上 下
3 / 3

3.魔王なのだが、ラスティアといっしょになる

しおりを挟む
 数日後、魔王城が完成した。
 人間どもは皆口々に「おめでとう」や「お幸せに」と言った。
 吾輩のためにと汗水流して人間どもが働いたのは知っている。その点について、評価してやってもいいとも思っている。
 ……思っておったのだ。

「思っておったのとは違うではないか」

 魔王城は完成した。それは偽りではない。
 木材で作られた城は、前に住んでいた城とは似ても似つかない外観である。
 それはまだよい。いやよくはないが、これだけでもまた勇者なんぞに攻められたらひとたまりもないほどに心もとない。が、もっと大事なことがある。

「狭い……。狭すぎる! これではゴブリンどもが住めないではないか!!」

 新たな魔王城は言い訳のしようがないほど狭かった。
 部屋は居間と寝室だけ。これでは吾輩の他にはそう入れはしまい。
 吾輩は魔王として、配下の部屋を用意してやらねばならない。ゴブリンをはじめとして、スライムやミノタウロスなど、世話をしてやらなければならない配下が多いのだ。

「あっ、別にいいですよ。我々は近くに洞穴見つけましたから。そっちに住もうと思います」

 魔王として配下にどう説明したものか。そんなことは杞憂とばかりに、ゴブリンがあっけらかんとそうのたまった。

「何?」
「もちろんスライムやミノタウロス、他の連中もいっしょですよ。俺らゴブリンだけじゃあ生活できないですからね。生活力までザコだと苦労しますよ」

 どうやら他の配下がゴブリンどもを養っているようだ。ゴブリンだけで生活していけないのであればやむなしであろう。

「そうか」

 吾輩が知らぬ間にそんなことになっていたとは。まったく耳に入ってこなかったぞ。

「まあよい。住める場所が見つかって何よりだ」

 何はともあれ、配下の生活のめどが立っていたのであればよいのだ。これで吾輩の心配はなくなった。

「ああ、それとですね」
「む? 他に何かあるのか?」
「ラスティア様のことです」


  ※ ※ ※


 新たな魔王城へと帰還する。
 前に比べればだいぶ小さくなってしまったが、吾輩だけであるならば大した問題ではない。
 いや、もう一人いたか。

「ま、魔王様……。お、おかえりなさいませ……」

 吾輩を出迎えたのは側近のサキュバスであった。
 村の人間どものような質素な服装を身に着けている。これもまた勇者どもに居場所を悟られないようにとの、つまり変装だ。
 ラスティアはすぐにでも第二形態になりそうなほど顔を真っ赤にしている。待て、今は戦うべき時ではないぞ。

「ままま、魔王様っ!」
「うむ?」
「ご飯にします? お風呂にします? そそそ、それとも私にしますか!」

 早口でまくし立てられる。おかげで何を言われたのか、聞き取れなかった。

「すまぬ。もう一度言ってくれ」

 ラスティアが愕然とした表情を見せる。なぜそんな顔をするのか。

「ゆ、勇気を出したのに……。こんなにも勇気を出して恥ずかしいこと言ったのにぃ……」

 次はさらに小声だった。これも聞き取れぬ。魔王の聴覚をもってしても聞き取れぬとはな。ラスティアもやるではないか。
 だが聞き取れなかった以上、聞き直さねばなるまい。

「すまぬ。もう一度──」
「うわぁーん! 魔王様のバカァーー!!」

 ラスティアは吾輩を罵倒し、奥の寝室へと引っ込んでしまった。
 突然どうしたというのだ。吾輩、何かしたのであろうか?
 魔王なのだが、側近が何を考えているのかがわからない。だが、放ってもおけまい。

『魔王様、ラスティア様には優しくしてあげてくださいね』

 それに、ゴブリンもああ言っていたからな。
 吾輩はゆっくりと寝室へと入る。そして、ラスティアに優しく接した。
 優しく、優しく……。こうして魔王城が完成した今宵、吾輩はラスティアと優しい時間を過ごしたのであった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...