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第一部
27.たくましい子
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四年生にもなれば年下の面倒を見たりもする。
朝の登校では下級生を見てやらなければならない。前を見ていなかったり、危ない子は突然道路を飛びだそうとする。事故に遭わないためにも注意してやらなければならないのだ。
「ほらほらー。危ないからちゃんと前見ろよー」
俺が注意すると低学年の子達がきゃっきゃと笑う。
「はーい、わかりましたー」
「わかってるよトシ兄ちゃん」
「トシお兄ちゃんこそ葵お姉ちゃんの方ばっかりみてたらいけないんだよー」
「いけないんだー」
低学年の子達にからかわれてしまうとは。なんだかやり返された気分。ちゃんと注意を聞いてくれているからいいけどさ。
「私の方ばっかり見てるの?」
「……ばっかりじゃないですよ。ちゃんと前見てます」
隣にいる葵ちゃんに悪戯っぽく微笑まれる。からかわれると言っても低学年の子達からならそう慌てるものでもないらしい。
今でも登校中では葵ちゃんと手を繋ぎながら歩いている。もう注意力がなくて事故に遭う心配はなさそうなのだが、一度習慣化してしまえばそれをやめるというのは難しかった。
「トシ兄ちゃんと葵姉ちゃん仲良しだなー」
「違うよ。ラブラブなんだよ」
「あっちっちー。あっちっちっだー」
俺と葵ちゃんを見て下級生が騒ぎだす。はいはい前向いて歩こうねー。
兄ちゃんと呼ばれるのは新鮮だ。ちょっと照れくさいが慕われている感じがして嬉しい。兄妹がいないから余計にそう思うのかな。
ちなみにトシと呼ばれるのは完全に葵ちゃんの影響である。子供ってそういうところまでマネしたがるもんなんだな。
「おい、うるさいぞ。こっから車通りが多くなるんだからな」
「ごめんね野沢くん。ほらー、みんなちゃんと前見てないと車に轢かれちゃうぞー」
班長の男子に注意されてしまう。俺は低学年の子達に注意を促す。
今年の登校の班長は六年生の野沢拓海という男の子である。名字から察せられるかもしれないが、野沢先輩の弟さんである。
俺が一年生の時は彼は三年生だった。その時は子供らしくてかわいかった印象なのだが、最上級生ともなれば責任が芽生えるのかビシビシ注意してくる。さすがは高学年だ。
「おい高木! 車がきてるぞ。宮坂と手を離して端へ寄れ」
細い道に入ったところで車がきた。この道は車が一台分しか通れないくらいの幅しかないので、いざきてしまうと一列になって端に寄らなければならなかった。
細い道の通学路というのもあり普段はほとんど車がこない道なんだけどな。仕方がないから葵ちゃんから手を離そうとして、ぎゅっと握られてしまった。
「葵ちゃん?」
「くっつけば大丈夫だよ」
ニッコリと笑う葵ちゃんだった。車がゆっくりと通過する。葵ちゃんは車が通過するまで俺に身を寄せていた。
「おい! 手を離せって言っただろ!」
野沢くんが怒った。姉とは違って彼はちょっと怒りっぽい。
「ごめんなさい。私が手を離したくなかったの。ダメ、ですか?」
「うっ……」
葵ちゃんの言葉に野沢くんはたじろいだ。超絶かわいい葵ちゃんにそんな風に言われてしまえば、大抵の男子はダメだなんて口にはできない。
「しょうがねえな」と渋々ながらも引き下がる野沢くんを見て、葵ちゃんは俺にしかわからないようにぺろっと舌を出した。なんかたくましくなったね葵ちゃん。
小さい頃は男の子という存在が本当に苦手だった彼女だけれど、学年が上がるごとに苦手意識がなくなっていったようだった。葵ちゃんの美貌もあってか、もう彼女をいじめようとする男子はいなくなっていた。
学校に着いて低学年の子達を見送ってから下駄箱へと向かう。靴を脱いだところでばんっ、と勢いよく後ろから両肩を掴まれた。
何事!? 驚き過ぎて悲鳴を漏らす暇さえなかった。振り返ると小川さんがいた。
「高木くんちょうどよかったわ! お願い、国語の教科書貸してー」
「はい?」
「今日一時間目から国語があるのに忘れちゃったのよー。すぐ返すから貸して!」
両手を合わせてお願いのポーズをされる。小川さんには未だに身長で負けているので、お願いと言いつつ迫ってくる姿はまるで強迫されているようであった。
「まあ、国語は四時間目だからいいけど」
「ほんと? よかった~」
小川さんとは三年生の時に同じ組だった。けっこう忘れ物が多い子だったために、去年は毎回その癖をなくすように言い聞かせていたのだが。クラスが別になってまた忘れ物癖が発症してしまったらしい。
そんな風に彼女の忘れ物を注意していたからなのだろう。四年生になっても俺に頼りにきたようだ。
「真奈美ちゃん?」
「わっ!? あ、あおっち?」
ぽん、と小川さんの肩に葵ちゃんの手が置かれる。どうやら小川さんは葵ちゃんに気づいていなかったようだ。
「忘れ物したんだったら私が教科書を貸してあげるよ。ね?」
「あ、うん……。借りられればどっちでもいいんだけど」
「じゃあ私が貸してあげるね」
俺はランドセルの中に入れていた手を引っ込めた。物の貸し借りなら同性同士の方がいいだろう。
葵ちゃんから国語の教科書を借りると、小川さんは「ありがとー」と手を振りながら自分の教室へと走り去ってしまった。廊下を走っちゃダメでしょうに。
まったく小川さんはそそっかしいな。でもあれくらい隙があった方が付き合いやすいのかもしれない。前世の通り、彼女には友達がたくさんいるみたいだしな。
「トシくんは優しいよね」
「うん?」
葵ちゃんがぽつりと言った。聞き返そうとする前に手を握られた。
「葵ちゃん?」
登校中では手を繋ぐけれども、学校に着いてまではあまりない。それこそ瞳子ちゃんがいれば対抗するように手を握ってくるのだが、今日はまだ姿を見ていなかった。
「教室に行こっか」
「あ、うん」
笑顔でそう言われてしまえば聞き返すこともできない。俺は葵ちゃんに手を引かれながら教室へと向かった。
四年二組の教室前で瞳子ちゃんと小川さんが何やら話をしていた。小川さんが国語の教科書を持っているのを見るに、自分の教室に行く前に瞳子ちゃんに呼び止められたのだろうか。
「それじゃあよろしくね小川さん」
「わかってるよー。きのぴーは心配性だよね」
きのぴー? それって瞳子ちゃんのことか? 小川さんからあだ名で呼ばれているなんて、あの二人って仲良かったっけ?
珍しい組み合わせを見て固まってしまっていたのだろう。瞳子ちゃんに気づかれて不審なものを見るような目をされた。
「あたしの前で手を繋ぐなんていい度胸じゃない」
あ、そっち? いやまあそれはそれでいつも通りなんだけれども。
小川さんは今度こそ自分の教室へと行った。瞳子ちゃんはこっちへとずんずん近づいてくる。葵ちゃんがぱっと手を離してあいさつをすると、毒気を抜かれたようにはぁと息を洩らした。
「小川さんと何の話をしてたの?」
「大した話じゃないわよ。ちょっと聞きたかったことがあっただけだから」
「でも二人が仲良しだなんて俺知らなかったよ。きのぴーとか呼ばれてたし」
猫目のブルーアイズで睨まれた。あれ、俺怒らせるようなこと言ったかな?
「俊成、そのあだ名であたしを呼んだら怒るからね」
「……はい」
本気の目だった。そんなに怒るようなあだ名で呼んでいる小川さんと何があって仲良くなったんだろうか。気になる……。
※ ※ ※
学年が上がれば科目数は増えていき、「理科」や「社会」などが加わっている。他にも「家庭科」や「図工」などもあった。
正直、小学生の内容なんて楽勝だろ、とか思っていた。だけどいざ新しい科目が増えていくと「こんなのやったっけか?」と首をかしげてしまうことがあった。
あまりにも古い記憶だから忘れてしまっていたのか、そもそもしっかりと憶えていなかっただけなのか。どちらにせよ小学生だからって舐めてばかりはいられないようだ。
今世ではテストで満点しか取ったことがない。自慢に聞こえるかもしれないが、そもそも小学生のテストなんて百点を取らせるようにできているのだ。当時はそんなこと一切思わなかったが今ならわかる。
中学や高校と違って小学生のテストはこまめに行われる。これはテストをすることによって復習をさせることが狙いだからなのだろう。だから俺以外にも百点を取っている子はそれなりにいたりする。
「見て見てトシくん。私百点満点だよ」
国語のテストの答案が返ってくると葵ちゃんが笑顔で俺の元にきた。瞳子ちゃんは自分の答案と睨めっこしている。たぶん百点じゃなかったのだろう。
なんだかんだで葵ちゃんと瞳子ちゃんは根が真面目というのもありテストはいつも高得点だった。今回瞳子ちゃんは見せにこないけど、九十点以上は取っているだろう。
ちなみに教科が変われば二人の得意不得意が逆転したりする。算数になると瞳子ちゃんの方が得意で、葵ちゃんはちょっとばかり苦手だったりする。
「高木くん満点なんてすごいなー。僕なんか七十二点やで」
安心しろ佐藤。前世の俺はお前とどっこいどっこいだった。今はどや顔しながら小学生のテストはうんたらと言っていられるが、当時の俺は小学生のテストですらひぃひぃだったよ。中学高校なんてお察しものだ。
「むぅ……」
赤城さんが隅っこの方で唸っていた。気になってこっそり近寄ってみると、テストの点数がチラリと見えてしまった。
「っ!? 高木、見た?」
急にビクリと体を震わせた赤城さんが振り向くと、バッチリ目が合ってしまった。無表情のままじと目を向けられる。
「……見てませんよ」
「嘘つかない」
目を逸らそうとするとがっしり頬を掴まれた。何気にけっこう握力があるな。
「誰にも言っちゃダメ。わかった?」
「了解っす……」
とりあえず、赤城さんにはあまり触れてやるな、とだけ言っておこう。
赤城さんから離脱すると黄色い声の集団に気づいた。それは女子に囲まれた本郷だった。
なんだろう、この絵に描いたようなモテ男は。それを嬉しそうにするどころか当然のように振る舞っている。小四でなんてメンタルしてやがる。
「本郷くん何点だったの?」
「きっといい点数なんだわ」
「運動ができて勉強もできるだなんて……素敵」
女子から興味津々な目を向けられても本郷は動じていなかった。それどころか微笑みながら「秘密」と行って口元に人差し指を立てる。なんか背景に花が見えた気がした。
運動と勉強ができるということであれば、今なら俺も条件に当てはまるのだが。え? ただしイケメンに限る? ですよねー。
「トシくん、どこ見てるのかな?」
「まさかあたし達がいてあれが羨ましい、だなんて思ってないでしょうね?」
ニコニコと迫ってくる葵ちゃんとかけまして、目を吊り上げた瞳子ちゃんと解きます。その心は? どちらもプレッシャーがハンパじゃないでしょう!
朝の登校では下級生を見てやらなければならない。前を見ていなかったり、危ない子は突然道路を飛びだそうとする。事故に遭わないためにも注意してやらなければならないのだ。
「ほらほらー。危ないからちゃんと前見ろよー」
俺が注意すると低学年の子達がきゃっきゃと笑う。
「はーい、わかりましたー」
「わかってるよトシ兄ちゃん」
「トシお兄ちゃんこそ葵お姉ちゃんの方ばっかりみてたらいけないんだよー」
「いけないんだー」
低学年の子達にからかわれてしまうとは。なんだかやり返された気分。ちゃんと注意を聞いてくれているからいいけどさ。
「私の方ばっかり見てるの?」
「……ばっかりじゃないですよ。ちゃんと前見てます」
隣にいる葵ちゃんに悪戯っぽく微笑まれる。からかわれると言っても低学年の子達からならそう慌てるものでもないらしい。
今でも登校中では葵ちゃんと手を繋ぎながら歩いている。もう注意力がなくて事故に遭う心配はなさそうなのだが、一度習慣化してしまえばそれをやめるというのは難しかった。
「トシ兄ちゃんと葵姉ちゃん仲良しだなー」
「違うよ。ラブラブなんだよ」
「あっちっちー。あっちっちっだー」
俺と葵ちゃんを見て下級生が騒ぎだす。はいはい前向いて歩こうねー。
兄ちゃんと呼ばれるのは新鮮だ。ちょっと照れくさいが慕われている感じがして嬉しい。兄妹がいないから余計にそう思うのかな。
ちなみにトシと呼ばれるのは完全に葵ちゃんの影響である。子供ってそういうところまでマネしたがるもんなんだな。
「おい、うるさいぞ。こっから車通りが多くなるんだからな」
「ごめんね野沢くん。ほらー、みんなちゃんと前見てないと車に轢かれちゃうぞー」
班長の男子に注意されてしまう。俺は低学年の子達に注意を促す。
今年の登校の班長は六年生の野沢拓海という男の子である。名字から察せられるかもしれないが、野沢先輩の弟さんである。
俺が一年生の時は彼は三年生だった。その時は子供らしくてかわいかった印象なのだが、最上級生ともなれば責任が芽生えるのかビシビシ注意してくる。さすがは高学年だ。
「おい高木! 車がきてるぞ。宮坂と手を離して端へ寄れ」
細い道に入ったところで車がきた。この道は車が一台分しか通れないくらいの幅しかないので、いざきてしまうと一列になって端に寄らなければならなかった。
細い道の通学路というのもあり普段はほとんど車がこない道なんだけどな。仕方がないから葵ちゃんから手を離そうとして、ぎゅっと握られてしまった。
「葵ちゃん?」
「くっつけば大丈夫だよ」
ニッコリと笑う葵ちゃんだった。車がゆっくりと通過する。葵ちゃんは車が通過するまで俺に身を寄せていた。
「おい! 手を離せって言っただろ!」
野沢くんが怒った。姉とは違って彼はちょっと怒りっぽい。
「ごめんなさい。私が手を離したくなかったの。ダメ、ですか?」
「うっ……」
葵ちゃんの言葉に野沢くんはたじろいだ。超絶かわいい葵ちゃんにそんな風に言われてしまえば、大抵の男子はダメだなんて口にはできない。
「しょうがねえな」と渋々ながらも引き下がる野沢くんを見て、葵ちゃんは俺にしかわからないようにぺろっと舌を出した。なんかたくましくなったね葵ちゃん。
小さい頃は男の子という存在が本当に苦手だった彼女だけれど、学年が上がるごとに苦手意識がなくなっていったようだった。葵ちゃんの美貌もあってか、もう彼女をいじめようとする男子はいなくなっていた。
学校に着いて低学年の子達を見送ってから下駄箱へと向かう。靴を脱いだところでばんっ、と勢いよく後ろから両肩を掴まれた。
何事!? 驚き過ぎて悲鳴を漏らす暇さえなかった。振り返ると小川さんがいた。
「高木くんちょうどよかったわ! お願い、国語の教科書貸してー」
「はい?」
「今日一時間目から国語があるのに忘れちゃったのよー。すぐ返すから貸して!」
両手を合わせてお願いのポーズをされる。小川さんには未だに身長で負けているので、お願いと言いつつ迫ってくる姿はまるで強迫されているようであった。
「まあ、国語は四時間目だからいいけど」
「ほんと? よかった~」
小川さんとは三年生の時に同じ組だった。けっこう忘れ物が多い子だったために、去年は毎回その癖をなくすように言い聞かせていたのだが。クラスが別になってまた忘れ物癖が発症してしまったらしい。
そんな風に彼女の忘れ物を注意していたからなのだろう。四年生になっても俺に頼りにきたようだ。
「真奈美ちゃん?」
「わっ!? あ、あおっち?」
ぽん、と小川さんの肩に葵ちゃんの手が置かれる。どうやら小川さんは葵ちゃんに気づいていなかったようだ。
「忘れ物したんだったら私が教科書を貸してあげるよ。ね?」
「あ、うん……。借りられればどっちでもいいんだけど」
「じゃあ私が貸してあげるね」
俺はランドセルの中に入れていた手を引っ込めた。物の貸し借りなら同性同士の方がいいだろう。
葵ちゃんから国語の教科書を借りると、小川さんは「ありがとー」と手を振りながら自分の教室へと走り去ってしまった。廊下を走っちゃダメでしょうに。
まったく小川さんはそそっかしいな。でもあれくらい隙があった方が付き合いやすいのかもしれない。前世の通り、彼女には友達がたくさんいるみたいだしな。
「トシくんは優しいよね」
「うん?」
葵ちゃんがぽつりと言った。聞き返そうとする前に手を握られた。
「葵ちゃん?」
登校中では手を繋ぐけれども、学校に着いてまではあまりない。それこそ瞳子ちゃんがいれば対抗するように手を握ってくるのだが、今日はまだ姿を見ていなかった。
「教室に行こっか」
「あ、うん」
笑顔でそう言われてしまえば聞き返すこともできない。俺は葵ちゃんに手を引かれながら教室へと向かった。
四年二組の教室前で瞳子ちゃんと小川さんが何やら話をしていた。小川さんが国語の教科書を持っているのを見るに、自分の教室に行く前に瞳子ちゃんに呼び止められたのだろうか。
「それじゃあよろしくね小川さん」
「わかってるよー。きのぴーは心配性だよね」
きのぴー? それって瞳子ちゃんのことか? 小川さんからあだ名で呼ばれているなんて、あの二人って仲良かったっけ?
珍しい組み合わせを見て固まってしまっていたのだろう。瞳子ちゃんに気づかれて不審なものを見るような目をされた。
「あたしの前で手を繋ぐなんていい度胸じゃない」
あ、そっち? いやまあそれはそれでいつも通りなんだけれども。
小川さんは今度こそ自分の教室へと行った。瞳子ちゃんはこっちへとずんずん近づいてくる。葵ちゃんがぱっと手を離してあいさつをすると、毒気を抜かれたようにはぁと息を洩らした。
「小川さんと何の話をしてたの?」
「大した話じゃないわよ。ちょっと聞きたかったことがあっただけだから」
「でも二人が仲良しだなんて俺知らなかったよ。きのぴーとか呼ばれてたし」
猫目のブルーアイズで睨まれた。あれ、俺怒らせるようなこと言ったかな?
「俊成、そのあだ名であたしを呼んだら怒るからね」
「……はい」
本気の目だった。そんなに怒るようなあだ名で呼んでいる小川さんと何があって仲良くなったんだろうか。気になる……。
※ ※ ※
学年が上がれば科目数は増えていき、「理科」や「社会」などが加わっている。他にも「家庭科」や「図工」などもあった。
正直、小学生の内容なんて楽勝だろ、とか思っていた。だけどいざ新しい科目が増えていくと「こんなのやったっけか?」と首をかしげてしまうことがあった。
あまりにも古い記憶だから忘れてしまっていたのか、そもそもしっかりと憶えていなかっただけなのか。どちらにせよ小学生だからって舐めてばかりはいられないようだ。
今世ではテストで満点しか取ったことがない。自慢に聞こえるかもしれないが、そもそも小学生のテストなんて百点を取らせるようにできているのだ。当時はそんなこと一切思わなかったが今ならわかる。
中学や高校と違って小学生のテストはこまめに行われる。これはテストをすることによって復習をさせることが狙いだからなのだろう。だから俺以外にも百点を取っている子はそれなりにいたりする。
「見て見てトシくん。私百点満点だよ」
国語のテストの答案が返ってくると葵ちゃんが笑顔で俺の元にきた。瞳子ちゃんは自分の答案と睨めっこしている。たぶん百点じゃなかったのだろう。
なんだかんだで葵ちゃんと瞳子ちゃんは根が真面目というのもありテストはいつも高得点だった。今回瞳子ちゃんは見せにこないけど、九十点以上は取っているだろう。
ちなみに教科が変われば二人の得意不得意が逆転したりする。算数になると瞳子ちゃんの方が得意で、葵ちゃんはちょっとばかり苦手だったりする。
「高木くん満点なんてすごいなー。僕なんか七十二点やで」
安心しろ佐藤。前世の俺はお前とどっこいどっこいだった。今はどや顔しながら小学生のテストはうんたらと言っていられるが、当時の俺は小学生のテストですらひぃひぃだったよ。中学高校なんてお察しものだ。
「むぅ……」
赤城さんが隅っこの方で唸っていた。気になってこっそり近寄ってみると、テストの点数がチラリと見えてしまった。
「っ!? 高木、見た?」
急にビクリと体を震わせた赤城さんが振り向くと、バッチリ目が合ってしまった。無表情のままじと目を向けられる。
「……見てませんよ」
「嘘つかない」
目を逸らそうとするとがっしり頬を掴まれた。何気にけっこう握力があるな。
「誰にも言っちゃダメ。わかった?」
「了解っす……」
とりあえず、赤城さんにはあまり触れてやるな、とだけ言っておこう。
赤城さんから離脱すると黄色い声の集団に気づいた。それは女子に囲まれた本郷だった。
なんだろう、この絵に描いたようなモテ男は。それを嬉しそうにするどころか当然のように振る舞っている。小四でなんてメンタルしてやがる。
「本郷くん何点だったの?」
「きっといい点数なんだわ」
「運動ができて勉強もできるだなんて……素敵」
女子から興味津々な目を向けられても本郷は動じていなかった。それどころか微笑みながら「秘密」と行って口元に人差し指を立てる。なんか背景に花が見えた気がした。
運動と勉強ができるということであれば、今なら俺も条件に当てはまるのだが。え? ただしイケメンに限る? ですよねー。
「トシくん、どこ見てるのかな?」
「まさかあたし達がいてあれが羨ましい、だなんて思ってないでしょうね?」
ニコニコと迫ってくる葵ちゃんとかけまして、目を吊り上げた瞳子ちゃんと解きます。その心は? どちらもプレッシャーがハンパじゃないでしょう!
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