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第一部
52.先生が家庭訪問をしているようですよ
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新年度を迎え、俺は新しいクラスを受け持つこととなった。
五年二組の担任。それが俺、多賀恭平だ。
五年生は体も心も成長著しい学年だ。俺のような若手(二十八歳)でなければ体力的にきついだろう。
……などと思っていたのだが、とくに問題のないまま一か月が過ぎ、家庭訪問の時期を迎えた。
家庭訪問は数日にわたって行われる。通学路を確認しながら生徒達の家へと向かって行く。
今日訪問する家を思うと多少なりとも緊張してしまう。なぜなら今日訪問する生徒はクラスの中心的な存在だからだ。
宮坂葵と木之下瞳子。この二人の家庭訪問には否応なく緊張してしまう。
どちらも男女ともに人気のある生徒だからな。下手なことをして嫌われでもしたら俺の担任としての立場がない。
昨日は小川真奈美の家に行ったばかりだっていうのにな。五年二組はタレント揃いで大変なのだ。やはり俺のような若手(二十八歳)でなければ務まるまい。
まずは宮坂葵の家だ。外観は普通の一軒家のようだった。
「先生いらっしゃい」
インターホンを押すと宮坂が玄関を開けて笑顔で出迎えてくれる。なんて良い子なのだろうか。
宮坂葵はかなりの美少女だ。教師になってからこれほどまでにかわいい小学生を見たことがなかった。
長い黒髪はつやつやで見るだけで髪質の良さが伝わってくる。パッチリと大きな目は見つめているだけで吸い込まれそうだ。そして、しっかりと成長している胸は同学年の中ではダントツで大きかった。
おっと、いかんいかん。生徒に見惚れるわけにはいかんぞ俺。
それにしても早めに帰宅できるのをいいことに遊びに行く生徒が多い中、わざわざ俺を出迎えてくれるとはな。やはり若い(二十八歳)男性の教師というのは女子生徒に人気なのだろう。いやはやまいったな。
「先生こんにちは。どうぞ、上がってくださいな」
「ええ、お邪魔しま……す」
家に入って女性の姿を見た。そこで俺は固まってしまう。
なんだこの人は!? めちゃくちゃ美人じゃないかい!!
宮坂葵とよく似た女性だった。いや、よく考えなくても母親だろう。だが母親と思えないほどに若い。本当に子持ちなのか?
「先生? どうされました?」
「あ……い、いえ! 大丈夫です! なんのご心配もありませんですよ!」
美人に顔を覗き込まれて意識を取り戻す。というか俺は意識を飛ばしていたらしい。焦ってしまって舌が変な感じだ。
リビングに案内される。宮坂のお母さんの後姿を眺めながら何度も頷く。
宮坂のお母さんか……。なるほど納得の美しさだ。宮坂葵はただでさえかわいいと思っていたが、もっと大きくなるとこれほどまでに……いや、もしかしたら母親以上になるのかもしれない。それほどのポテンシャルがまだ少女である彼女には感じられた。
そんな少女に慕われていると思うとなかなかに気分がいい。やはりここは若さ(二十八歳)をアピールだな。
リビングのテーブルに案内される。宮坂葵はケーキと飲み物を俺のために運んできてくれた。
「お構いなく」
そう言いながらも内心嬉しかった。ここまでしてくれるなんて俺のことが好きなんだな。このくらいの時期の女子は子供っぽい同級生よりも年上の男の方に魅力を感じると聞く。つまりはそういうことなのだろう。
「じゃあお母さん。私トシくんのところに行ってくるね」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」
母娘のそんなやり取りを眺めていると、宮坂は部屋を出て行ってしまった。
「あ、あれ? 娘さんはいっしょではないのですか?」
「え? いっしょじゃなければならないんですか?」
逆に尋ねられて「そんなことないです」と答えるので精一杯だった。
俺ってやつは何を期待しとるのだ。子供なんてこんなものだろうに。ま、まあ宮坂が俺に好印象を持っているのは間違いないはずだ。なんたって若い(二十八歳)男性教師だからな。
それに、この美人ママと二人きりになれたのだ。むしろ役得ではないか。
時間も限られているので手早く話を始める。
学校での宮坂はまさに「良い子」である。授業は真面目に聞いているし、日直などの面倒な仕事もしっかりとこなしてくれる。
とくにありがたいのは、どんなことでも騒いでしまう男子も彼女の一言さえあれば大人しくなってくれるということだ。ちょうど男女という性別を意識し始める時期というのもあり、宮坂葵のかわいさは抑止力として働いていた。
「そういえば、休み時間では同じ男の子といっしょにいるのをよく見かけますね。えーと……誰だったかな。クラスが違う子みたいでして」
「ああ、それは俊成くんね」
俊成? 誰だそれは?
お母さんの口から出るのだから仲良しの子なのだろう。近所の子なのか?
まだ今の学年を受け持って一か月といったところ。なんとか自分のクラスの生徒は覚えられたが、他はまだまだだ。本郷永人のように目立つ生徒ならわかるのだが。
「ははは、お母さんの知っている子でしたか。仲良しのお友達なんですね」
「うふふ、お友達というより葵の意中の男の子なんですよ」
「え」
学年、いや学校内でも一、二を争うほどの美少女に好かれている男子だと? そんなイケメンではなかったと思うのだが……。
記憶を思い返していると、その俊成という男子のことは宮坂のお母さんが嬉しそうに教えてくれた。
いわく、娘が小さい頃から大好きな男の子なのだとか。つまりは幼馴染というやつか。
まあ子供の頃の初恋なんて実るものでもないだろう。お母さんのしゃべり口調も軽いものになっているし、娘の初恋を微笑ましいもの程度に考えているのだろう。
あっという間に時間がきてしまい、次のお宅に向かうと告げて宮坂家を後にした。
いやあ、それにしても宮坂のお母さんは美人だったな。今もまだ顔がにやけているのがわかる。
宮坂のお母さんだって俺のような若い(二十八歳)男と話ができて楽しんでくれたに違いない。半分以上は娘ではなくて俊成という男の子の話ばかりになっていたが、これは流れで仕方がなかったな。うん。
それから次に向かったのは木之下瞳子の家だ。
小川真奈美、宮坂葵、そして木之下瞳子。それが女子のグループでのトップにいる三人だ。
小川はとくに女子の友達が多い。宮坂は男子からの支持率が高い。その点で比べれば木之下にはそこまで友達が集まっているという印象はない。
ただそれは目立っていないというだけだ。木之下瞳子は大人しくて目立たない子に対しての面倒見がよかった。
同じクラスの御子柴という女子を中心に、大人しめの子達は木之下に懐いているように見えた。聞いた話だが、低学年の頃から木之下はいじめっ子から次々といじめられた子達を助けていたようだ。
家庭訪問をしていた中でも木之下瞳子の名前が挙がることが多かった。小川や宮坂に比べれば数は少ないかもしれないが、慕われている深さという一点で考えるのなら彼女が一番かもしれなかった。
それに、木之下瞳子も宮坂葵とそん色がないほどの美少女なんだよな。あれほどのレベルが二人同時に同じクラスにいるだなんて奇跡的と言えた。
ハーフらしく、銀髪に青い瞳をしている。処女雪のような白い肌にバランスよく整えられたかのような顔立ちをしている。均整の取れた体つきは運動のできる彼女らしかった。
ちょっと吊り目で目力が強いのだが、見つめられていると癖になりそうなのだ。授業をしていると視線を感じてゾクゾクしているのは俺だけの秘密だ。
木之下瞳子も宮坂葵と同じく俺を出迎えてくれるだろうか。ああいう強気な子にそんな献身的なことをされたらと思うと顔がにやけてしまう。
木之下家に到着する。なかなかに広い家だ。庭も広い。停められている車は立派なものに見える。これだけで裕福な家庭なのだとわかる。
「お待ちしてマシタ。どうぞ、上がってクダサイ」
わかってはいたが外国人である。娘と同じ綺麗な銀髪に青い瞳だ。日本語は問題なく話せるようで一安心する。
それにしても、これまた美人だ。宮坂のお母さんもモデル並だと思ったが、こちらも負けていない。服の上からでもプロポーションがいいのがわかってしまう。さすがは外国人の美人は迫力が違う。
「どうされマシタ?」
「あ、いえすみません。担任の多賀恭平二十八歳です! ……お邪魔しますっ」
また見惚れてしまい固まっていたようだ。慌てていたせいで自己紹介してしまった。宮坂のお母さんで抵抗力をつけたと思ったのだが、別種の美貌にやられてしまったようだ。
案内されて通されたのは和室だった。畳でのおもてなしとは驚かされた。そう思ってしまうのは相手が外国人だという認識があったからだろうな。その認識は修正しておいた方がよさそうだ。
テーブルの上には何もなかった。木之下が飲み物でも持ってきてくれるのではないかと期待していたが、そんな様子もない。別に口をつけるつもりはないのだが期待してしまうのだ。
「あの、娘さんはご在宅ではないのですか?」
「瞳子はスイミングスクールに行ってマスネ」
習い事か。それなら仕方がないだろう。
いやまあ基本家庭訪問は保護者と話ができればいいからな。うん、問題ないぞ。むしろ美人と二人きりだ。これはこれで嬉しいぞ。
学校での生活態度や授業への取り組み方。親が知りたいであろう学校での子供の姿を話した。木之下はしっかり者のようで、忘れ物もしないので一番安心できる生徒なのだ。
「ふむふむ……、それで学校で瞳子はトシナリにどんなアピールをしているのデスカ?」
「は? アピールですか?」
俊成という名前はさっきも聞いた。まさかと思いつつも続きを促す。
「トシナリは瞳子にとって大切な人デスカラ。ガンガン攻めてほしいと思ってマス」
そう言って木之下のお母さんはころころと笑った。俺よりも年上のはずだが、笑っている姿は子供っぽくもあった。
それからはその俊成という子の話題ばかりになってしまった。わかったのは彼が木之下瞳子の幼馴染ということだ。あれ? さっきも似たような話を聞かなかったか?
話が盛り上がってしまい(木之下のお母さんだけだが)時間がきて家を出なければならなくなった。木之下の家での様子などを聞きたかったのだが。宮坂と同じく聞ける様子でもないし時間もない。
これはさすがに若い(二十八歳)俺でもやつれてしまいそうなほどに疲れた。なぜ自分のクラスの生徒の家庭訪問をして他のクラスの子の話を聞かなければならないのか。しかも二軒連続で。
だが、これだけ話を聞いているうちに思い出した。俊成とは高木俊成という男子のことだ。
勉強ができて運動もできる。人当たりも良いので教師から信頼されている男子だ。あくまで他の先生から聞いた話なのだが、そんな俺でもそれくらいの情報は入ってくる生徒だった。
確か昨年度に結婚して退職した先輩が言ってた。「結婚できたのは高木くんのおかげだわ」と。一体何があったんだか。
イケメンで行動力のある本郷永人のように前に出て目立っている生徒ではない。しかし信頼されている生徒ではあるようだ。
ただまあ、まず俺が思ったことがあるとすればこれだ。
「美少女二人に好かれるなんて羨まし過ぎる! 爆発すればいいのに!!」
大人げないとわかっていながら、小学生の男子相手にそんなことを思ってしまったのだった。
五年二組の担任。それが俺、多賀恭平だ。
五年生は体も心も成長著しい学年だ。俺のような若手(二十八歳)でなければ体力的にきついだろう。
……などと思っていたのだが、とくに問題のないまま一か月が過ぎ、家庭訪問の時期を迎えた。
家庭訪問は数日にわたって行われる。通学路を確認しながら生徒達の家へと向かって行く。
今日訪問する家を思うと多少なりとも緊張してしまう。なぜなら今日訪問する生徒はクラスの中心的な存在だからだ。
宮坂葵と木之下瞳子。この二人の家庭訪問には否応なく緊張してしまう。
どちらも男女ともに人気のある生徒だからな。下手なことをして嫌われでもしたら俺の担任としての立場がない。
昨日は小川真奈美の家に行ったばかりだっていうのにな。五年二組はタレント揃いで大変なのだ。やはり俺のような若手(二十八歳)でなければ務まるまい。
まずは宮坂葵の家だ。外観は普通の一軒家のようだった。
「先生いらっしゃい」
インターホンを押すと宮坂が玄関を開けて笑顔で出迎えてくれる。なんて良い子なのだろうか。
宮坂葵はかなりの美少女だ。教師になってからこれほどまでにかわいい小学生を見たことがなかった。
長い黒髪はつやつやで見るだけで髪質の良さが伝わってくる。パッチリと大きな目は見つめているだけで吸い込まれそうだ。そして、しっかりと成長している胸は同学年の中ではダントツで大きかった。
おっと、いかんいかん。生徒に見惚れるわけにはいかんぞ俺。
それにしても早めに帰宅できるのをいいことに遊びに行く生徒が多い中、わざわざ俺を出迎えてくれるとはな。やはり若い(二十八歳)男性の教師というのは女子生徒に人気なのだろう。いやはやまいったな。
「先生こんにちは。どうぞ、上がってくださいな」
「ええ、お邪魔しま……す」
家に入って女性の姿を見た。そこで俺は固まってしまう。
なんだこの人は!? めちゃくちゃ美人じゃないかい!!
宮坂葵とよく似た女性だった。いや、よく考えなくても母親だろう。だが母親と思えないほどに若い。本当に子持ちなのか?
「先生? どうされました?」
「あ……い、いえ! 大丈夫です! なんのご心配もありませんですよ!」
美人に顔を覗き込まれて意識を取り戻す。というか俺は意識を飛ばしていたらしい。焦ってしまって舌が変な感じだ。
リビングに案内される。宮坂のお母さんの後姿を眺めながら何度も頷く。
宮坂のお母さんか……。なるほど納得の美しさだ。宮坂葵はただでさえかわいいと思っていたが、もっと大きくなるとこれほどまでに……いや、もしかしたら母親以上になるのかもしれない。それほどのポテンシャルがまだ少女である彼女には感じられた。
そんな少女に慕われていると思うとなかなかに気分がいい。やはりここは若さ(二十八歳)をアピールだな。
リビングのテーブルに案内される。宮坂葵はケーキと飲み物を俺のために運んできてくれた。
「お構いなく」
そう言いながらも内心嬉しかった。ここまでしてくれるなんて俺のことが好きなんだな。このくらいの時期の女子は子供っぽい同級生よりも年上の男の方に魅力を感じると聞く。つまりはそういうことなのだろう。
「じゃあお母さん。私トシくんのところに行ってくるね」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」
母娘のそんなやり取りを眺めていると、宮坂は部屋を出て行ってしまった。
「あ、あれ? 娘さんはいっしょではないのですか?」
「え? いっしょじゃなければならないんですか?」
逆に尋ねられて「そんなことないです」と答えるので精一杯だった。
俺ってやつは何を期待しとるのだ。子供なんてこんなものだろうに。ま、まあ宮坂が俺に好印象を持っているのは間違いないはずだ。なんたって若い(二十八歳)男性教師だからな。
それに、この美人ママと二人きりになれたのだ。むしろ役得ではないか。
時間も限られているので手早く話を始める。
学校での宮坂はまさに「良い子」である。授業は真面目に聞いているし、日直などの面倒な仕事もしっかりとこなしてくれる。
とくにありがたいのは、どんなことでも騒いでしまう男子も彼女の一言さえあれば大人しくなってくれるということだ。ちょうど男女という性別を意識し始める時期というのもあり、宮坂葵のかわいさは抑止力として働いていた。
「そういえば、休み時間では同じ男の子といっしょにいるのをよく見かけますね。えーと……誰だったかな。クラスが違う子みたいでして」
「ああ、それは俊成くんね」
俊成? 誰だそれは?
お母さんの口から出るのだから仲良しの子なのだろう。近所の子なのか?
まだ今の学年を受け持って一か月といったところ。なんとか自分のクラスの生徒は覚えられたが、他はまだまだだ。本郷永人のように目立つ生徒ならわかるのだが。
「ははは、お母さんの知っている子でしたか。仲良しのお友達なんですね」
「うふふ、お友達というより葵の意中の男の子なんですよ」
「え」
学年、いや学校内でも一、二を争うほどの美少女に好かれている男子だと? そんなイケメンではなかったと思うのだが……。
記憶を思い返していると、その俊成という男子のことは宮坂のお母さんが嬉しそうに教えてくれた。
いわく、娘が小さい頃から大好きな男の子なのだとか。つまりは幼馴染というやつか。
まあ子供の頃の初恋なんて実るものでもないだろう。お母さんのしゃべり口調も軽いものになっているし、娘の初恋を微笑ましいもの程度に考えているのだろう。
あっという間に時間がきてしまい、次のお宅に向かうと告げて宮坂家を後にした。
いやあ、それにしても宮坂のお母さんは美人だったな。今もまだ顔がにやけているのがわかる。
宮坂のお母さんだって俺のような若い(二十八歳)男と話ができて楽しんでくれたに違いない。半分以上は娘ではなくて俊成という男の子の話ばかりになっていたが、これは流れで仕方がなかったな。うん。
それから次に向かったのは木之下瞳子の家だ。
小川真奈美、宮坂葵、そして木之下瞳子。それが女子のグループでのトップにいる三人だ。
小川はとくに女子の友達が多い。宮坂は男子からの支持率が高い。その点で比べれば木之下にはそこまで友達が集まっているという印象はない。
ただそれは目立っていないというだけだ。木之下瞳子は大人しくて目立たない子に対しての面倒見がよかった。
同じクラスの御子柴という女子を中心に、大人しめの子達は木之下に懐いているように見えた。聞いた話だが、低学年の頃から木之下はいじめっ子から次々といじめられた子達を助けていたようだ。
家庭訪問をしていた中でも木之下瞳子の名前が挙がることが多かった。小川や宮坂に比べれば数は少ないかもしれないが、慕われている深さという一点で考えるのなら彼女が一番かもしれなかった。
それに、木之下瞳子も宮坂葵とそん色がないほどの美少女なんだよな。あれほどのレベルが二人同時に同じクラスにいるだなんて奇跡的と言えた。
ハーフらしく、銀髪に青い瞳をしている。処女雪のような白い肌にバランスよく整えられたかのような顔立ちをしている。均整の取れた体つきは運動のできる彼女らしかった。
ちょっと吊り目で目力が強いのだが、見つめられていると癖になりそうなのだ。授業をしていると視線を感じてゾクゾクしているのは俺だけの秘密だ。
木之下瞳子も宮坂葵と同じく俺を出迎えてくれるだろうか。ああいう強気な子にそんな献身的なことをされたらと思うと顔がにやけてしまう。
木之下家に到着する。なかなかに広い家だ。庭も広い。停められている車は立派なものに見える。これだけで裕福な家庭なのだとわかる。
「お待ちしてマシタ。どうぞ、上がってクダサイ」
わかってはいたが外国人である。娘と同じ綺麗な銀髪に青い瞳だ。日本語は問題なく話せるようで一安心する。
それにしても、これまた美人だ。宮坂のお母さんもモデル並だと思ったが、こちらも負けていない。服の上からでもプロポーションがいいのがわかってしまう。さすがは外国人の美人は迫力が違う。
「どうされマシタ?」
「あ、いえすみません。担任の多賀恭平二十八歳です! ……お邪魔しますっ」
また見惚れてしまい固まっていたようだ。慌てていたせいで自己紹介してしまった。宮坂のお母さんで抵抗力をつけたと思ったのだが、別種の美貌にやられてしまったようだ。
案内されて通されたのは和室だった。畳でのおもてなしとは驚かされた。そう思ってしまうのは相手が外国人だという認識があったからだろうな。その認識は修正しておいた方がよさそうだ。
テーブルの上には何もなかった。木之下が飲み物でも持ってきてくれるのではないかと期待していたが、そんな様子もない。別に口をつけるつもりはないのだが期待してしまうのだ。
「あの、娘さんはご在宅ではないのですか?」
「瞳子はスイミングスクールに行ってマスネ」
習い事か。それなら仕方がないだろう。
いやまあ基本家庭訪問は保護者と話ができればいいからな。うん、問題ないぞ。むしろ美人と二人きりだ。これはこれで嬉しいぞ。
学校での生活態度や授業への取り組み方。親が知りたいであろう学校での子供の姿を話した。木之下はしっかり者のようで、忘れ物もしないので一番安心できる生徒なのだ。
「ふむふむ……、それで学校で瞳子はトシナリにどんなアピールをしているのデスカ?」
「は? アピールですか?」
俊成という名前はさっきも聞いた。まさかと思いつつも続きを促す。
「トシナリは瞳子にとって大切な人デスカラ。ガンガン攻めてほしいと思ってマス」
そう言って木之下のお母さんはころころと笑った。俺よりも年上のはずだが、笑っている姿は子供っぽくもあった。
それからはその俊成という子の話題ばかりになってしまった。わかったのは彼が木之下瞳子の幼馴染ということだ。あれ? さっきも似たような話を聞かなかったか?
話が盛り上がってしまい(木之下のお母さんだけだが)時間がきて家を出なければならなくなった。木之下の家での様子などを聞きたかったのだが。宮坂と同じく聞ける様子でもないし時間もない。
これはさすがに若い(二十八歳)俺でもやつれてしまいそうなほどに疲れた。なぜ自分のクラスの生徒の家庭訪問をして他のクラスの子の話を聞かなければならないのか。しかも二軒連続で。
だが、これだけ話を聞いているうちに思い出した。俊成とは高木俊成という男子のことだ。
勉強ができて運動もできる。人当たりも良いので教師から信頼されている男子だ。あくまで他の先生から聞いた話なのだが、そんな俺でもそれくらいの情報は入ってくる生徒だった。
確か昨年度に結婚して退職した先輩が言ってた。「結婚できたのは高木くんのおかげだわ」と。一体何があったんだか。
イケメンで行動力のある本郷永人のように前に出て目立っている生徒ではない。しかし信頼されている生徒ではあるようだ。
ただまあ、まず俺が思ったことがあるとすればこれだ。
「美少女二人に好かれるなんて羨まし過ぎる! 爆発すればいいのに!!」
大人げないとわかっていながら、小学生の男子相手にそんなことを思ってしまったのだった。
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