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5.ひどい告白
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オムライスを食べ終わってメイドさんとゲームをして遊んでいると、三十分が経過していた。藤咲妹が休憩に入る時間である。
「いってらっしゃいませご主人様!」
滞在時間は四十分ほど。もうちょっと楽しみたかったのが本音だ。俺にとってはファミレスよりも時間が潰せそうな場所である。初めてのメイドカフェの感想はこんなもんだ。
メイドカフェを後にして藤咲妹との待ち合わせ場所へと向かう。
メニューには他にもメイドさんと遊べるゲームや、ライブなんかもあったな。ツーショットで写真を撮らせてくれるみたいであったし、お値段も思ったよりお手頃だ。うーん、興味深い。
そんな考え事をしながら待ち合わせ場所へと到着した。
ビルの裏手には従業員用の出入り口があった。そこが藤咲妹が指定した待ち合わせ場所である。たどり着くと、ちょうどそこから出てくる女の子がいた。
「あっ、先輩……。お待たせしちゃいましたか?」
「ううん、今来たとこだよ」
ちょっと言ってみたかったセリフである。非モテ男子として言ってみたいセリフの上位に食い込むだろう。ソースは俺のみ。
そんな男心を知らない藤咲妹は「よかったー」と呑気なものだった。これから話すことを思えばそう呑気にはいられないと思うんだけどな。
「で、俺に何か用?」
大方予想はついている。だが、ここはとぼけた態度で様子を見る。
藤咲妹は少し言いづらそうにもごもごと口を動かす。
そんなことをするものだから視線が彼女の唇へと吸い寄せられた。薄く色づいた綺麗な唇だ。
「あの、会田先輩」
不安そうな表情を隠すように、彼女は頭を下げた。
「あたしがここでバイトしていることは誰にも言わないでください。お願いします」
藤咲妹は頭を下げたまま動かない。自分のお願いが通るまでは頭を上げないという意思を感じる。
「……」
まあ大方予想はついていたお話だ。
だが実際にこうして人から頭を下げられるってのは……なんというか落ち着かないものがある。
頭を下げられて、店以外でこれほどまで本気が伝わってくるとは。いや、店員の対応と比べるものでもない。正直言えば言葉を失った。
俺のイエスかノーで藤咲妹の今後が決まってしまう。少なくとも彼女自身はそう考えているはずだ。じゃなきゃこれほど真剣に頭を下げられはしない。
「……」
「……なんでも」
「ん?」
俺が何も言わずにいると、藤咲妹の方から何かを口にする。
「あ、あたしにできることなら、なんでもしますから……。お願いします」
え、今なんでもするって言った?
彼女は確かに震える声で言った。聞き違えないほどの声量だった。
「顔を上げてくれ」
藤咲妹は俺の言う通りにする。だが不安は隠しきれていないといった態度だ。
身を縮こまらせているメイド少女。この状況だけでいけないことをしている気分。じめじめした場所だから余計に雰囲気が出ていた。
「……なんでもするって、本当か?」
「え? ま、まあ、あたしにできることであれば、ですけど……」
よし、言質は取った。
目の前の少女に無遠慮な視線を向ける。上から下まで眺めて、その視線を往復させる。
学園のアイドルの妹ということもあり、なかなか可愛らしい見た目をしている。綺麗な亜麻色の髪をツインテールにしているのはちょっと子供っぽいが、薄く色づいた唇からは色気を感じさせる。
「今の状況、自分がどんな立場にいるのかわかってるな?」
「……はい」
改めて上下関係を確認する。彼女は恐れを感じているかのように震えながらうなずいた。
「なんでもするって、言ったよな?」
「い、言いましたけど……」
「けど?」
「……いえ、なんでもないです」
俺の雰囲気から不穏なものを感じ取ったのだろう。それでも、彼女に抵抗する手段はない。と、彼女は考えている。
藤咲妹はメイド服を身に着けている。メイドカフェのものらしくレースやフリルといった装飾がある。けれど可愛らしいだけじゃなく清楚さがあった。
うん、とても似合っている。
ならば申し分ないだろう。口元が勝手に笑みを作った。
「俺の彼女になってください!」
勢いよく頭を下げた。数秒の空白の時間が生まれる。
「……へ?」
呆けたような声だった。もちろん声の主は藤咲妹である。
驚くのも無理はない。そんな要求をしたのだから。
俺は顔を上げる。ゲスな表情にならないよう顔に力を入れる。
「夏休み前まででいい。俺の彼女になってくれないか? そうしてくれたら、バイトしていることを絶対に他言しないと誓おう」
我ながらひどい提案である。
だが待ってほしい。生まれてこの方恋人なんぞできたことがないのだ。自分のスペックを考えれば未来は明るいとも言い切れない。
それならこのチャンスをものにしなくてどうするのか。すぐに受験勉強で交際をどうこう考える暇もなくなるだろう。
まずは実績を作る。彼女いない歴=年齢からの脱却。それができれば未来が明るいとは言えずとも、過去の栄光で胸を張れる。
そんな自分勝手な理由で脅してしまった。
さすがに俺も鬼じゃない。本気で嫌がられたら引き下がろう。そんな程度の思いで口にしたのだが。
「……わかりました」
「え?」
「あたし、会田先輩の彼女になります」
藤咲妹は俺と目を合わせて、はっきりと言ったのだ。彼女になる、と。
「マジで?」
「マジです。そうすればここでバイトしていること、誰にも言わないんですよね?」
「あ、ああ。もちろんだ」
自分で言うのもなんだが、思い切った決断をしたな。
「あっ、そろそろ休憩時間なくなっちゃいます」
「お、おう。戻らなきゃだな」
「じゃあその……明日から先輩の彼女ってことで、いいですか?」
恐る恐る尋ねられる。さっきまでと態度があまり変わらないし、ちょっと我慢しているのかもしれない。
まあでも本人から嫌だとはっきり言われたわけでもないし? とりあえずそういうことで、い、いいよな?
「あ、ああ。明日からよろしく頼む……。その、夏休み前まででいいので……」
藤咲妹はビルの中に戻ろうとして、くるりとツインテールを揺らして振り返った。
「わっかりました! では明日からよろしくお願いしますね、先輩っ」
にっこにこの笑顔を見せて、彼女はビルの中へと消えた。
嫌がる表情どころかあの笑顔。やはり接客業をやってるからか。営業スマイルってやつだろう。いくら俺でも脅して彼女にした相手が良い感情を抱かないと察せられる。
脅してだろうが期間限定だろうが関係ない。この瞬間、俺は彼女いない歴=年齢から解放されたのだ。
「いってらっしゃいませご主人様!」
滞在時間は四十分ほど。もうちょっと楽しみたかったのが本音だ。俺にとってはファミレスよりも時間が潰せそうな場所である。初めてのメイドカフェの感想はこんなもんだ。
メイドカフェを後にして藤咲妹との待ち合わせ場所へと向かう。
メニューには他にもメイドさんと遊べるゲームや、ライブなんかもあったな。ツーショットで写真を撮らせてくれるみたいであったし、お値段も思ったよりお手頃だ。うーん、興味深い。
そんな考え事をしながら待ち合わせ場所へと到着した。
ビルの裏手には従業員用の出入り口があった。そこが藤咲妹が指定した待ち合わせ場所である。たどり着くと、ちょうどそこから出てくる女の子がいた。
「あっ、先輩……。お待たせしちゃいましたか?」
「ううん、今来たとこだよ」
ちょっと言ってみたかったセリフである。非モテ男子として言ってみたいセリフの上位に食い込むだろう。ソースは俺のみ。
そんな男心を知らない藤咲妹は「よかったー」と呑気なものだった。これから話すことを思えばそう呑気にはいられないと思うんだけどな。
「で、俺に何か用?」
大方予想はついている。だが、ここはとぼけた態度で様子を見る。
藤咲妹は少し言いづらそうにもごもごと口を動かす。
そんなことをするものだから視線が彼女の唇へと吸い寄せられた。薄く色づいた綺麗な唇だ。
「あの、会田先輩」
不安そうな表情を隠すように、彼女は頭を下げた。
「あたしがここでバイトしていることは誰にも言わないでください。お願いします」
藤咲妹は頭を下げたまま動かない。自分のお願いが通るまでは頭を上げないという意思を感じる。
「……」
まあ大方予想はついていたお話だ。
だが実際にこうして人から頭を下げられるってのは……なんというか落ち着かないものがある。
頭を下げられて、店以外でこれほどまで本気が伝わってくるとは。いや、店員の対応と比べるものでもない。正直言えば言葉を失った。
俺のイエスかノーで藤咲妹の今後が決まってしまう。少なくとも彼女自身はそう考えているはずだ。じゃなきゃこれほど真剣に頭を下げられはしない。
「……」
「……なんでも」
「ん?」
俺が何も言わずにいると、藤咲妹の方から何かを口にする。
「あ、あたしにできることなら、なんでもしますから……。お願いします」
え、今なんでもするって言った?
彼女は確かに震える声で言った。聞き違えないほどの声量だった。
「顔を上げてくれ」
藤咲妹は俺の言う通りにする。だが不安は隠しきれていないといった態度だ。
身を縮こまらせているメイド少女。この状況だけでいけないことをしている気分。じめじめした場所だから余計に雰囲気が出ていた。
「……なんでもするって、本当か?」
「え? ま、まあ、あたしにできることであれば、ですけど……」
よし、言質は取った。
目の前の少女に無遠慮な視線を向ける。上から下まで眺めて、その視線を往復させる。
学園のアイドルの妹ということもあり、なかなか可愛らしい見た目をしている。綺麗な亜麻色の髪をツインテールにしているのはちょっと子供っぽいが、薄く色づいた唇からは色気を感じさせる。
「今の状況、自分がどんな立場にいるのかわかってるな?」
「……はい」
改めて上下関係を確認する。彼女は恐れを感じているかのように震えながらうなずいた。
「なんでもするって、言ったよな?」
「い、言いましたけど……」
「けど?」
「……いえ、なんでもないです」
俺の雰囲気から不穏なものを感じ取ったのだろう。それでも、彼女に抵抗する手段はない。と、彼女は考えている。
藤咲妹はメイド服を身に着けている。メイドカフェのものらしくレースやフリルといった装飾がある。けれど可愛らしいだけじゃなく清楚さがあった。
うん、とても似合っている。
ならば申し分ないだろう。口元が勝手に笑みを作った。
「俺の彼女になってください!」
勢いよく頭を下げた。数秒の空白の時間が生まれる。
「……へ?」
呆けたような声だった。もちろん声の主は藤咲妹である。
驚くのも無理はない。そんな要求をしたのだから。
俺は顔を上げる。ゲスな表情にならないよう顔に力を入れる。
「夏休み前まででいい。俺の彼女になってくれないか? そうしてくれたら、バイトしていることを絶対に他言しないと誓おう」
我ながらひどい提案である。
だが待ってほしい。生まれてこの方恋人なんぞできたことがないのだ。自分のスペックを考えれば未来は明るいとも言い切れない。
それならこのチャンスをものにしなくてどうするのか。すぐに受験勉強で交際をどうこう考える暇もなくなるだろう。
まずは実績を作る。彼女いない歴=年齢からの脱却。それができれば未来が明るいとは言えずとも、過去の栄光で胸を張れる。
そんな自分勝手な理由で脅してしまった。
さすがに俺も鬼じゃない。本気で嫌がられたら引き下がろう。そんな程度の思いで口にしたのだが。
「……わかりました」
「え?」
「あたし、会田先輩の彼女になります」
藤咲妹は俺と目を合わせて、はっきりと言ったのだ。彼女になる、と。
「マジで?」
「マジです。そうすればここでバイトしていること、誰にも言わないんですよね?」
「あ、ああ。もちろんだ」
自分で言うのもなんだが、思い切った決断をしたな。
「あっ、そろそろ休憩時間なくなっちゃいます」
「お、おう。戻らなきゃだな」
「じゃあその……明日から先輩の彼女ってことで、いいですか?」
恐る恐る尋ねられる。さっきまでと態度があまり変わらないし、ちょっと我慢しているのかもしれない。
まあでも本人から嫌だとはっきり言われたわけでもないし? とりあえずそういうことで、い、いいよな?
「あ、ああ。明日からよろしく頼む……。その、夏休み前まででいいので……」
藤咲妹はビルの中に戻ろうとして、くるりとツインテールを揺らして振り返った。
「わっかりました! では明日からよろしくお願いしますね、先輩っ」
にっこにこの笑顔を見せて、彼女はビルの中へと消えた。
嫌がる表情どころかあの笑顔。やはり接客業をやってるからか。営業スマイルってやつだろう。いくら俺でも脅して彼女にした相手が良い感情を抱かないと察せられる。
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