5 / 43
4.オムライスに一言書いてもらった
しおりを挟む
「あの……その……えっと、ですね……」
「……」
藤咲妹は何か言おうと口を開いては閉じるを繰り返す。
俺はそれをただ黙って見つめていた。いや、余裕があるとかじゃなくて、こんなところで再会するとは思ってなかったから言葉が何も思いつかないだけだ。
「あれ、琴音ちゃんどうしたの?」
別のメイドさんが藤咲妹の様子に気づいた。俺と彼女を交互に見て、怪訝な表情を浮かべる。
ん、あれ、これはやばいんでないの?
困りすぎて藤咲妹の目じりには涙が。目の前にいるのは俺だけ。つまり俺が彼女をいじめているように見えるのではと思い至る。
「こ、これ、オムライス注文しますっ。メイドさんのお絵描きがどうのってやつ!」
「は、はいっ。かしこまりましたご主人様!」
慌ててメニューを注文する。藤咲妹はツインテールを揺らしながら大きく頷いてくれた。
藤咲妹が奥へと引っ込んで、メイドさんも怪訝な表情を引っ込ませてくれた。
これで一安心。背もたれへと体重を預ける。
藤咲妹が取り乱したのには理由がある。俺は伝染したみたいに慌てただけなのでとくにやましいところはない。メイドカフェに一人で来店したところを目撃されたが、まったくやましくない!
我が学園はアルバイトを校則で禁止しているのだ。見つかればどんな罰則があることやら。一発で退学にはならないだろうが、それなりに重たいものだったと思う。特別な事情でもなければ許可されないだろう。
それなのに、同じ学園の生徒に目撃されてしまった。
顔見知りにならなければ学年も違うし気づかずにいられただろうが、運悪く藤咲妹は俺と関わりを持ってしまった。
ただ傘を貸し借りした関係。それ以上でも以下でもない。なかったことにして無視してもいい事実だ。
だが藤咲妹は俺を無視しなかった。俺の顔を見て、ちゃんと誰だかわかってしまったようだ。
「お、お待たせしました……にゃん」
取ってつけた「にゃん」だった。
顔を上げれば注文したオムライスをテーブルに置く藤咲妹。笑顔がぎこちないのは俺のせいだろう。来店しちゃってごめんね。
「あの……オムライスに何を書いてほしいですか?」
藤咲妹がぎこちなく尋ねてくる。そういえばメイドさんにお絵描きしてもらえるんだっけか。
「なんでもいいの?」
「は、はい。あたしが書けるものなら」
少しだけ考えてみる。文字でも絵でもいいみたい。もちろんエッチなことを書かせるのはアウトだろう。奥から屈強な男の人が出てこられても困るし。そんな人がメイドカフェにいるのかは知らんけど。
「じゃあ……大好きって書いて」
「え」
後輩少女メイドは固まった。
「そういうのはダメだった?」
「い、いえ……がんばりますっ」
ケチャップを持つ手が震えている。とんでもない注文だったようだ。
「では、いきます!」
ものすごい気迫だ。顔を真っ赤にし、どころか耳まで真っ赤だった。気持ちは充分伝わった。
藤咲妹は前かがみになってオムライスにケチャップで文字を書いていく。「大好き」と思ったよりも綺麗な文字で書いてくれた。俺が授業のノートを写す字よりも綺麗だ。
「ど、どうですか!」
「うん。いいんじゃない」
「ありがとうございます!」
無茶ぶりだったかもしれないのに、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
満足そうに席から離れようとした藤咲妹は、はっとして振り向いた。そして俺に顔を寄せてくる。
何事!? と内心の焦りを顔に出さないでいるのに必死でいると、耳元で優しくささやかれた。
「会田先輩……お話があります。この後、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
吐息が耳に触れてゾクゾクした。その拍子にこくんと頷いていた。
「ありがとうございます。あと三十分で休憩に入りますので、お話はその時に」
そう言って彼女はこの場を後にした。美味しくなる魔法はかけてくれなかった。
お話ってなんだろなー? ドキドキしちゃう……。って、ときめくような話ではないだろうな。
ここでバイトしていることを学園に言わないでくれという口止め。それが彼女のお話ってやつだろう。そもそも俺と後輩少女にそれ以外の話なんてないからな。
わざわざお話しなければならないほど信用がないらしい。まあこの間に会ったばかりでしかない関係だからな。だからこそ無視してくれるなら何もしようとは思わなかったのだが。
「……」
大きな文字で「大好き」と書かれたオムライスにスプーンを突き立てる。
もったいないとは思うが、料理は食べてこそである。どうやって作ったかは知らないが「大好き」と書かれたオムライスは前にファミレスで食べたものよりも美味しかった。
「……」
藤咲妹は何か言おうと口を開いては閉じるを繰り返す。
俺はそれをただ黙って見つめていた。いや、余裕があるとかじゃなくて、こんなところで再会するとは思ってなかったから言葉が何も思いつかないだけだ。
「あれ、琴音ちゃんどうしたの?」
別のメイドさんが藤咲妹の様子に気づいた。俺と彼女を交互に見て、怪訝な表情を浮かべる。
ん、あれ、これはやばいんでないの?
困りすぎて藤咲妹の目じりには涙が。目の前にいるのは俺だけ。つまり俺が彼女をいじめているように見えるのではと思い至る。
「こ、これ、オムライス注文しますっ。メイドさんのお絵描きがどうのってやつ!」
「は、はいっ。かしこまりましたご主人様!」
慌ててメニューを注文する。藤咲妹はツインテールを揺らしながら大きく頷いてくれた。
藤咲妹が奥へと引っ込んで、メイドさんも怪訝な表情を引っ込ませてくれた。
これで一安心。背もたれへと体重を預ける。
藤咲妹が取り乱したのには理由がある。俺は伝染したみたいに慌てただけなのでとくにやましいところはない。メイドカフェに一人で来店したところを目撃されたが、まったくやましくない!
我が学園はアルバイトを校則で禁止しているのだ。見つかればどんな罰則があることやら。一発で退学にはならないだろうが、それなりに重たいものだったと思う。特別な事情でもなければ許可されないだろう。
それなのに、同じ学園の生徒に目撃されてしまった。
顔見知りにならなければ学年も違うし気づかずにいられただろうが、運悪く藤咲妹は俺と関わりを持ってしまった。
ただ傘を貸し借りした関係。それ以上でも以下でもない。なかったことにして無視してもいい事実だ。
だが藤咲妹は俺を無視しなかった。俺の顔を見て、ちゃんと誰だかわかってしまったようだ。
「お、お待たせしました……にゃん」
取ってつけた「にゃん」だった。
顔を上げれば注文したオムライスをテーブルに置く藤咲妹。笑顔がぎこちないのは俺のせいだろう。来店しちゃってごめんね。
「あの……オムライスに何を書いてほしいですか?」
藤咲妹がぎこちなく尋ねてくる。そういえばメイドさんにお絵描きしてもらえるんだっけか。
「なんでもいいの?」
「は、はい。あたしが書けるものなら」
少しだけ考えてみる。文字でも絵でもいいみたい。もちろんエッチなことを書かせるのはアウトだろう。奥から屈強な男の人が出てこられても困るし。そんな人がメイドカフェにいるのかは知らんけど。
「じゃあ……大好きって書いて」
「え」
後輩少女メイドは固まった。
「そういうのはダメだった?」
「い、いえ……がんばりますっ」
ケチャップを持つ手が震えている。とんでもない注文だったようだ。
「では、いきます!」
ものすごい気迫だ。顔を真っ赤にし、どころか耳まで真っ赤だった。気持ちは充分伝わった。
藤咲妹は前かがみになってオムライスにケチャップで文字を書いていく。「大好き」と思ったよりも綺麗な文字で書いてくれた。俺が授業のノートを写す字よりも綺麗だ。
「ど、どうですか!」
「うん。いいんじゃない」
「ありがとうございます!」
無茶ぶりだったかもしれないのに、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
満足そうに席から離れようとした藤咲妹は、はっとして振り向いた。そして俺に顔を寄せてくる。
何事!? と内心の焦りを顔に出さないでいるのに必死でいると、耳元で優しくささやかれた。
「会田先輩……お話があります。この後、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
吐息が耳に触れてゾクゾクした。その拍子にこくんと頷いていた。
「ありがとうございます。あと三十分で休憩に入りますので、お話はその時に」
そう言って彼女はこの場を後にした。美味しくなる魔法はかけてくれなかった。
お話ってなんだろなー? ドキドキしちゃう……。って、ときめくような話ではないだろうな。
ここでバイトしていることを学園に言わないでくれという口止め。それが彼女のお話ってやつだろう。そもそも俺と後輩少女にそれ以外の話なんてないからな。
わざわざお話しなければならないほど信用がないらしい。まあこの間に会ったばかりでしかない関係だからな。だからこそ無視してくれるなら何もしようとは思わなかったのだが。
「……」
大きな文字で「大好き」と書かれたオムライスにスプーンを突き立てる。
もったいないとは思うが、料理は食べてこそである。どうやって作ったかは知らないが「大好き」と書かれたオムライスは前にファミレスで食べたものよりも美味しかった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる