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18.改めてここが別世界だと気づく
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話し合いの結果、俺たちはカラオケに行くことにした。
カラオケなんていつぶりだろうか? ちょっとワクワクしている自分がいる。
清楚系とギャル系美少女。それから特徴のない男子と悪役顔の俺。このまとまりのない面子が来店して、店員さんはぎょっとしていた。安心してください、歌いに来ただけです。
「アタシ、カラオケ来るの久しぶりなんだけど。なんかめっちゃテンション上がってきたー!」
「私も最近来ていなかったわね。たまには大きい声を出したいわ」
氷室と白鳥がきゃいきゃいと楽しそうに会話している。この二人、仲良いのか悪いのかわかんないんだけど。女子の距離感って難しい。
「……」
「……」
対する男子二人はとくに話をすることもなく、黙って女子を眺めていた。
いや、だって野坂とする話題がないし。元々友達ではなかったし、俺が知っていることといえば原作で彼女を寝取られて絶望する姿ばかりだった。さすがにそんなことを話題にはできない。
野坂も俺を警戒しているのか、一定の距離を保ちながら目を光らせている。雑談をする雰囲気でもないだろう。
「な、なあ郷田──」
「それじゃあ一曲目、氷室羽彩歌いまーす!」
トップバッターは氷室だった。野坂が何か言おうとしたように見えたが、マイクを持った氷室の声にかき消される。
用があればまた話しかけてくるだろう。今は氷室の歌が楽しみだ。
「──♪」
氷室の歌を聴いて、俺は首をかしげた。
まったく聞き覚えのない歌だったのだ。白鳥と野坂の反応からして、けっこう有名な曲のようだ。
歌手に詳しいわけでもないのだが、有名な曲くらいは俺でも知っている。高校生とはいえ、そこまでの世代格差はないつもりだったんだけどな……。
そこで気づく。漫画の世界だから、歌手も元の世界とは違うのではないか? と。
舞台は現代だったから気にしていなかったけど、漫画の世界だけあっていろいろ違うところがあるようだ。タッチパネル端末でアーティスト名を検索してみても誰が誰だか全然わからない。
どどど、どうしよう……! これじゃあ何も歌えないぞっ。まさかこんな事態になるだなんて考えてもみなかった。
「イエーイ! ありがとー!」
焦っている間に氷室が歌い終わってしまった。途中から全然聴けなかったな……。
「郷田くん、曲は入れたの?」
「まだだ……。先に白鳥が入れていいぞ」
「ありがとう」
白鳥に端末を渡した。彼女は慣れた様子で曲を入力する。
白鳥がマイクを持って優雅に立ち上がる。好きな子が歌う姿に、野坂は前のめりになって見つめていた。まるで熱心なファンみたい。
俺はそれどころではなかった。何か歌えそうな曲はないかと必死で探す。
「晃生ー。歌う曲は決まった?」
いつの間にか俺の隣に腰を下ろしていた氷室に尋ねられる。
「い、いやぁ……。俺、最近の曲に疎くてな……。どうしようかと迷ってる」
「別に昔のでもいいでしょ。アタシらが小さい頃の曲でも案外知ってそうなのあるしさ」
年代とかの話じゃねえんだよっ。そもそもの世界が違うんだよ!
……などと言っても仕方がない。氷室を困らせたって状況が変わるわけでもないからな。
「ふぅ。久しぶりだから声の調子が悪かったわね」
「そんなことないぞ日葵。すごく綺麗な歌声だった!」
野坂の全力拍手で、白鳥の歌が終わったことに気づく。
やばいぞ。早くしないと俺の番がきてしまう。
焦っていると、氷室とは逆側の俺の隣に白鳥が座った。
「ちょっ、日葵っ! 郷田の隣なんかに──」
「はい、マイクよ純平くん。次はあなたの番でしょう?」
「あ、ああ……ありがとう」
白鳥は俺から端末を受け取ると、これまた慣れた様子で曲を入力した。さすがは幼馴染。言葉にせずとも歌いたい曲がわかっているのだろう。
白鳥からマイクを受け取る野坂は俺を睨んでいた。「日葵に変なことするなよ!」と声に出さずとも読み取れた。
「それで、郷田くんは何を歌うの?」
白鳥が身体を寄せてきながら尋ねてくる。小首をかしげて長いピンク髪がサラサラと流れる。……あざとい。
「か、考え中だ」
いくら考えたって知っている曲が出てくるわけじゃない。俺のバカ。気づくのが遅えよ。せめてカラオケに行くと決まった時点でどんな歌があるのかチェックしていればこんなことにはならなかったのに……。
「このランキング一位の歌でもいんじゃない? 一番歌われているってことは、一番歌いやすいんだろうしさ」
氷室が俺の肩に顔をくっつけながら画面を指差して薦めてくれる。どうせ全部知らない曲なら、少しでも歌いやすい曲を選ぶのが無難か。
「そうだな。この曲にしよう」
まずは曲選びができてほっとする。しかし、もちろん本番はこれからだ。
「緊張した~。俺の歌どうだったかな?」
「ああ、良かったぞ野坂」
「……」
歌い終わった野坂に拍手を送る。けれど感想を求めたのは俺にではなく、白鳥にだったのだろう。ものすごく微妙な顔をされてしまった。
「野坂くんやるじゃーん。けっこう良い声してたしさ」
「そ、そうかな?」
氷室に褒められた野坂は照れていた。同じ不良でも、強面男子より美少女に褒められたいよね。うん、わかってた。
「次は郷田くんの番ね。ふふっ、郷田くんが歌うところを見るの楽しみだわ」
白鳥が無自覚にプレッシャーをかけてくる。
くそ~。俺だって歌い慣れている曲なら楽しく歌えるってのに。聞いたことのない曲にぶっつけ本番で挑戦するのは、あまり楽しい感じがしなかった。
音楽が流れる。どこかで聴いたような曲調で、でもやっぱり知らないリズムとメロディだった。
ええい! やってやらあっ! 俺は力強くマイクを握った。
「ブフッ。郷田ってけっこう音痴か?」
俺が歌い始めてすぐに、野坂が堪え切れないとばかりに噴き出した。
それも仕方がないだろう。歌っているというより、これでは歌詞を追いかけているだけだ。こんなんじゃ盛り上がらないし、俺も楽しくない……。
ああ、今すぐ歌うのをやめたい。そんな気持ちが強くなってきた時だった。
「──♪」
俺とは別の歌声が響いてきたのだ。
見れば氷室がマイクを持って歌っていた。彼女はウインクしながらニコッと笑う。
……ついて来いってことか?
氷室の歌声に合わせて、俺も歌ってみた。
すると自然とリズムが合ってきた気がして、なんとなくだけど様になっているように思えた。
氷室と一緒だと歌いやすいな。歌い終わる頃には楽しくなっている自分がいた。
「はぁ~。ありがとな氷室。助かったぜ」
「アタシが歌いたかっただけだし。晃生と一緒に歌うの楽しいもん」
氷室の笑顔が輝いて見える。彼女に対する認識が、大きく変わった瞬間だったかもしれなかった。
カラオケなんていつぶりだろうか? ちょっとワクワクしている自分がいる。
清楚系とギャル系美少女。それから特徴のない男子と悪役顔の俺。このまとまりのない面子が来店して、店員さんはぎょっとしていた。安心してください、歌いに来ただけです。
「アタシ、カラオケ来るの久しぶりなんだけど。なんかめっちゃテンション上がってきたー!」
「私も最近来ていなかったわね。たまには大きい声を出したいわ」
氷室と白鳥がきゃいきゃいと楽しそうに会話している。この二人、仲良いのか悪いのかわかんないんだけど。女子の距離感って難しい。
「……」
「……」
対する男子二人はとくに話をすることもなく、黙って女子を眺めていた。
いや、だって野坂とする話題がないし。元々友達ではなかったし、俺が知っていることといえば原作で彼女を寝取られて絶望する姿ばかりだった。さすがにそんなことを話題にはできない。
野坂も俺を警戒しているのか、一定の距離を保ちながら目を光らせている。雑談をする雰囲気でもないだろう。
「な、なあ郷田──」
「それじゃあ一曲目、氷室羽彩歌いまーす!」
トップバッターは氷室だった。野坂が何か言おうとしたように見えたが、マイクを持った氷室の声にかき消される。
用があればまた話しかけてくるだろう。今は氷室の歌が楽しみだ。
「──♪」
氷室の歌を聴いて、俺は首をかしげた。
まったく聞き覚えのない歌だったのだ。白鳥と野坂の反応からして、けっこう有名な曲のようだ。
歌手に詳しいわけでもないのだが、有名な曲くらいは俺でも知っている。高校生とはいえ、そこまでの世代格差はないつもりだったんだけどな……。
そこで気づく。漫画の世界だから、歌手も元の世界とは違うのではないか? と。
舞台は現代だったから気にしていなかったけど、漫画の世界だけあっていろいろ違うところがあるようだ。タッチパネル端末でアーティスト名を検索してみても誰が誰だか全然わからない。
どどど、どうしよう……! これじゃあ何も歌えないぞっ。まさかこんな事態になるだなんて考えてもみなかった。
「イエーイ! ありがとー!」
焦っている間に氷室が歌い終わってしまった。途中から全然聴けなかったな……。
「郷田くん、曲は入れたの?」
「まだだ……。先に白鳥が入れていいぞ」
「ありがとう」
白鳥に端末を渡した。彼女は慣れた様子で曲を入力する。
白鳥がマイクを持って優雅に立ち上がる。好きな子が歌う姿に、野坂は前のめりになって見つめていた。まるで熱心なファンみたい。
俺はそれどころではなかった。何か歌えそうな曲はないかと必死で探す。
「晃生ー。歌う曲は決まった?」
いつの間にか俺の隣に腰を下ろしていた氷室に尋ねられる。
「い、いやぁ……。俺、最近の曲に疎くてな……。どうしようかと迷ってる」
「別に昔のでもいいでしょ。アタシらが小さい頃の曲でも案外知ってそうなのあるしさ」
年代とかの話じゃねえんだよっ。そもそもの世界が違うんだよ!
……などと言っても仕方がない。氷室を困らせたって状況が変わるわけでもないからな。
「ふぅ。久しぶりだから声の調子が悪かったわね」
「そんなことないぞ日葵。すごく綺麗な歌声だった!」
野坂の全力拍手で、白鳥の歌が終わったことに気づく。
やばいぞ。早くしないと俺の番がきてしまう。
焦っていると、氷室とは逆側の俺の隣に白鳥が座った。
「ちょっ、日葵っ! 郷田の隣なんかに──」
「はい、マイクよ純平くん。次はあなたの番でしょう?」
「あ、ああ……ありがとう」
白鳥は俺から端末を受け取ると、これまた慣れた様子で曲を入力した。さすがは幼馴染。言葉にせずとも歌いたい曲がわかっているのだろう。
白鳥からマイクを受け取る野坂は俺を睨んでいた。「日葵に変なことするなよ!」と声に出さずとも読み取れた。
「それで、郷田くんは何を歌うの?」
白鳥が身体を寄せてきながら尋ねてくる。小首をかしげて長いピンク髪がサラサラと流れる。……あざとい。
「か、考え中だ」
いくら考えたって知っている曲が出てくるわけじゃない。俺のバカ。気づくのが遅えよ。せめてカラオケに行くと決まった時点でどんな歌があるのかチェックしていればこんなことにはならなかったのに……。
「このランキング一位の歌でもいんじゃない? 一番歌われているってことは、一番歌いやすいんだろうしさ」
氷室が俺の肩に顔をくっつけながら画面を指差して薦めてくれる。どうせ全部知らない曲なら、少しでも歌いやすい曲を選ぶのが無難か。
「そうだな。この曲にしよう」
まずは曲選びができてほっとする。しかし、もちろん本番はこれからだ。
「緊張した~。俺の歌どうだったかな?」
「ああ、良かったぞ野坂」
「……」
歌い終わった野坂に拍手を送る。けれど感想を求めたのは俺にではなく、白鳥にだったのだろう。ものすごく微妙な顔をされてしまった。
「野坂くんやるじゃーん。けっこう良い声してたしさ」
「そ、そうかな?」
氷室に褒められた野坂は照れていた。同じ不良でも、強面男子より美少女に褒められたいよね。うん、わかってた。
「次は郷田くんの番ね。ふふっ、郷田くんが歌うところを見るの楽しみだわ」
白鳥が無自覚にプレッシャーをかけてくる。
くそ~。俺だって歌い慣れている曲なら楽しく歌えるってのに。聞いたことのない曲にぶっつけ本番で挑戦するのは、あまり楽しい感じがしなかった。
音楽が流れる。どこかで聴いたような曲調で、でもやっぱり知らないリズムとメロディだった。
ええい! やってやらあっ! 俺は力強くマイクを握った。
「ブフッ。郷田ってけっこう音痴か?」
俺が歌い始めてすぐに、野坂が堪え切れないとばかりに噴き出した。
それも仕方がないだろう。歌っているというより、これでは歌詞を追いかけているだけだ。こんなんじゃ盛り上がらないし、俺も楽しくない……。
ああ、今すぐ歌うのをやめたい。そんな気持ちが強くなってきた時だった。
「──♪」
俺とは別の歌声が響いてきたのだ。
見れば氷室がマイクを持って歌っていた。彼女はウインクしながらニコッと笑う。
……ついて来いってことか?
氷室の歌声に合わせて、俺も歌ってみた。
すると自然とリズムが合ってきた気がして、なんとなくだけど様になっているように思えた。
氷室と一緒だと歌いやすいな。歌い終わる頃には楽しくなっている自分がいた。
「はぁ~。ありがとな氷室。助かったぜ」
「アタシが歌いたかっただけだし。晃生と一緒に歌うの楽しいもん」
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