12 / 172
第一部
12.変わる未来
しおりを挟む
フリーズしました。ガ、ガガガ……ガガ……。再起動してください。
「……はっ!?」
危うく脳内コンピューターが破壊されるところだった。で、何が起こったんだっけ?
よし、状況を整理してみよう。
瞳子ちゃんに抱きつかれた。そして「お願い……。あたしをさらって」と言われた……。
どどどど、どういうことだ! 本当に何が起こった!?
ま、待て。待て待て待て! まだ慌てるような時間じゃない。中身おっさんが幼女相手に動揺するだなんてキモいどころか意味不明だぞ! たとえ前世では家族以外の異性からの抱擁がなかったとはいえだ!
そうだ! 抱きつかれたことは葵ちゃんにもあるし、昨日は瞳子ちゃん本人から裸で抱きつかれているじゃないか。
なのに、瞳子ちゃんが耳元で変なことを言うもんだから俺の頭がパニックを起こしてしまったのだ。
身じろぎほどの抵抗も見せない俺を、瞳子ちゃんはさらにぎゅっと抱きしめる力を強めた。ま、まだ戦闘力を上げるというのか!?
「俊成……早くっ」
「と、瞳子ちゃん?」
急かされてもどうしていいかわからないぞ。チラリと母を見てみれば目を見開いて口をあんぐり開けていた。状況が飲み込めていないようだった。ですよねー。
どうすればいいのかわからないので、とりあえず瞳子ちゃんを抱き締める腕に力を込めた。子供特有の柔らかい感触が返ってくる。うむ、今日は空が澄みきっているようですね。
なんて実のないことを考えていると、視界に大人が二人走っているのが見えた。というか真っすぐこっちに向かってきていた。
黒髪の男性と銀髪の女性だった。瞳子ちゃんの両親である。
いきなりの息子の状況に母は固まったままだ。しかし大人の姿を目にすると体裁を繕うようにあいさつを交わす。瞳子ちゃんのお母さんは丁寧に頭を下げていたけれど、お父さんの方は娘が気になるのかおざなりだった。
「瞳子!」
瞳子ちゃんのお父さんが声を上げると、瞳子ちゃんは俺の後ろへと隠れてしまった。そして改めて背中から腕を回して抱きしめられる。
間近で見る彼女のお父さんは、イメージと違うと言ったら失礼かもしれないが凡庸な外見だった。てっきり葵ちゃんの両親みたいに美男美女の夫婦かと思っていただけに少し意外だと思ってしまった。
彼は俺にしがみついている娘の姿に動揺していた。困り顔のままゆっくりとこちらへと近づいてくる。歩き方がまるで犯人を刺激しないようにする刑事のようだった。
「突然どうしたんだ? ちゃんと話を聞くから逃げないでくれないか」
ちゃんと聞く耳を持った良いお父さんではないか。俺は好感を持った。
だけど瞳子ちゃんにはそう映らなかったようで、声を張り上げて牽制する。
「来ないで! 止まってくれないとパパのこと嫌いになるから!」
かわいらしい子供の反抗に、父親はうっと胸を押さえる。娘の攻撃にお父さんはクリティカルヒットをもらったようだ。
というか何事? 親子ゲンカかな。それでなぜ俺が瞳子ちゃんの盾になってるのかわからないんだけども。
瞳子ちゃんとお父さんのどちらに目を向けていいのかわからず視線を彷徨わせる。それに気づいたお父さんに眉を下げたままの笑顔を向けられた。
「えっと、君が俊成くんかな?」
「はい。高木俊成といいます。初めまして」
内心の動揺を押し殺して頭を下げた。第一印象は大切だ。真摯な態度でいることにした。
「瞳子と話があるんだけど、いいかな?」
つまり、彼女をこっちへ渡せ、である。
ぎゅうぎゅうと抱き締め続ける瞳子ちゃん。離れる気がないようなんですがどうしたらいいでしょう?
「あの……、その話、俺もいっしょに聞いたらダメですか?」
「え?」
まさかの俺の提案に瞳子ちゃんのお父さんは目を丸くした。俺自身まさかの対応だった。
なんの話かは知らないけれど、他人の家庭の話に首を突っ込むなんてマナー違反なのかもしれない。でも今の俺は子供だからそんなマナーなんて知らない。
ただ、必死に俺にしがみつく瞳子ちゃんのことを考えると、離れてしまうことに不安があった。ただそれだけの受け身な理由だ。
口出しなんてできないだろう。でも、ただ隣にいるだけでも彼女の不安が取り除けるなら、それだけで俺の価値はあるんじゃないかって思ったのだ。
しばらく彼は黙りこんだ。そりゃそうだ。子供だろうが大人だろうが、他人の前で家庭の話なんてしたくないだろう。
「パパ。あたし俊成がいるならお話してあげてもいいわ」
父親に対してとっても強気な瞳子ちゃんだった。そしてお父さんは娘に弱かった。
「わ、わかったわかった。俊成くんもいっしょでいいよ。……瞳子、小学校に行きたくないだなんてどういうことなんだ?」
「はい?」
思わず反応したのは俺だった。小学校に入学する前に不登校ですか? 瞳子ちゃんはどうしたというのだろうか。
「行きたくないなんて言ってないわ。あたしはお受験してまで小学校に行きたくないって言ってるの」
疑問符を浮かべる俺をよそに瞳子ちゃんははっきりと答える。はきはき答える瞳子ちゃんに終始お父さんは困り顔だ。
「でも、お稽古をたくさんがんばってきただろう? せっかくお受験のためにがんばってきたのに……。もしかしてお稽古が嫌になったのか?」
「違うわよ。でも……」
瞳子ちゃんは俺の胸が物理的に苦しくなるくらい腕に力を入れる。それから俺の頬に自分の頬をくっつけて言い放った。
「俊成といっしょにいられないなら意味なんてないもの!」
娘の告白に父親はたじろいだ。俺も内心ではそんな感じだ。
瞳子ちゃんの想いが俺に突き刺さった。特別扱いをされているとは思っていたけれど、まさか親に反抗してしまうほどとは思ってもみなかった。
固まってしまった彼に、すすーっと銀髪の女性が近寄った。
「もう何を言っても無駄のようデスネ。さすがはワタシ達の最愛の娘デス」
思ったよりも流暢な日本語だった。なんか昨日と雰囲気が違うように思える。
瞳子ちゃんのお母さんは嬉しそうに笑いながら夫の腕を指で突っつく。木之下夫婦はアイコンタクトを交わし、笑い合った。え、なんでイチャついてんの?
「わかった。パパは瞳子のやりたいことを応援するよ」
「ふふっ、血は争えませんネ」
何かを納得するかのように両親揃って頷く。説得を成功させた瞳子ちゃんはぱぁ、と笑顔の花を咲かせた。真横でその顔は反則……。
「ありがとうママ!」
パパは? 呆然としてしまった父は悲しみを耐えるかのように立ち尽くしていた。
「高木さん。よろしければこれからお茶なんてどうデスカ?」
「え、ええ……あ、はい」
なんだかんだでこの中で一番驚いたのは俺の母だろう。自分の息子が人様の娘さんにすごい決断をさせたのだ。俺だってまだ驚きが抜けていない。
一番余裕に見えるのが瞳子ちゃんのお母さんだ。この人は娘の突飛な行動にも慌てた様子がなかった。もしかして瞳子ちゃんがこんなことをするってわかっていたのだろうか?
瞳子ちゃんのお母さんの先導のもと辿り着いた喫茶店で、親達は小学校について話し合っていた。まあ俺が通う予定の小学校を聞きだして、娘も同じ学校に行くからよろしく、という話だった。
これはなんて言うか……未来が変わったのか? 変えてしまったのか?
瞳子ちゃんの未来を変えてしまったことに責任を感じてしまう。本当によかったのかと自問自答せずにはいられない。
「ほら俊成。あーん」
瞳子ちゃんは喫茶店で注文したパフェをスプーンですくって俺の口元へと持ってくる。彼女は最高にご機嫌だった。
そんな瞳子ちゃんの顔を見ていると、未来を変えてしまったという責任とか、もうどっか行ってしまったみたいだ。
考えたって仕方がない。そもそも、初めから俺が幼馴染を作って結婚しようだなんて考えている時点で未来は変わっているんだ。前世と今世は違う。そう思うことにした。
俺は瞳子ちゃんに差し出されたパフェにかぶりついた。
※ ※ ※
母はすっかり木之下夫妻と仲良くなっていた。
最初は外国人というのもあり、瞳子ちゃんのお母さんへの対応を迷っているようだったけれど、普通に日本語が問題ないとわかってからは子供の話題で盛り上がっていた。
親同士が仲良くなっているのを見て思う。これはもう瞳子ちゃんとも幼馴染の関係なのだろうな、と。
「どうしたの俊成?」
俺は瞳子ちゃんを見る。首をかしげる彼女のブルーアイズは好意の色を帯びていた。初対面の時のツンツンとした態度はなりを潜めていた。
うん。どうしよう? 葵ちゃんの顔を思い出しながら、無性に青空を見上げたくなった。
喫茶店を出て、別れ際に瞳子ちゃんの両親に声をかけられた。
「瞳子との仲を認めたわけじゃないからな。そこは勘違いするんじゃないぞ俊成くん」
「は、はい……」
穏やかな口調と優しい表情で幼稚園児を威嚇する父親がいた。その威圧には中身がおっさんでも身震いするほどだった。
「トシナリ……、娘を、ヨロシクネ」
「えっと……、はい」
なぜかまた俺の前では片言になる瞳子ちゃんのお母さんだった。「娘を」の部分を強調された気がするのは気のせいじゃないんだろうな。
最後に木之下一家が帰ろうとした時、見送る俺の方に瞳子ちゃんが駆け寄ってきた。
このブレーキをしない感じ。また抱きついてくるのか? そう思って身構えていると、彼女は急ブレーキをかけたように足が止まった。
だけど、顔はそのまま俺に向かっていた。スローモーションで流れる瞳子ちゃんの顔を眺めていると、頬にチュッと柔らかい感触がした。
「え?」
呆けて目を瞬かせていると、頬を赤らめた瞳子ちゃんは小さく俺にしか聞こえない声でこんなことを言った。
「大人になったらいつか……ちゃんとあたしをさらってね」
瞳子ちゃんは逃げるように踵を返して両親の元へと向かった。目が表現しづらいことになった父親と微笑む母親が対照的だった。
「キス……だったよな……」
俺の声はあまりにもか細く、風に溶けて音にならなかった。
頬を押さえる。彼女の唇の感触が蘇ってくる。
「ほわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!?」
気持ちが容量オーバーとなって絶叫してしまった。変な子として近所で有名になる前に母が素早く俺を抱えて走ってくれた。母には本当に感謝。
絶対に人には言えない俺の計画。かわいい幼馴染を作って結婚しようだなんていう俺のぶっ飛んだ計画は、どうやら思っていた方向とは少しばかり違っているらしかった。
「……はっ!?」
危うく脳内コンピューターが破壊されるところだった。で、何が起こったんだっけ?
よし、状況を整理してみよう。
瞳子ちゃんに抱きつかれた。そして「お願い……。あたしをさらって」と言われた……。
どどどど、どういうことだ! 本当に何が起こった!?
ま、待て。待て待て待て! まだ慌てるような時間じゃない。中身おっさんが幼女相手に動揺するだなんてキモいどころか意味不明だぞ! たとえ前世では家族以外の異性からの抱擁がなかったとはいえだ!
そうだ! 抱きつかれたことは葵ちゃんにもあるし、昨日は瞳子ちゃん本人から裸で抱きつかれているじゃないか。
なのに、瞳子ちゃんが耳元で変なことを言うもんだから俺の頭がパニックを起こしてしまったのだ。
身じろぎほどの抵抗も見せない俺を、瞳子ちゃんはさらにぎゅっと抱きしめる力を強めた。ま、まだ戦闘力を上げるというのか!?
「俊成……早くっ」
「と、瞳子ちゃん?」
急かされてもどうしていいかわからないぞ。チラリと母を見てみれば目を見開いて口をあんぐり開けていた。状況が飲み込めていないようだった。ですよねー。
どうすればいいのかわからないので、とりあえず瞳子ちゃんを抱き締める腕に力を込めた。子供特有の柔らかい感触が返ってくる。うむ、今日は空が澄みきっているようですね。
なんて実のないことを考えていると、視界に大人が二人走っているのが見えた。というか真っすぐこっちに向かってきていた。
黒髪の男性と銀髪の女性だった。瞳子ちゃんの両親である。
いきなりの息子の状況に母は固まったままだ。しかし大人の姿を目にすると体裁を繕うようにあいさつを交わす。瞳子ちゃんのお母さんは丁寧に頭を下げていたけれど、お父さんの方は娘が気になるのかおざなりだった。
「瞳子!」
瞳子ちゃんのお父さんが声を上げると、瞳子ちゃんは俺の後ろへと隠れてしまった。そして改めて背中から腕を回して抱きしめられる。
間近で見る彼女のお父さんは、イメージと違うと言ったら失礼かもしれないが凡庸な外見だった。てっきり葵ちゃんの両親みたいに美男美女の夫婦かと思っていただけに少し意外だと思ってしまった。
彼は俺にしがみついている娘の姿に動揺していた。困り顔のままゆっくりとこちらへと近づいてくる。歩き方がまるで犯人を刺激しないようにする刑事のようだった。
「突然どうしたんだ? ちゃんと話を聞くから逃げないでくれないか」
ちゃんと聞く耳を持った良いお父さんではないか。俺は好感を持った。
だけど瞳子ちゃんにはそう映らなかったようで、声を張り上げて牽制する。
「来ないで! 止まってくれないとパパのこと嫌いになるから!」
かわいらしい子供の反抗に、父親はうっと胸を押さえる。娘の攻撃にお父さんはクリティカルヒットをもらったようだ。
というか何事? 親子ゲンカかな。それでなぜ俺が瞳子ちゃんの盾になってるのかわからないんだけども。
瞳子ちゃんとお父さんのどちらに目を向けていいのかわからず視線を彷徨わせる。それに気づいたお父さんに眉を下げたままの笑顔を向けられた。
「えっと、君が俊成くんかな?」
「はい。高木俊成といいます。初めまして」
内心の動揺を押し殺して頭を下げた。第一印象は大切だ。真摯な態度でいることにした。
「瞳子と話があるんだけど、いいかな?」
つまり、彼女をこっちへ渡せ、である。
ぎゅうぎゅうと抱き締め続ける瞳子ちゃん。離れる気がないようなんですがどうしたらいいでしょう?
「あの……、その話、俺もいっしょに聞いたらダメですか?」
「え?」
まさかの俺の提案に瞳子ちゃんのお父さんは目を丸くした。俺自身まさかの対応だった。
なんの話かは知らないけれど、他人の家庭の話に首を突っ込むなんてマナー違反なのかもしれない。でも今の俺は子供だからそんなマナーなんて知らない。
ただ、必死に俺にしがみつく瞳子ちゃんのことを考えると、離れてしまうことに不安があった。ただそれだけの受け身な理由だ。
口出しなんてできないだろう。でも、ただ隣にいるだけでも彼女の不安が取り除けるなら、それだけで俺の価値はあるんじゃないかって思ったのだ。
しばらく彼は黙りこんだ。そりゃそうだ。子供だろうが大人だろうが、他人の前で家庭の話なんてしたくないだろう。
「パパ。あたし俊成がいるならお話してあげてもいいわ」
父親に対してとっても強気な瞳子ちゃんだった。そしてお父さんは娘に弱かった。
「わ、わかったわかった。俊成くんもいっしょでいいよ。……瞳子、小学校に行きたくないだなんてどういうことなんだ?」
「はい?」
思わず反応したのは俺だった。小学校に入学する前に不登校ですか? 瞳子ちゃんはどうしたというのだろうか。
「行きたくないなんて言ってないわ。あたしはお受験してまで小学校に行きたくないって言ってるの」
疑問符を浮かべる俺をよそに瞳子ちゃんははっきりと答える。はきはき答える瞳子ちゃんに終始お父さんは困り顔だ。
「でも、お稽古をたくさんがんばってきただろう? せっかくお受験のためにがんばってきたのに……。もしかしてお稽古が嫌になったのか?」
「違うわよ。でも……」
瞳子ちゃんは俺の胸が物理的に苦しくなるくらい腕に力を入れる。それから俺の頬に自分の頬をくっつけて言い放った。
「俊成といっしょにいられないなら意味なんてないもの!」
娘の告白に父親はたじろいだ。俺も内心ではそんな感じだ。
瞳子ちゃんの想いが俺に突き刺さった。特別扱いをされているとは思っていたけれど、まさか親に反抗してしまうほどとは思ってもみなかった。
固まってしまった彼に、すすーっと銀髪の女性が近寄った。
「もう何を言っても無駄のようデスネ。さすがはワタシ達の最愛の娘デス」
思ったよりも流暢な日本語だった。なんか昨日と雰囲気が違うように思える。
瞳子ちゃんのお母さんは嬉しそうに笑いながら夫の腕を指で突っつく。木之下夫婦はアイコンタクトを交わし、笑い合った。え、なんでイチャついてんの?
「わかった。パパは瞳子のやりたいことを応援するよ」
「ふふっ、血は争えませんネ」
何かを納得するかのように両親揃って頷く。説得を成功させた瞳子ちゃんはぱぁ、と笑顔の花を咲かせた。真横でその顔は反則……。
「ありがとうママ!」
パパは? 呆然としてしまった父は悲しみを耐えるかのように立ち尽くしていた。
「高木さん。よろしければこれからお茶なんてどうデスカ?」
「え、ええ……あ、はい」
なんだかんだでこの中で一番驚いたのは俺の母だろう。自分の息子が人様の娘さんにすごい決断をさせたのだ。俺だってまだ驚きが抜けていない。
一番余裕に見えるのが瞳子ちゃんのお母さんだ。この人は娘の突飛な行動にも慌てた様子がなかった。もしかして瞳子ちゃんがこんなことをするってわかっていたのだろうか?
瞳子ちゃんのお母さんの先導のもと辿り着いた喫茶店で、親達は小学校について話し合っていた。まあ俺が通う予定の小学校を聞きだして、娘も同じ学校に行くからよろしく、という話だった。
これはなんて言うか……未来が変わったのか? 変えてしまったのか?
瞳子ちゃんの未来を変えてしまったことに責任を感じてしまう。本当によかったのかと自問自答せずにはいられない。
「ほら俊成。あーん」
瞳子ちゃんは喫茶店で注文したパフェをスプーンですくって俺の口元へと持ってくる。彼女は最高にご機嫌だった。
そんな瞳子ちゃんの顔を見ていると、未来を変えてしまったという責任とか、もうどっか行ってしまったみたいだ。
考えたって仕方がない。そもそも、初めから俺が幼馴染を作って結婚しようだなんて考えている時点で未来は変わっているんだ。前世と今世は違う。そう思うことにした。
俺は瞳子ちゃんに差し出されたパフェにかぶりついた。
※ ※ ※
母はすっかり木之下夫妻と仲良くなっていた。
最初は外国人というのもあり、瞳子ちゃんのお母さんへの対応を迷っているようだったけれど、普通に日本語が問題ないとわかってからは子供の話題で盛り上がっていた。
親同士が仲良くなっているのを見て思う。これはもう瞳子ちゃんとも幼馴染の関係なのだろうな、と。
「どうしたの俊成?」
俺は瞳子ちゃんを見る。首をかしげる彼女のブルーアイズは好意の色を帯びていた。初対面の時のツンツンとした態度はなりを潜めていた。
うん。どうしよう? 葵ちゃんの顔を思い出しながら、無性に青空を見上げたくなった。
喫茶店を出て、別れ際に瞳子ちゃんの両親に声をかけられた。
「瞳子との仲を認めたわけじゃないからな。そこは勘違いするんじゃないぞ俊成くん」
「は、はい……」
穏やかな口調と優しい表情で幼稚園児を威嚇する父親がいた。その威圧には中身がおっさんでも身震いするほどだった。
「トシナリ……、娘を、ヨロシクネ」
「えっと……、はい」
なぜかまた俺の前では片言になる瞳子ちゃんのお母さんだった。「娘を」の部分を強調された気がするのは気のせいじゃないんだろうな。
最後に木之下一家が帰ろうとした時、見送る俺の方に瞳子ちゃんが駆け寄ってきた。
このブレーキをしない感じ。また抱きついてくるのか? そう思って身構えていると、彼女は急ブレーキをかけたように足が止まった。
だけど、顔はそのまま俺に向かっていた。スローモーションで流れる瞳子ちゃんの顔を眺めていると、頬にチュッと柔らかい感触がした。
「え?」
呆けて目を瞬かせていると、頬を赤らめた瞳子ちゃんは小さく俺にしか聞こえない声でこんなことを言った。
「大人になったらいつか……ちゃんとあたしをさらってね」
瞳子ちゃんは逃げるように踵を返して両親の元へと向かった。目が表現しづらいことになった父親と微笑む母親が対照的だった。
「キス……だったよな……」
俺の声はあまりにもか細く、風に溶けて音にならなかった。
頬を押さえる。彼女の唇の感触が蘇ってくる。
「ほわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!?」
気持ちが容量オーバーとなって絶叫してしまった。変な子として近所で有名になる前に母が素早く俺を抱えて走ってくれた。母には本当に感謝。
絶対に人には言えない俺の計画。かわいい幼馴染を作って結婚しようだなんていう俺のぶっ飛んだ計画は、どうやら思っていた方向とは少しばかり違っているらしかった。
11
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたので、欲望に身を任せてみることにした
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。彼女を女として見た時、俺は欲望を抑えることなんかできなかった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

僕(じゃない人)が幸せにします。
暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】
・第1章
彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。
そんな彼を想う二人。
席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。
所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。
そして彼は幸せにする方法を考えつく――――
「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」
本当にそんなこと上手くいくのか!?
それで本当に幸せなのか!?
そもそも幸せにするってなんだ!?
・第2章
草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。
その目的は――――
「付き合ってほしいの!!」
「付き合ってほしいんです!!」
なぜこうなったのか!?
二人の本当の想いは!?
それを叶えるにはどうすれば良いのか!?
・第3章
文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。
君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……
深町と付き合おうとする別府!
ぼーっとする深町冴羅!
心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!?
・第4章
二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。
期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する――
「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」
二人は何を思い何をするのか!?
修学旅行がそこにもたらすものとは!?
彼ら彼女らの行く先は!?
・第5章
冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。
そんな中、深町凛紗が行動を起こす――
君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!
映像部への入部!
全ては幸せのために!
――これは誰かが誰かを幸せにする物語。
ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。
作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる