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14.うっとうしい雨
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衣替えの時期がきた。ついでに梅雨の時期になった。
女子が夏服になる。男子にとっては重要なイベントである。異論は認めない。
「やはり、藤咲彩音のスタイルは暴力的だ。僕は藤咲さんのクラスメートでいられるのが誇りだよ」
眼鏡を光らせる井出が、かつてないほどの真面目顔で言った。とんでもねえ発言してるのわかってんのかな。
視線の先には教室の中心で談笑している藤咲さんグループ。キラッキラしてまぶしく感じる。あれがスクールカーストの頂点の輝きか。
もちろんみんな夏服の制服に袖を通している。井出ではないが、中でも藤咲さんのスタイルは圧倒的だった。主に出ている部分に視線が吸い寄せられそうになる。
「そういえば祐二」
「なんだよ?」
井出が藤咲さんグループに目を向けたまま言う。俺も同じところを見ながら返した。
「最近、藤咲さんの妹さんといっしょにいること多いよね」
ギクリ、とはしなかった。昼休みや放課後、彼女といっしょにいるのを特別隠したりしなかったからな。
「さんさんって続けて言われると変な感じだな」
井出の顔がこっちを向く。冗談抜きで真面目な顔をしていた。
「本気だったりする?」
「まさか」
俺は顔の向きを変えずに即答した。
井出に前みたいな動揺はない。そりゃそうだ。俺の友達なんだから。
「ちょっとだけ仲良くなった。だからちょっとだけ夢を見たい。そんだけだ」
「わかってるなら、安心したよ」
ほっ、と息を吐く井出。
俺に彼女ができる。そんなことを不安に思ったり妬んだりしない。井出の心配は別にある。
藤咲さんのグループは輝いている。他の連中だって大小様々ではあるが輝きが見える。
だが、俺達はそうではない。そのことを俺達は経験から知っていた。
あの時、藤咲父から認識すらされなかったみたいな態度をされた。
実際にそうなのかもしれない。取るに足らない存在だと思われたのかもしれない。
事実、俺は脇役だ。モブと言われても反論できない。影響力なんて無に等しい。
それを、改めて思い出した。
「それでさ、藤咲さんの妹さんについての情報なんだけどさ」
「ん?」
井出の気色が変わる。なんか気持ち悪い色になったぞ。
「彼女、中等部の時は新体操部だったんだってさ」
新体操……。レオタードと身体柔らかいイメージだ。どんなことをするのか、よくわかってはいない。
「中等部の時はって、今は違うのか?」
「高等部になってからは部活してないんだって。せっかくならレオタード姿見たかったなぁ……」
俺は井出から距離を取った。その恍惚顔やめろ。俺が女子に変な目を向けられたらどうしてくれる。
それにしても、琴音ちゃん前は部活してたんだ。なんでやめたんだろう。
部活やめてまでバイトしたかったとか? これは俺だけが知っている情報なので明かすつもりはないがな。
「実力がなくてやめたんじゃないのか?」
「それはないよ。さすがは藤咲彩音の妹、って褒められていたみたいだからね」
「ふぅん」
学園のアイドル、藤咲彩音の身体能力は高い。下手な運動部では歯が立たないほどに優秀だ。
「だからって、藤咲さんとは関係ないだろ」
姉が優秀だからって、妹もそうだとは限らない。
でも、それは悪い意味ではないのだ。悪いことなんかじゃないと、俺は思いたい。
「そうだね。祐二の言う通りだよ」
井出はこっくりとうなずく。視線は藤咲さんとは違う別のところを向いていた。
誰かと比べられるのはしんどい。比べられて、勝ち続けられるならそうは思わないのかもしれない。
輪の中心で藤咲さんが笑った。場が華やぐ。それだけの影響力が彼女にはあった。
あの時に見た、琴音ちゃんの笑顔とは大違いだった。
※ ※ ※
「琴音ちゃんの夏服を見られるなんて! この素晴らしい日に乾杯!」
「さすがに恥ずかしいのでやめてください」
「……はい」
全力で褒めたのにガチトーンで拒否られた。あれ、俺ってズレてる?
放課後、しとしと雨模様。天気予報通りなので傘を差して並んで帰る。
本日はバイトがないからと普通に帰ることにした。毎日遊べるほど学生という身分は楽ではないのだ。これでも一応受験生だし。
「今日は家まで送ろうか?」
「いえ……祐二先輩に悪いのでいいですよ」
琴音ちゃんはやんわりと断る。
結局、彼女を家まで送り届けたのは一度きりになっている。ちょっと強引に送ろうとしたらガチトーンで拒否られた。それからは大人しく引き下がることにしている。
琴音ちゃんといるのは楽しい。だけど壁を感じてもいる。
そんなのは当然だ。始まりからして間違っているのだから。壁を作らない方がどうかしている。
楽しく雑談をしていたらすぐに駅にたどり着いた。
「じゃあここで……。祐二先輩、ありがとうございました」
「ああ、またな」
琴音ちゃんが改札を通る。その姿は人混みに紛れてすぐに見えなくなった。
彼女を見送ってから俺も帰路につく。
「……」
外はやっぱり雨で、俺は傘を差した。
しとしとと降る雨。憂鬱ぶってみたい気分になる。
もやもやした気持ち。その正体もわからず、傘で自分を守りながら歩いた。
女子が夏服になる。男子にとっては重要なイベントである。異論は認めない。
「やはり、藤咲彩音のスタイルは暴力的だ。僕は藤咲さんのクラスメートでいられるのが誇りだよ」
眼鏡を光らせる井出が、かつてないほどの真面目顔で言った。とんでもねえ発言してるのわかってんのかな。
視線の先には教室の中心で談笑している藤咲さんグループ。キラッキラしてまぶしく感じる。あれがスクールカーストの頂点の輝きか。
もちろんみんな夏服の制服に袖を通している。井出ではないが、中でも藤咲さんのスタイルは圧倒的だった。主に出ている部分に視線が吸い寄せられそうになる。
「そういえば祐二」
「なんだよ?」
井出が藤咲さんグループに目を向けたまま言う。俺も同じところを見ながら返した。
「最近、藤咲さんの妹さんといっしょにいること多いよね」
ギクリ、とはしなかった。昼休みや放課後、彼女といっしょにいるのを特別隠したりしなかったからな。
「さんさんって続けて言われると変な感じだな」
井出の顔がこっちを向く。冗談抜きで真面目な顔をしていた。
「本気だったりする?」
「まさか」
俺は顔の向きを変えずに即答した。
井出に前みたいな動揺はない。そりゃそうだ。俺の友達なんだから。
「ちょっとだけ仲良くなった。だからちょっとだけ夢を見たい。そんだけだ」
「わかってるなら、安心したよ」
ほっ、と息を吐く井出。
俺に彼女ができる。そんなことを不安に思ったり妬んだりしない。井出の心配は別にある。
藤咲さんのグループは輝いている。他の連中だって大小様々ではあるが輝きが見える。
だが、俺達はそうではない。そのことを俺達は経験から知っていた。
あの時、藤咲父から認識すらされなかったみたいな態度をされた。
実際にそうなのかもしれない。取るに足らない存在だと思われたのかもしれない。
事実、俺は脇役だ。モブと言われても反論できない。影響力なんて無に等しい。
それを、改めて思い出した。
「それでさ、藤咲さんの妹さんについての情報なんだけどさ」
「ん?」
井出の気色が変わる。なんか気持ち悪い色になったぞ。
「彼女、中等部の時は新体操部だったんだってさ」
新体操……。レオタードと身体柔らかいイメージだ。どんなことをするのか、よくわかってはいない。
「中等部の時はって、今は違うのか?」
「高等部になってからは部活してないんだって。せっかくならレオタード姿見たかったなぁ……」
俺は井出から距離を取った。その恍惚顔やめろ。俺が女子に変な目を向けられたらどうしてくれる。
それにしても、琴音ちゃん前は部活してたんだ。なんでやめたんだろう。
部活やめてまでバイトしたかったとか? これは俺だけが知っている情報なので明かすつもりはないがな。
「実力がなくてやめたんじゃないのか?」
「それはないよ。さすがは藤咲彩音の妹、って褒められていたみたいだからね」
「ふぅん」
学園のアイドル、藤咲彩音の身体能力は高い。下手な運動部では歯が立たないほどに優秀だ。
「だからって、藤咲さんとは関係ないだろ」
姉が優秀だからって、妹もそうだとは限らない。
でも、それは悪い意味ではないのだ。悪いことなんかじゃないと、俺は思いたい。
「そうだね。祐二の言う通りだよ」
井出はこっくりとうなずく。視線は藤咲さんとは違う別のところを向いていた。
誰かと比べられるのはしんどい。比べられて、勝ち続けられるならそうは思わないのかもしれない。
輪の中心で藤咲さんが笑った。場が華やぐ。それだけの影響力が彼女にはあった。
あの時に見た、琴音ちゃんの笑顔とは大違いだった。
※ ※ ※
「琴音ちゃんの夏服を見られるなんて! この素晴らしい日に乾杯!」
「さすがに恥ずかしいのでやめてください」
「……はい」
全力で褒めたのにガチトーンで拒否られた。あれ、俺ってズレてる?
放課後、しとしと雨模様。天気予報通りなので傘を差して並んで帰る。
本日はバイトがないからと普通に帰ることにした。毎日遊べるほど学生という身分は楽ではないのだ。これでも一応受験生だし。
「今日は家まで送ろうか?」
「いえ……祐二先輩に悪いのでいいですよ」
琴音ちゃんはやんわりと断る。
結局、彼女を家まで送り届けたのは一度きりになっている。ちょっと強引に送ろうとしたらガチトーンで拒否られた。それからは大人しく引き下がることにしている。
琴音ちゃんといるのは楽しい。だけど壁を感じてもいる。
そんなのは当然だ。始まりからして間違っているのだから。壁を作らない方がどうかしている。
楽しく雑談をしていたらすぐに駅にたどり着いた。
「じゃあここで……。祐二先輩、ありがとうございました」
「ああ、またな」
琴音ちゃんが改札を通る。その姿は人混みに紛れてすぐに見えなくなった。
彼女を見送ってから俺も帰路につく。
「……」
外はやっぱり雨で、俺は傘を差した。
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