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番外編 家デートのススメ
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日曜日。天気は晴れ。絶好のデート日和である。
「……」
そんな日に、千夏ちゃんが俺の部屋のベッドに寝転がって漫画を読みふけっていた。
かなり集中しているようで、しばらく俺達に会話はない。俺もベッドに背中を預けて漫画を読んでいる。
高校生の俺達は無限に金があるわけではない。良い天気だからって、毎回外に出かけていたら、すぐに小遣いがなくなってしまう。
という事情から、今日は家デートとなったのだ。初めて千夏ちゃんを家に招いたから緊張している。もちろん彼女に緊張を悟らせるようなヘマはしない。男の余裕は格好良いのだ。
「ふぅ……」
パタンと、本が閉じられる音。俺の意識は耳に集中する。
「面白かったわ」
吐息とともに漏れた感想。心の中でガッツポーズをした。
個人的に一押しの漫画だったのだ。自分が好きなものを、好きな人も気に入ってくれたら嬉しい。
「あっ、ごめんなさい。せっかくマサくんの家に来たのに漫画ばかり読んじゃって……」
「いやいや、俺が薦めたんだから気にしないでいいよ。それより、その漫画面白かった?」
「ええ、とても」
満足げに頷く千夏ちゃんがとても可愛い。俺達はしばらく漫画の話で盛り上がった。
家デートで何をしようかと迷ったけれど、まずは彼女の緊張を解すことに成功したようだ。初めて俺の部屋に入った千夏ちゃんはものすごく緊張していたからな。
今は俺のベッドに寝転がってリラックスしている。きっと今夜は良い匂いのおかげで熟睡できることだろう。
「そういえば、本棚のこのスペース。やけに空いているわね」
そう言って千夏ちゃんが指差したのは、漫画を並べてある本棚だった。彼女の言う通り、不自然な空白のスペースがある。
「ちょ、ちょっと友達に貸してる漫画があってさー……」
「そうなんだ」
そこまで深く疑問を持っていたわけではないのか、千夏ちゃんの意識はあっさりと逸れた。
千夏ちゃんが指摘したそこは、俺の人生のバイブルである少女漫画を並べていたスペースだった。さすがの俺も、女子に少女漫画を所持していると思われるのは恥ずかしかった。
今は厳重に隠してある。隠すのにいっぱいいっぱいで、空いてしまったスペースを埋めることすら思いついていなかったな。
「ねえねえ千夏ちゃん。写真撮影アプリってのがあるんだけどさ。ちょっと撮ってみない?」
「え、写真?」
「加工とかいろいろできてさ。けっこう面白いんだよ」
「へぇー」と前のめりになる千夏ちゃん。瞳は好奇心を表していた。
「試しに一回撮ってみようか。はーい、こっち向いてー」
「えっ、ちょっ、いきなり──」
恥じらいを見せる千夏ちゃんが何かを言うよりも早く撮影する。超可愛い彼女が撮れた。
「ちょっと! マサくんいきなりすぎるわよっ」
「でも可愛く撮れたよ」
俺の「可愛く撮れた」の言葉に頬を染める超可愛い千夏ちゃん。あっ、今のもシャッターチャンスだったな。
「こ、この写真を加工できるのよね?」
「えー、千夏ちゃんは加工しなくたって可愛いよ」
「マ、マサくん! か、からかわないでよ……」
「俺がからかってないってわかってるくせにー」
「うぅ……マサくんの意地悪……」
千夏ちゃんは怒っているのと、嬉しいって感情が混ざり合った表情をする。明らかに嬉しいの割合が多いので、これまた可愛い表情だった。連写機能がほしいね。
「もうっ、今度はマサくんを撮るわよ」
「えー、俺?」
俺は別にいいよ。そう言うよりも早く、千夏ちゃんが真っ赤な顔で口を開いた。
「わ、私が、マサくんの格好良い写真がほしいの……」
「千夏ちゃんが満足するまで撮ってくれ!」
俺はキメ顔でそう言った。
千夏ちゃんがスマホのカメラをおずおずと向けてくる。全力で格好良い顔を作ってみせた。
「ぷっ。マサくんったら、ウケ狙いで面白い顔しないでよ」
「……」
俺の写真を見てクスクス笑う千夏ちゃん。あれー? 全力で格好良い顔を作ったつもりだったんだけどな? なぜか変顔を見せたみたいな反応になってるぞ?
お互い写真を撮り合って、アプリを使って加工してみた。自分の顔が別人みたいになったのは驚かされた。千夏ちゃんも顔のパーツを加工していたけれど、彼女は素のままで充分可愛いことが、俺の中で証明された。
「よし。今度はいっしょに撮ろうよ」
「うんっ」
俺も千夏ちゃんも楽しくなってきて、二人で頬をくっつけて撮影をした。恥ずかしさよりも楽しさが勝って、大胆な行動ができた。
「ちゅっ」
「きゃっ!?」
隙を突いて、千夏ちゃんの頬にキスしたところを撮影した。
「も、もうっ……」
ちょっと怒った態度を見せる千夏ちゃんだったけれど、その写真は自分のスマホにしっかり保存していた。
「んっ……」
そうされたら俺もエスカレートして、次はちゃんと唇にキスした瞬間を撮影する。
何度もキスをする。気づけば、俺の手にスマホはなかった。空いた手は彼女に触れていた。
「マ、マサくん……」
「ち、千夏ちゃん……」
いつの間にか、俺は千夏ちゃんをベッドに押し倒していた。
そう広くもない自室。見慣れた部屋のはずなのに、なんだか今は現実感が薄れている。
千夏ちゃんの存在が、俺を妖しく誘っているようにしか思えなかった。
「……」
空気が一変して、互いに無言になる。これ以上踏み込むには、迷いがあった。
千夏ちゃんの大きな目が揺れている。しかし、彼女は何か決意を固めたかのように、そっと目を閉じた。
「私……マサくんの前では、がんばって素直になるからね……」
「千夏ちゃん……」
いいのか? 雰囲気に流されている今、このまま進んでもいいのか?
迷いがある。でも、健気なことを口にする千夏ちゃんの可愛さに、俺は抗えなかった。
顔を彼女に近づける。次のキスは、明確に関係を進ませるキスだ。
「お兄ぃー。ちょっと借りたい物があるんだけどー……あっ」
突然ドアがノックされて、返事をする前に開けられる。入ってきた妹に、キスする直前の場面をバッチリ目撃されてしまった。
「……」
「……マサくん? えっ!?」
「お、お邪魔しましたぁっ!」
固まる俺。熱に浮かされていた千夏ちゃんは一気に目覚め、自分の失態に気づいた妹は慌てて逃げた。
この後、千夏ちゃんと気まずくなってしまったのは言うまでもないだろう。後悔が止まらない……。
本日の教訓。家デートでは人の目がなく、リラックスして良い雰囲気になれるが、家族が在宅なのかを考慮しなければならない。……俺みたいに失敗しないことを切に願う。
「……」
そんな日に、千夏ちゃんが俺の部屋のベッドに寝転がって漫画を読みふけっていた。
かなり集中しているようで、しばらく俺達に会話はない。俺もベッドに背中を預けて漫画を読んでいる。
高校生の俺達は無限に金があるわけではない。良い天気だからって、毎回外に出かけていたら、すぐに小遣いがなくなってしまう。
という事情から、今日は家デートとなったのだ。初めて千夏ちゃんを家に招いたから緊張している。もちろん彼女に緊張を悟らせるようなヘマはしない。男の余裕は格好良いのだ。
「ふぅ……」
パタンと、本が閉じられる音。俺の意識は耳に集中する。
「面白かったわ」
吐息とともに漏れた感想。心の中でガッツポーズをした。
個人的に一押しの漫画だったのだ。自分が好きなものを、好きな人も気に入ってくれたら嬉しい。
「あっ、ごめんなさい。せっかくマサくんの家に来たのに漫画ばかり読んじゃって……」
「いやいや、俺が薦めたんだから気にしないでいいよ。それより、その漫画面白かった?」
「ええ、とても」
満足げに頷く千夏ちゃんがとても可愛い。俺達はしばらく漫画の話で盛り上がった。
家デートで何をしようかと迷ったけれど、まずは彼女の緊張を解すことに成功したようだ。初めて俺の部屋に入った千夏ちゃんはものすごく緊張していたからな。
今は俺のベッドに寝転がってリラックスしている。きっと今夜は良い匂いのおかげで熟睡できることだろう。
「そういえば、本棚のこのスペース。やけに空いているわね」
そう言って千夏ちゃんが指差したのは、漫画を並べてある本棚だった。彼女の言う通り、不自然な空白のスペースがある。
「ちょ、ちょっと友達に貸してる漫画があってさー……」
「そうなんだ」
そこまで深く疑問を持っていたわけではないのか、千夏ちゃんの意識はあっさりと逸れた。
千夏ちゃんが指摘したそこは、俺の人生のバイブルである少女漫画を並べていたスペースだった。さすがの俺も、女子に少女漫画を所持していると思われるのは恥ずかしかった。
今は厳重に隠してある。隠すのにいっぱいいっぱいで、空いてしまったスペースを埋めることすら思いついていなかったな。
「ねえねえ千夏ちゃん。写真撮影アプリってのがあるんだけどさ。ちょっと撮ってみない?」
「え、写真?」
「加工とかいろいろできてさ。けっこう面白いんだよ」
「へぇー」と前のめりになる千夏ちゃん。瞳は好奇心を表していた。
「試しに一回撮ってみようか。はーい、こっち向いてー」
「えっ、ちょっ、いきなり──」
恥じらいを見せる千夏ちゃんが何かを言うよりも早く撮影する。超可愛い彼女が撮れた。
「ちょっと! マサくんいきなりすぎるわよっ」
「でも可愛く撮れたよ」
俺の「可愛く撮れた」の言葉に頬を染める超可愛い千夏ちゃん。あっ、今のもシャッターチャンスだったな。
「こ、この写真を加工できるのよね?」
「えー、千夏ちゃんは加工しなくたって可愛いよ」
「マ、マサくん! か、からかわないでよ……」
「俺がからかってないってわかってるくせにー」
「うぅ……マサくんの意地悪……」
千夏ちゃんは怒っているのと、嬉しいって感情が混ざり合った表情をする。明らかに嬉しいの割合が多いので、これまた可愛い表情だった。連写機能がほしいね。
「もうっ、今度はマサくんを撮るわよ」
「えー、俺?」
俺は別にいいよ。そう言うよりも早く、千夏ちゃんが真っ赤な顔で口を開いた。
「わ、私が、マサくんの格好良い写真がほしいの……」
「千夏ちゃんが満足するまで撮ってくれ!」
俺はキメ顔でそう言った。
千夏ちゃんがスマホのカメラをおずおずと向けてくる。全力で格好良い顔を作ってみせた。
「ぷっ。マサくんったら、ウケ狙いで面白い顔しないでよ」
「……」
俺の写真を見てクスクス笑う千夏ちゃん。あれー? 全力で格好良い顔を作ったつもりだったんだけどな? なぜか変顔を見せたみたいな反応になってるぞ?
お互い写真を撮り合って、アプリを使って加工してみた。自分の顔が別人みたいになったのは驚かされた。千夏ちゃんも顔のパーツを加工していたけれど、彼女は素のままで充分可愛いことが、俺の中で証明された。
「よし。今度はいっしょに撮ろうよ」
「うんっ」
俺も千夏ちゃんも楽しくなってきて、二人で頬をくっつけて撮影をした。恥ずかしさよりも楽しさが勝って、大胆な行動ができた。
「ちゅっ」
「きゃっ!?」
隙を突いて、千夏ちゃんの頬にキスしたところを撮影した。
「も、もうっ……」
ちょっと怒った態度を見せる千夏ちゃんだったけれど、その写真は自分のスマホにしっかり保存していた。
「んっ……」
そうされたら俺もエスカレートして、次はちゃんと唇にキスした瞬間を撮影する。
何度もキスをする。気づけば、俺の手にスマホはなかった。空いた手は彼女に触れていた。
「マ、マサくん……」
「ち、千夏ちゃん……」
いつの間にか、俺は千夏ちゃんをベッドに押し倒していた。
そう広くもない自室。見慣れた部屋のはずなのに、なんだか今は現実感が薄れている。
千夏ちゃんの存在が、俺を妖しく誘っているようにしか思えなかった。
「……」
空気が一変して、互いに無言になる。これ以上踏み込むには、迷いがあった。
千夏ちゃんの大きな目が揺れている。しかし、彼女は何か決意を固めたかのように、そっと目を閉じた。
「私……マサくんの前では、がんばって素直になるからね……」
「千夏ちゃん……」
いいのか? 雰囲気に流されている今、このまま進んでもいいのか?
迷いがある。でも、健気なことを口にする千夏ちゃんの可愛さに、俺は抗えなかった。
顔を彼女に近づける。次のキスは、明確に関係を進ませるキスだ。
「お兄ぃー。ちょっと借りたい物があるんだけどー……あっ」
突然ドアがノックされて、返事をする前に開けられる。入ってきた妹に、キスする直前の場面をバッチリ目撃されてしまった。
「……」
「……マサくん? えっ!?」
「お、お邪魔しましたぁっ!」
固まる俺。熱に浮かされていた千夏ちゃんは一気に目覚め、自分の失態に気づいた妹は慌てて逃げた。
この後、千夏ちゃんと気まずくなってしまったのは言うまでもないだろう。後悔が止まらない……。
本日の教訓。家デートでは人の目がなく、リラックスして良い雰囲気になれるが、家族が在宅なのかを考慮しなければならない。……俺みたいに失敗しないことを切に願う。
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