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第二部
98.部活動見学はご自由に
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高校の部活は四月いっぱいまで仮入部期間である。気軽に体験できる期間とでも言えばいいだろうか。
中学の時よりも部活の数が増えている。ざっと一覧を見て、フェンシング部やオカルト研究部などなど中学ではなかった部活がたくさんあった。
「俊成は部活どうするの?」
「うーん……」
登校中にふと瞳子が尋ねてきた。葵も耳を傾けて興味を示している。
中学時代は柔道部に所属していた俺だったが、高校でも続けてやろうというのは考えていない。あくまで心身を鍛えたかっただけだったからな。
高校生はバイトもできるし、学校以外での関わりも増やせるだろう。俺の一番の青春は葵と瞳子なので、部活に高校生活を捧げようという風には考えられないのだ。
「目新しい部活があるからいろいろ見て回ろうかなとは思うけど、たぶん部活には入らないかな」
「でもトシくんを勧誘する運動部って多いんだよね?」
「ははっ、まあね」
どこから聞きつけたのか、俺のスポーツテストの結果を知ったらしい運動部の先輩方から激しい勧誘を受けたのだ。とくに柔道部なんて俺が全国大会まで出場したという事実を持ちだして「柔道をするべきだ!」と詰め寄るようにして迫ってきたほどだ。ちょっと柔道場には近づけないなぁ。
「そういう二人は部活に入る予定はあるの?」
俺が尋ねると葵と瞳子は顔を見合わせた。
中学時代、俺が柔道をやっていたように二人もそれぞれ部活に入っていたのだ。
瞳子は小川さんに誘われてバレー部に入っていた。二人のコンビプレーは強力で、弱小だったバレー部を県内でも上位に食い込むほど押し上げたのだ。
葵はピアノがあったので毎日部活に顔を出していたわけではないが、美術部として絵の上達に励んでいた。三年間がんばってきたこともあり、瞳子と近いレベルにまで上手くなっていた。
中学と同じ部活に入るのか、それとも別の部活を探すのか興味がある。葵と瞳子は高校生活をどう過ごすつもりなのだろうか。
「トシくんが入らないなら私はいいかな」
「あたしも。中学とは違う方向でがんばってみたいわ」
葵と瞳子はあっけらかんとそう言った。
二人がそれでいいのなら俺から言うことは何もない。他にやりたいことがあるのなら全力で応援するしね。
しかし部活もまた青春の一つの形には違いない。良さそうなものがあるのなら入部してもいいかもな。まあ今回は葵と瞳子とよく相談しながらになるだろうけどね。
「部活の見学に行くんだったらいっしょに見て回ろうよ。瞳子ちゃんもいいよね?」
「もちろんいいわよ。あたしもどんな部活があるか興味があるし」
そんなわけで、本日の放課後は三人で部活動見学をすることとなったのだった。
※ ※ ※
昼休み。教室で弁当を食べている時に部活の話題を振ってみた。
「俺はサッカー部だぜ!」
「うん。下柳には聞いてないかな」
下柳がサッカー部ってのは知ってるし。今さらな情報だ。アピールしまくっているからもうお腹いっぱいなんですよ下柳くん。
「僕は将棋部に入部したで。先輩とも対局したんや」
「そっか。佐藤は中学でも強かったもんな」
佐藤はすでに将棋部に入部したようだ。
小学校の将棋クラブから始まって、中学でも将棋部として続けていたからな。その実力は俺じゃあ敵わないほどとなっている。あの野沢くんにも勝ったことがあると言ってたっけか。
「将棋って、一郎は渋い趣味持ってんだな」
「将棋は面白いんやで。対局するとその相手と仲良くなれるんや」
「勝負した相手と仲良くなるって、なんか少年漫画みたいだな」
闘った相手と友情が芽生える。そう捉えてみると確かにそうかもな。もちろんそれは佐藤の人柄があるからこそなんだろうけれど。勝っても負けてもまったく嫌味がないからな。今思えばそういう性格って貴重なのかもしれない。
「将棋……聞いたことはあるわ」
クリスは将棋を知っているらしい。でもその様子だと本当に聞いたことがあるだけなんだろうな。ルールとかまったくわかってなさそうだ。
「クリスさんも興味があるんやったら教えるで。将棋はやってみると面白いんやで」
「やでー……。はい、また教えてねイチロー」
佐藤が目を輝かせている。よほど将棋が好きなんだろうな。
好きこそ物の上手なれ。佐藤はまさにそうやって強くなった。最近は本当に勝てなくなったからなぁ。
「僕は料理研究部に入ろうかと思ってますよ。これでも腕に自信があるものですから」
明るい調子で望月さんは胸を張る。料理研究部は見てなかったな。そういうのも部活としてあるんだ。
「美穂さんもいっしょなんですよ。ねー?」
「ねー」
美穂ちゃんが無表情のまま頷いている。心なしか楽しそうである。
案外と言っては失礼かもしれないが、美穂ちゃんと望月さんは仲が良いらしい。美穂ちゃんが高校でも友達を作れてなんだか俺も嬉しくなる。って、俺は何目線で語っているのやら。
「望月ちゃん! 良かったら俺に望月ちゃんの料理を食わせてくれ!」
下柳がいきなり大声を上げる。少し落ち着こうか。
けれど望月さんは嫌な顔を一切せずにニッコリと笑顔を見せた。
「わかりました。上手くできたらサッカー部のみんなに差し入れしますね」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉーーっ! 嬉しいっす……」
うん、複雑だな下柳。でもリアクションが大き過ぎるから逆に望月さんには伝わってないぞ。
「ならあたしは将棋部に差し入れしてあげる」
「ほんまに? ありがとうな赤城さん」
美穂ちゃんの言葉に佐藤が笑顔を見せる。女子からの差し入れって青春っぽくていいよね。
「クリスは部活どうするんですか?」
望月さんがクリスに尋ねる。クリスは首をかしげて俺に顔を向ける。どうした?
「わたし……日本の部活ってよくわからなくて……」
「ああ、イギリスとはちょっと変わってくるかもね」
まあイギリスの部活事情とかは知らないのだが。
「だったら放課後僕達といっしょに部活見学しに行きましょうよ。ね? いいですよね高木くん」
「え、俺?」
その「僕達」の中には俺も入ってるの? 彼女の笑顔は有無を言わせまいとするような強引さがある。俺が断るとは毛ほども思っていないようだ。
望月さんに押される形で、俺達はクリスを部活案内することとなった。
※ ※ ※
「ふぇ~……。二人ともお綺麗ですね」
望月ちゃんが漏らす言葉に、葵と瞳子は謙遜を返した。
放課後は葵と瞳子と部活見学をする先約があったのだ。もちろんこの約束を破るわけがない。
断ろうとしたものの「アオイとトウコともいっしょがいいわ」とクリスが言うもので、二人も快く了承したのでいっしょに見学して回ることとなったのだ。
メンバーは俺と葵と瞳子、それにクリスと美穂ちゃんと望月さんだ。下柳と佐藤は部活である。下柳が血の涙を流していたのは言うまでもない。
「ていうか男子が俺一人ってのはどうなのかな?」
「いいじゃない。私トシくんといっしょがいいし」
「俊成がいて問題になることなんて何もないわよ」
葵と瞳子に両腕を掴まれる。優しい感触に思わず顔がほころんだ。
「三人はとっても仲が良いのね」
クリスがニコニコと笑っている。彼女は俺達が小学生の頃から仲良しだって知っているからな。
……さすがに今の関係までは説明してないんだけども。どうしよう、クリスには教えた方がいいのかな。
「えっと……、宮坂さんと木之下さんは高木くんとどういったご関係ですか?」
そんな風に考えていたからか、望月さんが切り込んできた。嬉しそうに葵が口を開く。
「私達とトシくんはね――」
「三人は幼馴染。小学生になる前からの付き合いだから仲良しなの」
答えようとした葵を遮って、美穂ちゃんが言葉を被せてきた。
「へぇー、幼馴染なんですか。なるほど、だからこんなにも仲良しさんなんですね」
望月さんは納得したと言わんばかりに手を叩いた。美穂ちゃんは振り返るとこっちに顔を近づけてくる。
「騒がれたらどうするの。まだ入学して一ヶ月も経ってないのに」
「うっ……、でも私はトシくんとの関係を隠したくないよ」
「わかってる。でも今はダメ。こういうのは少しずつ納得させていくの。じゃないと中学の時みたいに好き勝手に騒がれるだけになるから」
「……ごめんなさい。それと、美穂ちゃんありがとう」
小声でのやり取りながらも、葵は太陽のような笑顔を輝かせる。美穂ちゃんはそっぽを向いた。
「……お礼なんて言わないで」
美穂ちゃんは望月さんの方に振り返った。どうやらどこを見学するか話し合っているようだ。
「美穂には借りを作ってばっかりね」
「そうだな。いつも気遣ってもらってる」
美穂ちゃんはなんだかんだと俺達のことを助けてくれていた。友達としての繋がりに感謝してばかりだ。
「日本の部活って三年間も同じことをしなきゃいけないの?」
部活についての説明を聞いたクリスが驚いていた。やはり日本とイギリスでは違ってくるらしい。
「そういうわけじゃないですけど、退部する人の方が少ないですよ。一応兼部は認められていますけど」
ふむふむとクリスは頷く。ちょっとしたことかもしれないが、国が違えばどうしてもギャップがあるものなのだろう。やり方を変えられるものでもないし、クリスにはそういうものだと受け入れてもらうしかない。
権力があればどうにかなるもんなのかもしれないが、そうなると今度は変化についていけない人が出てくるだろう。難しい問題である。
「クリスはどんな部活に興味があるんだ? 運動部とか文化部とか。何かあれば候補が絞れるんだけどさ」
「そうね……」
クリスは腕を組んで考えるポーズとなる。しばらくそうしていたけれど、顔を上げた彼女は満面の笑みとなっていた。
「わたし、楽しいことがしたいわ」
要領を得ない回答に俺はガクッと崩れそうになってしまった。
でも、そうだよな。一番は楽しいことをする。それでいいのだと思った。
「じゃあ気になるところから片っ端に見て回るか」
「おー!」
元気良く手を上げるクリスにみんながきょとんとした表情になる。けれどすぐに頬を緩ませて次々と「おー!」と続いた。
クリスにとって日本は異国だ。馴染めないことだってあるのかもしれない。
それでも、彼女のような良い子の力になりたいと。日本という国を好きになってもらいたいと思ったのは、きっと俺だけじゃなかったのだ。
※ ※ ※
「今日は楽しかったね」
「そうね。クリスも楽しかったみたいで良かったわ」
「だな。クリスを気に入ってくれた人も多かったしね」
いくつかの部活を見学し終わって、俺達は帰路についていた。美穂ちゃんと望月さんは料理研究部に顔を出すということで途中で別れた。
クリスは学校から近いところに住んでいるらしく、駅へと向かう俺達とはすぐに別れたのだ。帰り際のクリスの後ろ姿からは今回の部活動見学が楽しかったと告げているようだった。
それにしてもたくさんの部活があったな。茶道部では着物姿の先輩方にクリスは目を輝かせていたし、探偵部で「犯人はお前だ!」と指を突きつける先輩にもクリスは目を輝かせていた。ていうかあれは探偵部じゃなくて演劇部だろ、という突っ込みは誰の口からも出てこなかった。
「クリスちゃんみたいにいろんなことに興味を持つのって楽しそうだよね」
「クリスの場合は目新しいものばかりだろうしな。そう考えたら俺達だって海外に行ったらあんな風に目が輝いちゃうのかもな」
「海外かぁ……。いいわね、いつか三人で海外旅行をしてみたいわ」
瞳子の言葉に葵が「だね!」と大きく頷いた。
クリスみたいに海外での生活か。葵と瞳子といっしょならそれも悪くない。そんなことを思ってしまう。
「日本を離れて遠くに行ったとしても、あたしは俊成の隣にいるわね」
「私もトシくんとずっといっしょにいたい。……いいよね?」
「う、うん……」
なんだか照れくさくなって二人を抱き寄せる。葵と瞳子の頬がぽっと赤くなったように見えたのは、きっと夕焼けのせいだけじゃないのだろう。
いつかはどちらかに決めなきゃいけない。そう思って付き合い始めたはずなのに、もっともっと二人ともが好きになってしまっている。
こうやって三人でいるのが当たり前になって、すごくドキドキするようになって、とても落ち着くのだ。
「手放せないよなぁ……」
どこへ行ったとしても離したくない。そんな欲望が俺の心にとっくに芽生えていたのかもしれない。きっと、この感情はすでに手遅れだったのだ。
中学の時よりも部活の数が増えている。ざっと一覧を見て、フェンシング部やオカルト研究部などなど中学ではなかった部活がたくさんあった。
「俊成は部活どうするの?」
「うーん……」
登校中にふと瞳子が尋ねてきた。葵も耳を傾けて興味を示している。
中学時代は柔道部に所属していた俺だったが、高校でも続けてやろうというのは考えていない。あくまで心身を鍛えたかっただけだったからな。
高校生はバイトもできるし、学校以外での関わりも増やせるだろう。俺の一番の青春は葵と瞳子なので、部活に高校生活を捧げようという風には考えられないのだ。
「目新しい部活があるからいろいろ見て回ろうかなとは思うけど、たぶん部活には入らないかな」
「でもトシくんを勧誘する運動部って多いんだよね?」
「ははっ、まあね」
どこから聞きつけたのか、俺のスポーツテストの結果を知ったらしい運動部の先輩方から激しい勧誘を受けたのだ。とくに柔道部なんて俺が全国大会まで出場したという事実を持ちだして「柔道をするべきだ!」と詰め寄るようにして迫ってきたほどだ。ちょっと柔道場には近づけないなぁ。
「そういう二人は部活に入る予定はあるの?」
俺が尋ねると葵と瞳子は顔を見合わせた。
中学時代、俺が柔道をやっていたように二人もそれぞれ部活に入っていたのだ。
瞳子は小川さんに誘われてバレー部に入っていた。二人のコンビプレーは強力で、弱小だったバレー部を県内でも上位に食い込むほど押し上げたのだ。
葵はピアノがあったので毎日部活に顔を出していたわけではないが、美術部として絵の上達に励んでいた。三年間がんばってきたこともあり、瞳子と近いレベルにまで上手くなっていた。
中学と同じ部活に入るのか、それとも別の部活を探すのか興味がある。葵と瞳子は高校生活をどう過ごすつもりなのだろうか。
「トシくんが入らないなら私はいいかな」
「あたしも。中学とは違う方向でがんばってみたいわ」
葵と瞳子はあっけらかんとそう言った。
二人がそれでいいのなら俺から言うことは何もない。他にやりたいことがあるのなら全力で応援するしね。
しかし部活もまた青春の一つの形には違いない。良さそうなものがあるのなら入部してもいいかもな。まあ今回は葵と瞳子とよく相談しながらになるだろうけどね。
「部活の見学に行くんだったらいっしょに見て回ろうよ。瞳子ちゃんもいいよね?」
「もちろんいいわよ。あたしもどんな部活があるか興味があるし」
そんなわけで、本日の放課後は三人で部活動見学をすることとなったのだった。
※ ※ ※
昼休み。教室で弁当を食べている時に部活の話題を振ってみた。
「俺はサッカー部だぜ!」
「うん。下柳には聞いてないかな」
下柳がサッカー部ってのは知ってるし。今さらな情報だ。アピールしまくっているからもうお腹いっぱいなんですよ下柳くん。
「僕は将棋部に入部したで。先輩とも対局したんや」
「そっか。佐藤は中学でも強かったもんな」
佐藤はすでに将棋部に入部したようだ。
小学校の将棋クラブから始まって、中学でも将棋部として続けていたからな。その実力は俺じゃあ敵わないほどとなっている。あの野沢くんにも勝ったことがあると言ってたっけか。
「将棋って、一郎は渋い趣味持ってんだな」
「将棋は面白いんやで。対局するとその相手と仲良くなれるんや」
「勝負した相手と仲良くなるって、なんか少年漫画みたいだな」
闘った相手と友情が芽生える。そう捉えてみると確かにそうかもな。もちろんそれは佐藤の人柄があるからこそなんだろうけれど。勝っても負けてもまったく嫌味がないからな。今思えばそういう性格って貴重なのかもしれない。
「将棋……聞いたことはあるわ」
クリスは将棋を知っているらしい。でもその様子だと本当に聞いたことがあるだけなんだろうな。ルールとかまったくわかってなさそうだ。
「クリスさんも興味があるんやったら教えるで。将棋はやってみると面白いんやで」
「やでー……。はい、また教えてねイチロー」
佐藤が目を輝かせている。よほど将棋が好きなんだろうな。
好きこそ物の上手なれ。佐藤はまさにそうやって強くなった。最近は本当に勝てなくなったからなぁ。
「僕は料理研究部に入ろうかと思ってますよ。これでも腕に自信があるものですから」
明るい調子で望月さんは胸を張る。料理研究部は見てなかったな。そういうのも部活としてあるんだ。
「美穂さんもいっしょなんですよ。ねー?」
「ねー」
美穂ちゃんが無表情のまま頷いている。心なしか楽しそうである。
案外と言っては失礼かもしれないが、美穂ちゃんと望月さんは仲が良いらしい。美穂ちゃんが高校でも友達を作れてなんだか俺も嬉しくなる。って、俺は何目線で語っているのやら。
「望月ちゃん! 良かったら俺に望月ちゃんの料理を食わせてくれ!」
下柳がいきなり大声を上げる。少し落ち着こうか。
けれど望月さんは嫌な顔を一切せずにニッコリと笑顔を見せた。
「わかりました。上手くできたらサッカー部のみんなに差し入れしますね」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉーーっ! 嬉しいっす……」
うん、複雑だな下柳。でもリアクションが大き過ぎるから逆に望月さんには伝わってないぞ。
「ならあたしは将棋部に差し入れしてあげる」
「ほんまに? ありがとうな赤城さん」
美穂ちゃんの言葉に佐藤が笑顔を見せる。女子からの差し入れって青春っぽくていいよね。
「クリスは部活どうするんですか?」
望月さんがクリスに尋ねる。クリスは首をかしげて俺に顔を向ける。どうした?
「わたし……日本の部活ってよくわからなくて……」
「ああ、イギリスとはちょっと変わってくるかもね」
まあイギリスの部活事情とかは知らないのだが。
「だったら放課後僕達といっしょに部活見学しに行きましょうよ。ね? いいですよね高木くん」
「え、俺?」
その「僕達」の中には俺も入ってるの? 彼女の笑顔は有無を言わせまいとするような強引さがある。俺が断るとは毛ほども思っていないようだ。
望月さんに押される形で、俺達はクリスを部活案内することとなった。
※ ※ ※
「ふぇ~……。二人ともお綺麗ですね」
望月ちゃんが漏らす言葉に、葵と瞳子は謙遜を返した。
放課後は葵と瞳子と部活見学をする先約があったのだ。もちろんこの約束を破るわけがない。
断ろうとしたものの「アオイとトウコともいっしょがいいわ」とクリスが言うもので、二人も快く了承したのでいっしょに見学して回ることとなったのだ。
メンバーは俺と葵と瞳子、それにクリスと美穂ちゃんと望月さんだ。下柳と佐藤は部活である。下柳が血の涙を流していたのは言うまでもない。
「ていうか男子が俺一人ってのはどうなのかな?」
「いいじゃない。私トシくんといっしょがいいし」
「俊成がいて問題になることなんて何もないわよ」
葵と瞳子に両腕を掴まれる。優しい感触に思わず顔がほころんだ。
「三人はとっても仲が良いのね」
クリスがニコニコと笑っている。彼女は俺達が小学生の頃から仲良しだって知っているからな。
……さすがに今の関係までは説明してないんだけども。どうしよう、クリスには教えた方がいいのかな。
「えっと……、宮坂さんと木之下さんは高木くんとどういったご関係ですか?」
そんな風に考えていたからか、望月さんが切り込んできた。嬉しそうに葵が口を開く。
「私達とトシくんはね――」
「三人は幼馴染。小学生になる前からの付き合いだから仲良しなの」
答えようとした葵を遮って、美穂ちゃんが言葉を被せてきた。
「へぇー、幼馴染なんですか。なるほど、だからこんなにも仲良しさんなんですね」
望月さんは納得したと言わんばかりに手を叩いた。美穂ちゃんは振り返るとこっちに顔を近づけてくる。
「騒がれたらどうするの。まだ入学して一ヶ月も経ってないのに」
「うっ……、でも私はトシくんとの関係を隠したくないよ」
「わかってる。でも今はダメ。こういうのは少しずつ納得させていくの。じゃないと中学の時みたいに好き勝手に騒がれるだけになるから」
「……ごめんなさい。それと、美穂ちゃんありがとう」
小声でのやり取りながらも、葵は太陽のような笑顔を輝かせる。美穂ちゃんはそっぽを向いた。
「……お礼なんて言わないで」
美穂ちゃんは望月さんの方に振り返った。どうやらどこを見学するか話し合っているようだ。
「美穂には借りを作ってばっかりね」
「そうだな。いつも気遣ってもらってる」
美穂ちゃんはなんだかんだと俺達のことを助けてくれていた。友達としての繋がりに感謝してばかりだ。
「日本の部活って三年間も同じことをしなきゃいけないの?」
部活についての説明を聞いたクリスが驚いていた。やはり日本とイギリスでは違ってくるらしい。
「そういうわけじゃないですけど、退部する人の方が少ないですよ。一応兼部は認められていますけど」
ふむふむとクリスは頷く。ちょっとしたことかもしれないが、国が違えばどうしてもギャップがあるものなのだろう。やり方を変えられるものでもないし、クリスにはそういうものだと受け入れてもらうしかない。
権力があればどうにかなるもんなのかもしれないが、そうなると今度は変化についていけない人が出てくるだろう。難しい問題である。
「クリスはどんな部活に興味があるんだ? 運動部とか文化部とか。何かあれば候補が絞れるんだけどさ」
「そうね……」
クリスは腕を組んで考えるポーズとなる。しばらくそうしていたけれど、顔を上げた彼女は満面の笑みとなっていた。
「わたし、楽しいことがしたいわ」
要領を得ない回答に俺はガクッと崩れそうになってしまった。
でも、そうだよな。一番は楽しいことをする。それでいいのだと思った。
「じゃあ気になるところから片っ端に見て回るか」
「おー!」
元気良く手を上げるクリスにみんながきょとんとした表情になる。けれどすぐに頬を緩ませて次々と「おー!」と続いた。
クリスにとって日本は異国だ。馴染めないことだってあるのかもしれない。
それでも、彼女のような良い子の力になりたいと。日本という国を好きになってもらいたいと思ったのは、きっと俺だけじゃなかったのだ。
※ ※ ※
「今日は楽しかったね」
「そうね。クリスも楽しかったみたいで良かったわ」
「だな。クリスを気に入ってくれた人も多かったしね」
いくつかの部活を見学し終わって、俺達は帰路についていた。美穂ちゃんと望月さんは料理研究部に顔を出すということで途中で別れた。
クリスは学校から近いところに住んでいるらしく、駅へと向かう俺達とはすぐに別れたのだ。帰り際のクリスの後ろ姿からは今回の部活動見学が楽しかったと告げているようだった。
それにしてもたくさんの部活があったな。茶道部では着物姿の先輩方にクリスは目を輝かせていたし、探偵部で「犯人はお前だ!」と指を突きつける先輩にもクリスは目を輝かせていた。ていうかあれは探偵部じゃなくて演劇部だろ、という突っ込みは誰の口からも出てこなかった。
「クリスちゃんみたいにいろんなことに興味を持つのって楽しそうだよね」
「クリスの場合は目新しいものばかりだろうしな。そう考えたら俺達だって海外に行ったらあんな風に目が輝いちゃうのかもな」
「海外かぁ……。いいわね、いつか三人で海外旅行をしてみたいわ」
瞳子の言葉に葵が「だね!」と大きく頷いた。
クリスみたいに海外での生活か。葵と瞳子といっしょならそれも悪くない。そんなことを思ってしまう。
「日本を離れて遠くに行ったとしても、あたしは俊成の隣にいるわね」
「私もトシくんとずっといっしょにいたい。……いいよね?」
「う、うん……」
なんだか照れくさくなって二人を抱き寄せる。葵と瞳子の頬がぽっと赤くなったように見えたのは、きっと夕焼けのせいだけじゃないのだろう。
いつかはどちらかに決めなきゃいけない。そう思って付き合い始めたはずなのに、もっともっと二人ともが好きになってしまっている。
こうやって三人でいるのが当たり前になって、すごくドキドキするようになって、とても落ち着くのだ。
「手放せないよなぁ……」
どこへ行ったとしても離したくない。そんな欲望が俺の心にとっくに芽生えていたのかもしれない。きっと、この感情はすでに手遅れだったのだ。
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
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