星が見守る夜に

みずがめ

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星が見守る夜に

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 まだ幼い少女は眠りにつく前に毎夜、母からさまざまな寝物語を聞かされるのをたのしみにしていました。
 母の静かな声で語られる冒険譚も英雄譚もロマンチックな恋物語もどれも大好きで、胸を高鳴らせながら聞き入るのですが、気がつけば夢の中に入りこみ朝になっているのです。
 なんども昼間に物語の続きをねだりましたが、そのたびに母は「昼語りをすると星が泣くの、だから寝る前に話してあげる」といいました。
 そのかわりに、母は寝物語を一日も欠かすことはありませんでした。

「星が見守っているから安心して、おやすみ。さて、今日はどの話にしようかしら……」

 かならずこの言葉から物語ははじまります。
 ぼんやりとどこか遠くに「お星さまはどうやって見守っているのだろう」と夜空に思いを馳せました。


 ――――――――


 むかしむかし、あるおとこがおりました。
 そのおとこは家族はおらず貧乏でしたが、働き者でした。

 そんなあるおとこの頭に、ある日流れ星がふってきました。
 まばたきするよりもはやく落っこちてきた流れ星がぶつかった衝撃で、おとこの頭は少しばかりへこんでしまいました。
 その星は見つめていられないほどこうこうと輝きを放っています。
 あまりにもうつくしい輝きに、おとこは自分の頭がへこんでしまったことも気になりませんでした。

 おとこは星をもち帰り、周りの人たちに見せびらかしました。

「この星はきっと願い星だ。この星があればいずれ大金持ちになれる」

 流れ星には願いを叶える力がある──それはこの地域の昔からの言い伝えでした。

 それから、へこみ頭のおとこの元には毎日いろんな人々が星をひと目見ようと押しかけます。
 おとこは星の見物料をとり、自分の少しへこんだ頭を見せながらその時の話を面白おかしく語りました。
 見物に来た者のなかにはこの星を売ってほしいと大金を出してきた人が何人もいましたが、へこみ頭のおとこはどんな大金を見てもそれにうんということはありません。

 その星は、へこみ頭のおとこにとってとても大切なものだったからです。

 しばらくして、おとこは星が頭に落っこちてきてからだんだんと元気がなくなってきていることに気がつきました。
 熱はうしなわれ、輝きはおとろえ、その様子を間近でみていたおとこはその星を哀れに思いました。

 おとこは星を見せびらかすのをやめ、だいじにしまい込みました。
 だれにも見せないように大切に大切にしました。
 どうすれば輝きがもどるのか四方八方調べつくしましたが、やはり星の元気はなくなっていくばかりでした。

 おとこは星を空へとかえしてやることにしました。

 しかし、どんなに高い木にのぼっても、どんなに高い塔にのぼっても、どんなに高い山に登っても、星を空へかえすことはできませんでした。

 そんなときおとこのもとへ星を見たいという旅人がやってきました。
 旅人は世界中を旅しているらしく、へこみ頭のおとこは藁にもすがる思いで旅人に訊ねます。

「星を夜空にかえす方法をしりませんか?」

 と。すると、旅人は、

「夜空を駆ける流れ星はいのちの終わりの灯。願いを叶えるのが最後の役割なら、それを叶えたならば星は消えるのではないか」

 そう言った。
 おとこはすこしへこんだ頭をなでながら、自分の願い事を考えてみた。そして、

「この星はきっと願い星だ。この星があればいずれ大金持ちになれる」

 そう言いながら周りに自慢して見せびらかしていたのを思い出しました。
 たしかに見物料でだいぶお金を稼ぐことができていたのです。それこそ、星を売ればお金持ちにもなれていたでしょう。

 ですが、おとこはとても悲しい気持ちになりました。
 たしかにお金持ちになることが願いではありましたが、そのためにこのうつくしい星をうしなうことになるなんて、おとこにはたえられませんでした。

 おとこには家族もなく貧乏でした。自分はなんのとりえもないつまらない人間だと思っていたところに、星が自分のもとにふってきてくれたことに、たとえようもない喜びを抱いていたことに気がつきました。

 へこみ頭のおとこは今まで星の見物料で得た金銭をすべて返していきました。
 またたく間におとこは貧乏に戻りましたが、まったく気になりません。

 そしておとこは星のうつくしい夜、自分のものであった星に願いました。

「このうつくしい星にふたたび輝きを──どうか孤独な心を照らしておくれ」

 おとこは手放しても星が輝くことを、いのちが終わらないことを願ったのでした。
 星は願いを聞き届け、ふたたびこうこうとした輝きを取り戻したのです。


 ――――――――


「その人はまたさみしくなっちゃったね」
「おや、今日はまだ起きているのかい?」

 少女がまどろんでいると、父が寝室に顔を出した。大きくあたたかなてのひらが少女をなでます。
 父と母に囲まれて幸せな気持ちで夢の中に包まれながらも、その直前に母がささやくように言ったのを少女はたしかに聞きとりました。

「大丈夫よ。ふたたび輝きをとりもどした星はおとこの願いを叶えて、彼を孤独になんてさせなかったのだから」

 母は星のような輝いた笑みを浮かべています。
 父は自分の少しへこんだ頭を恥ずかしそうにかきながら、幸せそうに笑いました。

「星が見守っているから安心して、おやすみ」
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