなの?」
「そう言っているじゃない」
「うぅ~。紗良が冷たーい」

 見た目正反対の渡会さんと桐生さんは仲良しのようだ。俺はお邪魔のようなのでさっさと退散させてもらおう。

「おっと室井。どこ行こうとしてんのよ? まだあたしの話が終わってないでしょうが」
「あっ、話あったんだ……」

 立ち塞がる渡会さんの横を通り抜けようとしたら腕を掴まれた。
 女子に触れられてドキッとしてしまう純情な俺。イケメンなら「可愛い」と言われる反応なのだろうが、相手が俺だと「キモッ」という感想に早変わり。現実とは無情である。
 なので極力感情を表に出さないように顔を向けた。俺と目が合った渡会さんがニカッと笑った。

「室井にお願いがあるんだけどー。ちょっとだけ話を聞いてくんない?」

 自分が可愛いってことを自覚しているのか、上目遣いで「お願い」を口にする渡会さん。絶対にちょっとじゃ済まないパターンだよね?

「……」

 俺が無言でいると、渡会さんは上目遣いのまま根気強く返事を待っていた。見守っている桐生さんは黙って微笑みながらも、俺の返事を期待しているように思えた。

「まあ……ちょっとだけなら……」

 断れない自分が恨めしい。「ノー」と言える人に、俺はなりたい。

「よっしゃ! で、話なんだけどさ。室井って一人暮らししてるって本当?」
「あ、ああ……そうだけど?」

 なぜそれを知っているんだ? そう俺が聞くよりも早く、渡会さんの口から爆弾が投下された。

「だったら今夜、室井んちにあたしと紗良を泊めてくんない?」

 貞操観念が逆転した世界にでも迷い込んだか? そう考えた俺は悪くないと思う。
 だってそうだろう。別に親しくもない男子の部屋に、クラスの美少女が二人同時にお泊まりを希望しているのだ。こんなのラブコメ漫画でしか知らない展開だ。

「あ、うん……」

 そしてやっぱり断れない俺だった。「ノー」と言える人に、俺はなりたい。……切実に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

処理中です...