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80.氷室羽彩は怒り、そして微笑ましくなる

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「何それ! それでも父親なのかよ! エリカさんにこんなことをして……ふざけんじゃねえっ!!」
「お、落ち着いて氷室ちゃん。言葉遣いが乱暴になってるよ」

 エリカさんからこのお仕置き部屋に閉じ込められた経緯を聞いて、アタシの怒りは頂点に達した。これが怒らずにいられるか!

「まあまあ。氷室さんの気持ちはわかるが、今ここで怒ったところで仕方がないだろう。それよりも情報を共有するのが先決だ」

 当事者じゃない音無先輩はのんびりしたことを言う。仕方がないって……何が? 全っ然! 仕方ないことないでしょうがっ!!

「私に怒ったところで何にもならない。それくらいはわかる頭があるはずだ。そうだろ氷室さん?」
「くっ……ううぅ~~」

 冷静に言われてしまえば反論できなかった。唸るだけで言葉なんて出てこない。
 確かに、今は音無先輩にどうこう言っている暇はなかった。アタシは怒りを抑え込んでベッドに腰を下ろす。

 アタシとエリカさんと音無先輩はお仕置き部屋でこれまでの経緯を教えあっていた。この部屋は内側からは開かないらしくて、運転手さんが見張りを装ってドアの向こう側で待機してくれている。

「ありがとう氷室ちゃん。あなたが怒ってくれるから、私も両親と縁を切る覚悟ができた。味方になってくれて、すごく嬉しいよ」
「エリカさん……」

 エリカさんに優しく抱きしめられて、アタシの怒りは完全に収まった。そうだ、大切なのはエリカさんの気持ちだ。
 アタシは……ううん、アタシだけじゃない。晃生もひまりんも、りのちんだって、エリカさんの味方だ。
 そう伝えるように、彼女を強く抱き締め返した。晃生よりは頼り甲斐がないかもだけど、少しでも勇気づけられたらと思う。

「暴行現場の動画を公表すると?」

 音無先輩がそう尋ねると、エリカさんはアタシから身体を離して迷いなく頷いた。

 話を聞いてみると、二人は顔見知りだったらしい。どっかのパーティーか何かで出会っていたのだとか。音無先輩も「お嬢様」って呼ばれていたし、金持ち同士のつながりってのがあるみたいだった。

「せっかく氷室ちゃんと夏樹ちゃんが可愛いメイドさんになって迎えに来てくれたんだもん。私もそれに負けないくらいの覚悟を見せないとだからね」
「か、可愛いってそんな……えへへ」

 スカートに触れてひらひらとさせてみる。今度晃生にも見せてあげようかな。よ、喜んでくれるかな?

「小山さん、あまり公にしてしまうのはどうだろうか。あなただって無事に済まないと思うのだが。人の無責任な好奇心を甘く見ない方がいい」
「そんな『小山さん』だなんて他人行儀に呼ばないで。こうやって顔を合わせたのは久しぶりだけれど、小さい頃は『エリカお姉ちゃん』って呼んでくれていたじゃない」
「いや、今はそんなことどうでも──」
「どうでも良くないよ。私は夏樹ちゃんに距離を取られて悲しいな」
「うっ……」

 あれ、音無先輩が押されてる?
 明るく余裕に満ちていた生徒会長。もうできないことはないんじゃないかってくらいの雰囲気を感じていたけど、エリカさんの前では年下の女の子っぽく見える。ちょっと頬を赤らめているし。

「夏樹ちゃんは引っ込み思案でいっつもおじ様の後ろに隠れていてね。でも私を見つけたら顔を輝かせて『エリカお姉ちゃん!』って言って駆け寄ってくれたんだよね。はぁ……可愛かったなぁ」
「エリカお姉ちゃん! それ以上は言わないでよ!」

 音無先輩は顔を真っ赤にしながら立ち上がった。怒っているっていうか、恥ずかしさが極限にまで達したって感じ。
 ていうか音無先輩って昔は引っ込み思案だったんだ……。怪しくて怖い感じだったけど、一気に親近感が湧いてきた。

「ごめんごめん。そうだよねー、夏樹ちゃんもこーんなに大きくなったんだもんね。ちょっと寂しいけれど、変わっていくのは仕方がないよね」
「こほん……。まあ、私のことはどうでもいいじゃないか。まずは安全にこの場を脱出する。そのことを一番に考えよう」

 音無先輩は咳払い一つでさっきのことをなかったことにした。
 でも、その通りだ。何をするにしてもエリカさんをここから救出するのが最優先。こんな何もないところに閉じ込めたままでいさせるのはアタシが許さない!
 だけど、何か良い方法はあるのかな? 警戒されていなかったおかげで入るのは簡単だったけど、出ていくとなれば難しいよね。
 さすがに屋敷にいる執事やメイドはエリカさんの顔をバッチリ覚えているだろう。こっそり抜け出そうとしても、見つかった瞬間に終わりだ。

「屋敷の使用人を全員倒していけば問題ないだろうか?」
「問題ありまくりですよ! こっちから手を出してどうすんですかっ。それに執事さんやメイドさんには罪はないし……」

 この生徒会長はなんてこと言うのっ。発想が怖すぎる……。案外乱暴な人なのかな?
 音無先輩は明るく笑う。調子を取り戻したみたい。

「ははっ、冗談だ。そういうわけだから小山さ──」
「エリカお姉ちゃん、だよ?」
「……エ、エリカお姉ちゃん」
「よろしい」

 エリカさんは満足そうだった。この二人のやり取りを見てたらニヤニヤしちゃうなぁ。

「こほん……。エリカお姉ちゃん、まずはこれに着替えてくれないか」

 恥ずかしそうにしながらも、音無先輩はまたどこから取り出したのかメイド服をエリカさんに手渡した。先輩の反応が面白くて、どんだけメイド服を持ってるんだって疑問は大したことがないように思えた。
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