脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ

文字の大きさ
上 下
22 / 43

21.大事なのは君の評価

しおりを挟む
「祐二先輩、今日のプールの時間にお姉ちゃんと勝負したそうですね?」
「……はい」

 水泳の授業が終わって昼休み。
 日常化しつつある琴音ちゃんとのお弁当タイム。ほのぼのした時間になるはずだったのに、問い詰められるような声色で冒頭のセリフが飛んできた。
 つーかなんで知ってんの? 別のクラスどころか別の学年なのにさ。

「なんでまたそんなことしたんですか?」
「つい、出来心で……」
「もしかして、ここ怒るところです?」
「怒らないで。むしろ甘やかしてほしいな」
「甘やかす……」

 琴音ちゃんは考える仕草の後、俺の頭をなでなでしてくれた。あれ、これ甘やかされてるの?
 やべえ、なんか照れる。

「あの、もういいですよ……」
「そうですか? あたし先輩のこと上手く甘やかせていましたか?」
「うん」

 これはうなずくしかない。甘やかされているというか、ただただ甘かったです。

「それで、なんでお姉ちゃんと勝負したんですか?」

 話がループしてしまいましたね。絶対に「はい」しか選べない選択肢に違いない。
 仕方がない。諦めて息を吐いた。

「学園のアイドルに勝てば周りの女子が俺にメロメロになるだろうとね」
「その結果はいかに?」

 あ、ツッコミなしですか。

「……見事な敗北でした」

 そう、結局藤咲さんとの水泳勝負は、俺の負けで幕を閉じた。
 よく考えなくても俺そんなに運動得意じゃなかった。二十五メートルのタイムはひどいものだったし。対する藤咲さんは水泳部からスカウトされてそうなタイムだった。

「……わざわざクラスの人達がいる前で勝負なんてしなければよかったのに。メッセージがきた時、あたし自分の目を疑いましたよ」
「メッセージって、藤咲さんから?」
「いえ、別の人からですけど」

 どうやら琴音ちゃんのコミュニティはけっこう広いらしい。そのメッセージの内容までは知りたくないが。

「あたしの顔が広いというより、ほとんどお姉ちゃん絡みですけどね」

 俺が何か言う前に、琴音ちゃんが笑った。
 彼女が笑いながら何かを言う前に、今度は俺が先を取る。

「俺が負けたのは藤咲さんがすごかったからじゃない。俺がダメだったからだ! 実は俺、水泳は苦手なんだよ!」
「は、え?」

 胸を張って言い切った。負けた時こそ胸を張れ精神である。

「次は俺の得意分野で勝つ。それがダメなら藤咲さんの苦手分野で勝つ」
「それ、格好いいと思いますか?」
「格好いいとか悪いとかは考えてない。何をして勝とうが負けようが、俺の評価は変わらないからな」

 相手は学園のアイドルだ。負ければ周りから笑い者にされるし、勝っても良い感情は向けられないだろう。他人からの言葉だが、容易く想像できる。
 今、評価を気にするべき相手は目の前の女の子だけだ。
 琴音ちゃんの姉は超人ではない。たとえそうだとしても、引きずり下ろしてでも凡人にして、琴音ちゃんに自分だって負けてないと思ってほしい。何もかもを負けているだなんて思ってほしくない。
 だって琴音ちゃん、いい子なんだもん。
 そんないい子が自分のためだけの勝負なんかするわけがない。なら凡人代表の俺が藤咲さんを叩きのめしてやれば、琴音ちゃんも「お姉ちゃん大したことなーい」と鼻で笑ってくれるに違いない。……性格的にあり得ないな。

「祐二先輩が何を考えているかわからないですけど、悪目立ちはしないでくださいね?」
「おう」
「本当にわかってるのかなぁ」

 わかってるって。陰キャだからすぐに忘れられる存在。つまりコンテニューはすぐできるだろう。
 しかしどうしよう。運動で勝てる気がしない。男女の差でなんとかなると思ってたんだが、自分の能力の低さを舐めていたようだ。
 俺でも完璧超人の藤咲彩音に勝てる。それさえ証明できれば勝負方法はなんでもいい。
 勉強はダメだ。学年トップクラスの藤咲さんに、追試を言い渡されるレベルの俺じゃあ勝負にもならない。ハンデがあっても勝てる気がしない。
 だったらどうするか。うーん……。

「まあいいです。それよりお弁当食べましょうか。早くしないとお昼休み終わっちゃいますよ」
「だな」

 この間オムライス作ってもらえたし、と。ダイエットメニューからの脱却を期待しながらオープン!

「今日は身体のために野菜多めにしてみましたっ」

 野菜多めというか、野菜オンリーだった。色鮮やかといえばなんだかいい感じに聞こえる不思議。

「琴音ちゃん……お米は?」
「あっ、忘れちゃいました」

「あっ」じゃねえよ! こんなドジっ子はいらねえよ! 「てへっ」っておま……可愛いなあオイ!
 食物繊維たっぷり(炭水化物抜き)の弁当を完食した。なんだか日に日に身体がスリムになっている気がする。油物が恋しくなった。


  ※ ※ ※


 俺が藤咲さんに勝負を挑んだのがどう作用したのだろうか。

「会田くん、放課後……少し付き合ってほしいのだけれど……いいかしら?」

 と、藤咲さんにアプローチされてしまった。運命の歪みが怖いよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!

コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。 性差とは何か?

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

切り裂かれた髪、結ばれた絆

S.H.L
青春
高校の女子野球部のチームメートに嫉妬から髪を短く切られてしまう話

処理中です...