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おまけ編
if もし初めてのメイドが琴音だったら⑤
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何度でも言おう。藤咲彩音は学園のアイドルである。冗談抜きで学園の誰もが認める、桁外れの美少女だ。
春休みが明けて、掲示板にクラス表が貼り出された。
藤咲さんがどのクラスなのかと目を走らせる。彼女と同じクラスになるという幸運を、みんなして祈っていただろう。そして、俺はその幸運を掴み取った。
けれど、始業式に藤咲さんの姿はなかった。
「藤咲さんどうしたんだろう?」
「体調不良か? 休むなんて珍しい」
「く~、せっかく藤咲さんと同じクラスになれたのにっ。早く会いたいぜ!」
ざわざわと波紋が広がるように、誰もが藤咲彩音を気にしていた。一日休んだだけでみんなの話題になるとか……。姿を見せなくても存在感が大きすぎるだろ。
クラスで藤咲さんのことを話題にしていないのは俺くらいなものか。別に話ができる人がいないって意味じゃないんだからねっ。
「なあ祐二。藤咲さんが今日休みなんだってさ。せっかく同じクラスになれたってのについてないよなー」
「別に今日来たからって俺達がおいそれとおしゃべりできる相手じゃないだろ。井出には高嶺の花なんだから」
「祐二だってそうだろー。はぁ……、ただ僕は最高の美少女と同じ空間で息を吸っていたいだけなのにな……」
ごめん、ちょっと引く。信じられないだろ? こいつ、俺の唯一の友達なんだぜ。
藤咲さんのいないクラスは落ち着きがなかった。井出と話していても彼女の話題ばかり。みんな藤咲さんのこと好きすぎでしょ。
※ ※ ※
「ただいまー」
「お帰りなさいませ祐二様。お食事にしますか? お風呂にしますか? それともあたしとエッチなことをしますか?」
「最後ので」
「きゃー♪」
帰宅して早々、お約束なことを言い出した琴音とイチャイチャしてみた。え、何これすっごく楽しい。
メイド服越しに胸を揉んだり、股間を彼女の尻に押しつけたりと言い訳の仕様がないセクハラをした。けれど返ってきたのは嫌悪に満ちた表情ではなく、遊んでいるような楽しげな反応だった。
年下美少女の満更でもない反応に気分が良くなる。俺のセクハラは止まることを忘れてしまった。止める人がいないからしょうがないね。
「琴音は帰ってくるの早かったんだな」
琴音とひとしきり遊んでから尋ねた。中等部も本日始業式だったはずだ。
琴音は中等部の三年生。つまり俺の二つ下の後輩である。専属メイドになったとはいえ、学園に通うようにと言い渡しているのだ。後輩が俺のメイドってのがそそるんだよね。
「当然じゃないですか。祐二様をお出迎えするために、あたしダッシュで帰ってきましたよ」
渾身のドヤ顔を見せる琴音。メイド服を着ているってことは、着替える時間があった程度には早く帰ったんだろう。新体操部のエースとのことだし、運動能力は高いのだ。
「……それに、今日は大切な日ですからね」
ぽろっと、思いが零れたかのように、琴音は小さく言った。
そう。今日は大切な日になる。琴音にとっても、俺にとってもな。
「そうだな。俺も着替えて準備するよ」
「お手伝いしましょうか?」
魅力的な提案だ。お手伝いどころじゃないことをしてしまいたくなるくらいには、魅力的な女の子なのだ。まあ本人もわかっていて言ってんだろうけどな。俺に手を出されたいと顔に書いてあるし。
少し勿体ないと思いつつ、魅力的な提案を断った。盛り上がるほどの時間は残っていないだろうからな。
「大丈夫だ。琴音は準備をしていてくれよ。俺も着替えたらすぐにそっち行くからな」
「わかりました」
お互い、心の準備も必要だろう。俺は自室でゆっくりと着替えを済ませる。リビングに行くと琴音がそわそわしていた。
「ま、まだですかねー?」
そわそわ、そわそわ。いつも通りを装っている風ではあるが、緊張しているのが丸わかりだった。
しばらくして、ピンポーンと来客を知らせるチャイムの音に琴音は飛び上がった。びっくりした猫みたいな反応だな。
「よし、行くぞ琴音」
「は、はいっ!」
二人で玄関に向かう。バチバチに気合いを入れて来客を出迎えた。
「こんにちは会田様」
来客の人物は皮脂多めの中年男だった。俺に琴音を売った堂本である。
「……」
そして、堂本の背後に滅多にお目にかかれないレベルの美少女が静かにたたずんでいた。服装はどこからどう見てもメイド服。ご主人様に仕えるためにここへ来たのだ。
唇を引き結び、視線を下げていた美少女がこちらを向いた。その目が驚きに見開かれ、ぽかんと口が開いてしまった。
見ようによっては間抜けなのに、彼女ならば可愛らしく映ってしまう。ただ立ち尽くしているだけでも圧倒的な美少女オーラは色褪せない。
「琴音……? な、なんで……?」
半開きになった口から、呆然としているような声が漏れた。驚愕しているって感じがすごく伝わってくる。
「久しぶりだねお姉ちゃん。お姉ちゃんも今日から祐二様のもとで働くんだよね。先輩として、あたしがビシバシ教育してあげるよ」
俺の家に新しく来た美少女メイド。それは学園のアイドルと名高い藤咲彩音だった。
状況を理解していないであろう藤咲さんに言葉をかけるのは妹の琴音だ。姉に向かってにっこりと微笑む彼女の思いは、ご主人様の俺にもわからなかった。
春休みが明けて、掲示板にクラス表が貼り出された。
藤咲さんがどのクラスなのかと目を走らせる。彼女と同じクラスになるという幸運を、みんなして祈っていただろう。そして、俺はその幸運を掴み取った。
けれど、始業式に藤咲さんの姿はなかった。
「藤咲さんどうしたんだろう?」
「体調不良か? 休むなんて珍しい」
「く~、せっかく藤咲さんと同じクラスになれたのにっ。早く会いたいぜ!」
ざわざわと波紋が広がるように、誰もが藤咲彩音を気にしていた。一日休んだだけでみんなの話題になるとか……。姿を見せなくても存在感が大きすぎるだろ。
クラスで藤咲さんのことを話題にしていないのは俺くらいなものか。別に話ができる人がいないって意味じゃないんだからねっ。
「なあ祐二。藤咲さんが今日休みなんだってさ。せっかく同じクラスになれたってのについてないよなー」
「別に今日来たからって俺達がおいそれとおしゃべりできる相手じゃないだろ。井出には高嶺の花なんだから」
「祐二だってそうだろー。はぁ……、ただ僕は最高の美少女と同じ空間で息を吸っていたいだけなのにな……」
ごめん、ちょっと引く。信じられないだろ? こいつ、俺の唯一の友達なんだぜ。
藤咲さんのいないクラスは落ち着きがなかった。井出と話していても彼女の話題ばかり。みんな藤咲さんのこと好きすぎでしょ。
※ ※ ※
「ただいまー」
「お帰りなさいませ祐二様。お食事にしますか? お風呂にしますか? それともあたしとエッチなことをしますか?」
「最後ので」
「きゃー♪」
帰宅して早々、お約束なことを言い出した琴音とイチャイチャしてみた。え、何これすっごく楽しい。
メイド服越しに胸を揉んだり、股間を彼女の尻に押しつけたりと言い訳の仕様がないセクハラをした。けれど返ってきたのは嫌悪に満ちた表情ではなく、遊んでいるような楽しげな反応だった。
年下美少女の満更でもない反応に気分が良くなる。俺のセクハラは止まることを忘れてしまった。止める人がいないからしょうがないね。
「琴音は帰ってくるの早かったんだな」
琴音とひとしきり遊んでから尋ねた。中等部も本日始業式だったはずだ。
琴音は中等部の三年生。つまり俺の二つ下の後輩である。専属メイドになったとはいえ、学園に通うようにと言い渡しているのだ。後輩が俺のメイドってのがそそるんだよね。
「当然じゃないですか。祐二様をお出迎えするために、あたしダッシュで帰ってきましたよ」
渾身のドヤ顔を見せる琴音。メイド服を着ているってことは、着替える時間があった程度には早く帰ったんだろう。新体操部のエースとのことだし、運動能力は高いのだ。
「……それに、今日は大切な日ですからね」
ぽろっと、思いが零れたかのように、琴音は小さく言った。
そう。今日は大切な日になる。琴音にとっても、俺にとってもな。
「そうだな。俺も着替えて準備するよ」
「お手伝いしましょうか?」
魅力的な提案だ。お手伝いどころじゃないことをしてしまいたくなるくらいには、魅力的な女の子なのだ。まあ本人もわかっていて言ってんだろうけどな。俺に手を出されたいと顔に書いてあるし。
少し勿体ないと思いつつ、魅力的な提案を断った。盛り上がるほどの時間は残っていないだろうからな。
「大丈夫だ。琴音は準備をしていてくれよ。俺も着替えたらすぐにそっち行くからな」
「わかりました」
お互い、心の準備も必要だろう。俺は自室でゆっくりと着替えを済ませる。リビングに行くと琴音がそわそわしていた。
「ま、まだですかねー?」
そわそわ、そわそわ。いつも通りを装っている風ではあるが、緊張しているのが丸わかりだった。
しばらくして、ピンポーンと来客を知らせるチャイムの音に琴音は飛び上がった。びっくりした猫みたいな反応だな。
「よし、行くぞ琴音」
「は、はいっ!」
二人で玄関に向かう。バチバチに気合いを入れて来客を出迎えた。
「こんにちは会田様」
来客の人物は皮脂多めの中年男だった。俺に琴音を売った堂本である。
「……」
そして、堂本の背後に滅多にお目にかかれないレベルの美少女が静かにたたずんでいた。服装はどこからどう見てもメイド服。ご主人様に仕えるためにここへ来たのだ。
唇を引き結び、視線を下げていた美少女がこちらを向いた。その目が驚きに見開かれ、ぽかんと口が開いてしまった。
見ようによっては間抜けなのに、彼女ならば可愛らしく映ってしまう。ただ立ち尽くしているだけでも圧倒的な美少女オーラは色褪せない。
「琴音……? な、なんで……?」
半開きになった口から、呆然としているような声が漏れた。驚愕しているって感じがすごく伝わってくる。
「久しぶりだねお姉ちゃん。お姉ちゃんも今日から祐二様のもとで働くんだよね。先輩として、あたしがビシバシ教育してあげるよ」
俺の家に新しく来た美少女メイド。それは学園のアイドルと名高い藤咲彩音だった。
状況を理解していないであろう藤咲さんに言葉をかけるのは妹の琴音だ。姉に向かってにっこりと微笑む彼女の思いは、ご主人様の俺にもわからなかった。
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