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第二部

144.次のイベントは体育祭

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 生徒会選挙が昨日終わった。
 会長には見事垣内先輩が選ばれた。それから彼女に推薦されて瞳子が副会長になった。
 肩書がついたからか、自分の彼女ながら風格が出てきたように感じる。もともとオーラがあったけど、なんていうか泰然自若と言えるほどの安心感がある。

「だって自信があるんだもの。俊成に信じてもらえていると思ったらなんでもできる気がするわ」

 と、胸を張る瞳子。なんだか余裕すら感じさせる態度だ。
 ……その自信の源が俺なのだと言われれば、少なからずプレッシャーを感じてしまう。それを撥ねのけるだけの精神力と実績を作ることが、これから俺に課せられた最低条件ってことだろう。

 さて、次のイベントは体育祭である。
 我が校の体育祭は全クラスが四組に分かれて行われる。別クラスでも葵と瞳子といっしょの組になれるチャンスである。

「うっしゃあっ! コテンパンにしてやるから覚悟しろよ高木ぃ!」
「コテンパンだぁー!」

 逆に言えば、同じクラスでも別の組になる人もいる。
 勢いよく俺に向かって宣言する下柳。ノリがいいクリスがそれに続く。コテンパンって実際に聞いたの初めてだな。
 俺は赤組になった。
 白組になった下柳とクリスが早速敵意を露わにしたってことだ。同じく白組である美穂ちゃんはなぜか二人と距離を取っていた。ノリが違うもんね。

「高木くん佐藤くん、よろしくお願いしますね」
「望月さんともいっしょの組になれてよかったわ。がんばろうなー」
「こっちこそよろしく」

 望月さんと佐藤は俺と同じ赤組になった。ほんわかチームである。
 他のクラスはまだわからないけど、下柳にクリスと美穂ちゃんというA組でもトップクラスに身体能力が高いメンバーが白組に集まっている。これは強敵だ。

「え、俊成は赤組なの? あたしは白組なのよ。同じ組になれなくて残念ね……」

 残念ながら瞳子は敵チームということになってしまった。互いにがっくしと肩を落とす。
 瞳子といっしょになれなかったこと自体もそうだけど、戦力的にもがっくしだ。味方なら心強いけれど、敵になるとかなり厄介なのだ。

「よう高木。聞いたぜ赤組なんだってな。俺は白組だからさ、またお前と競えるのが楽しみだよ」

 爽やかに笑う本郷が敵宣言をしてきた。サッカーで全国制覇を成し遂げただけではなく、一年生ながらMVPに輝いたと聞いた。体育祭で本気を出していいような男ではない。
 F組の男女のエースまでもが白組ときた。
 まったく組分けしたのは誰だよ……。先生方の目はどうなっているんだと問うてやりたくなるぞ。白組びいきにもほどがある。

「トシくん赤組なんだよね? 私も赤組なんだよ。えへへ、いっしょに体育祭がんばろうね!」
「おう! がんばろうな葵!」

 葵は俺と同じ赤組だった。
 葵には悪いが、彼女こそ白組に入れてバランスを取るべきでは? と先生方に進言したくなった。いや、もちろん俺が全力で面倒見ますけどね。


  ※ ※ ※


 そんなわけで、体育祭当日まで準備や練習をすることになった。
 赤、白、青、黄組。それぞれ学年ごとに分かれて競技の選択が行われた。

「二人三脚が男女混合ペアって本気なの? 私ら繊細な思春期なのに、何か間違いがあったらどうしてくれんのよ」

 同じ赤組の小川さんが競技種目を見て、そう文句を口にした。
 小学生の時ならいざ知らず、中学では二人三脚など様々な競技が男女別になっていたのだ。
 高校生ともなれば、もっと運動能力や肉体そのものに男女差が出る。学校側の方針ながら年頃の男女を接触させるのはいかがなものかとも思う。
 小川さんに同感なのだが、なぜだろうか? 彼女が思春期だとかそういうナイーブな部分を意識するとは意外だった。お年頃になりつつも「男とか女とか関係ねえ!」ってスタンスの人だと思っていたよ。

「真奈美ちゃん……。やっと乙女らしくなってくれたんだねっ。私嬉しい!」
「それどういう意味よ! 待てあおっちー!」

 葵と小川さんのじゃれ合いが始まった。もし俺が葵と同じことを口にしていたらじゃれ合いじゃあ済まなかっただろうな。
 赤組一年の中でも足が速いということで、俺はリレーに選ばれた。他に綱引きや二人三脚の種目の出場も決まった。運動できる奴は三種目以上は出ろ、というのが先生の弁である。

「へぇー。パン食い競争なんかあるんやな」
「あ、本当ですね。面白そうですし僕立候補してみます」

 先生が言うに、パン食い競争は我が校の伝統らしい。そのこだわり、ちょっと理解できないです……。
 面白がってなのか、パン食い競争を立候補した人は多かった。
 定員オーバーしたとのことで出場者を決めるためにジャンケンが行われた。それに見事勝ち残った望月さんは勝利のVサインをしていた。こんなところで運を使っていいのかな。

「う~、私二人三脚に入れられちゃった……」

 運動が苦手な葵は比較的楽そうな玉入れを選んでいたのだけど、思いのほか立候補が多かったらしくジャンケンに負けてしまった。
 代わりの種目は二人三脚になったのだが、ここで反応したのは男子連中だった。

「み、宮坂さんと二人三脚?」
「合法的に肩を抱けるだって?」
「ということは、体に触れられる? むしろ密着できる?」
「あ、あのワガママボディを……ごくり」

 男子連中の妖しい視線が葵を襲う。さすがにあからさますぎて彼女の体がビクッと震えた。

「……」

 野獣共の視線から守るようにして葵の前に立つ。無言で睨みつければ次々と視線は明後日の方向を向いた。
 マジで男子高校生の思春期を舐めてはいけない。異性に興味が出て当たり前のお年頃だ。小川さんではないが、何か間違いが起こったらどう責任を取ってくれるのだ。
 性への興味自体はとがめるつもりはない。けれど、それが葵に向けられるってんなら戦う覚悟はできている。

「葵。二人三脚は俺とペアを組もう」
「うん、よろしくねトシくん」

 男子連中のブーイングはさらに厳しい睨みで封殺した。
 葵を他の男に触れさせるわけにはいかない。学校行事だろうがなんだろうが、防げるものは全部防いでやる。それが彼氏である俺の義務であり権利だ。

「あおっちってば高木くんにしっかり守られてんね。……いいなぁ」
「小川さん、僕らも二人三脚でペアを組もうや」
「え? う、うん……。佐藤くんがどうしてもって言うならしょうがないなぁ」
「どうしてもや。どうしても小川さんと組みたい。この通り、よろしく頼むわ」
「ほ、本当にしょうがないんだから……」

 俺が男共の目から葵をガードしている間に、佐藤と小川さんはペアを組んだようだった。まあ身長も大差ないし、知った仲というのもあって良いペアになるだろう。

「やっぱり真奈美ちゃんって乙女だよねー」

 なぜに今そんな発言したの? ニコニコとした葵の笑顔に、ニヤニヤの成分が入っているのは見間違いなのかどうか、少し迷った。
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