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第一部
64.授業参観は集中できない
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【前書き】
前半は小川さん、後半は佐藤視点になります。
授業参観の日。教室の空気は私でもわかるくらい浮ついていた。
「で、では授業を始めます。み、みんな今日はお父さんやお母さんが見に来てくれているからって緊張しないように。いつも通りの姿を見てもらえればいいんだからな」
そういう先生が一番緊張しているみたいに見えた。チラチラと教室の後ろに並んでる親達を何度も確認している。やっぱり反応とか気になっちゃうのかな。
科目は国語。本読みだけなら楽かな。登場人物の気持ちとかどうとかはよくわかんないし、そっちでは当てられたくないな。
「じゃあ宮坂、ここから読んでくれ」
「はい」
先生に当てられてあおっちが席を立った。親達もあおっちに注目する。
浮ついているみんなと違ってあおっちは落ち着いていた。ゆっくりとした調子ではっきり読み上げていく。
あおっちとは保育園の頃からの友達だ。あの頃は男子にビクビクしてて守ってあげなきゃって思ってた。それくらい男子に対しての苦手意識の強い子だった。
そんなあおっちが小さい頃から心を許している男子が一人だけいた。高木くんっていう同級生の男子なんだけど、見た目は可もなく不可もなくといったぱっとしない感じの子だった。
見た目なら本郷くんの方が人気がある。女子のほとんどが本郷くんのことが好きみたいだしね。まあ私が見ても顔で評価するなら本郷くんの方が明らかに上だとは思う。
それでもあおっちは高木くんのことばかり見ていた。保育園時代にあおっちを守っていたという自負があったからか、私はちょっとだけ高木くんに嫉妬したことがある。まっ、それも過去のことね。
「よし、そこまででいいぞ。着席しなさい」
「はい」
あおっちが文章を読み終わって席に座る。後ろの親達からほぅと息が漏れる。ただ本を読んでいただけなのにみんなを引きつける何かがあるのよね。
昔はビクビクしてたのは本当だけど、今ではそんなところを全然見せない。それどころか苦手だった男子の扱いが上手くなっていた。これはもうあおっちだからこそなんでしょうけどね。誰にでもマネできることじゃないし。
「この次を木之下、読んでくれ」
「はい」
きのぴーが席から立ち上がり文章を読んでいく。きのぴーもあおっちと同じで注目を集めやすい。彼女の場合は見た目からしてどうしても注目を集めてしまうみたいだけど。
「瞳子ー、がんばってくだサーイ」
「コラコラ、授業中なんだから声掛けないの」
声に振り返れば銀髪と黒髪の美女がいた。
声援を送ったのがきのぴーのおばさんで、それをたしなめたのがあおっちのおばさんだ。おばさんって呼んでいいのか迷っちゃうくらい綺麗な人なんだよね。母親というよりもモデルとかの方が信じられそう。素直にいいなーって思っちゃう。
きのぴーは後ろを見ることなく声を出して読んでいく。その姿はみんなよりも大人っぽく見えた。
きのぴーとは小学校に入ってからの付き合いだ。仲良くなったのは三年生の時くらいからかな。それまでは刺々しい感じの女の子だったように見えていた。
最初は仲良くなれるかどうか怪しかったけど、案外優しい子だってことに気づいてからは迷いなんてなくなった。今では気を遣わなくてもいい友達の一人だ。
「うむ、そこまででいいぞ。着席しなさい」
「はい」
きのぴーは静かに着席する。動きの一つ一つが子供っぽくない。もちろんいい意味でだ。
あおっちときのぴー。二人ともとってもかわいい見た目をしてる。中身だって同級生のみんなに比べたら大人っぽくて、実はちょっと憧れだったりする。
そんな二人が高木くんの前だとなぜかメロメロなのよね。そんなにかっこ良いわけじゃないし、あおっちときのぴーと比べると釣り合わない気がしなくもないんだけどね。
あっ、でもでも四年生の子をいじめから助けるために一番動いたのは高木くんだったみたい。何をやったのかは知らないけど、いじめっ子の男子なんて高木くんに頭が上がらないみたいだし。
そう考えるとやる時はやるタイプなのかな? そういうところを知ってるからこそあおっちときのぴーがゾッコンなのかもしれない。まあ見た目だけで好きになったって言われるよりは何百倍も信じられる理由かな。
人は外見よりも中身だっていろんな大人が言ってるけど、その中身をちゃんとわかるのって難しいと思うのよね。中身なんて仲良くなんなきゃわかんないし、だからこそ外見に惹かれるのはしょうがないって私は思うんだけどね。
だからほとんどの女子が本郷くんに目が行ってしまうのは当たり前かなって思ってる。だって彼がダントツでかっこ良いんだもの。だからって私も彼が好き、なんてわけでもないんだけどね。
そんな中であおっちときのぴーは高木くんの中身を見て好きになった。そりゃあ小さい頃から仲良くしてるってのもあるんだろうけどさ、それでも心を好きになれるってすごいことだと思った。
あおっちときのぴーを見てると私もいつか好きな人とかできるのかなーって考えちゃう。その時は二人みたいに私もその人の心が好きだって言えるようになりたいな。なんてね。
「よーし、じゃあここから最後までを小川、読んでくれ」
「え、わ、私!?」
完全に油断してた。急に当てられてうろたえてしまう。
「そうだ。聞いてなかったのか?」
「聞いてました! 読みます!」
私は勢い良く立ち上がり、教科書を読もうとして思いっきり噛んでしまった。
授業参観のせいかな、なんか緊張してたみたい……。あおっちときのぴーみたいに上手くはいかないね。私は誤魔化すようにぺろっと舌を出した。
※ ※ ※
授業参観の日。教室の空気は僕でもわかるくらいに浮ついてた。
よりによって科目は算数やった。うぅ……、僕算数が一番苦手やのになぁ……。
「大丈夫。あたしも苦手だから」
「赤城さん、それ全然大丈夫ちゃうよ」
赤城さんはあんまり表情を変えへん人やから冗談なんかそうやないんかがわかりづらい。それでも悪い人やないってのはわかってるから、たぶん慰めようとしてくれてんのかな?
「もしわからなかったら高木に聞けばいい」
「あっ、そうやね」
赤城さんの言う通り高木くんならすぐに答えを出してくれる。それがわかってるから赤城さんもあんまり緊張してへんのやろうね。
「別にいいけどちゃんと自分達で考えるんだぞ。問題を解こうとする過程も勉強なんだからな」
「はいはい」
「赤城さーん? 軽く流さないでくれるかなー」
赤城さんの表情はいつもの通り。でも、高木くんとしゃべる時だけはなんか感じが違うゆうんかな。なんとなくやけど楽しそうに見える。
そんなこんなしているうちに授業が始まった。教室の後ろにお母ちゃんがいると思ったら緊張してきてまう。
僕の席は一番後ろ。みんなの親も含めて一番近くやった。こういう時だけは前の席の方がええなぁ。
後ろに意識がいかんように前だけ見て集中する。でも算数やとちゃんと集中できひん……。
そんな風に思ってると、みんなの様子に目が行ってまう。ずっと後ろの席におるとちょっとしたことでも気づくようになっとったんや。
「……」
高木くんと赤城さんは席が隣同士なんやけど、よく赤城さんは高木くんの方を横目でチラチラ見とる。後ろにおる親を気にしとるとかやなくて、それはいつものことやった。
なんでそないに見てんのやろと思った。授業中の高木くんは変な顔でもしとるんかなって考えたんやけど、いざ移動教室なんかで高木くんの隣の席になった時に確認してみたけど普通の顔やった。
そうなると理由がわからんくて、でも気になったから赤城さんに聞いてみたことがあった。
「それ以上そのことを口にしたら大変なことになる」
という答えが大真面目な顔とともに返ってきたから僕は首を縦に振ることしかできひんかった。なんか赤城さん迫力があったなぁ。
そんなわけで赤城さんが授業中に高木くんを見てんのはいつものこと。僕の中では気にすることやないってことになったんや。
……でもまあ、気にする理由に心当たりがないわけやなかったりする。
去年、僕等が四年生の時の運動会。クラス対抗リレーで赤城さんはバトンミスをした。
もしそれでビリになってもうたとしても彼女だけの責任やない。せやのにみんな、ちょっと赤城さんを責めるような空気になってもうてた。女子の何人かは声に出してたんを聞いてもうた。
みんながんばって練習してたし、一位になれるかもって思ってたところやったから余計にやったんやろうね。その空気を感じてもうたんか、赤城さんが泣いとったんや。初めて泣いてるとこ見たからびっくりやった。
そんな時、高木くんがすごい追い上げを見せたんや。ものすごい差があったのに追いついてまうから僕もすごく興奮してもうたんや。
赤城さんなんか真っ赤な顔で高木くんをずっと見つめとった。本当にすごかったからそうなるんのも無理のないことやと思った。
でも後々思い返せば、宮坂さんや木之下さんが高木くんを見る目に似とったんやって気づいたんや。
高木くんはモテモテやね。僕なんかは全然やのに……。どうしてそないにすごい高木くんは僕なんかと仲良くしてくれるんやろ?
僕は高木くんみたいに頭は良くないし、運動もできひん。「佐藤は佐藤だからいいんだよ」なんて高木くんは言ってくれたけど、僕にはようわからんかった。わからんかったからちょっぴり冷たくした時期があったんや。
それでも高木くんは優しかった。そんな僕が困った時も助けてくれたし、あんまり分け隔てせえへん性格みたいやった。そんな彼を見てたら仲良くするのに理由なんてなくてもええんやないかって思うようになったんや。
そういうところがもっとみんなに伝わればええのに。前に四年生の子のいじめを止めたのかって高木くんが一番がんばったのにみんなはそのことをあんまり知らへん。それがちょっとだけもどかしい。
「この問題誰かわかるかなー? 佐藤くん答えられるかな?」
「えっ、は、はい!」
名前を呼ばれたせいで思わず立ち上がってもうた。あかん、全然わからへん……。
僕があわあわ困ってると、高木くんからサインが飛んできた。その通りに応えると正解できた。
ほっとして着席する。後ろから「よし!」というお母ちゃんの声が聞こえた。正解できてよかった~。
高木くんがチラリとこっちを向く。あー……、これは後で復習せなあかんね。高木くんは答えだけを教えるんやなくて、後からわからんかった問題の解き方まで教えてくれる。そのおかげで僕の成績はそれなりには上がってたりしとる。
それは僕だけやなくて赤城さんも同じやった。むしろ彼女はわざと教えてもらえるようにしているようにも見えるんやけどね。
宮坂さんと木之下さん、そこに赤城さんが加わったら……。高木くんは誰とくっつくんやろうか。最近僕はそんなことを考えるようになっとった。
「じゃあこの問題も佐藤くんに解いてもらおうかな?」
「えっ!? また僕ですか!?」
二回連続で当てるんは反則やん……。僕は授業参観の緊張なんて忘れてまうくらい頭を働かせた。
前半は小川さん、後半は佐藤視点になります。
授業参観の日。教室の空気は私でもわかるくらい浮ついていた。
「で、では授業を始めます。み、みんな今日はお父さんやお母さんが見に来てくれているからって緊張しないように。いつも通りの姿を見てもらえればいいんだからな」
そういう先生が一番緊張しているみたいに見えた。チラチラと教室の後ろに並んでる親達を何度も確認している。やっぱり反応とか気になっちゃうのかな。
科目は国語。本読みだけなら楽かな。登場人物の気持ちとかどうとかはよくわかんないし、そっちでは当てられたくないな。
「じゃあ宮坂、ここから読んでくれ」
「はい」
先生に当てられてあおっちが席を立った。親達もあおっちに注目する。
浮ついているみんなと違ってあおっちは落ち着いていた。ゆっくりとした調子ではっきり読み上げていく。
あおっちとは保育園の頃からの友達だ。あの頃は男子にビクビクしてて守ってあげなきゃって思ってた。それくらい男子に対しての苦手意識の強い子だった。
そんなあおっちが小さい頃から心を許している男子が一人だけいた。高木くんっていう同級生の男子なんだけど、見た目は可もなく不可もなくといったぱっとしない感じの子だった。
見た目なら本郷くんの方が人気がある。女子のほとんどが本郷くんのことが好きみたいだしね。まあ私が見ても顔で評価するなら本郷くんの方が明らかに上だとは思う。
それでもあおっちは高木くんのことばかり見ていた。保育園時代にあおっちを守っていたという自負があったからか、私はちょっとだけ高木くんに嫉妬したことがある。まっ、それも過去のことね。
「よし、そこまででいいぞ。着席しなさい」
「はい」
あおっちが文章を読み終わって席に座る。後ろの親達からほぅと息が漏れる。ただ本を読んでいただけなのにみんなを引きつける何かがあるのよね。
昔はビクビクしてたのは本当だけど、今ではそんなところを全然見せない。それどころか苦手だった男子の扱いが上手くなっていた。これはもうあおっちだからこそなんでしょうけどね。誰にでもマネできることじゃないし。
「この次を木之下、読んでくれ」
「はい」
きのぴーが席から立ち上がり文章を読んでいく。きのぴーもあおっちと同じで注目を集めやすい。彼女の場合は見た目からしてどうしても注目を集めてしまうみたいだけど。
「瞳子ー、がんばってくだサーイ」
「コラコラ、授業中なんだから声掛けないの」
声に振り返れば銀髪と黒髪の美女がいた。
声援を送ったのがきのぴーのおばさんで、それをたしなめたのがあおっちのおばさんだ。おばさんって呼んでいいのか迷っちゃうくらい綺麗な人なんだよね。母親というよりもモデルとかの方が信じられそう。素直にいいなーって思っちゃう。
きのぴーは後ろを見ることなく声を出して読んでいく。その姿はみんなよりも大人っぽく見えた。
きのぴーとは小学校に入ってからの付き合いだ。仲良くなったのは三年生の時くらいからかな。それまでは刺々しい感じの女の子だったように見えていた。
最初は仲良くなれるかどうか怪しかったけど、案外優しい子だってことに気づいてからは迷いなんてなくなった。今では気を遣わなくてもいい友達の一人だ。
「うむ、そこまででいいぞ。着席しなさい」
「はい」
きのぴーは静かに着席する。動きの一つ一つが子供っぽくない。もちろんいい意味でだ。
あおっちときのぴー。二人ともとってもかわいい見た目をしてる。中身だって同級生のみんなに比べたら大人っぽくて、実はちょっと憧れだったりする。
そんな二人が高木くんの前だとなぜかメロメロなのよね。そんなにかっこ良いわけじゃないし、あおっちときのぴーと比べると釣り合わない気がしなくもないんだけどね。
あっ、でもでも四年生の子をいじめから助けるために一番動いたのは高木くんだったみたい。何をやったのかは知らないけど、いじめっ子の男子なんて高木くんに頭が上がらないみたいだし。
そう考えるとやる時はやるタイプなのかな? そういうところを知ってるからこそあおっちときのぴーがゾッコンなのかもしれない。まあ見た目だけで好きになったって言われるよりは何百倍も信じられる理由かな。
人は外見よりも中身だっていろんな大人が言ってるけど、その中身をちゃんとわかるのって難しいと思うのよね。中身なんて仲良くなんなきゃわかんないし、だからこそ外見に惹かれるのはしょうがないって私は思うんだけどね。
だからほとんどの女子が本郷くんに目が行ってしまうのは当たり前かなって思ってる。だって彼がダントツでかっこ良いんだもの。だからって私も彼が好き、なんてわけでもないんだけどね。
そんな中であおっちときのぴーは高木くんの中身を見て好きになった。そりゃあ小さい頃から仲良くしてるってのもあるんだろうけどさ、それでも心を好きになれるってすごいことだと思った。
あおっちときのぴーを見てると私もいつか好きな人とかできるのかなーって考えちゃう。その時は二人みたいに私もその人の心が好きだって言えるようになりたいな。なんてね。
「よーし、じゃあここから最後までを小川、読んでくれ」
「え、わ、私!?」
完全に油断してた。急に当てられてうろたえてしまう。
「そうだ。聞いてなかったのか?」
「聞いてました! 読みます!」
私は勢い良く立ち上がり、教科書を読もうとして思いっきり噛んでしまった。
授業参観のせいかな、なんか緊張してたみたい……。あおっちときのぴーみたいに上手くはいかないね。私は誤魔化すようにぺろっと舌を出した。
※ ※ ※
授業参観の日。教室の空気は僕でもわかるくらいに浮ついてた。
よりによって科目は算数やった。うぅ……、僕算数が一番苦手やのになぁ……。
「大丈夫。あたしも苦手だから」
「赤城さん、それ全然大丈夫ちゃうよ」
赤城さんはあんまり表情を変えへん人やから冗談なんかそうやないんかがわかりづらい。それでも悪い人やないってのはわかってるから、たぶん慰めようとしてくれてんのかな?
「もしわからなかったら高木に聞けばいい」
「あっ、そうやね」
赤城さんの言う通り高木くんならすぐに答えを出してくれる。それがわかってるから赤城さんもあんまり緊張してへんのやろうね。
「別にいいけどちゃんと自分達で考えるんだぞ。問題を解こうとする過程も勉強なんだからな」
「はいはい」
「赤城さーん? 軽く流さないでくれるかなー」
赤城さんの表情はいつもの通り。でも、高木くんとしゃべる時だけはなんか感じが違うゆうんかな。なんとなくやけど楽しそうに見える。
そんなこんなしているうちに授業が始まった。教室の後ろにお母ちゃんがいると思ったら緊張してきてまう。
僕の席は一番後ろ。みんなの親も含めて一番近くやった。こういう時だけは前の席の方がええなぁ。
後ろに意識がいかんように前だけ見て集中する。でも算数やとちゃんと集中できひん……。
そんな風に思ってると、みんなの様子に目が行ってまう。ずっと後ろの席におるとちょっとしたことでも気づくようになっとったんや。
「……」
高木くんと赤城さんは席が隣同士なんやけど、よく赤城さんは高木くんの方を横目でチラチラ見とる。後ろにおる親を気にしとるとかやなくて、それはいつものことやった。
なんでそないに見てんのやろと思った。授業中の高木くんは変な顔でもしとるんかなって考えたんやけど、いざ移動教室なんかで高木くんの隣の席になった時に確認してみたけど普通の顔やった。
そうなると理由がわからんくて、でも気になったから赤城さんに聞いてみたことがあった。
「それ以上そのことを口にしたら大変なことになる」
という答えが大真面目な顔とともに返ってきたから僕は首を縦に振ることしかできひんかった。なんか赤城さん迫力があったなぁ。
そんなわけで赤城さんが授業中に高木くんを見てんのはいつものこと。僕の中では気にすることやないってことになったんや。
……でもまあ、気にする理由に心当たりがないわけやなかったりする。
去年、僕等が四年生の時の運動会。クラス対抗リレーで赤城さんはバトンミスをした。
もしそれでビリになってもうたとしても彼女だけの責任やない。せやのにみんな、ちょっと赤城さんを責めるような空気になってもうてた。女子の何人かは声に出してたんを聞いてもうた。
みんながんばって練習してたし、一位になれるかもって思ってたところやったから余計にやったんやろうね。その空気を感じてもうたんか、赤城さんが泣いとったんや。初めて泣いてるとこ見たからびっくりやった。
そんな時、高木くんがすごい追い上げを見せたんや。ものすごい差があったのに追いついてまうから僕もすごく興奮してもうたんや。
赤城さんなんか真っ赤な顔で高木くんをずっと見つめとった。本当にすごかったからそうなるんのも無理のないことやと思った。
でも後々思い返せば、宮坂さんや木之下さんが高木くんを見る目に似とったんやって気づいたんや。
高木くんはモテモテやね。僕なんかは全然やのに……。どうしてそないにすごい高木くんは僕なんかと仲良くしてくれるんやろ?
僕は高木くんみたいに頭は良くないし、運動もできひん。「佐藤は佐藤だからいいんだよ」なんて高木くんは言ってくれたけど、僕にはようわからんかった。わからんかったからちょっぴり冷たくした時期があったんや。
それでも高木くんは優しかった。そんな僕が困った時も助けてくれたし、あんまり分け隔てせえへん性格みたいやった。そんな彼を見てたら仲良くするのに理由なんてなくてもええんやないかって思うようになったんや。
そういうところがもっとみんなに伝わればええのに。前に四年生の子のいじめを止めたのかって高木くんが一番がんばったのにみんなはそのことをあんまり知らへん。それがちょっとだけもどかしい。
「この問題誰かわかるかなー? 佐藤くん答えられるかな?」
「えっ、は、はい!」
名前を呼ばれたせいで思わず立ち上がってもうた。あかん、全然わからへん……。
僕があわあわ困ってると、高木くんからサインが飛んできた。その通りに応えると正解できた。
ほっとして着席する。後ろから「よし!」というお母ちゃんの声が聞こえた。正解できてよかった~。
高木くんがチラリとこっちを向く。あー……、これは後で復習せなあかんね。高木くんは答えだけを教えるんやなくて、後からわからんかった問題の解き方まで教えてくれる。そのおかげで僕の成績はそれなりには上がってたりしとる。
それは僕だけやなくて赤城さんも同じやった。むしろ彼女はわざと教えてもらえるようにしているようにも見えるんやけどね。
宮坂さんと木之下さん、そこに赤城さんが加わったら……。高木くんは誰とくっつくんやろうか。最近僕はそんなことを考えるようになっとった。
「じゃあこの問題も佐藤くんに解いてもらおうかな?」
「えっ!? また僕ですか!?」
二回連続で当てるんは反則やん……。僕は授業参観の緊張なんて忘れてまうくらい頭を働かせた。
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