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本編
彩音視点
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私にとって会田祐二という男子はただのクラスメートだった。
それ以上でも以下でもない。冷たいことを言っているわけではなくて、本当にそれ以上の関わりがなかったのだ。
彼は物静かで、休み時間になっても騒がしくする方ではなかった、と思う。思う、というのはただなんとなく覚えていたという程度で、それが確かと問われれば私は首をかしげてしまう。
それでも悪い人じゃない。それは同じクラスの人間に悪い人なんていないと思っていたから。本人としゃべらないからこれも定かではなかった。
ああ、そういえば。
会田君には告白されたことがあった。あまりにも告白してくる人が多いから(自慢ではない)埋もれそうになるけど、この時の彼の反応はよく覚えている。
彼が告白して、私は断った。それは今までの人と変わりなかったの。
「そっかー。じゃあしょうがないね」
こっちの方があっけに取られそうだった。
だって、今までの人は私が断ってもなかなか諦めてくれなかった。こんなにもあっさり諦める人は私にとって初めてだったのだ。
それで彼が気になったということはない。ただ、この人は私のことをそんなに好きじゃなかったんだ、そう思った。それだけだった。
その後、彼からアプローチをかけられたことはなかったし、私も何かをするわけでもなかった。
このまま記憶の底に沈んでいく男の子。そのはずだったのに……。
※ ※ ※
唐突に借金取りの人たちが家にやって来た。お父さんもお母さんも身に覚えのないことだった。
話を聞けばお父さんが友達の連帯保証人になっていたそうだ。その友達が蒸発したから家にやって来た、と。
なにそれ? 私には意味がわからなかった。
追い打ちをかけるように金額を聞けば、とてもすぐに払える額じゃなかった。普通の中流家庭からこんな金額払えるわけがない。
どうやら利子ということらしかった。だからってこんなの法外だ。
けれど訴えることはできなかった。借金取りの人たちは行動が早く、家の物を次々と持って行ってしまったのだ。
私たち家族は途方に暮れた。貯金も、家具も、家も取り上げられてしまった。
こんなの嘘よ! 信じたくなくても事態は悪化していくばかりだった。
すべてを失ったのに、それでも足りないと言われた。
お父さんとお母さんがどこかへと連れて行かれた。「娘だけは助けてくれ!」お父さんのその言葉が最後の別れだった。
残されたのは私と妹の琴音だけ。琴音だけは絶対に守らないといけない。姉という立場からかそれだけを想っていた。
なのに、まだ足りないと言われた。これからどうなるかなんて考えたくもなかった。
そんな時に堂本という男が現れた。ひどく不愉快な顔をした中年の男だった。
「お可哀想ですな。私が助けてあげましょう。あなたが契約してくれるなら妹さんは助かるでしょうな」
私に選択肢なんてなかった。それでも琴音が助かるのなら。それだけが私を突き動かした。
堂本が言うに、私がメイドとしての教育を受け、売られる。そうすれば琴音は自由の身になれるということだった。
メイドと言っても言葉通りではない。これは私に奴隷になれと言っているのだ。
こんな話を受けるなんて馬鹿げている。でも、どちらにしても何かされるくらいなら琴音だけでも救いたい。私はやるしかなかった。
※ ※ ※
こうして、私はメイドとして売られた。一週間も経たないうちに買い手がつくとは思っていなかったけれど、これで琴音が救われると思えば良かったのかもしれない。
ご主人様にどんなことを命令されても従順に実行しなければならない。短い期間ながらそう教えこまれた。でないともし返品でもされたら今の借金に上乗せして違約金が発生してしまう。そうなったら私だけじゃなく、琴音も危なくなってしまう。
私は我慢するしかなかった。この身体を捧げることになろうとも私には拒絶なんてできない。
私を買った人のところに連れていかれる道中、堂本が言った。
「あなたを買った人はですね。ちょうど同じ歳の方なんですよ。いや、クラスメイトと言った方がわかりやすいですかねぇ」
「え? 私の知っている人なんですか」
「そうかもしれませんね。会田祐二様。それがあなたの主人になる方のお名前ですよ」
「会田……会田君?」
名前を聞いて思い出した。確かにクラスメイトの男子だった。
なぜわざわざ私を指名したのか。もしかしたら助けてくれる気なの? それが淡い期待だったことはその日のうちに証明されたのだけど。
※ ※ ※
私は処女を彼に捧げた。奪われた、という言い方の方が正しいけれど、この関係でそれは通らない。
正直、こんな仕打ちをする会田君が憎い。どうにかしてやりたいほどに憎い。
それでも私が引き受けなければ琴音がこうなっていたと思うとぞっとする。それを想うとなんとか心を落ち着けられた。
私が従順にさえしていれば、琴音は大丈夫。それだけを自分に言い聞かせる日々が続いている。
会田君には肉体関係以外にも家事をさせられている。いいえ、家事は私にとってはむしろ安らぎの時間だ。
この時ばかりは彼は何もしてこない。掃除、洗濯、炊事。これらをしている時は安全で、嫌なことを忘れられたのだ。
この家は前の私の家と同じくらいの広さがある。そんな中、彼は一人だった。
疑問に思って尋ねたことがある。どうしてこの家で一人なのかと。すると彼はいつもの憎らしいほどの笑みを引っ込めて遠くを見つめた。
「俺、両親いないんだ」
それを言われてこれ以上は聞けなかった。
会田君にもいろいろあるんだ。きっと彼にも事情があるのだ。
それがわかったところで、彼が最低の男だというのは変わらないのだけれど。
※ ※ ※
カーテンを開けると朝の陽光が部屋を満たす。今日も晴天だった。
明日から新学期が始まる。
「おはよー」
……だというのに、彼はだらけきっていた。だらしなく寝癖をつけて起きてきたのはもうお昼前だった。
「彩音ー、飯はー?」
「すぐに用意します」
椅子に座った彼はテーブルに突っ伏した。あれだけ寝たというのにまだ物足りないらしい。
ため息をつきたくなるくらい呆れてしまう。けれど今の方が無害なので何も言えない。
起き抜けの彼は軽食を好む。食パンに目玉焼き、あとコーヒーがあれば文句がないようだ。男の子なのにこれで足りてるのか心配にもなるが、彼が良いと言うのだから良いのだろう。
まあ、だからこその貧弱な身体なのだろう。心の中だけで悪態をつく。心の中で蔑むことしか私にできる反抗はないのだから、これくらいは大目に見てほしい。
「どうぞ」
「んー」
テーブルの上に食事を並べる。彼は寝惚け眼で口に運ぶ。
いつもこんな感じだったらいいのに。そう呟いたわけでもないのに急に彼が私の方を向いた。
ギクリとする。何かそそうをしてしまっただろうか? 食パンにはバターを塗ってあるし、コーヒーには砂糖二杯入れたはずだ。他に何かあっただろうか。
「彩音」
私の名前を呼ぶ彼はにんまりとした嬉しそうな笑顔になった。ここに来てから彼がしょっちゅう浮かべる気味の悪い笑みだ。
またなにかされる。そう思って怖気がした。無性に自分の身体を抱きしめたくなる。
「はい」
それがわかっていてもなお、私は返事をしてしまう。しなければならない、の方が正しいのかもしれない。
「食べさせてくれ」
それを聞いた私はほっとしていた。それくらいならお安い御用だ。
食パンを彼の口に近づける。彼は「いやいや」と言って手を振る。
「そうじゃなくて。口移しで食べさせてくれ」
「はい?」
「ん? わからないの? 彩音がよく噛んだものを俺の口に移してくれればいいんだよ」
さも当然のように言ってくれる。毎回のことながらぶん殴ってやりたくなる。イメージするだけに留めておくけれど。
喉を鳴らして平静を保つ。手にしている食パンにかじりつくと彼の顔に近づいた。
もう何度も唇を奪われた。唇だけじゃない。手も脚も、胸も……アソコも、彼に汚されていないところはない。
これが私の仕事なのだ。彼のメイドとして奉仕するしかない。仕事、仕事だから仕方がない。そう思うことしかできない。
涙が出そうになる。でもダメだ。涙を流せば彼は喜ぶ。せめて、もう弱みは見せたくなかった。
唇を押し付ける。口の中で咀嚼した食べ物を彼の口内へと移していく。
「ん」
離れようとしたら彼に後頭部を押さえられた。唾液を流しこまれる。
「ん、こく……こく……」
飲まないと次に何を要求されるかわからない。口を離すと彼は「ほら、次」と言って催促してくる。
さらに一口、二口と彼に口移しをする。その度に唇を吸われたり、歯ぐきをなぞられたり、舌を絡め取られたりした。鳥肌が立つ。
「彩音」
名前を呼ばれる。彼の顔は赤くなっていた。男の欲望に支配された表情をしていた。
「彩音の口がエロいから、俺のここ、おっきくなっちゃったよ」
彼は自分の股間を指さして言った。生地が薄いパジャマのせいで股間の膨らみが誰が見ても明らかになるほどになっていた。
にたにたとした笑みが腹立たしかった。次に彼が何を要求するかわかってしまう自分自身も嫌になる。
彼は椅子ごと後ろに下がってパジャマを下着ごと足元まで下げる。外に出された男性器が天を向いていた。
「俺食べるので忙しいから、口使って抜いてくれ」
「……はい」
私はテーブルの下に潜ると、彼の前で膝をつく。赤黒く、ぴくぴくしたモノが目の前にくる。先端から何か液体が滲み出ている。
犯されたあの日から、彼と何度も身体を重ねた。約束したわけではないが、彼の命令に従順に実行すると、中に出されなくなった。
だから、この場も素直に従うのが正しい。口だけで済むのならそちらの方が何倍も良い。
上からカチャカチャと音がする。食事を再開したのだろう。私は彼の男根に手を添える。
もう何度も強要された行為だ。もちろん抵抗はある。けれど最悪の行為は避けたかった。
私は舌を伸ばす。ぺろりと先端を舐める。しょっぱい味がした。
先端から横、裏筋も舐め上げる。彼が息を漏らす。そんな声は聞きたくない。私はフェラチオという作業に没頭した。
頭の中で自分の舌使いが響く。気づけば男性器がベトベトになっていた。
「ついでにここも綺麗にしといてくれ」
先端に被っていた皮が剥かれる。むわっと異臭が鼻をついた。
カリの部分に白いものがこびりついていた。前見た時はなかったと記憶の中を探って思った。
「いやあお恥ずかしながら、皮被ってるとすぐにチンカス溜まるんだよねえ。彩音の綺麗な舌で舐めたらすぐに綺麗になるからさ。お願い」
鼻がつーんとして涙が出そうになる。顔を近づけると刺激臭のようにも思えた。
(こんな、汚いものを……)
屈辱だった。こんな命令逆らってやりたかった。
でも無理だ。それもわかっている。私はできるだけ息を吸わないように舌を伸ばした。
舐めた瞬間うっ、とえずきそうになった。唾を吐いてやりたくなった。
「いいよー。綺麗綺麗にして」
また彼の吐息が漏れるのがわかった。目をきゅっと閉じて何度も舐める。舌にこびりついたものが口の中で広がる。気持ち悪かった。
「……口を開けて」
言う通りにする。男の股間の前で口を開けるなんて間抜けだった。
「んぶっ!?」
急に喉奥まで男根を突きこまれる。両手で頭を掴まれていた。
手の力で頭を前後に揺さぶられる。出しては入れ、出しては入れの繰り返し。彼の思うがまま、まるで自分が物になってしまったみたいだった。
あながち間違いではないのかもしれない。彼におもちゃのように扱われている自分を想うと笑えない。
「ぐっ……おえっ……んぼ……」
喉を何度も突かれて胃の中のものが出そうになる。それを必死に押しとどめて耐える。
歯を立てないようにも気をつける。口の形を変えないように気をつける。彼への気遣いばかりが勝手に頭の中でリピートされる。
なんて惨めなのだろう。喉を犯されながら、頭の隅で思った。
「ああ、出る、出るぞ。俺の精液飲んでくれよ!」
がつんっと喉に先端が押し付けられる。止まったと思った瞬間、熱いものが喉を打った。
これが何? とウブな質問はしない。どういうものなのかすでに知っているのだから。
彼のモノは引き抜かれない。未だ口内に留まり続けている。私が飲むまで彼は許してくれないのだろう。
「ん……こく、こく」
口内に溜まった熱く粘ついたそれを飲みこんでいく。食道を通る感触が生々しい。感じるごとに彼に犯されている実感が強くなる。
「全部飲んだ?」
「……はい」
口を解放されて尋ねられる。何とか答えられたけど頭はぼーっとしていた。
「よしよし、さすがは俺のメイドだ。また頼むな」
彼はズボンをはくと、どこかへと去って行った。どうやら満足したらしかった。
「……おえ」
今すぐ胃の中のものを出してしまいたかった。それもできず、私はテーブルの下でうずくまっていた。
(なんで、あんな人が……私の……)
どうすれば人生をやり直せるだろうか。その方法があるなら知りたい。
「うっ……ふえ……」
涙が出そうになる。泣き喚いてしまいたくなる。
でも、それはダメだ。自分を叱咤する。
「いつか……必ず……」
決意を心の中に秘めて、私は今日もメイドという名の奴隷として過ごすのだった。
それ以上でも以下でもない。冷たいことを言っているわけではなくて、本当にそれ以上の関わりがなかったのだ。
彼は物静かで、休み時間になっても騒がしくする方ではなかった、と思う。思う、というのはただなんとなく覚えていたという程度で、それが確かと問われれば私は首をかしげてしまう。
それでも悪い人じゃない。それは同じクラスの人間に悪い人なんていないと思っていたから。本人としゃべらないからこれも定かではなかった。
ああ、そういえば。
会田君には告白されたことがあった。あまりにも告白してくる人が多いから(自慢ではない)埋もれそうになるけど、この時の彼の反応はよく覚えている。
彼が告白して、私は断った。それは今までの人と変わりなかったの。
「そっかー。じゃあしょうがないね」
こっちの方があっけに取られそうだった。
だって、今までの人は私が断ってもなかなか諦めてくれなかった。こんなにもあっさり諦める人は私にとって初めてだったのだ。
それで彼が気になったということはない。ただ、この人は私のことをそんなに好きじゃなかったんだ、そう思った。それだけだった。
その後、彼からアプローチをかけられたことはなかったし、私も何かをするわけでもなかった。
このまま記憶の底に沈んでいく男の子。そのはずだったのに……。
※ ※ ※
唐突に借金取りの人たちが家にやって来た。お父さんもお母さんも身に覚えのないことだった。
話を聞けばお父さんが友達の連帯保証人になっていたそうだ。その友達が蒸発したから家にやって来た、と。
なにそれ? 私には意味がわからなかった。
追い打ちをかけるように金額を聞けば、とてもすぐに払える額じゃなかった。普通の中流家庭からこんな金額払えるわけがない。
どうやら利子ということらしかった。だからってこんなの法外だ。
けれど訴えることはできなかった。借金取りの人たちは行動が早く、家の物を次々と持って行ってしまったのだ。
私たち家族は途方に暮れた。貯金も、家具も、家も取り上げられてしまった。
こんなの嘘よ! 信じたくなくても事態は悪化していくばかりだった。
すべてを失ったのに、それでも足りないと言われた。
お父さんとお母さんがどこかへと連れて行かれた。「娘だけは助けてくれ!」お父さんのその言葉が最後の別れだった。
残されたのは私と妹の琴音だけ。琴音だけは絶対に守らないといけない。姉という立場からかそれだけを想っていた。
なのに、まだ足りないと言われた。これからどうなるかなんて考えたくもなかった。
そんな時に堂本という男が現れた。ひどく不愉快な顔をした中年の男だった。
「お可哀想ですな。私が助けてあげましょう。あなたが契約してくれるなら妹さんは助かるでしょうな」
私に選択肢なんてなかった。それでも琴音が助かるのなら。それだけが私を突き動かした。
堂本が言うに、私がメイドとしての教育を受け、売られる。そうすれば琴音は自由の身になれるということだった。
メイドと言っても言葉通りではない。これは私に奴隷になれと言っているのだ。
こんな話を受けるなんて馬鹿げている。でも、どちらにしても何かされるくらいなら琴音だけでも救いたい。私はやるしかなかった。
※ ※ ※
こうして、私はメイドとして売られた。一週間も経たないうちに買い手がつくとは思っていなかったけれど、これで琴音が救われると思えば良かったのかもしれない。
ご主人様にどんなことを命令されても従順に実行しなければならない。短い期間ながらそう教えこまれた。でないともし返品でもされたら今の借金に上乗せして違約金が発生してしまう。そうなったら私だけじゃなく、琴音も危なくなってしまう。
私は我慢するしかなかった。この身体を捧げることになろうとも私には拒絶なんてできない。
私を買った人のところに連れていかれる道中、堂本が言った。
「あなたを買った人はですね。ちょうど同じ歳の方なんですよ。いや、クラスメイトと言った方がわかりやすいですかねぇ」
「え? 私の知っている人なんですか」
「そうかもしれませんね。会田祐二様。それがあなたの主人になる方のお名前ですよ」
「会田……会田君?」
名前を聞いて思い出した。確かにクラスメイトの男子だった。
なぜわざわざ私を指名したのか。もしかしたら助けてくれる気なの? それが淡い期待だったことはその日のうちに証明されたのだけど。
※ ※ ※
私は処女を彼に捧げた。奪われた、という言い方の方が正しいけれど、この関係でそれは通らない。
正直、こんな仕打ちをする会田君が憎い。どうにかしてやりたいほどに憎い。
それでも私が引き受けなければ琴音がこうなっていたと思うとぞっとする。それを想うとなんとか心を落ち着けられた。
私が従順にさえしていれば、琴音は大丈夫。それだけを自分に言い聞かせる日々が続いている。
会田君には肉体関係以外にも家事をさせられている。いいえ、家事は私にとってはむしろ安らぎの時間だ。
この時ばかりは彼は何もしてこない。掃除、洗濯、炊事。これらをしている時は安全で、嫌なことを忘れられたのだ。
この家は前の私の家と同じくらいの広さがある。そんな中、彼は一人だった。
疑問に思って尋ねたことがある。どうしてこの家で一人なのかと。すると彼はいつもの憎らしいほどの笑みを引っ込めて遠くを見つめた。
「俺、両親いないんだ」
それを言われてこれ以上は聞けなかった。
会田君にもいろいろあるんだ。きっと彼にも事情があるのだ。
それがわかったところで、彼が最低の男だというのは変わらないのだけれど。
※ ※ ※
カーテンを開けると朝の陽光が部屋を満たす。今日も晴天だった。
明日から新学期が始まる。
「おはよー」
……だというのに、彼はだらけきっていた。だらしなく寝癖をつけて起きてきたのはもうお昼前だった。
「彩音ー、飯はー?」
「すぐに用意します」
椅子に座った彼はテーブルに突っ伏した。あれだけ寝たというのにまだ物足りないらしい。
ため息をつきたくなるくらい呆れてしまう。けれど今の方が無害なので何も言えない。
起き抜けの彼は軽食を好む。食パンに目玉焼き、あとコーヒーがあれば文句がないようだ。男の子なのにこれで足りてるのか心配にもなるが、彼が良いと言うのだから良いのだろう。
まあ、だからこその貧弱な身体なのだろう。心の中だけで悪態をつく。心の中で蔑むことしか私にできる反抗はないのだから、これくらいは大目に見てほしい。
「どうぞ」
「んー」
テーブルの上に食事を並べる。彼は寝惚け眼で口に運ぶ。
いつもこんな感じだったらいいのに。そう呟いたわけでもないのに急に彼が私の方を向いた。
ギクリとする。何かそそうをしてしまっただろうか? 食パンにはバターを塗ってあるし、コーヒーには砂糖二杯入れたはずだ。他に何かあっただろうか。
「彩音」
私の名前を呼ぶ彼はにんまりとした嬉しそうな笑顔になった。ここに来てから彼がしょっちゅう浮かべる気味の悪い笑みだ。
またなにかされる。そう思って怖気がした。無性に自分の身体を抱きしめたくなる。
「はい」
それがわかっていてもなお、私は返事をしてしまう。しなければならない、の方が正しいのかもしれない。
「食べさせてくれ」
それを聞いた私はほっとしていた。それくらいならお安い御用だ。
食パンを彼の口に近づける。彼は「いやいや」と言って手を振る。
「そうじゃなくて。口移しで食べさせてくれ」
「はい?」
「ん? わからないの? 彩音がよく噛んだものを俺の口に移してくれればいいんだよ」
さも当然のように言ってくれる。毎回のことながらぶん殴ってやりたくなる。イメージするだけに留めておくけれど。
喉を鳴らして平静を保つ。手にしている食パンにかじりつくと彼の顔に近づいた。
もう何度も唇を奪われた。唇だけじゃない。手も脚も、胸も……アソコも、彼に汚されていないところはない。
これが私の仕事なのだ。彼のメイドとして奉仕するしかない。仕事、仕事だから仕方がない。そう思うことしかできない。
涙が出そうになる。でもダメだ。涙を流せば彼は喜ぶ。せめて、もう弱みは見せたくなかった。
唇を押し付ける。口の中で咀嚼した食べ物を彼の口内へと移していく。
「ん」
離れようとしたら彼に後頭部を押さえられた。唾液を流しこまれる。
「ん、こく……こく……」
飲まないと次に何を要求されるかわからない。口を離すと彼は「ほら、次」と言って催促してくる。
さらに一口、二口と彼に口移しをする。その度に唇を吸われたり、歯ぐきをなぞられたり、舌を絡め取られたりした。鳥肌が立つ。
「彩音」
名前を呼ばれる。彼の顔は赤くなっていた。男の欲望に支配された表情をしていた。
「彩音の口がエロいから、俺のここ、おっきくなっちゃったよ」
彼は自分の股間を指さして言った。生地が薄いパジャマのせいで股間の膨らみが誰が見ても明らかになるほどになっていた。
にたにたとした笑みが腹立たしかった。次に彼が何を要求するかわかってしまう自分自身も嫌になる。
彼は椅子ごと後ろに下がってパジャマを下着ごと足元まで下げる。外に出された男性器が天を向いていた。
「俺食べるので忙しいから、口使って抜いてくれ」
「……はい」
私はテーブルの下に潜ると、彼の前で膝をつく。赤黒く、ぴくぴくしたモノが目の前にくる。先端から何か液体が滲み出ている。
犯されたあの日から、彼と何度も身体を重ねた。約束したわけではないが、彼の命令に従順に実行すると、中に出されなくなった。
だから、この場も素直に従うのが正しい。口だけで済むのならそちらの方が何倍も良い。
上からカチャカチャと音がする。食事を再開したのだろう。私は彼の男根に手を添える。
もう何度も強要された行為だ。もちろん抵抗はある。けれど最悪の行為は避けたかった。
私は舌を伸ばす。ぺろりと先端を舐める。しょっぱい味がした。
先端から横、裏筋も舐め上げる。彼が息を漏らす。そんな声は聞きたくない。私はフェラチオという作業に没頭した。
頭の中で自分の舌使いが響く。気づけば男性器がベトベトになっていた。
「ついでにここも綺麗にしといてくれ」
先端に被っていた皮が剥かれる。むわっと異臭が鼻をついた。
カリの部分に白いものがこびりついていた。前見た時はなかったと記憶の中を探って思った。
「いやあお恥ずかしながら、皮被ってるとすぐにチンカス溜まるんだよねえ。彩音の綺麗な舌で舐めたらすぐに綺麗になるからさ。お願い」
鼻がつーんとして涙が出そうになる。顔を近づけると刺激臭のようにも思えた。
(こんな、汚いものを……)
屈辱だった。こんな命令逆らってやりたかった。
でも無理だ。それもわかっている。私はできるだけ息を吸わないように舌を伸ばした。
舐めた瞬間うっ、とえずきそうになった。唾を吐いてやりたくなった。
「いいよー。綺麗綺麗にして」
また彼の吐息が漏れるのがわかった。目をきゅっと閉じて何度も舐める。舌にこびりついたものが口の中で広がる。気持ち悪かった。
「……口を開けて」
言う通りにする。男の股間の前で口を開けるなんて間抜けだった。
「んぶっ!?」
急に喉奥まで男根を突きこまれる。両手で頭を掴まれていた。
手の力で頭を前後に揺さぶられる。出しては入れ、出しては入れの繰り返し。彼の思うがまま、まるで自分が物になってしまったみたいだった。
あながち間違いではないのかもしれない。彼におもちゃのように扱われている自分を想うと笑えない。
「ぐっ……おえっ……んぼ……」
喉を何度も突かれて胃の中のものが出そうになる。それを必死に押しとどめて耐える。
歯を立てないようにも気をつける。口の形を変えないように気をつける。彼への気遣いばかりが勝手に頭の中でリピートされる。
なんて惨めなのだろう。喉を犯されながら、頭の隅で思った。
「ああ、出る、出るぞ。俺の精液飲んでくれよ!」
がつんっと喉に先端が押し付けられる。止まったと思った瞬間、熱いものが喉を打った。
これが何? とウブな質問はしない。どういうものなのかすでに知っているのだから。
彼のモノは引き抜かれない。未だ口内に留まり続けている。私が飲むまで彼は許してくれないのだろう。
「ん……こく、こく」
口内に溜まった熱く粘ついたそれを飲みこんでいく。食道を通る感触が生々しい。感じるごとに彼に犯されている実感が強くなる。
「全部飲んだ?」
「……はい」
口を解放されて尋ねられる。何とか答えられたけど頭はぼーっとしていた。
「よしよし、さすがは俺のメイドだ。また頼むな」
彼はズボンをはくと、どこかへと去って行った。どうやら満足したらしかった。
「……おえ」
今すぐ胃の中のものを出してしまいたかった。それもできず、私はテーブルの下でうずくまっていた。
(なんで、あんな人が……私の……)
どうすれば人生をやり直せるだろうか。その方法があるなら知りたい。
「うっ……ふえ……」
涙が出そうになる。泣き喚いてしまいたくなる。
でも、それはダメだ。自分を叱咤する。
「いつか……必ず……」
決意を心の中に秘めて、私は今日もメイドという名の奴隷として過ごすのだった。
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男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
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