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第一部
53.品川ちゃんのことが気になるのです
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仲間班は去年に引き続き品川ちゃんと同じ班だった。
四年生になった彼女は三年生の面倒を見る立場なのだが、恥ずかしがり屋のせいで上手くコミュニケーションが取れないようだった。その代わりと言ってはなんだが、俺とはよくしゃべってくれる。
「あ、あの……これ。また描いてきたんです……」
「漫画? うん、読む読む」
品川ちゃんは自作の四コマ漫画をよく俺に見せてくれた。もちろんプロには及ばないのだろうが、俺なんかよりも断然絵が上手かった。
彼女の描く四コマ漫画はコミカルで面白い。学校のクラブ活動では漫画研究クラブに入ったとのことなので、これからもどんどん上達するのだろう。楽しみだ。
品川ちゃんの描いた漫画を夢中になって読んでいると、一人の女子が話しかけてきた。
「あ、あのっ。高木くんいいかな?」
「ん? どうしたの御子柴さん」
「六年生の人が話があるって。たぶん仲間班で何しようかって話じゃないかな……」
俺に話しかけてきたのは五年二組の御子柴楓さんだった。葵ちゃんや瞳子ちゃんと同じクラスの女の子である。
確か去年から小川さんのグループにいる女の子だ。明るい子ばかりが集まっている小川さんのグループの中で、彼女は物静かだったからちょっと目についてはいたのだ。
なんというか、前世での葵ちゃんが今の御子柴さんの立ち位置だった気がする。クラスの中心グループに所属しながらも物静かで決して目立とうとはしない。それでも葵ちゃんの場合はその美貌のために人の目を惹いていたんだけどね。
そう考えれば、前世よりも今の葵ちゃんの方が明るい性格になっている気がする。いやまあ、前世では接する機会自体がそうなかったんだけども。遠くから眺めるだけの高嶺の花だったんだよな。
おっと、そんなこと考えてる場合じゃないな。六年生の子達も毎回何をしようかと仲間班活動に頭を悩ませているのだろう。俺はよく何か案がないかと相談されているのだ。
俺が行こうとすると、品川ちゃんの眼鏡の奥の瞳が揺れたのがわかった。それは不安がっているようで、一人になりたくないのだろうと思った。
「御子柴さん」
「な、何?」
「これ、品川ちゃんが描いた漫画なんだけどすごく面白いよ。読んでみない?」
「え? う、うん……?」
よくわからないといった感じながらも、御子柴さんが品川ちゃんが描いた漫画のノートを受け取る。品川ちゃんはあたふたしていたけれど、そこから何かを言うことはなかった。
なんとなく、本当になんとなくなんだけど、品川ちゃんと御子柴さんは波長が合っているように感じたのだ。きっかけさえあれば二人は仲良くできるんじゃないかって思ったのである。あくまで俺の勘だけども。
二人を残して六年生の子達のもとへと向かった。うまくいきますように。内心ハラハラしながらもその場から離れた。
「あの漫画読みました。胸がドキドキしてすごくよかったです」
「だよね。あたしも大好きなんだ。とくに告白するシーンなんてドキドキのハラハラでね」
「すごくわかりますっ。私なんてあのシーンを読んで自分でも漫画を描いてみたいって思ったんです」
「だからこんなにも面白いものが描けるんだね。ほら、ここなんてあの時のシーンみたい」
六年生との話が終わって品川ちゃんのもとに戻ってみれば、なんだかすごく盛り上がっていた。
俺にだってあんなにスラスラと力強くしゃべってもらったことがないのに……。御子柴さんって実はすごい子なのでは?
なんて考えながら二人を眺めていると、そんな俺に気づいた品川ちゃんが急に顔を赤くして黙り込んでしまった。それに気づいた御子柴さんも振り返って俺を視認すると同じく顔を赤くして黙ってしまう。
せっかく盛り上がっていたのに話を中断させてしまったみたいで申し訳ないな。ちょっと罪悪感。
仕方がないので声をかける。さっきの雰囲気を取り戻そうとフランクな感じを心掛けてみる。
「話止めちゃったみたいでごめんね。えっと、今日するゲーム決まったから集まってほしいってさ」
「は、はい……」
「う、うん。わかった……」
またぎこちなくなってしまった。本当に申し訳ない気持ちが強くなる。
それでも、品川ちゃんがこの仲間班で俺以外にしゃべる子ができてよかったと思う。御子柴さんには感謝だな。
※ ※ ※
「トシくんといっしょのクラスになれないんだったら仲間班くらいはいっしょになりたかったなー」
「もうっ、そんなこと言わないでよ。あたしだって文句言いたいの我慢してるんだからね」
下校時、いつものように俺は葵ちゃんと瞳子ちゃんといっしょに帰路に着いていた。
二人とは仲間班で同じ班になれなかった。そのせいか活動がある日は愚痴を零してしまうのを我慢できないようだった。なだめても頬を膨らまされるだけなので収まるのを待つだけである。
「ねえねえ、今日はちょっと帰り道変えてみない?」
葵ちゃんが唐突にそんな提案をしてきた。文句が冒険心に変わったようだ。
たまに帰り道を変えることがある。大抵は葵ちゃんの気まぐれだったりするのだが、こういうちょっとした冒険は子供にはお約束である。
もちろん危険な場所に行ったり、遠いところに行こうというわけではない。少し道を変えるだけでも子供にとっては目新しい景色が見られるのだ。
そんなわけで俺と瞳子ちゃんは了承した。瞳子ちゃんはしっかりしているし、葵ちゃんからさえ目を離さなければ車に轢かれたりなどの危険はないだろう。
ちょっと道を変えるだけでも発見はあるのだ。知らなかった駄菓子屋を見つけたり、人懐っこい猫と出会ったりと案外楽しい下校となった。
ただ楽しさとは別に、今回は本当に帰り道を変えてよかったと心底思うこととなった。
「や、やめ……てっ」
決して大きな声ではなかった。それでもちゃんとこの耳に届いたのだ。
葵ちゃんと瞳子ちゃんも聞こえたようで二人して顔を見合わせている。そんな二人を置いて俺は走り出していた。
その声を知っている気がしたのだ。小さい声だったから間違えているのかもしれない。それでも焦躁感に突き動かされるように走っていた。
そして、その声の主は俺の考えた通りの人物だった。この場合は正解してほしくなかったのだが。
場所は空き地だった。住宅地の近くではあるが、見通しが悪く上手く隠れている。そんな暗い雰囲気のある場所。
日影となっている空き地にいたのは品川ちゃんだった。さっきの声は彼女のもので間違いないだろう。
そして、彼女のであろう赤いランドセルは地面に転がっており、その中身がぶちまけられていた。
品川ちゃんの周りには五人の男子がいた。そいつらは泣いている品川ちゃんを囲んで笑っていた。嘲る声が響いていた。
男子達は品川ちゃんのランドセルを蹴飛ばし、髪の毛を引っ張っていた。彼女の涙が栄養であるかのように笑いが広がる。
カッと頭に血が昇る。目の前が真っ赤になった。
「お前ら何やってんだ!!」
瞬間的に沸いてきた怒りのまま怒鳴っていた。品川ちゃんを囲んでいた五人の男子がビクリと体を震わせる。
足に力を込めてそいつらに近づいていく。近づくと品川ちゃんの涙と鼻水に濡れた顔がこちらを向いた。
「おい! お前ら何をやってた? 言ってみろよ!」
聞かなくてもわかっている。これはいじめの現場だ。完全に現行犯だった。
五人の男子の名札をさっと確認する。どうやら全員品川ちゃんと同じ四年生のようだ。
俺が五年生とわかってなのか、ほとんどの子はばつが悪そうにしていた。
その中でただ一人、俺よりも体格のいい男子がずいと俺の前に出た。おそらくこいつがリーダーなのだろう。
「誰だよお前? このガイコツメガネの友達か?」
俺の名札を見て年上だとわかっているだろうに、なんてふてぶてしい奴。それにガイコツメガネとは……。状況を考えれば品川ちゃんのことなんだろうけど、ひどいあだ名だな。やせ型ではあるがガイコツなんてそんなことはないのに。
「ああ、友達だよ。そんな俺の友達をお前らはいじめてるってことでいいのか?」
「ぷっ、ぎゃはははははっ! ガイコツメガネに友達だってよ。ギャグかよ!」
リーダーの男子に呼応して他の子達も笑い出した。とても無邪気で、とても不快な笑いだった。
思わず拳を握ってしまう。ぐっと堪えて口を開く。
「質問に答えろよ。品川ちゃんをいじめてんのか?」
「は? いじめじゃねーよ。俺達はそのガイコツメガネを掃除してやってたんだよ。なあ?」
リーダーに合わせて他の男子達がうんうんと頷く。その仕草だけ見れば子供らしい仕草だった。だけどそれは悪意に満ちていた。
ダメだ、我慢できないっ! ぶん殴ってでも自分がやってることをわからせてやろうかっ。
相手は子供だが、今の俺だって子供だ。リーダーは俺よりも体格がいいし、何より五人を一人で相手をするのは大変どころの話じゃない。
だからってそんなこと関係あるか! 品川ちゃんをこのまま放っておけるわけがない。殴り合ってでも彼女からこいつらを引き離してやらなければと思った。
「あんた達何をしてるのよ!!」
背後から飛んできた声に体が震える。振り返らなくてもわかる。瞳子ちゃんの声だ。
彼女にはこんなところに出てきてほしくなかった。いくら運動ができようと殴り合いのケンカにでもなったらひどい目に遭わされてしまうかもしれない。こいつらは女子の品川ちゃん相手でも大勢で寄ってたかっていじめられるような奴等なんだから。
「さっき大人の人達を呼んできたから。すぐに来るよ」
続いて葵ちゃんの声が聞こえる。いつもの明るい調子ではなく、俺でもびっくりするほどの平坦な声だった。
「げっ! 大人はまずいよ。森田くん逃げよう!」
大人という単語は効果てき面だったようだ。一気に慌て出したいじめっ子集団は逃げ去ってしまう。
「……」
「……」
リーダーの男子、森田だけは俺を睨みつけていた。俺も負けじと睨み返す。
少しの間睨み合った後、森田は先に逃げて行った連中を追いかけて行ってしまった。去り際に鼻で笑われてカチンときたが追いかけることはしなかった。
「トシくん大丈夫だった?」
心配そうに駆け寄ってくる葵ちゃんの声の調子はいつも通りに戻っていた。さっきの感情が抜けたような平坦な声じゃなくて安堵する。
「俊成、何があったのよ? それにその子泣いてるじゃない」
「う……うえ……うええっ……ひぐ……」
品川ちゃんは言葉にならない泣き声を漏らしていた。瞳子ちゃんが品川ちゃんの背中を摩って慰める。葵ちゃんは散らばってしまった教科書やノートを拾い集める。
品川ちゃんがこんな目に遭ってるなんて知らなかった。小学生のいじめだからって放っておけるレベルじゃない。
眉間にしわが寄ってしまう。難しい問題に直面したのがわかってしまったから。俺はどうすればいい? とにかく品川ちゃんのために何かをしなければならないと思った。
四年生になった彼女は三年生の面倒を見る立場なのだが、恥ずかしがり屋のせいで上手くコミュニケーションが取れないようだった。その代わりと言ってはなんだが、俺とはよくしゃべってくれる。
「あ、あの……これ。また描いてきたんです……」
「漫画? うん、読む読む」
品川ちゃんは自作の四コマ漫画をよく俺に見せてくれた。もちろんプロには及ばないのだろうが、俺なんかよりも断然絵が上手かった。
彼女の描く四コマ漫画はコミカルで面白い。学校のクラブ活動では漫画研究クラブに入ったとのことなので、これからもどんどん上達するのだろう。楽しみだ。
品川ちゃんの描いた漫画を夢中になって読んでいると、一人の女子が話しかけてきた。
「あ、あのっ。高木くんいいかな?」
「ん? どうしたの御子柴さん」
「六年生の人が話があるって。たぶん仲間班で何しようかって話じゃないかな……」
俺に話しかけてきたのは五年二組の御子柴楓さんだった。葵ちゃんや瞳子ちゃんと同じクラスの女の子である。
確か去年から小川さんのグループにいる女の子だ。明るい子ばかりが集まっている小川さんのグループの中で、彼女は物静かだったからちょっと目についてはいたのだ。
なんというか、前世での葵ちゃんが今の御子柴さんの立ち位置だった気がする。クラスの中心グループに所属しながらも物静かで決して目立とうとはしない。それでも葵ちゃんの場合はその美貌のために人の目を惹いていたんだけどね。
そう考えれば、前世よりも今の葵ちゃんの方が明るい性格になっている気がする。いやまあ、前世では接する機会自体がそうなかったんだけども。遠くから眺めるだけの高嶺の花だったんだよな。
おっと、そんなこと考えてる場合じゃないな。六年生の子達も毎回何をしようかと仲間班活動に頭を悩ませているのだろう。俺はよく何か案がないかと相談されているのだ。
俺が行こうとすると、品川ちゃんの眼鏡の奥の瞳が揺れたのがわかった。それは不安がっているようで、一人になりたくないのだろうと思った。
「御子柴さん」
「な、何?」
「これ、品川ちゃんが描いた漫画なんだけどすごく面白いよ。読んでみない?」
「え? う、うん……?」
よくわからないといった感じながらも、御子柴さんが品川ちゃんが描いた漫画のノートを受け取る。品川ちゃんはあたふたしていたけれど、そこから何かを言うことはなかった。
なんとなく、本当になんとなくなんだけど、品川ちゃんと御子柴さんは波長が合っているように感じたのだ。きっかけさえあれば二人は仲良くできるんじゃないかって思ったのである。あくまで俺の勘だけども。
二人を残して六年生の子達のもとへと向かった。うまくいきますように。内心ハラハラしながらもその場から離れた。
「あの漫画読みました。胸がドキドキしてすごくよかったです」
「だよね。あたしも大好きなんだ。とくに告白するシーンなんてドキドキのハラハラでね」
「すごくわかりますっ。私なんてあのシーンを読んで自分でも漫画を描いてみたいって思ったんです」
「だからこんなにも面白いものが描けるんだね。ほら、ここなんてあの時のシーンみたい」
六年生との話が終わって品川ちゃんのもとに戻ってみれば、なんだかすごく盛り上がっていた。
俺にだってあんなにスラスラと力強くしゃべってもらったことがないのに……。御子柴さんって実はすごい子なのでは?
なんて考えながら二人を眺めていると、そんな俺に気づいた品川ちゃんが急に顔を赤くして黙り込んでしまった。それに気づいた御子柴さんも振り返って俺を視認すると同じく顔を赤くして黙ってしまう。
せっかく盛り上がっていたのに話を中断させてしまったみたいで申し訳ないな。ちょっと罪悪感。
仕方がないので声をかける。さっきの雰囲気を取り戻そうとフランクな感じを心掛けてみる。
「話止めちゃったみたいでごめんね。えっと、今日するゲーム決まったから集まってほしいってさ」
「は、はい……」
「う、うん。わかった……」
またぎこちなくなってしまった。本当に申し訳ない気持ちが強くなる。
それでも、品川ちゃんがこの仲間班で俺以外にしゃべる子ができてよかったと思う。御子柴さんには感謝だな。
※ ※ ※
「トシくんといっしょのクラスになれないんだったら仲間班くらいはいっしょになりたかったなー」
「もうっ、そんなこと言わないでよ。あたしだって文句言いたいの我慢してるんだからね」
下校時、いつものように俺は葵ちゃんと瞳子ちゃんといっしょに帰路に着いていた。
二人とは仲間班で同じ班になれなかった。そのせいか活動がある日は愚痴を零してしまうのを我慢できないようだった。なだめても頬を膨らまされるだけなので収まるのを待つだけである。
「ねえねえ、今日はちょっと帰り道変えてみない?」
葵ちゃんが唐突にそんな提案をしてきた。文句が冒険心に変わったようだ。
たまに帰り道を変えることがある。大抵は葵ちゃんの気まぐれだったりするのだが、こういうちょっとした冒険は子供にはお約束である。
もちろん危険な場所に行ったり、遠いところに行こうというわけではない。少し道を変えるだけでも子供にとっては目新しい景色が見られるのだ。
そんなわけで俺と瞳子ちゃんは了承した。瞳子ちゃんはしっかりしているし、葵ちゃんからさえ目を離さなければ車に轢かれたりなどの危険はないだろう。
ちょっと道を変えるだけでも発見はあるのだ。知らなかった駄菓子屋を見つけたり、人懐っこい猫と出会ったりと案外楽しい下校となった。
ただ楽しさとは別に、今回は本当に帰り道を変えてよかったと心底思うこととなった。
「や、やめ……てっ」
決して大きな声ではなかった。それでもちゃんとこの耳に届いたのだ。
葵ちゃんと瞳子ちゃんも聞こえたようで二人して顔を見合わせている。そんな二人を置いて俺は走り出していた。
その声を知っている気がしたのだ。小さい声だったから間違えているのかもしれない。それでも焦躁感に突き動かされるように走っていた。
そして、その声の主は俺の考えた通りの人物だった。この場合は正解してほしくなかったのだが。
場所は空き地だった。住宅地の近くではあるが、見通しが悪く上手く隠れている。そんな暗い雰囲気のある場所。
日影となっている空き地にいたのは品川ちゃんだった。さっきの声は彼女のもので間違いないだろう。
そして、彼女のであろう赤いランドセルは地面に転がっており、その中身がぶちまけられていた。
品川ちゃんの周りには五人の男子がいた。そいつらは泣いている品川ちゃんを囲んで笑っていた。嘲る声が響いていた。
男子達は品川ちゃんのランドセルを蹴飛ばし、髪の毛を引っ張っていた。彼女の涙が栄養であるかのように笑いが広がる。
カッと頭に血が昇る。目の前が真っ赤になった。
「お前ら何やってんだ!!」
瞬間的に沸いてきた怒りのまま怒鳴っていた。品川ちゃんを囲んでいた五人の男子がビクリと体を震わせる。
足に力を込めてそいつらに近づいていく。近づくと品川ちゃんの涙と鼻水に濡れた顔がこちらを向いた。
「おい! お前ら何をやってた? 言ってみろよ!」
聞かなくてもわかっている。これはいじめの現場だ。完全に現行犯だった。
五人の男子の名札をさっと確認する。どうやら全員品川ちゃんと同じ四年生のようだ。
俺が五年生とわかってなのか、ほとんどの子はばつが悪そうにしていた。
その中でただ一人、俺よりも体格のいい男子がずいと俺の前に出た。おそらくこいつがリーダーなのだろう。
「誰だよお前? このガイコツメガネの友達か?」
俺の名札を見て年上だとわかっているだろうに、なんてふてぶてしい奴。それにガイコツメガネとは……。状況を考えれば品川ちゃんのことなんだろうけど、ひどいあだ名だな。やせ型ではあるがガイコツなんてそんなことはないのに。
「ああ、友達だよ。そんな俺の友達をお前らはいじめてるってことでいいのか?」
「ぷっ、ぎゃはははははっ! ガイコツメガネに友達だってよ。ギャグかよ!」
リーダーの男子に呼応して他の子達も笑い出した。とても無邪気で、とても不快な笑いだった。
思わず拳を握ってしまう。ぐっと堪えて口を開く。
「質問に答えろよ。品川ちゃんをいじめてんのか?」
「は? いじめじゃねーよ。俺達はそのガイコツメガネを掃除してやってたんだよ。なあ?」
リーダーに合わせて他の男子達がうんうんと頷く。その仕草だけ見れば子供らしい仕草だった。だけどそれは悪意に満ちていた。
ダメだ、我慢できないっ! ぶん殴ってでも自分がやってることをわからせてやろうかっ。
相手は子供だが、今の俺だって子供だ。リーダーは俺よりも体格がいいし、何より五人を一人で相手をするのは大変どころの話じゃない。
だからってそんなこと関係あるか! 品川ちゃんをこのまま放っておけるわけがない。殴り合ってでも彼女からこいつらを引き離してやらなければと思った。
「あんた達何をしてるのよ!!」
背後から飛んできた声に体が震える。振り返らなくてもわかる。瞳子ちゃんの声だ。
彼女にはこんなところに出てきてほしくなかった。いくら運動ができようと殴り合いのケンカにでもなったらひどい目に遭わされてしまうかもしれない。こいつらは女子の品川ちゃん相手でも大勢で寄ってたかっていじめられるような奴等なんだから。
「さっき大人の人達を呼んできたから。すぐに来るよ」
続いて葵ちゃんの声が聞こえる。いつもの明るい調子ではなく、俺でもびっくりするほどの平坦な声だった。
「げっ! 大人はまずいよ。森田くん逃げよう!」
大人という単語は効果てき面だったようだ。一気に慌て出したいじめっ子集団は逃げ去ってしまう。
「……」
「……」
リーダーの男子、森田だけは俺を睨みつけていた。俺も負けじと睨み返す。
少しの間睨み合った後、森田は先に逃げて行った連中を追いかけて行ってしまった。去り際に鼻で笑われてカチンときたが追いかけることはしなかった。
「トシくん大丈夫だった?」
心配そうに駆け寄ってくる葵ちゃんの声の調子はいつも通りに戻っていた。さっきの感情が抜けたような平坦な声じゃなくて安堵する。
「俊成、何があったのよ? それにその子泣いてるじゃない」
「う……うえ……うええっ……ひぐ……」
品川ちゃんは言葉にならない泣き声を漏らしていた。瞳子ちゃんが品川ちゃんの背中を摩って慰める。葵ちゃんは散らばってしまった教科書やノートを拾い集める。
品川ちゃんがこんな目に遭ってるなんて知らなかった。小学生のいじめだからって放っておけるレベルじゃない。
眉間にしわが寄ってしまう。難しい問題に直面したのがわかってしまったから。俺はどうすればいい? とにかく品川ちゃんのために何かをしなければならないと思った。
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