もし学園のアイドルが俺のメイドになったら

みずがめ

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本編

26話目

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「今日藤咲さん休みなんだって」「え、マジ?」「どうしたんだろう? 体調悪いのかな」「なら俺が藤咲さんの看病してやるぜ」「いや俺こそが」「私は抱き枕にしてほしいなぁ……」「えっ?」

 とまあ、クラスは彩音の話題で持ちきりだ。これらの会話でわかるだろうが、本日藤咲彩音は欠席である。
 みんな事情は知らない。この場でそれを知るのは俺だけであるのだから。

「祐二祐二、藤咲さん休みなんだってさ」
「わざわざ言わなくてもわかってるよ」

 井出が俺の席に来るとわかりきったことを報告してくる。その左の頬には痛々しくも治療された跡がある。それについては俺も同様であるのだけどな。
 あっけらかんとした井出の態度。昨晩黒服の連中に拉致られたというのに、何事もなかったかのように本日登校してきた。どうやら昨日のことは綺麗さっぱり忘れているようだった。藤咲姉妹のことはもちろん、戸倉坂兄妹とのいざこざも記憶から消去されている。
 井出がこの状態なら他の奴等の記憶も俺が心配することにはなっていないだろう。ありがとう堂本さん。本当に感謝してます!
 ちなみに井出は頬の怪我を自分が勝手に転んだものだと思っている。記憶の改ざんもできるなんて優秀すぎますよ。絶対に深くは聞かないけどな。
 そんなわけで、ばれるばれないの心配はなくなっているのだが、問題は外ではなく内にあった。

 彩音が学校を休んだ理由。それは昨日の俺と琴音のまぐわいがばれてしまったからだ。未挿入だったんだけどなぁ。
 あの後、俺と琴音は彩音の部屋に向かった。ドアを開けようとすると内側から開かないようにしてくる。入られないようにガードしているようだった。
 仕方なく外から声をかけたが反応なし。だいぶ声をかけたのだが一向に返事はなかった。
 頑なになっている彩音は強敵だ。さすがに学校を休むわけにはいかないので俺と琴音は登校したというわけである。彩音の休みの連絡は琴音にしてもらった。

「さて、どうしたもんかな」

 弱味だった琴音は使えない。むしろ俺の共犯者だと思ってるだろうから彼女の言葉すら届かないだろう。秘密にしていたのが、そのまま彩音を頑なにさせた原因になってしまった。
 頭を抱える俺に井出が「どうした?」と声をかけてくる。元はといえばお前が悪いんだよ畜生め。


  ※ ※ ※


 藤咲彩音は欠席してもクラスの中心だった。彼女の話題は一向に収まる様子がない。みんな想像力たくましく彩音を語っている。
 教室の隅っこで頭を抱える俺はまったく注目されない。井出が声をかけたくらいか。別に寂しいとか思ってないんだからねっ。いやほんと、井出にすら話しかけられるのが煩わしいくらいだ。
 それほどに彩音の問題をどうするかで頭を悩ませていたのだ。そんな時、ポケットの中の携帯が震えた。
 画面を確認すると琴音からメールだった。要約すれば昼休みいつもの茶道室で待ってる、とのことだ。
 俺だけじゃ良い考えが浮かばないし、ここは琴音といっしょに作戦タイムだな。


  ※ ※ ※


 頭に入らない授業をなんとか乗り越えて昼休みに突入。さっさと教室を出ると約束の場所へと向かう。
 早足で辿り着くとすでに琴音が来ていた。いつもの明るい笑顔はそこになかった。らしくなく表情に影を落としている。
 畳の上で正座する琴音。弁当は忘れず持ってきてくれたようで二つ分の弁当箱が用意されていた。
 俺はどっかりと彼女の前へと腰を下ろす。だが何から話したものかと宙を見上げ、まずは腹ごしらえからだと弁当に手をつける。
 食ってたら切り出してくるだろうと高をくくっていたのだが、意外にも琴音から口を開く様子はなかった。ご飯をもぐもぐしながらチラとツインテール少女に目を向ける。目を伏せいかにも落ち込んでいるといった感じだ。
 いつも明るくふるまっている少女。けれど責任感は人一倍強いのだ。
 よくよく考えれば彩音もそうだ。こんなところで姉妹の共通点を見つけてしまった。きっと両親の教育がよかったんだろうな。

「まあ、なんだ……琴音のせいじゃないからな」

 言葉を選びながらだが言えたのはその程度の言葉だった。人を励ますとか苦手なんだよ。つーかしたことないし。
 そんな俺の言葉ではあったのだけど、彼女は顔を上げる。しかし心が楽になった様子はないようで、力なく笑った。
 落ち込んでるんだよな。ごくんと飲み込むと弁当箱を置いた。琴音の隣に移動すると彼女を抱きしめる。

「あ」

 琴音の吐息が零れる。言葉を考えるのが苦手だから行動で示す。
 それが功を奏したみたいで、琴音の身体が緩んでいく。緊張して強張った身体がリラックスしてほぐれたようだ。
 励まし方として合っているのかは微妙かもしれない。ただ上手い言葉を思いつけない俺にできるのはこのくらいのことだった。
 ふぅ、とまた吐息。今度は緊張した色は含まれていなかった。

「あたし……お姉ちゃんの気持ちわかるんですよね」
「姉妹だからってシンクロしてんの?」
「あははー、そんなのじゃないですよ。ただ、お姉ちゃんもあたしと同じ気持ちだったからつらかったんだなって。そうわかっちゃったんです」

 どういう意味なのかわからなかったが、雰囲気に任せて頷いておく。

「説得が上手くいくかわからないですけど、祐二様にもがんばってもらわないといけませんね」
「まあ、俺の責任だしな。がんばるよ」
「ふふ、祐二様はお姉ちゃんにもこうしてあげればいいんですよ」
「ん? 今琴音にしてることってことか」
「そうです。ぎゅって抱きしめてあげてください」
「逆効果じゃない?」
「そんなことないですって」

 本当かよ。それでも姉のことは俺なんかよりも妹の方がわかってあげれそうだ。彩音の心なんてまったくわからん。想像したくないだけなのかもしれないが。
 どう思われてるかなんて考えただけで恐ろしい。絶対悪感情だってことはわかるんだけどなぁ。
 それでも、俺に対するものが悪感情だったとしてもだ。顔も見たくないなんて、そんな拒絶は嫌だった。
 嫌われたからって彩音を捨てるだとか返品するだとか、そんなことはあり得ない。数ヶ月だけだけどいっしょに暮らしてきたのだ。情だって湧くだろう。
 それに、あの極上の身体を抱けないなんて耐えられないしな。うん。

「よし! 今夜は彩音を寝かせないくらい説得してやるぜ。琴音も協力してくれよな」
「はいっ。もちろんです!」

 琴音が満面の笑顔で応じてくれる。やっぱり琴音は笑顔じゃないとな。落ち込んでるのは彼女に合わないだろう。
 もちろん姉の方も暗い顔は似合わないはずだ。せっかくメイドとして来てから表情が緩んできたのに、逆戻りどころかマイナスだ。そんなの嫌だ。
 絶対彩音の説得に成功してやるぜ。俺と琴音は昼休みの間、ずっと相談をしているのであった。
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