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本編

47話目

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 海風に揺れるのは俺の髪。長髪ではないからそよそよって感じだけどね。

「ふっ、良い風だぜ……」

 海の男って感じの格好いいポーズをとる。足元がぐらりと揺れてこけそうになった。おっとっとー。

「危ないから大人しくしていましょうよ祐二くん。ね?」
「はい……」

 彩音に注意されてしまった。反論もできず、大人しく言うことを聞くしかない。

 さてさて、そろそろ現在の状況ってやつを説明しなければなるまい。
 俺とメイド三人は船に乗って海を突き進んでいる。当然俺達に操縦できるはずもなく、堂本とそのお付きの人にお任せしている。なんでそんなもん所有しているんだって疑問は……もはや、聞くだけ野暮ってもんだろう。
 実はまだどこへ向かっているかまでは知らされていなかったりする。堂本が言うに「良いところ」とのことらしい。
 あのにやけ面を見ると不安が湧いてきそうなものだが、すでに慣れたものである。なんだかんだでお客様のことを考えられる奴なのだ。俺は堂本にとって良いお客様認定されているらしい。まあメイドを三人も買っておいて反論しようとは思わない。

「会田様、見えてきましたよ」
「見えてきたって何が?」

 堂本が指を差す。その先には一つの島が見えてきていた。

「島? どこの島なんだ?」
「我々が所有している島ですね」

 当然のことのように言うけどさ、島って所有できるもんなのか? いくらあれば買えるもんなんだろう。まったく想像がつかない。
 でも堂本なら島を持っていても不思議じゃないとは思わされる。だってさ、怪しい施設があったんだぜ? むしろああいうのは誰も立ち入れないような島にある方が便利がいいのだろう。
 それにほら、遠目からでも島の中央にでっかい建物が聳え立っているのが見える。もう怪しさプンプンである。
 そんなわけで、俺達はその島に上陸した。
 誰にも踏み荒らされていない白い砂浜が眩しい。前に行った海よりも青く見える。まるでどっかの南の島にでも来たかのような気分にさせてくれる。
 上陸してからまず案内されたのは島の中央に聳え立つ建物だった。
 そりゃそうだよな、と思いつつもごくりと喉を鳴らしてしまう。近づくにつれて建物の輪郭がはっきりしてきた。
 なんというか、立派なお屋敷って感じ。フィクションで金持ちキャラが住んでいそうなでかい屋敷に見える。

「うわぁ……おっきいですね……」

 琴音がわざわざ俺の隣に来てそんなことを言った。普通の感想なのにエッチく聞こえたのはなんでなんだろうね? コラコラ、耳に息を吹きかけるんじゃありません。

「どうぞ遠慮なさらず。中へお入りください」

 にまにま笑顔の堂本。この顔見ていると罠かなんかに思えてくるな。まあ今更だけど。
 俺は屋敷へと入る。俺のメイドも後に続く。今はメイド服着てないけどな。

「「「お帰りなさいませ、会田祐二様」」」

 重なったお出迎えの声に、俺は思わず足を止めた。
 いや、何これ?
 広々とした玄関ホールには大勢のメイドが整列していた。それも全員美少女だ。そんなメイド達が綺麗なお辞儀を、寸分の狂いもなく揃わせる。
 思わぬメイドのお出迎えに固まってしまう。つーか誰だよこの娘達は?
 唖然としていると、シャツの裾を掴まれる感触。これは彩音だな。振り返ってもないのに「これはどういうこと?」と訴えているのを感じ取ってしまう。つーか俺が聞きたいし。

「いやあ、驚かれているようですね。黙っていた甲斐がありました」

 堂本が悪戯が成功しましたと言わんばかりの顔を向けてくる。脂ぎった顔を近づけないでほしい。

「これは一体なんなんだ? 俺は別荘へ招待する、としか聞いていないぞ」

 見知らぬメイドには言えなくとも堂本には言ってやる。これは一体どういうことなのかと、問いただしてやる。堂本相手なら強気でいられる俺。

「せっかく私の別荘にご招待したのです。煩わしさなど感じさせないよう、これだけのメイドがサポートしますよ。これは私からのサービスと受け取っていただいて結構です」

 さらに堂本は俺の耳元へと顔を寄せる。だから近いというのにっ。

「もちろん、気に入ったメイドがいましたら、ご検討ください。実際にその目で見て、接してみれば気に入る娘がいるかもしれませんよ」

 ……サービスとか言いながら、結局商売じゃねえか。
 まあいいや。買う買わないはともかく、これだけ大勢のメイドに囲まれる経験なんてないからな。せっかくだから金持ちの坊ちゃんにでもなった気分にさせてもらおうか。

「……」

 シャツの裾を強い力で握られる。というか彩音がずっと離してくれない。

「とりあえず、荷物を下ろしたいし、部屋に案内してもらえるか?」
「そうですね。ここからはメイド達が案内します。その方が会田様も都合がよろしいでしょう」

 都合がよろしいって、何がよろしいんだよ。変な言い方したせいで彩音が俺のシャツ離さないじゃないかよ。これ絶対警戒させちゃったよ、どうしてくれんの。
 にやにやしている堂本と入れ替わりに、メイド達が俺達の荷物を受け取っていく。メイドのサービスを受けるのが初めてであろう彩音達は、少々戸惑っていた。なんか新鮮。
 そのついでにというか、やっと彩音が手を離してくれた。やれやれと息を吐いていると、メイドの一人が可愛らしい顔を近づけてきた。うん、堂本なら殴り飛ばしたいけど君ならオッケーだよ。むしろウェルカムです!

「お部屋を案内いたします。こちらへどうぞ、ご主人様」

 買ってもいないメイドからナチュラルに「ご主人様」と呼ばれてしまった。他の娘に呼ばれるのもなんか新鮮だ。

「お嬢様もどうぞこちらへ」
「お嬢様かぁ……。えへへへへ、こういうのも悪くないね」

 琴音は気分良さそうだな。ご奉仕される喜びというものを実感してんだろうね。

「あらあら、可愛らしいわ。がんばってね」
「は、はい。ありがとうございます」

 音々さんなんかは先輩の貫禄とか出しちゃっている。メイドの一人が恐縮していた。あなたメイドとしては新米ですけどね。

「……」

 周りのメイドに対して、まったく反応しないのは彩音だけだった。いつまで無言でいるつもりなのかね。視線がずっとこっちを向いている気がするのは、たぶん気のせいだな。
 ホテルみたいに広い建物だ。ちょっと歩くだけでもたくさん部屋があるのがわかる。
 これマジで別荘? 誰の? ……堂本のだろうな。
 四階建てのようで、俺は最上階の部屋に案内された。彩音達メイドはその下の三階、一人一部屋ずつ与えられた。てなわけで彩音達とは三階で別れている。今は俺と案内してくれているメイドだけだ。
 とんでもなく広い部屋だ。ここだけで俺の家よりも広いんじゃないかってレベル。窓からの景色も最高で、たぶん一番良い部屋なんだろうけど、逆に豪華すぎて落ち着かない。

「こちらの部屋もご自由にお使いください」

 と、美少女メイドさんに指し示されたのは隣の部屋だった。
 ご自由にと言われてもどんな部屋かもわからない。一応にと覗いてみる。

「な、なんじゃこりゃあ!?」

 目にした瞬間、思わずのけぞってしまう。それくらい驚いた。
 その部屋は特段広いわけではない。家のリビングよりは広いかもだけど、今回俺が泊まる部屋に比べればかなり狭く感じてしまう。
 しかし俺をのけぞらせたものは部屋に置いてあるものだ。
 三角木馬や分娩台。それだけでも目を見開くには充分だが、ベッドに繋がる数々の拘束具に、見た目だけではわからないが明らかにやばそうな機械が置いてあったりと、いかがわしい存在感をビンビン感じてしまう。壁には道具がたくさんコレクションのように飾られていた。なんの道具かって? エロ系統のもんだよ!
 何これSMルーム? そういうのは俺あんまり興味ないよ。……本当だよ?

「この島の中では、私達もご主人様のメイドとして扱っていただいて構いません。なので私達に対して、この部屋のものを使っていただいてもいいのです。……ここに滞在されている間、ご主人様にはその権利があります」

 俺を部屋へと案内したメイドがなんでもないことのように言う。
 この島にあるものは屋敷だろうが、道具だろうが、……メイドだって自由にしていいらしい。……ごくり。
 目の前の娘も、それ以外の娘だって、見た感じだけでも全員美少女ばかりだった。た、たまには他の女もいいかも……。手を出してもいいって言ってるしな……。

「祐二様ー。海行きましょうよ海ー。すっごい青くて綺麗ですよー。ここで泳がなきゃ損ですってば」

 自分の部屋を案内されていたはずの琴音が来た。俺は慌ててSMルームっぽいところへと続くドアを閉めた。
 琴音はぴょんぴょんと跳ねそうな勢いである。どんだけテンション上がってんのかな。なんかツインテールが動いてんぞ。
 まあ部屋から見える青い海と白い砂浜を見ていたらテンションが上がってしまうのもわからなくもないか。まさに南の島って感じ。しかも完全プライベートビーチ。遠くから眺めても足跡一つついてないってのがわかる。

「……」

 それから琴音の背後から現れた彩音にびっくりしちゃったってのは内緒だ。しかもまだ無言だし。警戒しているのか、俺を案内してくれたメイドへの視線が厳しい。

「そ、そうだな。せっかくだからまず海を楽しむか」

 無言の彩音が何を訴えてんのかは知らんけど、せっかく自由に羽を伸ばせる島へご招待されたのだ。精一杯楽しんでやるぞー!
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