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本編
49話目
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空が茜色に染まっている。見渡す限りの海が夕日の光で輝いている。この景色を目にできただけで、ここに来た意味はあるのだろう……。
「祐二様ぁ~。あたしもうお腹ペコペコですよぅ」
「せっかく素直に風景に感動してたってのに、琴音はあっさりぶち壊してくれますねー? ご主人様を怒らせたいんですかー? んん? お仕置きがご所望か?」
「そ、そんな……お仕置きだなんて……きゃっ♪」
笑顔で琴音に怒りを向ける。こいつ本当に空気読めるんだか読めないんだかわかんない奴だな。
「……」
対照的に彩音は暗い雰囲気をかもし出している。
遊び疲れている……ってわけじゃなさそうだ。わりと体力ある方だしな。
琴音とエッチして、その後のお掃除フェラをさせたからなぁ。しかも射精しなかったもんだから長い時間やってたからな。
そのせいで「どうしたの?」「気持ちよくないかしら?」「そ、それなら私とせ、セックス……してもいいのよ?」と、いろいろ言われてしまった。フェラをやめさせてもしつこく聞いてきたからね。射精しない俺は体調が悪いとでも思ったのかもしれない。
今までの俺の行動を考えれば仕方のない反応か。
そんなわけで、体調はまったく悪くないのだと海で遊びまくった。砂浜を走り回ってみた。復活した琴音もはしゃいでいた。
その合間にも彩音は俺に続きをしなくてもいいのかと何度も尋ねてきた。もっと遊べばいいのにね。
まあ今までチャンスがあればやってきたツケか。それが夕日に染まる時間になるまで聞かれるとも思ってもみなかったけど。
俺の射精ばかりに気を取られていたせいだろう。彩音はあまり遊べてはいなかった。帰る頃になってそれに気づいて落ち込んじゃったんだろうな。
「ここには一泊だけじゃないからな。また遊べるって」
「そうですねっ。明日も明後日も海で遊べますね。島を探索するのも面白そうですし、お屋敷の中も遊べる場所があるみたいですよ」
彩音に言ったつもりだったが、琴音が返事した。彩音はといえば黙ったままだ。
まあいいか。ここで過ごしていればまた機嫌も直るだろう。
とりあえず、屋敷へと戻ることにした。ビーチパラソルなど、海で使った道具の片づけはここのメイドさんがしてくれるらしい。ここにいる間は本当に楽させてもらえそうだ。
屋敷に戻ると出迎えてくれたメイドさんがシャワーや着替えを手伝ってくれた。は、恥ずかしい……。と、赤面する可愛げもとっくに失ってしまった俺である。
「夕食の準備はできております。食堂へどうぞ」
メイドさんに促されて食堂へと向かう。そこで着替えた彩音と琴音と合流する。
食堂はどこぞのお屋敷かって思える長テーブルがあり、センスのありそうなテーブルクロスや食器などが目に入った。俺にセンスうんぬんはないけどな。
「あっ、俺トイレ行ってくるわ」
席に着く前に尿意を催した。彩音の肩がほんのちょっとだけ跳ねる。いいから座ってなさい。
トイレに行くために広い廊下を歩く。そこで二人の人影を見た。
「あっ、ご主人様」
「会田様ではないですか。そういえばそろそろ夕食の時間でしたかね」
音々さんと堂本だった。
この二人が並ぶとまさに美女と野獣だな。夕日が差し込んできて、よりくっきりと美醜の差を強調しているように見える。
「じゃあ堂本くん。またね」
「ええ。さようなら」
音々さんが堂本に小さく手を振る。俺はトイレに行くと伝えると、彼女はそのまま食堂へと向かった。
この場に残されたのは俺と堂本だけとなった。せっかく夕日が差し込んでくれるってのに、絵にならない男二人ってのもなぁ。
「なあ堂本」
「なんでしょうかな?」
動じることのないにやけ面。いつものことだから俺も動じない。
「前から気にはなってたけど、あんた音々さんと知り合いなのか?」
きっかり十秒経過。堂本は口を開いた。
「ええ、私とあ……藤咲音々は、同級生だったのですよ」
そうか同級生か。同級生……。ん、音々さんと堂本が同級生?
「えっ!? 音々さんと堂本って同じ歳だったのか!?」
全っ然見えねえ! 外見年齢なら親子でも通じちゃうぞ!!
「そんなに驚かなくても……」
珍しく堂本が落ち込んでいる。意外と気にしていたらしい。
と、思ったらすぐにいつものにやけ面に戻る。もう少しくらい落ち込んでくれてもいいのに。その方が可愛げが……やっぱりないか。
「少しだけ、私の話を聞いていただけますかな?」
俺、トイレ行きたいんだけど……。
※ ※ ※
「もしもの話ですよ。もしも、他人の心を操れる能力に目覚めたら、会田様はどうされますか?」
「そりゃあ人生楽に生きるんでないの」
「ですよねー」
なんだよその呆れたみたいな声はよ。けっこう普通の答えだと思うぞ。
俺は堂本に促されるまま手近な部屋に入った。客間っぽいけど、この屋敷の部屋の数を考えればただの空き部屋扱いなのかもしれない。
それで話があると思えば、そんな仮の話にどう答えればいいのやら。まあ本心を答えたけどな。普通だろ。
「会田様もお気づきでしょうが、私には力があります。人を従える力。金を動かす力。そして、メイドを仕立て上げる力です」
仕立て上げるっていうか、記憶をいじっちゃう力だけどな。怖いから口にはしないけどね。
「有能自慢か?」
「いえいえ。ただ、私も力に溺れて欲望のままに自由気ままな生活をしていた時期がありましてね。いやはや、お恥ずかしい話ですが私も若かったものです」
堂本は笑った。そこに自嘲が含まれていたかは判断できない。
「それで? なんで今は商売なんてやっているんだ? そのまま自由にやることやってればよかったんじゃないのか」
少なくとも堂本が直接商売する必要はないんじゃないか? 部下の黒服さんもいっぱいいるみたいだしさ。俺なら自分は楽するね。こんな商売だ。わざわざリスクを負う必要もない。
「私も、最初はなんの変哲もない男でしたからね。途方もない力に溺れていました。オブラートに包んで言えば、数々の女を食ってきました」
オブラートの意味知ってんのん?
まあでもそうか……。端的に言ってしまえば洗脳だもんなー。んなもん一般的な男ならまずエロ目的に使うに決まってるよな。俺なら真っ先にそう考える。
「今すれ違った女だろうが、手の届かないはずの有名人だろうが、私にかかればどんな女でも等しく思うがままにできました。しかし……これほどの自由気ままにできる力を持ちながら、私はある人物だけは手を出すことはできませんでした」
「それが音々さんか」
堂本は頷いた。脂ぎった顔が光ってる。そのせいか表情が上手く読み取れない。
「なぜでしょうね……。彼女よりも美しい女を抱いたこともあるというのに、私は彼女に触れることすらできなかった」
なぜかなんて俺にわかるわけがない。俺は堂本じゃないし、そんな羨ましい状況に立たされてもいない。
「手をこまねいている間に、彼女は私の知らない男と結婚してしまいました。それからですかね、私の中であれほど持て余していた欲望がぱったりと止んだのです」
「それで、メイドを売買する商売を始めたのか?」
「ええ。ただのきっかけではありましたが、これはこれで楽しいものです。ご主人様となる男がメイドにどんなことをするのか、興味深いのですよ。私自身でする欲は消えましたが、女を扱いたいという欲までは消えていなかったようです」
俺が言うのもなんだけど……それ趣味悪いって。つーか俺も観察とかされてないよね? 堂本の場合、どこまで覗かれていても不思議じゃない。いや、これが今の話の中で一番怖いって!
「大抵のご主人様はやりすぎてしまわれるようで、メイドを壊してしまいますからね。せっかく手塩にかけたメイドが絶望の目をしてしまうというのは、なんとも心苦しいものです」
その割ににやけ面のままだけどな。それすら楽しんでないよね?
「そこで、会田様ですよ」
「ん、俺?」
「会田様は私が手を出せなかった彼女の娘に目を留めました。私はそこに運命めいたものを感じてしまったのです」
運命とか……。彩音の美貌ならカタログの中でも目に留めてしまう奴は多いだろう。俺と彩音がクラスメイトでなくとも、あの美貌なら誰だって選んでしまう。
俺が彩音を選んだのは運命じゃないと思う。たまたま運良く彩音が残ってくれていた。それだけだ。
「失礼ですが、会田様はもともと孤立されがちだったご様子。陰気な性格で友達も少ない。さらにはご両親を亡くされてしまいました。メイドを使ってそういった鬱憤を晴らしてもおかしくありません」
マジで失礼だなこいつ……。
まあ鬱憤を晴らすというか……彩音を相手に好き勝手にしたのは事実だけどな。
「今までのご主人様と違い、所有物となったメイドを壊さなかった。私はそれだけで嬉しいのですよ」
「それで琴音や音々さんを俺に紹介したのか。でも音々さんはあんたの……憧れの人、だったんだろ?」
そんなに気になるのなら手元に置いておくものではないだろうか。俺なら彩音を他の男なんかに売ったりはしない。そんなことを自分の手でしてしまったら……きっと気が狂ってしまう。
だが、堂本はあっけらかんとしたものであった。
「いいのですよ。私は会田様にこそ彼女の所有者になってほしかった。実際に彼女は壊れることなく楽しそうにメイドとしての仕事をこなしています」
「それはあんたが洗脳してエロい性格にしたからだろ」
元の性格は知らんけど、さすがにあんなエロくはなかったはずだ。
そこまで変えてしまっても自分では何もしないのか? ますます堂本という男がわからなくなってきた。
「……自分でするのは、空しいものですよ」
らしくない声色だった。なぜか返事してはいけない気がして、反応で開きかけた口を無理やり抑えた。
……単純な話。本当に自身では楽しめなくなってしまったのだろう。それは堂本が体験したことに原因があり、経験できない俺にはやっぱり理解できないことなのだろうと思った。
「まあそういうわけでして、学生時代が懐かしくなって彼女と会話を交わしてしまったのです。私は彼女に手を出したことはないのでご安心をと伝えたかったのです。本当にそれだけですよ」
何か余計な闇を見てしまった気分になってるのはどうしてなんでだろうね?
とりあえず、俺がまっとうな(?)ご主人様をやっている限りは、堂本に気に入られたままだということだろうか。
「さて、私はこの後仕事が入りましたので島から離れます。後のことはここのメイドにお尋ねください。それから……これをどうぞ」
堂本は俺に小さな瓶を手渡した。中身は錠剤のようだ。
「この島にいるのなら、きっと必要になるでしょう。代金は結構ですよ。私からのサービスなのでお気になさらず」
そうして堂本は部屋から出ようとする。俺はその背中を呼び止めていた。
「一つだけ確認したいことがあるんだが……」
「なんでしょうか?」
聞かない方がいいと思っていたことだ。少し迷いながらも、ずっと疑問に思っていたことを口にした。
「彩音の父親……その、どうにかなっちゃったのって、あんたの仕業だったりするのか?」
つまり、藤咲親子……この場合は音々さんか。彼女をメイドにするために旦那によからぬことをした。それくらいの力が、目の前の男にはある。
「滅相もありません。私が扱っているのはあくまでどうしようもないことで不幸になった娘達です。そこに関して私はまったく関与しておりませんよ」
即答だった。しかも「心外だ」とばかりに大げさなジェスチャーまでしている。
それから堂本は俺に向かって両手を広げる。額を脂汗で光らせて、キメ顔でこう言った。
「だからこそ会田様は運命を手に入れたのですよ。私はそう思います」
※ ※ ※
夕食を済ませて、俺のメイド達には自由時間だと言い渡した。屋敷にはいろんな設備があるようで、遊戯場を見つけた琴音は彩音と音々さんを引っ張り込んで遊んでいる。
俺も誘われたが疲れたと適当に理由をつけて自分の部屋へと戻った。最上階からの景色を見る気分でもなく、ベッドに横たわっている。
結局、堂本と話をしても、ますますわからん奴としかわからなかった。
怪しい奴だし、完全に信用できる奴でもないが、俺をお得意様にしているのは嘘じゃないんだろう。なぜかそう確信めいたものがあった。
「まあどうせ俺がどうにかできる相手でもなさそうだしな。よくしてもらっているうちに甘えるだけ甘えておこう」
と、結論づけた。俺のない頭はそんなもんである。
それに、メイドに甘えるのも、甘えさせてやるのも俺次第。
いつかは堂本のような心境になるかもしれんが、今は自由にやっていこう。もうちょっと正直な気持ちでメイド達に向き合ってもいいんじゃないかって思えた。ほら、俺って知らず知らず気を遣っちゃう奴だからさ。
「先に風呂でも入っておくか」
誰かといっしょに入ろうかとも思ったが、一人でゆっくり湯船に浸かるのもいいだろう。こんな大きい屋敷の風呂ならでかそうだ。貸し切り気分を味わえるしな。
前もって案内されていた浴場へと向かう。脱衣所で服を脱いで、いざ!
「すげー広いな……」
入った瞬間、圧倒される。それだけ立派で広い。まさに大浴場だ。
全裸でぼへーと眺める。マジで泳げそうなくらいの広さだ。我ながら発想が幼稚である。
「「「ご主人様ぁ、失礼しまーす! お背中流しにきましたー!」」」
「へ?」
どうやら自分が思っていたよりもぼーっとしていたらしい。
重なった可愛らしい声に振り向けば、屋敷のメイド集団がぞろぞろ入ってくるところだった。当然のようにみんな裸である。
この男としてラッキーなイベント発生に、しかし俺は硬直したままなのであった。
「祐二様ぁ~。あたしもうお腹ペコペコですよぅ」
「せっかく素直に風景に感動してたってのに、琴音はあっさりぶち壊してくれますねー? ご主人様を怒らせたいんですかー? んん? お仕置きがご所望か?」
「そ、そんな……お仕置きだなんて……きゃっ♪」
笑顔で琴音に怒りを向ける。こいつ本当に空気読めるんだか読めないんだかわかんない奴だな。
「……」
対照的に彩音は暗い雰囲気をかもし出している。
遊び疲れている……ってわけじゃなさそうだ。わりと体力ある方だしな。
琴音とエッチして、その後のお掃除フェラをさせたからなぁ。しかも射精しなかったもんだから長い時間やってたからな。
そのせいで「どうしたの?」「気持ちよくないかしら?」「そ、それなら私とせ、セックス……してもいいのよ?」と、いろいろ言われてしまった。フェラをやめさせてもしつこく聞いてきたからね。射精しない俺は体調が悪いとでも思ったのかもしれない。
今までの俺の行動を考えれば仕方のない反応か。
そんなわけで、体調はまったく悪くないのだと海で遊びまくった。砂浜を走り回ってみた。復活した琴音もはしゃいでいた。
その合間にも彩音は俺に続きをしなくてもいいのかと何度も尋ねてきた。もっと遊べばいいのにね。
まあ今までチャンスがあればやってきたツケか。それが夕日に染まる時間になるまで聞かれるとも思ってもみなかったけど。
俺の射精ばかりに気を取られていたせいだろう。彩音はあまり遊べてはいなかった。帰る頃になってそれに気づいて落ち込んじゃったんだろうな。
「ここには一泊だけじゃないからな。また遊べるって」
「そうですねっ。明日も明後日も海で遊べますね。島を探索するのも面白そうですし、お屋敷の中も遊べる場所があるみたいですよ」
彩音に言ったつもりだったが、琴音が返事した。彩音はといえば黙ったままだ。
まあいいか。ここで過ごしていればまた機嫌も直るだろう。
とりあえず、屋敷へと戻ることにした。ビーチパラソルなど、海で使った道具の片づけはここのメイドさんがしてくれるらしい。ここにいる間は本当に楽させてもらえそうだ。
屋敷に戻ると出迎えてくれたメイドさんがシャワーや着替えを手伝ってくれた。は、恥ずかしい……。と、赤面する可愛げもとっくに失ってしまった俺である。
「夕食の準備はできております。食堂へどうぞ」
メイドさんに促されて食堂へと向かう。そこで着替えた彩音と琴音と合流する。
食堂はどこぞのお屋敷かって思える長テーブルがあり、センスのありそうなテーブルクロスや食器などが目に入った。俺にセンスうんぬんはないけどな。
「あっ、俺トイレ行ってくるわ」
席に着く前に尿意を催した。彩音の肩がほんのちょっとだけ跳ねる。いいから座ってなさい。
トイレに行くために広い廊下を歩く。そこで二人の人影を見た。
「あっ、ご主人様」
「会田様ではないですか。そういえばそろそろ夕食の時間でしたかね」
音々さんと堂本だった。
この二人が並ぶとまさに美女と野獣だな。夕日が差し込んできて、よりくっきりと美醜の差を強調しているように見える。
「じゃあ堂本くん。またね」
「ええ。さようなら」
音々さんが堂本に小さく手を振る。俺はトイレに行くと伝えると、彼女はそのまま食堂へと向かった。
この場に残されたのは俺と堂本だけとなった。せっかく夕日が差し込んでくれるってのに、絵にならない男二人ってのもなぁ。
「なあ堂本」
「なんでしょうかな?」
動じることのないにやけ面。いつものことだから俺も動じない。
「前から気にはなってたけど、あんた音々さんと知り合いなのか?」
きっかり十秒経過。堂本は口を開いた。
「ええ、私とあ……藤咲音々は、同級生だったのですよ」
そうか同級生か。同級生……。ん、音々さんと堂本が同級生?
「えっ!? 音々さんと堂本って同じ歳だったのか!?」
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珍しく堂本が落ち込んでいる。意外と気にしていたらしい。
と、思ったらすぐにいつものにやけ面に戻る。もう少しくらい落ち込んでくれてもいいのに。その方が可愛げが……やっぱりないか。
「少しだけ、私の話を聞いていただけますかな?」
俺、トイレ行きたいんだけど……。
※ ※ ※
「もしもの話ですよ。もしも、他人の心を操れる能力に目覚めたら、会田様はどうされますか?」
「そりゃあ人生楽に生きるんでないの」
「ですよねー」
なんだよその呆れたみたいな声はよ。けっこう普通の答えだと思うぞ。
俺は堂本に促されるまま手近な部屋に入った。客間っぽいけど、この屋敷の部屋の数を考えればただの空き部屋扱いなのかもしれない。
それで話があると思えば、そんな仮の話にどう答えればいいのやら。まあ本心を答えたけどな。普通だろ。
「会田様もお気づきでしょうが、私には力があります。人を従える力。金を動かす力。そして、メイドを仕立て上げる力です」
仕立て上げるっていうか、記憶をいじっちゃう力だけどな。怖いから口にはしないけどね。
「有能自慢か?」
「いえいえ。ただ、私も力に溺れて欲望のままに自由気ままな生活をしていた時期がありましてね。いやはや、お恥ずかしい話ですが私も若かったものです」
堂本は笑った。そこに自嘲が含まれていたかは判断できない。
「それで? なんで今は商売なんてやっているんだ? そのまま自由にやることやってればよかったんじゃないのか」
少なくとも堂本が直接商売する必要はないんじゃないか? 部下の黒服さんもいっぱいいるみたいだしさ。俺なら自分は楽するね。こんな商売だ。わざわざリスクを負う必要もない。
「私も、最初はなんの変哲もない男でしたからね。途方もない力に溺れていました。オブラートに包んで言えば、数々の女を食ってきました」
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「今すれ違った女だろうが、手の届かないはずの有名人だろうが、私にかかればどんな女でも等しく思うがままにできました。しかし……これほどの自由気ままにできる力を持ちながら、私はある人物だけは手を出すことはできませんでした」
「それが音々さんか」
堂本は頷いた。脂ぎった顔が光ってる。そのせいか表情が上手く読み取れない。
「なぜでしょうね……。彼女よりも美しい女を抱いたこともあるというのに、私は彼女に触れることすらできなかった」
なぜかなんて俺にわかるわけがない。俺は堂本じゃないし、そんな羨ましい状況に立たされてもいない。
「手をこまねいている間に、彼女は私の知らない男と結婚してしまいました。それからですかね、私の中であれほど持て余していた欲望がぱったりと止んだのです」
「それで、メイドを売買する商売を始めたのか?」
「ええ。ただのきっかけではありましたが、これはこれで楽しいものです。ご主人様となる男がメイドにどんなことをするのか、興味深いのですよ。私自身でする欲は消えましたが、女を扱いたいという欲までは消えていなかったようです」
俺が言うのもなんだけど……それ趣味悪いって。つーか俺も観察とかされてないよね? 堂本の場合、どこまで覗かれていても不思議じゃない。いや、これが今の話の中で一番怖いって!
「大抵のご主人様はやりすぎてしまわれるようで、メイドを壊してしまいますからね。せっかく手塩にかけたメイドが絶望の目をしてしまうというのは、なんとも心苦しいものです」
その割ににやけ面のままだけどな。それすら楽しんでないよね?
「そこで、会田様ですよ」
「ん、俺?」
「会田様は私が手を出せなかった彼女の娘に目を留めました。私はそこに運命めいたものを感じてしまったのです」
運命とか……。彩音の美貌ならカタログの中でも目に留めてしまう奴は多いだろう。俺と彩音がクラスメイトでなくとも、あの美貌なら誰だって選んでしまう。
俺が彩音を選んだのは運命じゃないと思う。たまたま運良く彩音が残ってくれていた。それだけだ。
「失礼ですが、会田様はもともと孤立されがちだったご様子。陰気な性格で友達も少ない。さらにはご両親を亡くされてしまいました。メイドを使ってそういった鬱憤を晴らしてもおかしくありません」
マジで失礼だなこいつ……。
まあ鬱憤を晴らすというか……彩音を相手に好き勝手にしたのは事実だけどな。
「今までのご主人様と違い、所有物となったメイドを壊さなかった。私はそれだけで嬉しいのですよ」
「それで琴音や音々さんを俺に紹介したのか。でも音々さんはあんたの……憧れの人、だったんだろ?」
そんなに気になるのなら手元に置いておくものではないだろうか。俺なら彩音を他の男なんかに売ったりはしない。そんなことを自分の手でしてしまったら……きっと気が狂ってしまう。
だが、堂本はあっけらかんとしたものであった。
「いいのですよ。私は会田様にこそ彼女の所有者になってほしかった。実際に彼女は壊れることなく楽しそうにメイドとしての仕事をこなしています」
「それはあんたが洗脳してエロい性格にしたからだろ」
元の性格は知らんけど、さすがにあんなエロくはなかったはずだ。
そこまで変えてしまっても自分では何もしないのか? ますます堂本という男がわからなくなってきた。
「……自分でするのは、空しいものですよ」
らしくない声色だった。なぜか返事してはいけない気がして、反応で開きかけた口を無理やり抑えた。
……単純な話。本当に自身では楽しめなくなってしまったのだろう。それは堂本が体験したことに原因があり、経験できない俺にはやっぱり理解できないことなのだろうと思った。
「まあそういうわけでして、学生時代が懐かしくなって彼女と会話を交わしてしまったのです。私は彼女に手を出したことはないのでご安心をと伝えたかったのです。本当にそれだけですよ」
何か余計な闇を見てしまった気分になってるのはどうしてなんでだろうね?
とりあえず、俺がまっとうな(?)ご主人様をやっている限りは、堂本に気に入られたままだということだろうか。
「さて、私はこの後仕事が入りましたので島から離れます。後のことはここのメイドにお尋ねください。それから……これをどうぞ」
堂本は俺に小さな瓶を手渡した。中身は錠剤のようだ。
「この島にいるのなら、きっと必要になるでしょう。代金は結構ですよ。私からのサービスなのでお気になさらず」
そうして堂本は部屋から出ようとする。俺はその背中を呼び止めていた。
「一つだけ確認したいことがあるんだが……」
「なんでしょうか?」
聞かない方がいいと思っていたことだ。少し迷いながらも、ずっと疑問に思っていたことを口にした。
「彩音の父親……その、どうにかなっちゃったのって、あんたの仕業だったりするのか?」
つまり、藤咲親子……この場合は音々さんか。彼女をメイドにするために旦那によからぬことをした。それくらいの力が、目の前の男にはある。
「滅相もありません。私が扱っているのはあくまでどうしようもないことで不幸になった娘達です。そこに関して私はまったく関与しておりませんよ」
即答だった。しかも「心外だ」とばかりに大げさなジェスチャーまでしている。
それから堂本は俺に向かって両手を広げる。額を脂汗で光らせて、キメ顔でこう言った。
「だからこそ会田様は運命を手に入れたのですよ。私はそう思います」
※ ※ ※
夕食を済ませて、俺のメイド達には自由時間だと言い渡した。屋敷にはいろんな設備があるようで、遊戯場を見つけた琴音は彩音と音々さんを引っ張り込んで遊んでいる。
俺も誘われたが疲れたと適当に理由をつけて自分の部屋へと戻った。最上階からの景色を見る気分でもなく、ベッドに横たわっている。
結局、堂本と話をしても、ますますわからん奴としかわからなかった。
怪しい奴だし、完全に信用できる奴でもないが、俺をお得意様にしているのは嘘じゃないんだろう。なぜかそう確信めいたものがあった。
「まあどうせ俺がどうにかできる相手でもなさそうだしな。よくしてもらっているうちに甘えるだけ甘えておこう」
と、結論づけた。俺のない頭はそんなもんである。
それに、メイドに甘えるのも、甘えさせてやるのも俺次第。
いつかは堂本のような心境になるかもしれんが、今は自由にやっていこう。もうちょっと正直な気持ちでメイド達に向き合ってもいいんじゃないかって思えた。ほら、俺って知らず知らず気を遣っちゃう奴だからさ。
「先に風呂でも入っておくか」
誰かといっしょに入ろうかとも思ったが、一人でゆっくり湯船に浸かるのもいいだろう。こんな大きい屋敷の風呂ならでかそうだ。貸し切り気分を味わえるしな。
前もって案内されていた浴場へと向かう。脱衣所で服を脱いで、いざ!
「すげー広いな……」
入った瞬間、圧倒される。それだけ立派で広い。まさに大浴場だ。
全裸でぼへーと眺める。マジで泳げそうなくらいの広さだ。我ながら発想が幼稚である。
「「「ご主人様ぁ、失礼しまーす! お背中流しにきましたー!」」」
「へ?」
どうやら自分が思っていたよりもぼーっとしていたらしい。
重なった可愛らしい声に振り向けば、屋敷のメイド集団がぞろぞろ入ってくるところだった。当然のようにみんな裸である。
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彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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