64 / 101
64.緑髪眼鏡美少女のお出迎え
しおりを挟む
日葵と羽彩は本当に帰ってしまった。ピンクと金色が見えなくなって、ちょっと寂しい。
「こ、ここがリビングです……。とと、とりあえずお茶を出しますから、郷田くんはそこのソファでく、くつろいでいてください……」
残されたのは俺と、緊張で硬くなった黒羽だけだった。
黒羽の緊張も仕方がないだろう。親友の頼みとはいえ、男と一つ屋根の下で生活するはめになったのだ。しかもこんな強面でガタイの良い男。怖がるなという方が無理ってもんである。
「けっこう大きい家で驚いたぞ。俺は狭いアパート暮らしだからさ、この広さは新鮮だぜ」
怖くならないように笑いながら話しかける。郷田晃生の笑顔は怖いだろと、笑ってから思い出した。
せっかく黒羽が善意で俺を受け入れてくれたんだ。男と二人きりになる恐怖を押し殺してまで、友達だからと俺のピンチを助けようとしてくれている。
ならば誠意を持って彼女と接する。俺にできることがあるとすれば、それくらいのものだろうから。
「そ、そうですか……」
会話が広がらない。いつもの黒羽ならちょっとした話題でも盛り上がってくれそうなものだが、やはりこの状況に緊張しているんだろうな。
「えっと、俺はどこで寝ればいいんだ? 適当にその辺の床でもいいんだけどよ」
明日になれば日葵たちが来る。それまではできるだけ黒羽と距離を置いた方が、彼女も安心するかもしれない。
「あっ……。郷田くんのお部屋は用意してありますので……。お、お布団もあります……っ」
「そうなのか? わざわざ悪いな」
「いえ、あたしとお母さんの二人だけなので、お部屋は余っていますから……」
正直、黒羽の父親がいないのとバイトをたくさんするという発言から、彼女は貧乏ではないかと思っていた。
だが、この家を見てみればそんなことは思えなかった。明らかに中流家庭以上。まだ玄関から廊下、このリビングとキッチンしか見てはいないが立派なものだった。
しかもホコリ一つ落ちていないほど綺麗にされていた。この広い家をたった二人で掃除するのは大変だろう。もしかしたら、お手伝いさんでも雇っているのかもしれないな。
「ど、どうぞ」
「ありがとう。わざわざ悪いな」
わざわざ湯を沸かしてお茶を淹れてくれていた。夏だし冷たい麦茶で良かったのだが、口にすると要求になりそうなので何も言わなかった。
他人の家ってやりづらいな。キッチンに入るのだって断りを入れなければならないだろうし。俺が何か手伝うというのも、黒羽を困らせることになってしまうかもしれない。
温かいお茶が喉を通る。暑い時期にどうかとも思ったが、胃の中が温まってほっこりした。
「ふふっ」
「ん? どうしたんだ黒羽?」
隣に座った黒羽が笑っていた。お茶を飲んだだけだってのに、笑うところがあったか?
「郷田くんが安心したみたいに表情を緩めるから。あたしも気が緩んで思わず笑ってしまいました」
「美味かったからな。それにそういう反応されるのも新鮮だぜ」
「あ、ごめんなさい。つい笑ってしまって……」
「いや、違うんだ」
お茶をもう一口飲む。顔が綻んでいるのに、自分でも気づけた。
「俺は自分でも悪人面だと思っているし、周りの反応を見ればそれが間違いじゃないってわかっているからな。だから笑っても怖がられるんだが……黒羽は俺の顔を見ても怖がらないでいてくれるから嬉しいんだ」
そう、嬉しいのだ。
黒羽が俺と普通に接してくれて、友達みたいに笑い合ってくれる。みたい、じゃないな。互いがそう思ってんなら、胸を張って俺たちは友達なのだと言っていいだろう。
「そ、そうですか……。あたしは郷田くんの笑顔……か、可愛いと思いますよ?」
「さすがに可愛いってのとは違うんじゃないか?」
「いいえ、可愛いですよ。あまり見せないからこそ郷田くんの純粋さが凝縮されていると言いましょうか。普段は大人な感じなのに、少年みたいな笑顔がギャップになってとても良いのですよ!」
黒羽がずいっと顔を近づけてくる。言葉に熱がこもっていた。
「そ、そうかな?」
「そうなのです」
力強く断言されてしまった。そこまではっきり言われると、そうなのかと納得しそうになってしまう。
「ははっ。笑顔をそんなにも褒めてもらえると嬉しいもんだな」
「あっ、ご、ごめんなさい調子に乗りました……」
「そこは黒羽が謝るんじゃなくて、俺がお礼を言うところだろ。ありがとうな、そんな風に思ってくれていて嬉しいぜ」
「~~っ!?」
黒羽が急にガタッと立ち上がった。部屋の照明に反射したせいで、彼女の目元が見えない。
「お……お風呂! お風呂入りますよね? 今準備しますから待っていてくださいっ」
「あ、でもここの風呂を使わせてもらうのは悪いんじゃ……」
「大丈夫ですっ。今日は一緒にアルバイトもしたんですから、汗臭い方が問題です。ええ、大問題なのです!」
「そ、そうだな。大問題だ」
確かに今日はいろいろあったからけっこう汗をかいている。あまりに臭いと黒羽の迷惑になるだろう。
でも悪いしなぁ。銭湯が近所にあれば行きたいところだが、そう都合良くはないか。
黒羽がぱたぱたとリビングを出て行った。もう遅い時間だ。今夜は彼女の好意に甘えさせてもらうことにしよう。
「こ、ここがリビングです……。とと、とりあえずお茶を出しますから、郷田くんはそこのソファでく、くつろいでいてください……」
残されたのは俺と、緊張で硬くなった黒羽だけだった。
黒羽の緊張も仕方がないだろう。親友の頼みとはいえ、男と一つ屋根の下で生活するはめになったのだ。しかもこんな強面でガタイの良い男。怖がるなという方が無理ってもんである。
「けっこう大きい家で驚いたぞ。俺は狭いアパート暮らしだからさ、この広さは新鮮だぜ」
怖くならないように笑いながら話しかける。郷田晃生の笑顔は怖いだろと、笑ってから思い出した。
せっかく黒羽が善意で俺を受け入れてくれたんだ。男と二人きりになる恐怖を押し殺してまで、友達だからと俺のピンチを助けようとしてくれている。
ならば誠意を持って彼女と接する。俺にできることがあるとすれば、それくらいのものだろうから。
「そ、そうですか……」
会話が広がらない。いつもの黒羽ならちょっとした話題でも盛り上がってくれそうなものだが、やはりこの状況に緊張しているんだろうな。
「えっと、俺はどこで寝ればいいんだ? 適当にその辺の床でもいいんだけどよ」
明日になれば日葵たちが来る。それまではできるだけ黒羽と距離を置いた方が、彼女も安心するかもしれない。
「あっ……。郷田くんのお部屋は用意してありますので……。お、お布団もあります……っ」
「そうなのか? わざわざ悪いな」
「いえ、あたしとお母さんの二人だけなので、お部屋は余っていますから……」
正直、黒羽の父親がいないのとバイトをたくさんするという発言から、彼女は貧乏ではないかと思っていた。
だが、この家を見てみればそんなことは思えなかった。明らかに中流家庭以上。まだ玄関から廊下、このリビングとキッチンしか見てはいないが立派なものだった。
しかもホコリ一つ落ちていないほど綺麗にされていた。この広い家をたった二人で掃除するのは大変だろう。もしかしたら、お手伝いさんでも雇っているのかもしれないな。
「ど、どうぞ」
「ありがとう。わざわざ悪いな」
わざわざ湯を沸かしてお茶を淹れてくれていた。夏だし冷たい麦茶で良かったのだが、口にすると要求になりそうなので何も言わなかった。
他人の家ってやりづらいな。キッチンに入るのだって断りを入れなければならないだろうし。俺が何か手伝うというのも、黒羽を困らせることになってしまうかもしれない。
温かいお茶が喉を通る。暑い時期にどうかとも思ったが、胃の中が温まってほっこりした。
「ふふっ」
「ん? どうしたんだ黒羽?」
隣に座った黒羽が笑っていた。お茶を飲んだだけだってのに、笑うところがあったか?
「郷田くんが安心したみたいに表情を緩めるから。あたしも気が緩んで思わず笑ってしまいました」
「美味かったからな。それにそういう反応されるのも新鮮だぜ」
「あ、ごめんなさい。つい笑ってしまって……」
「いや、違うんだ」
お茶をもう一口飲む。顔が綻んでいるのに、自分でも気づけた。
「俺は自分でも悪人面だと思っているし、周りの反応を見ればそれが間違いじゃないってわかっているからな。だから笑っても怖がられるんだが……黒羽は俺の顔を見ても怖がらないでいてくれるから嬉しいんだ」
そう、嬉しいのだ。
黒羽が俺と普通に接してくれて、友達みたいに笑い合ってくれる。みたい、じゃないな。互いがそう思ってんなら、胸を張って俺たちは友達なのだと言っていいだろう。
「そ、そうですか……。あたしは郷田くんの笑顔……か、可愛いと思いますよ?」
「さすがに可愛いってのとは違うんじゃないか?」
「いいえ、可愛いですよ。あまり見せないからこそ郷田くんの純粋さが凝縮されていると言いましょうか。普段は大人な感じなのに、少年みたいな笑顔がギャップになってとても良いのですよ!」
黒羽がずいっと顔を近づけてくる。言葉に熱がこもっていた。
「そ、そうかな?」
「そうなのです」
力強く断言されてしまった。そこまではっきり言われると、そうなのかと納得しそうになってしまう。
「ははっ。笑顔をそんなにも褒めてもらえると嬉しいもんだな」
「あっ、ご、ごめんなさい調子に乗りました……」
「そこは黒羽が謝るんじゃなくて、俺がお礼を言うところだろ。ありがとうな、そんな風に思ってくれていて嬉しいぜ」
「~~っ!?」
黒羽が急にガタッと立ち上がった。部屋の照明に反射したせいで、彼女の目元が見えない。
「お……お風呂! お風呂入りますよね? 今準備しますから待っていてくださいっ」
「あ、でもここの風呂を使わせてもらうのは悪いんじゃ……」
「大丈夫ですっ。今日は一緒にアルバイトもしたんですから、汗臭い方が問題です。ええ、大問題なのです!」
「そ、そうだな。大問題だ」
確かに今日はいろいろあったからけっこう汗をかいている。あまりに臭いと黒羽の迷惑になるだろう。
でも悪いしなぁ。銭湯が近所にあれば行きたいところだが、そう都合良くはないか。
黒羽がぱたぱたとリビングを出て行った。もう遅い時間だ。今夜は彼女の好意に甘えさせてもらうことにしよう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
302
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる