上 下
95 / 125
おまけ編

if もし初めてのメイドが琴音だったら⑧

しおりを挟む
 私にとって会田祐二という男子はただのクラスメートだった。
 彼はクラスで目立つこともなく、私も特別仲良くした覚えがなかった。同級生というだけで、あまり接点のないクラスの男子の一人だった。
 それでも思い出してみれば、会田くんのことで印象深い出来事が一つだけある。
 それは彼に告白されたこと。学校の屋上に呼び出されただけでも驚かされた。だって会田くんが自分から私に話しかけてきたこと自体初めてだったから。

「好きです、付き合ってください」
「ごめんなさい」

 だからといって告白を受ける理由にはならなかった。他にも男子から告白されたことはあったし、その人達以上に私は会田くんを知らなかった。

「そっかー。じゃあしょうがないね」

 ただ、彼の引き際の良すぎる態度に、内心で首をかしげたのはよく覚えている。
 なぜなら今まで私に告白をしてきた男子はなかなか諦めてくれなかったから。「友達からでもいいから」とか「試しに一回遊びに行くだけでも」とか、しつこく接点を持とうとしていた。軽いノリでありながらも、そう言ってくる人全員目がギラついていた。
 だからって、会田くんを特別意識したわけでもない。
 そういう人もいるんだな。告白はされたけれど、あまり好かれてはいなかったんだな。その程度の感想しか抱かなかった。
 実際に、それから彼と接点は生まれなかった。私も自分からかかわろうとはしなかった。

 ──会田くんとの関係が、あんなにも劇的に変わるだなんて思いもしなかったのだから。


  ※ ※ ※


 お父さんが大変なことになって、家族がバラバラになった。
 私は堂本という中年の男性にどこかへと連れて行かれて、何かが変わった。

「藤咲彩音さん。あなたの幸せはなんでしょうか?」
「はい。私の幸せは、ご主人様に誠心誠意ご奉仕することです」
「よろしい。よくわかってますな」

 堂本さんが笑った。私は自分の答えに自信を持って頷く。
 自分の何かが変わった自覚はあるけれど、それが何かと問われれば答えに窮してしまう。でも、その変化は心地よかった。
 メイドとして、ご主人様に気に入っていただけるようにと技術を磨いた。これから私のご主人様になるであろう人に思いを馳せた。

「自己紹介は必要ではないと思うのだけれど……。藤咲彩音と申します。これから会田くん……いいえ、ご主人様のメイドとして精一杯お仕えしますね」
「お、おう。よろしくな……」

 ついに、私のご主人様が決まった。
 堂本さんに連れて来られた先にいたのは、同級生の会田くんだった。どうやら彼が私を買ってくれたようだ。
 さらに幸運だったのは妹の琴音と再会できたことだった。私よりも先にメイドになっていたのは驚いたけれど、姉妹で同じご主人様にお仕えできるだなんて、これほど幸福なことはない。
 まずは仕事を覚えて、一刻も早くご主人様にご奉仕させていただくこと。それが私の最初の目標だ。


  ※ ※ ※


「ご主人様が手を出してくれない……」

 会田くんのメイドになった初日。
 家を案内された時も、お風呂の時も、今まさに就寝という時間になっても、ご主人様は私に触れようともしなかった。
 いつお声がかかるかとドキドキしていたのに、普通に日常的な生活を送るだけで一日が終わってしまった。しかも私に個室まで与えてくださるだなんて……。奴隷のような厳しい生活を覚悟するように教えられていたから、ご主人様の優しさに感動しすぎて頭が真っ白になってしまった。
 じゃなくて! ご主人様の優しさは嬉しいけれど、私に手を出してくれなかったのは問題だ。
 彼は私に告白したことがあった。すぐに諦めていたとはいえ、私を抱きたいと思うほどには好いてくれているのだと思っていた。でも、それは自意識過剰だったかもしれない。

「だったら、このまま待っているだけじゃいけないわよね」

 自分が「学園のアイドル」と呼ばれているのを知っていた。だからすぐにエッチなことをしてくれるだなんて、我ながら思い上がったものだ。
 メイドは自分から主にご奉仕しなければ。待っているだけだなんて、私は何を学んできたのだろう。メイド失格だ。
 私は自分の部屋を出て、真っすぐご主人様の部屋へと向かった。

「はぁんっ! あっ、あっ、あっ、ああっ! 祐二様すごいよぉ!」
「え?」

 思わず足を止める。予想していなかった事態に固まってしまったのだ。
 微かに聞こえるのは、映像で何度も観た行為中であろういやらしい声だ。ドキリとさせられながらも、足音を立てないように気をつけながら声の方へと歩を進めた。

「おふ……いいぞ琴音。その調子だ……」
「あっ、あっ、あっ、あんんっ! オチンチンが熱くて硬くて……あたしの内側がゴリゴリって削られちゃうっ」

 ご主人様の部屋の前に辿り着くと、声の主はこの中にいるのだと主張していた。明らかな嬌声と、ベッドの軋む音まではっきりと聞こえてくる。

「こ、琴音……なの?」

 この家にはご主人様と私、そして琴音しかいない。なら、今ご主人様の相手をしているのが琴音なのだろう。
 初めて耳にする妹の声に動揺を隠せない。行為の生々しい音に、私の意識がいっぱいになる。
 琴音もメイドとしてご主人様に仕えているのだ。私よりも先にエッチなご奉仕をしていても何も不思議じゃない。私の妹でも、メイドとしては先輩だ。

「でも、今日は私に譲ってくれてもいいじゃない……」

 無意識に頬を膨らませてしまった。琴音に対して怒りを覚えるのはいつぶりだろうか?
 でもこれは琴音が悪いのだ。私よりも先にご主人様にお仕えしているのだ。メイドとして、これまでご主人様にたくさん可愛がってもらっているはずだ。私の知らない間に、たくさんエッチしたはずなのだ。
 妹とはいえ、先輩メイドと言うのなら、新人の私にお役目を譲ってくれてもいいはずだ。
 そうじゃないと……ずるいじゃない!

「……琴音のバカ」

 悪口がポロリと零れた。メイドになる前は、そんな風に思ったこともなかったのに……。
 諦めて部屋に戻ろうと踵を返す。けれど、ひと際大きい嬌声に足を縫いつけられた。
 ドア越しでも顔が熱くなる。今のが琴音の声だと、すぐには信じられなかった。

「……っ」

 こくりと喉が動く。無意識のうちにドアに近づいていた。
 ドアに耳を当てれば、琴音の嬌声がさらに大きく聞こえた。それどころかベッドの軋む音やご主人様の愉悦に満ちた声まで鼓膜を震わせる。

「す、すごい……これが本物の、セックス……」

 初めて耳に入る音すべてが、私の身体に熱を灯していく。
 熱に浮かされたせいで、いけないことだとわかっているのにドアを少しだけ開けてしまった。
 好奇心の赴くまま、誘惑に抗えずにドアの隙間から室内を覗いた。

「いいぞ、琴音のマンコの締めつけは最高だ! 俺が射精するまでそのまま締めつけてろよ」
「はいぃ! 祐二様のオチンチンぎゅってしますっ。たくさん精液出してください! あたしの中で気持ち良くなってぇーーっ!」

 幸いにも行為に夢中になっているようで、ご主人様と琴音は私が覗き見しているのを気づいていなかった。

「わぁ……。におい……とても濃い……」

 ドアを開けたことにより、聴覚だけじゃなく嗅覚でもヤラシさを刺激してくる。セックスとはどういうものなのか。感覚の一つ一つから教え込まれているような気分になる。
 室内が薄暗くて表情はわからない。でも、琴音が見たことのないほど喜びに満ちているのがわかった。

「こ、琴音……あんなにはしたない声を出して……」

 口を手で覆う。思わず発してしまった声を漏らさないようにするためか、それとも緩んでしまった口元をはしたなく感じてしまったためか。

「そんなにも……ご主人様にご奉仕するのが嬉しいのね……」

 どちらにせよ、琴音が羨ましいと思ったことに間違いはない。私もあんな風に淫らになりたいと求めていたのだ。
 琴音が喘ぐ。ベッドが軋む。そして、ご主人様の気持ちよさそうな吐息が私の鼓膜を震わせ、胸を高鳴らせた。

「ん……あんっ……」

 無意識に左手で自分の胸を揉みしだいていた。
 右手はといえば、ショーツの下に潜り込ませて秘部を刺激していた。私は無意識に自慰行為にふけっていたのだ。
 覗きをしながら自らを慰める。とてもいけないことで、とても惨めな行為だった。
 胸を痛めながらも行為を止められない。乳首がピンと勃ち、膣奥から愛液が溢れ出てしまう。喘ぎ声を我慢するのが大変だった。

「んく……ふっ……ふんんっ……んくぅっ……!」

 それでも、私はご主人様と琴音に見つかることもなく、二人の行為をオカズに果てたのだった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 乱れた息を静かに整える。時間が経つにつれて、身体がとてつもなく火照っていたのだと気づく。汗ばんだ肌は廊下の空気ですら涼しく感じた。
 なんてはしたない行為に及んでしまったのだろう。そう思うのに、いつか私もご主人様にああやって責めてもらえるのだと考えるだけで膣の奥底から愛液がじゅんと溢れてくる。ショーツはもうぐっしょりになっていた。

「いつか、じゃないわ。今日にでも……」

 すでに日付は変わっている。また夜が来れば、今度こそご主人様のお相手をできるようにアピールするのだ。

「琴音、絶対に負けないわよ」

 ご主人様と琴音のセックスを最後まで見届けてから、私はそっとドアを閉めた。
 そして、私は心の中だけで妹に宣戦布告するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...