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第二部
90.新たな生活の始まり
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高校生とは青春真っただ中の時期である。
前世でも高校に入学した時はドキドキと胸が高鳴っていたものだ。まあ、大したことなんて何も起こらなかったのだが……。
しかし、今世の俺にはかわいい幼馴染がついている。しかも二人も、だ。
「トシくん、ネクタイ曲がってるよ」
艶やかな長い黒髪の少女が俺のネクタイを直してくれる。くっきりとした大きな目が俺を見つめていて、いい加減慣れてきたはずなのにドキドキしてしまう。
細くてしなやかな指がこそばゆい。直し終わったのか「よし」と呟く彼女の潤いのある唇に視線が吸い寄せられてしまう。
宮坂葵。俺の幼馴染にして彼女でもある美少女だ。
「俊成、髪が跳ねてるわよ」
サラサラとした銀髪をツインテールにした少女が俺の髪を整えてくれる。澄んだ青色の瞳が俺を映していて、意識しないようにしても胸が高鳴った。
白く繊細な指使いが心地良い。「いいわよ」と許可を出す薄く色づいた唇に目が行ってしまう。
木之下瞳子。俺の幼馴染にして彼女でもある美少女だ。
……そう、俺には二人の恋人がいる。
小学校を卒業した日から、今までずっと恋人として付き合い続けている。中学時代は周囲の目が厳しかったこともあって大変ではあったが、結果として俺達の絆を深めることとなった。
ゆっくりと時間をかけて恋心を育んだ。もうこの気持ちは立派な愛情である。
そんな俺達も高校生となったのだ。また一つ、成長した姿を見せていかないとな。よし、がんばるぞ!
「なんだかやる気だねトシくん」
「ふふっ、緊張しているわけじゃないでしょうね?」
二人に笑われてしまった。もう葵と瞳子には心すら隠せないのかもしれない。
これから俺達がお世話になる新たな学びやへと到着した。
入試の時も思ってはいたが、中学とは規模が全然違う。敷地は広いし、校舎も数が多い。外観だけでレベルアップしたのだと実感させられる。
同じ新入生であろう生徒達もいっぱいいる。中学までと違って知らない人ばかりで少し緊張する。
新入生達は葵と瞳子を見ると二度見三度見する。男子ともなればそのまま視線を外せずに見惚れてしまうまでがお約束である。そして二人の間に挟まれている俺を発見して恨みのこもった目になるのもお約束だ。
「あっ、向こうにクラス表が貼り出されてるみたいだよ」
他人からの視線に慣れている葵は動じない。人だかりを見つけてクラス表の存在に気づいたようだ。
どのクラスになるかで高校生活のスタートを上手く切れるかどうかが決まると言っても過言ではない。俺は祈るような気持ちでクラス表に目を向けた。
一学年十クラス、A組からJ組まである。クラス数も中学の時よりも多い。
「俺は……A組だ」
探してすぐに自分の名前を見つけた。それからもう一人の名前も見つける。
「僕もA組やで。今年もよろしくな高木くん」
後ろから聞こえた声に振り返ると佐藤がいた。ニコニコとしていて緩い空気を身に纏っているような男子である。
これで小中高と佐藤とずっと同じクラスになり続けている。今回でもう十年目だ。ここまでくると誰かの作為を感じるね。
でも、佐藤と同じクラスなら安心だ。スタートダッシュは問題なく切れそうで良かった。
「おう! 今年もよろしくな佐藤」
男子二人で盛り上がっている中、女子二人の反応は芳しくなかった。
「佐藤くん、あなた何か細工でもしているんじゃないでしょうね? ずっと俊成と同じクラスだなんて……ずるいわよ」
瞳子ちゃんが恨みがましい目で佐藤を睨む。佐藤は困ったように笑うだけだ。
どうやら瞳子ちゃんはA組ではないらしい。俺はA組の女子の名前を眺めて「ん?」と小さく首をかしげた。
「そうだよ佐藤くんばっかりずるいよ。私もトシくんといっしょのクラスが良かったのにっ」
「そ、そんなん言われてもなぁ……」
そして葵ちゃんの名前もA組にはなかった。まあこれだけクラス数があれば仕方がないか。
同じ中学の人達はあまり多くはないけど、みんなはどこのクラスなのかと探してしまう。
「おっはよう! 私はあおっちと同じC組だよ!」
「きゃっ!? もう真奈美ちゃん。驚かせないでよ」
突然現れた小川さんが葵を後ろから抱きしめていた。高校生になってもこういうテンション高いところは変わらないな。
女子の中では高身長である彼女と平均身長ほどの葵とでは身長差が違う。そのため抱きしめる姿がなんだか様になっていて、ちょっとだけ危険を感じてしまう。
でも、身長に関しては俺は小川さんを追い越したのだ! 小学生の時は見上げる存在だったが、今では俺の方が目線が高い。……若干ではあるんだけどな。
「真奈美も佐藤くんも自分のクラスを知ってたってことは先に来ていたのかしら?」
瞳子のふとした疑問に佐藤が頷いた。
「うん。僕は小川さんといっしょに来たんよ。小川さん道に迷いそうやったから」
「ちょっと! 人を方向オンチみたいに言うのはやめてくれる!」
「ほんまやん。入試に行ったはずやのに一人で行けるか不安やって言うたのは小川さんやで」
「わー! わー! 聞こえなーい!」
楽しそうだなぁ。そう思えるのはこれもまた見慣れた光景になっているからかな。
「よう、みんな早いな」
手を上げて近づいてくるのは本郷だ。
本郷を目にした新入生の女子から黄色い声が上がる。高校生となった本郷のイケメン度はさらに磨きがかかっていた。
中学時代に勉強ができないことがばれてしまった本郷だったが、その分部活でのサッカーの成績はすごかった。中三の時は決して強豪ではないうちの中学を全国制覇させてしまったのだ。
それは高校進学の大きな武器となった。本郷はスポーツ推薦で俺達と同じ高校に進学したのだ。
「俺のクラスはっと……F組か。木之下と同じクラスだな」
本郷はクラス表をぱっと見て数秒もかからずに自分の名前を見つけたようだ。これが一流のスポーツ選手に備わっているという周辺視野だろうか。なんか無駄にすごい。
しかも瞳子と同じクラスか。F組の人達は我が中学が誇る美男美女に驚くだろうな。
「あとは……赤城は来てないのか?」
本郷が辺りを見回しながら言う。背丈のある本郷が見つけられないのならまだ来ていないのだろう。
「いや、来てるし」
と、思っていたのに横から声がしてびっくりしてしまった。
今まで気配を消していたかのようにいきなり美穂ちゃんが現れた。忍者かよ。
俺だけじゃなくみんな驚いていた。その反応を見てなぜか美穂ちゃんは自慢げに胸を張った。
自慢げとは言っても基本彼女は無表情である。付き合いの長い俺達じゃないと微細な表情の機微には気づかないだろうな。
「で、あたしはどこのクラス?」
「俺や佐藤と同じA組だよ」
A組女子の中に美穂ちゃんの名前があるのに気づいていたので伝える。彼女は微かに目を見開いた。
「高木と? 中学では一度も同じクラスになれなかったから久しぶり」
「そういえばそうだね」
ちなみに中学では葵と瞳子といっしょのクラスになれたのは一年の時だけだった。これは本当に作為があったのだろうと今でも邪推していたりする。
「高木」
「ん? どうしたの美穂ちゃん」
「高校でもよろしく」
「ああ、よろしくね」
ここに集まった七人が、同じ中学からこの学校に進学したメンバーである。
これからそれぞれの高校生活が始まる。もちろん俺だってそうだ。前世ではあっさりと過ぎ去ってしまった青春を今世では謳歌するのだ!
※ ※ ※
みんなと別れ、佐藤と美穂ちゃんといっしょにA組の教室に入った時である。
「トシナリ! やっぱりトシナリね! 一目でトシナリってわかったわ。まさかとは思ったけれど、トシナリとクラスメートになれるだなんて夢みたい! わたし日本に来て本当に良かった!」
金髪の美人さんが駆け寄ってきたかと思えばそうまくし立てられた。
興奮気味の彼女はぐいぐいと顔を近づけてくる。見た目だけでも目立つ子がこんなにも騒がしくしていたら目立つのは当然だ。クラス中からの視線が痛い……。
ただ、俺もこんなところで会えるとは思っていなかったし、それもクラスメートになっただなんて信じられなかった。クラス表を見た時はまさかとは思ったが、本当にそのまさかだった。
「久しぶりだねクリス。元気にしてた?」
「うん! トシナリも元気そうね」
クリスティーナ・ルーカス。三度目に出会った彼女は俺のクラスメートになっていた。
俺の後ろにいる佐藤と美穂ちゃんが「は?」と声を漏らしていたのは、聞いてないフリをした方がいいかなーとか思った。
前世でも高校に入学した時はドキドキと胸が高鳴っていたものだ。まあ、大したことなんて何も起こらなかったのだが……。
しかし、今世の俺にはかわいい幼馴染がついている。しかも二人も、だ。
「トシくん、ネクタイ曲がってるよ」
艶やかな長い黒髪の少女が俺のネクタイを直してくれる。くっきりとした大きな目が俺を見つめていて、いい加減慣れてきたはずなのにドキドキしてしまう。
細くてしなやかな指がこそばゆい。直し終わったのか「よし」と呟く彼女の潤いのある唇に視線が吸い寄せられてしまう。
宮坂葵。俺の幼馴染にして彼女でもある美少女だ。
「俊成、髪が跳ねてるわよ」
サラサラとした銀髪をツインテールにした少女が俺の髪を整えてくれる。澄んだ青色の瞳が俺を映していて、意識しないようにしても胸が高鳴った。
白く繊細な指使いが心地良い。「いいわよ」と許可を出す薄く色づいた唇に目が行ってしまう。
木之下瞳子。俺の幼馴染にして彼女でもある美少女だ。
……そう、俺には二人の恋人がいる。
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ゆっくりと時間をかけて恋心を育んだ。もうこの気持ちは立派な愛情である。
そんな俺達も高校生となったのだ。また一つ、成長した姿を見せていかないとな。よし、がんばるぞ!
「なんだかやる気だねトシくん」
「ふふっ、緊張しているわけじゃないでしょうね?」
二人に笑われてしまった。もう葵と瞳子には心すら隠せないのかもしれない。
これから俺達がお世話になる新たな学びやへと到着した。
入試の時も思ってはいたが、中学とは規模が全然違う。敷地は広いし、校舎も数が多い。外観だけでレベルアップしたのだと実感させられる。
同じ新入生であろう生徒達もいっぱいいる。中学までと違って知らない人ばかりで少し緊張する。
新入生達は葵と瞳子を見ると二度見三度見する。男子ともなればそのまま視線を外せずに見惚れてしまうまでがお約束である。そして二人の間に挟まれている俺を発見して恨みのこもった目になるのもお約束だ。
「あっ、向こうにクラス表が貼り出されてるみたいだよ」
他人からの視線に慣れている葵は動じない。人だかりを見つけてクラス表の存在に気づいたようだ。
どのクラスになるかで高校生活のスタートを上手く切れるかどうかが決まると言っても過言ではない。俺は祈るような気持ちでクラス表に目を向けた。
一学年十クラス、A組からJ組まである。クラス数も中学の時よりも多い。
「俺は……A組だ」
探してすぐに自分の名前を見つけた。それからもう一人の名前も見つける。
「僕もA組やで。今年もよろしくな高木くん」
後ろから聞こえた声に振り返ると佐藤がいた。ニコニコとしていて緩い空気を身に纏っているような男子である。
これで小中高と佐藤とずっと同じクラスになり続けている。今回でもう十年目だ。ここまでくると誰かの作為を感じるね。
でも、佐藤と同じクラスなら安心だ。スタートダッシュは問題なく切れそうで良かった。
「おう! 今年もよろしくな佐藤」
男子二人で盛り上がっている中、女子二人の反応は芳しくなかった。
「佐藤くん、あなた何か細工でもしているんじゃないでしょうね? ずっと俊成と同じクラスだなんて……ずるいわよ」
瞳子ちゃんが恨みがましい目で佐藤を睨む。佐藤は困ったように笑うだけだ。
どうやら瞳子ちゃんはA組ではないらしい。俺はA組の女子の名前を眺めて「ん?」と小さく首をかしげた。
「そうだよ佐藤くんばっかりずるいよ。私もトシくんといっしょのクラスが良かったのにっ」
「そ、そんなん言われてもなぁ……」
そして葵ちゃんの名前もA組にはなかった。まあこれだけクラス数があれば仕方がないか。
同じ中学の人達はあまり多くはないけど、みんなはどこのクラスなのかと探してしまう。
「おっはよう! 私はあおっちと同じC組だよ!」
「きゃっ!? もう真奈美ちゃん。驚かせないでよ」
突然現れた小川さんが葵を後ろから抱きしめていた。高校生になってもこういうテンション高いところは変わらないな。
女子の中では高身長である彼女と平均身長ほどの葵とでは身長差が違う。そのため抱きしめる姿がなんだか様になっていて、ちょっとだけ危険を感じてしまう。
でも、身長に関しては俺は小川さんを追い越したのだ! 小学生の時は見上げる存在だったが、今では俺の方が目線が高い。……若干ではあるんだけどな。
「真奈美も佐藤くんも自分のクラスを知ってたってことは先に来ていたのかしら?」
瞳子のふとした疑問に佐藤が頷いた。
「うん。僕は小川さんといっしょに来たんよ。小川さん道に迷いそうやったから」
「ちょっと! 人を方向オンチみたいに言うのはやめてくれる!」
「ほんまやん。入試に行ったはずやのに一人で行けるか不安やって言うたのは小川さんやで」
「わー! わー! 聞こえなーい!」
楽しそうだなぁ。そう思えるのはこれもまた見慣れた光景になっているからかな。
「よう、みんな早いな」
手を上げて近づいてくるのは本郷だ。
本郷を目にした新入生の女子から黄色い声が上がる。高校生となった本郷のイケメン度はさらに磨きがかかっていた。
中学時代に勉強ができないことがばれてしまった本郷だったが、その分部活でのサッカーの成績はすごかった。中三の時は決して強豪ではないうちの中学を全国制覇させてしまったのだ。
それは高校進学の大きな武器となった。本郷はスポーツ推薦で俺達と同じ高校に進学したのだ。
「俺のクラスはっと……F組か。木之下と同じクラスだな」
本郷はクラス表をぱっと見て数秒もかからずに自分の名前を見つけたようだ。これが一流のスポーツ選手に備わっているという周辺視野だろうか。なんか無駄にすごい。
しかも瞳子と同じクラスか。F組の人達は我が中学が誇る美男美女に驚くだろうな。
「あとは……赤城は来てないのか?」
本郷が辺りを見回しながら言う。背丈のある本郷が見つけられないのならまだ来ていないのだろう。
「いや、来てるし」
と、思っていたのに横から声がしてびっくりしてしまった。
今まで気配を消していたかのようにいきなり美穂ちゃんが現れた。忍者かよ。
俺だけじゃなくみんな驚いていた。その反応を見てなぜか美穂ちゃんは自慢げに胸を張った。
自慢げとは言っても基本彼女は無表情である。付き合いの長い俺達じゃないと微細な表情の機微には気づかないだろうな。
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「そういえばそうだね」
ちなみに中学では葵と瞳子といっしょのクラスになれたのは一年の時だけだった。これは本当に作為があったのだろうと今でも邪推していたりする。
「高木」
「ん? どうしたの美穂ちゃん」
「高校でもよろしく」
「ああ、よろしくね」
ここに集まった七人が、同じ中学からこの学校に進学したメンバーである。
これからそれぞれの高校生活が始まる。もちろん俺だってそうだ。前世ではあっさりと過ぎ去ってしまった青春を今世では謳歌するのだ!
※ ※ ※
みんなと別れ、佐藤と美穂ちゃんといっしょにA組の教室に入った時である。
「トシナリ! やっぱりトシナリね! 一目でトシナリってわかったわ。まさかとは思ったけれど、トシナリとクラスメートになれるだなんて夢みたい! わたし日本に来て本当に良かった!」
金髪の美人さんが駆け寄ってきたかと思えばそうまくし立てられた。
興奮気味の彼女はぐいぐいと顔を近づけてくる。見た目だけでも目立つ子がこんなにも騒がしくしていたら目立つのは当然だ。クラス中からの視線が痛い……。
ただ、俺もこんなところで会えるとは思っていなかったし、それもクラスメートになっただなんて信じられなかった。クラス表を見た時はまさかとは思ったが、本当にそのまさかだった。
「久しぶりだねクリス。元気にしてた?」
「うん! トシナリも元気そうね」
クリスティーナ・ルーカス。三度目に出会った彼女は俺のクラスメートになっていた。
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