脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ

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23.尋ねたいこと

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 俺がメイド服と関わってきた期間は、琴音ちゃんと関わるようになった期間と一致する。
 おかげでメイドさんが好きになりました。メイドカフェにも定期的に通っているという毒されっぷり。もう琴音ちゃんのメイド姿を目にしなければ生きられないかもしれない。
 ごめん、さすがにそれは言いすぎた。

「まずはこれを見てちょうだい」

 そう言って藤咲さんが見せてきたのは、袋に密封されたメイド服だった。
 中身がメイド服であるとわかった瞬間、そのメイド服が前に俺の家で琴音ちゃんが着てくれたものだと理解する。

「これは?」

 感情を悟られてはならない。表情を固定して尋ねる。

「これはメイド服よ」

 うん、それは知ってる。
 知りたいのは、なぜ俺にそれを見せたのかということだ。
 心当たりがないわけじゃない。ていうか琴音ちゃんのことと絡めれば、琴音ちゃんがバイトしていることがばれたか、俺が彼女を脅して恋人関係を迫ったくらいしかないだろう。
 どっちにしても知られてはならない情報。まずは藤咲さんが何を知っているのかを聞き出さなければならない。それから態度を決めよう。

「……」

 とはいえ、どうやって聞けばいいんだ? 陰キャに交渉術なんてものを期待してはいけない。自分の身で思い知ったね。
 喫茶店の優しいBGMが、無言の時間を優しいものに変えてくれる。お願いだから変えてくれ!

「えっと……。とても、言いづらいのだけれど……」

 どう切り出そうかと迷っていたのは藤咲さんも同じだったらしい。
 学園では凛とした姿しか見たことなかったからな。らしくないと思えるような面を見られてちょっと安心する。

「ご注文は?」

 思い出したかのようなタイミングで、店主らしきおじいちゃんが注文を取りにきた。

「私はアイスコーヒーをお願いします。会田くんは? 私から誘ったのだし、おごるわよ」
「えっ、いやおごりとかいいし……。えー……俺も同じアイスコーヒーで」
「かしこまりました」

 店主が奥へと引っ込む。急かされていないのに焦ってしまった。メイドカフェならメニュー選びも余裕でできるようになったのにな。
 つーか女子からおごってやるなんて言われる日がくるとは思わなかった。むしろおごってもらえるのが当然、とか思うのが普通の女子なんだと考えていた。偏見でしたね。
 それか藤咲さんだからなのか? 琴音ちゃんもあまりおごってもらいたいという感じでもないし、姉妹の共通点なのかもしれない。

「これ、琴音のものだと思うの」

 藤咲さんは目線でメイド服を示した。

「なんでそう思うんだ?」

 話が戻ってしまった。平常心を意識しながら聞いてみた。

「……琴音が洗濯に出していたのを見たのよ」
「それって、こっそり?」
「普通に出していたわね」

 琴音ちゃん、脇が甘いよ……。
 とにかく、俺のためにと用意してくれたメイド服が藤咲さんに押さえられている。それが琴音ちゃんのものだとばれている。わかった状況はそこまでだ。
 なら安心かな。俺にとって害はなさそうだ。

「会田くんは、琴音と仲いいわよね?」
「え? は、え、えーっと……」
「だって、お昼ご飯をよく二人で食べているらしいじゃない」

 別に隠れているわけじゃないからな。それくらいのことなら知られていてもおかしくないか。

「そ、そうだな。料理の腕を磨きたいのかな? 琴音ちゃんにはよく弁当を作ってもらっているよ」
「琴音ちゃん……」

 藤咲さんが押し黙る。何か呟いたようにも見えたが、声が小さすぎて聞こえなかった。

「会田くんと関わるようになってからかしらね。琴音、少し変わった気がするわ」
「へ?」
「お弁当のことだってそうよ。あの子は自分からお弁当を作ろうとはしてこなかったもの。傘を借りたお礼だからとは言っていたけれど、まだ続いているのよね……」

 段々とヒートアップしていく藤咲さん。この流れはなんだかまずい。

「会田くんもそうよ。いつも無気力で人の目もあまり見ようともしてこなかったのに。今は私の目を見ても逸らしたりしないわ」
「人と話す時は相手の目を見るって……、普通のことじゃないか?」
「会田くんはその普通のことすらできなかったのよ」

 それひどくないか? いや、でも、心当たりがあるような……。本当にできてなかった?
 藤咲さんの目つきが険しくなっていく。なのに美少女は陰らない。それどころか怖い顔も可愛い。何をしても得にしかならないとか……、男の俺でもずるいと思ってしまう。

「会田くん、あなた……」

 彼女はバンッ! とテーブルを叩いて立ち上がった。

「琴音と付き合っているんでしょ!」

 ここにきてようやく理解した。
 わざわざ藤咲さんが俺と二人きりになった理由。それは、俺を問い詰めるためだったのだ。

「お待たせしました。アイスコーヒーです」

 そして、空気を読まない店主のおじいちゃんに感謝した。
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