上 下
5 / 9

5話目

しおりを挟む
「痛いよー痛いよー」
「ゴブリンに噛まれた……。俺はもう死んでしまうかもしれない……」
「なんだよあのいかにも凶悪そうな顔。怖いじゃねえか」
「もうお家に帰りたい……」
「助けてママー!」

 ゴブリンを駆除し終わった後のバラ騎士団の皆様のお声である。

 なんていうか……どう声をかけていいのかわからないんですけど。

 それは後輩も同じらしく、ものすごく微妙な表情をしていた。

 最初に町で見た時は精悍な顔つきでさすがは騎士団って感じだったのになぁ。今は残念で仕方がない。

「コラー! 貴様らそれでも誇り高いバラ騎士団か!! なんて情けないの!!」

 アリエッタはご立腹である。ちなみに彼女は最後まで戦闘には参加していない。

 怒られた騎士団の皆様は涙目である。というか涙を流しちゃっている人もいる。みんな大の大人だよね。

「だって姫様ぁ……」

 男の「だって」ほど顔をしかめたくなるものはない。そう実感しました。

「ええい! 口答えをするんじゃないわよ!!」

 対してこっちはこっちでお怒りが収まらない様子。ここ一応モンスターの出てくる区域なんですけどね。まだ森の中ですよー。

「まあまあアリエッタ。まずは回復しますので文句はそのあとで」

 見かねたネルがなだめる。アリエッタは息を荒げながらも「それもそうね」と引き下がった。

 上肢から解放された部下は感謝の方向がちゃんとわかっている。彼らはネルを神様でも見つめるような目差しを向ける。ちょっと目がキラキラしてんぞ。

「では皆さん集まってください。いっぺんにやりますよ」

 範囲回復魔法を使うネル。そのへんのプリーストにはできないほどの高等魔法だ。

 この後輩、プリーストとしてけっこう優秀なんだよなぁ。なんで俺にくっついてきてんだろ? 充分独立できそうなんだけど。

 なーんて考えてる間に回復タイム終了。

「おおっ! 痛みが消えたぞ!」
「擦り傷がなくなってる!」
「吐き気もなくなった!」
「お腹痛いのも治った!」
「肌荒れがよくなったぞ!」

 絶賛の嵐だった。

 もともと立派な鎧のおかげなのか大したケガをしている奴はいなかったしな。ほとんどの冒険者だったら唾でもつけときゃ治るだろってくらいの傷だ。

 つまり、痛みに敏感すぎるのだ。本当に訓練してきたのかと疑ってしまう。

「なあ、いったん町に戻らないか? 騎士団の皆さんだって消耗していることだしさ」

 俺はアリエッタに提案する。

「そんな……っ。まだ一戦しかしていないのに」

 愕然とするお嬢さん。あなたは戦ってませんけどね。

 でも、気持ちはわからんでもない。

 強くなるためにきたというのに初戦でこれだ。先が思いやられるというのが正直な気持ちなのだろう。

 ちょっと悩むアリエッタ。それを後押しする声が聞こえてきた。

「うっ……、急に目まいがっ」
「俺トイレに行きたくなってきた。もちろん大の方」
「はぁはぁ。もう体力の限界だ……。次戦えば、死んでしまう!」
「お家に帰りたいなー。チラチラ」
「くそー。持病のしゃくが。戦いたかったけどこれはもう仕方がないなー」

 騎士団からの帰りたいアピール。

 騎士団長はしばしうなって、決断した。

「ならば仕方がない。一度戻りましょう」

 騎士団から拍手喝さいが上がった。

 バラ騎士団。もうダメかもしれん。部外者の俺は心の中でそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...