23 / 43
22.学園のアイドルと放課後デート(嘘)
しおりを挟む
「会田くん、放課後……少し付き合ってほしいのだけれど……いいかしら?」
放課後になってすぐ、隣の藤咲さんからそんなことを言われてしまった。
いや意味わからんし。突然のお誘いに脳がフリーズする。
頭を整理する。
俺と藤咲さんは友達ではない。放課後二人でどこかへお出かけしたこともない。そもそも彼女のプライベートを何一つ知らないのだ。
「えっと、『みんな』でどこかに遊びに行くお誘いかな?」
「いいえ。私と会田くん、『二人』だけで、よ……」
なあにこの状況?
意味深だと感じるのは俺の自意識過剰か。今までになかったことだ。何かあるに違いないが、あり得ない状況すぎて考えがまとまらない。
「な、なぜ藤咲さんがあんな奴なんかに……っ」
「彼氏を作るどころか男子を遊びに誘うことすらなかったはずなのに……」
「もしかして勝負して友情が芽生えちゃった的な? あははー……、んなバカな!」
俺の戸惑い以上に教室中がパニックを起こしていた。
ざわざわどころではない騒ぎである。学園のアイドルという立場はこんなことでも注目されてしまうらしい。
「いいよ。とにかく教室から出よう」
「そうね。昇降口まで急ぎましょう」
小声で素早くやり取りする。面倒になりそう、という気持ちは一致したらしい。
とりあえず話を聞いてから判断しよう。今日は琴音ちゃんはバイトだ。時間はある。
昇降口へと向かいながら、藤咲さんが俺に何の用があるのかと考える。
実は俺にほのかな恋心を……。なんて思春期男子みたいな勘違いは起こさない。一回振られてるし。
思いつくのは本日の水泳勝負。なぜ勝負を仕掛けてきたのかと気になったとか? いやいや、気にはなるかもだけどそんなことで貴重な放課後の時間を潰したりしないだろう。
昇降口へとたどり着く。俺は藤咲さんに向かって口を開いた。
「俺に用があるんだろ? 早く言ってくれよ」
それがわからないとドキドキしてしょうがない。このドキドキは甘酸っぱい意味ではなく、わけわからん状況の恐怖からである。
藤咲さんは辺りを見回す。放課後になってすぐとはいえ、下校しようとする生徒がそれなりの人数いた。
「静かに話ができる場所に行きたいわ」
これ勘違い狙ってんのかな? だが耐性を持っている俺には通用しない。華麗に無効化する。
靴を履き替えた藤咲さんが「ついてきて」というものだから素直に後を追う。我ながら従順だな。
「どこまで行くんだ?」
「駅前の喫茶店でどうかしら?」
さらっと喫茶店が選択肢に出てくるんだ。女子は喫茶店でおしゃべりするものなのだろうか? 俺はメイドカフェ以外の喫茶店には行ったことがない。
スタスタと歩いて目的地へと向かう。競歩かな?
藤咲さんが俺という男子と二人で歩いているってのに校内ではあまり注目されなかった。
まあ俺は距離を取ってましたからね。隣り合って歩くとか、藤咲さん相手に無理だって。
そんなわけで、学園の敷地から出ても一定の距離を保っていた。後ろからだと流れる黒髪が綺麗ですね。美少女はどんな角度からでも綺麗って得だよ。
「会田くん? そんなに離れているとはぐれてしまうわ」
藤咲さんが振り返る。滑らかな動きで黒髪が舞った。男を虜にする美貌が向けられる。
彼女は本当に得だなと思う。
でもそれは間違った印象なんだとも感じた。たぶん、琴音ちゃんと比べてしまったからだ。
「子供じゃないんだからはぐれたりしないよ」
まあそれを装って逃げてもいいかなと思ったのは事実なんだけども。
藤咲さんが案内してくれた喫茶店は、前に俺と琴音ちゃんが映画を観に行ったところからすぐ近くだった。
本来なら映画を観て、喫茶店でお茶をしながら感想を言い合うって感じの場所なのだろうか。あの時は遅い時間になってしまったが、次の機会があるのならデートプランに組み込んでみよう。
喫茶店に入る。落ち着いた暖色と静かで心地のいい音色が出迎えてくれた。パステルカラーとキュンキュンするBGMに慣れていただけに、想像以上の大人っぽさに圧倒される。
藤咲さんは慣れたように目立たない端っこの席に座った。俺もその向かいに座る。
おおっ! まるであの学園のアイドルとデートしているみたいだ! やべえよすげえよ!
……と、普段の俺ならとりあえずはしゃいでしまう状況ではあるのだが、目の前の藤咲さんからピリピリとした緊張感が伝わってくる。余計なことをせず黙っておく。
「突然こんなところまで付き合わせてごめんなさい」
そう言って彼女は頭を下げた。
カースト上位者が殊勝な態度を見せると、俺のような者は恐縮してしまうものである。
「大丈夫。大丈夫だから頭を上げてくれ。まず用件を聞かなきゃ反応に困る」
「大丈夫」の連呼に俺焦ってんだなと感じた。言ってることは間違ってないはずだし、問題ないよな、うん。
藤咲さんは「そうよね」と顔を上げた。
俺の目の前で小さく深呼吸。それで意を決したようで、真剣な眼差しで俺を射抜いてきた。
「琴音のことで、話があるの」
ここでギクリとした俺は悪くない。
俺と琴音ちゃんが付き合っているとは知らないはずだ。彼女とも公言しない方がいんじゃね、とすでに話し合った。藤咲さんには弁明だってした。
なのに俺に琴音ちゃんの話? 嫌な予感しかしない。
「まずはこれを見てちょうだい」
怯む俺なんぞ知らないとばかりに、藤咲さんは話を先へと進める。
彼女は鞄から何かを取り出した。
透明な保存バッグ? 密封された中身を見て、思わず目を見開く。
テーブルの上に置かれたそれは、紛れもなくメイド服だったのだから。
放課後になってすぐ、隣の藤咲さんからそんなことを言われてしまった。
いや意味わからんし。突然のお誘いに脳がフリーズする。
頭を整理する。
俺と藤咲さんは友達ではない。放課後二人でどこかへお出かけしたこともない。そもそも彼女のプライベートを何一つ知らないのだ。
「えっと、『みんな』でどこかに遊びに行くお誘いかな?」
「いいえ。私と会田くん、『二人』だけで、よ……」
なあにこの状況?
意味深だと感じるのは俺の自意識過剰か。今までになかったことだ。何かあるに違いないが、あり得ない状況すぎて考えがまとまらない。
「な、なぜ藤咲さんがあんな奴なんかに……っ」
「彼氏を作るどころか男子を遊びに誘うことすらなかったはずなのに……」
「もしかして勝負して友情が芽生えちゃった的な? あははー……、んなバカな!」
俺の戸惑い以上に教室中がパニックを起こしていた。
ざわざわどころではない騒ぎである。学園のアイドルという立場はこんなことでも注目されてしまうらしい。
「いいよ。とにかく教室から出よう」
「そうね。昇降口まで急ぎましょう」
小声で素早くやり取りする。面倒になりそう、という気持ちは一致したらしい。
とりあえず話を聞いてから判断しよう。今日は琴音ちゃんはバイトだ。時間はある。
昇降口へと向かいながら、藤咲さんが俺に何の用があるのかと考える。
実は俺にほのかな恋心を……。なんて思春期男子みたいな勘違いは起こさない。一回振られてるし。
思いつくのは本日の水泳勝負。なぜ勝負を仕掛けてきたのかと気になったとか? いやいや、気にはなるかもだけどそんなことで貴重な放課後の時間を潰したりしないだろう。
昇降口へとたどり着く。俺は藤咲さんに向かって口を開いた。
「俺に用があるんだろ? 早く言ってくれよ」
それがわからないとドキドキしてしょうがない。このドキドキは甘酸っぱい意味ではなく、わけわからん状況の恐怖からである。
藤咲さんは辺りを見回す。放課後になってすぐとはいえ、下校しようとする生徒がそれなりの人数いた。
「静かに話ができる場所に行きたいわ」
これ勘違い狙ってんのかな? だが耐性を持っている俺には通用しない。華麗に無効化する。
靴を履き替えた藤咲さんが「ついてきて」というものだから素直に後を追う。我ながら従順だな。
「どこまで行くんだ?」
「駅前の喫茶店でどうかしら?」
さらっと喫茶店が選択肢に出てくるんだ。女子は喫茶店でおしゃべりするものなのだろうか? 俺はメイドカフェ以外の喫茶店には行ったことがない。
スタスタと歩いて目的地へと向かう。競歩かな?
藤咲さんが俺という男子と二人で歩いているってのに校内ではあまり注目されなかった。
まあ俺は距離を取ってましたからね。隣り合って歩くとか、藤咲さん相手に無理だって。
そんなわけで、学園の敷地から出ても一定の距離を保っていた。後ろからだと流れる黒髪が綺麗ですね。美少女はどんな角度からでも綺麗って得だよ。
「会田くん? そんなに離れているとはぐれてしまうわ」
藤咲さんが振り返る。滑らかな動きで黒髪が舞った。男を虜にする美貌が向けられる。
彼女は本当に得だなと思う。
でもそれは間違った印象なんだとも感じた。たぶん、琴音ちゃんと比べてしまったからだ。
「子供じゃないんだからはぐれたりしないよ」
まあそれを装って逃げてもいいかなと思ったのは事実なんだけども。
藤咲さんが案内してくれた喫茶店は、前に俺と琴音ちゃんが映画を観に行ったところからすぐ近くだった。
本来なら映画を観て、喫茶店でお茶をしながら感想を言い合うって感じの場所なのだろうか。あの時は遅い時間になってしまったが、次の機会があるのならデートプランに組み込んでみよう。
喫茶店に入る。落ち着いた暖色と静かで心地のいい音色が出迎えてくれた。パステルカラーとキュンキュンするBGMに慣れていただけに、想像以上の大人っぽさに圧倒される。
藤咲さんは慣れたように目立たない端っこの席に座った。俺もその向かいに座る。
おおっ! まるであの学園のアイドルとデートしているみたいだ! やべえよすげえよ!
……と、普段の俺ならとりあえずはしゃいでしまう状況ではあるのだが、目の前の藤咲さんからピリピリとした緊張感が伝わってくる。余計なことをせず黙っておく。
「突然こんなところまで付き合わせてごめんなさい」
そう言って彼女は頭を下げた。
カースト上位者が殊勝な態度を見せると、俺のような者は恐縮してしまうものである。
「大丈夫。大丈夫だから頭を上げてくれ。まず用件を聞かなきゃ反応に困る」
「大丈夫」の連呼に俺焦ってんだなと感じた。言ってることは間違ってないはずだし、問題ないよな、うん。
藤咲さんは「そうよね」と顔を上げた。
俺の目の前で小さく深呼吸。それで意を決したようで、真剣な眼差しで俺を射抜いてきた。
「琴音のことで、話があるの」
ここでギクリとした俺は悪くない。
俺と琴音ちゃんが付き合っているとは知らないはずだ。彼女とも公言しない方がいんじゃね、とすでに話し合った。藤咲さんには弁明だってした。
なのに俺に琴音ちゃんの話? 嫌な予感しかしない。
「まずはこれを見てちょうだい」
怯む俺なんぞ知らないとばかりに、藤咲さんは話を先へと進める。
彼女は鞄から何かを取り出した。
透明な保存バッグ? 密封された中身を見て、思わず目を見開く。
テーブルの上に置かれたそれは、紛れもなくメイド服だったのだから。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる