1 / 8
1.その格好はいけません
しおりを挟む
俺が生まれ育った村はなんともさびれたものである。
山や川に囲まれて、自然豊かと言えばそうなのだろうが、華やかな都とは縁遠かった。
そもそも物理的な距離が遠すぎた。一番近い町に行くだけでもそれなりの旅支度が必要なほどに。
人口は少ないものの、普通に住むだけなら問題なんかない。俺だって、別に村を嫌ってるわけじゃないんだ。
だけど、この村にもたまに商人や吟遊詩人が訪れるのだ。そして語るは華やかな都や勇ましい冒険譚。村の子供たちは夢を知った。
こうなれば成人した子供たちが将来をどう選択するかは自明の理である。
「テッドーー!! ついに今日! 今日という日が来たぞ! これで私も十五歳、晴れて大人の仲間入りだーー!!」
元気な大声が我が家を揺らす。近所の子供……いや、大人のお出ましだ。
出迎えに出てみれば、まず目立つ金髪が目に入る。それから勝気な目と目が合ってしまった。見るからに柔らかそうな唇の端が上がる。
「フィーナ、獣みたいに大声を上げるのをやめろと何度も言……って」
「そんなこと言ってー。テッドも私の誕生日を祝いたいだろう? 十五歳になった私は自由を得た! さあ、いっしょに冒険者になろう!」
子供のように騒がしいが、十五歳から成人として認められる以上、目の前の女性を大人として見てやらねばならないだろう。
もともと騒がしいフィーナという少女。まだまだガキンチョみたいな性格なのだが、外面だけなら見目麗しい女性である。
みずみずしい肌は血色が良く、同年代の中でも成長が早いようで、肉づきのある立派な女の体は村の男どもの注目を集めている。本人はそんな下品な視線など意に介した様子はないが。
それでも、だとしても……、その格好はないだろ!
「フィーナ! お前なんて格好しているんだよ!」
「へっへーん。気づいた?」
得意げにはにかむフィーナ。どうやら事の重大さをわかっていないようだ。
フィーナはご機嫌な調子で、その場でくるりと一回転してみせた。金髪がキラリと舞い、むき出しになっている肩へと落ちる。
「このビキニアーマーは魔法が付与されててね、軽いのに防御力がぐーんと高くなってるんだ。すごいでしょ? これから冒険者になるんだからってお父さんがプレゼントしてくれたの!」
そう、フィーナが装備しているのはビキニアーマーなのである。
はっきり言って胸と股間しか守られていない防具である。それ以外に体を覆っているものは何もなく、フィーナのみずみずしくもさらなる成長を期待させる肌が惜しげもなくさらされていた。
なぜ防具なのに肌の露出があるのか。製作者の意図は不明である。もしかしたら魔法防御を円滑に行うためには肌の露出が必要不可欠なのかもしれない。んなバカな。
この際理由なんてどうでもいいよ。これじゃあ痴女じゃん。防御力がどれだけ高かろうが、社会からは守ってくれないよ。
このままフィーナが旅立って冒険者になってしまったら……。うん、故郷が痴女を輩出した村として名を残してしまいそうだ。
これでも近所の優しいお兄さんとしてフィーナと付き合ってきた。このまま旅立たせてしまうのは忍びない。つーか恥ずかしい!
ここは年上として、妹分の暴挙を止めてやらねばなるまい。
「フィーナ、今すぐそれを脱ぎなさい」
「へ? テッド? どうしたんだ急に?」
「いいから! その格好はダメだ。すぐに脱ぎなさい」
困惑しているところ悪いが、こればかりはしっかり注意してやらないとな。優しいだけが兄貴分の役割ではない。
「で、でも……」
渋っている。父親からプレゼントされた祝い品だ。それも高価なものだろう。惜しむ気持ちもわかるが、村から痴女を出すわけにはいかない。
それに、中身はどうあれフィーナの見てくれはいいのだ。野蛮な冒険者に絡まれでもしたらと考えると気が休まらない。
本人のためにもビシッと言ってやろう。
「嫌がる気持ちがわからないわけじゃない。だがなフィーナ、俺の気持ちもわかってほしい。だから……脱いでくれ」
「~~!」
フィーナの顔が真っ赤になる。ようやく恥じらいをわかってくれたのだろう。これが十五歳。大人の仲間入りだ。
「わ……かった。テッドがその気になってくれたなら……その、嬉しい……。わ、私も大人になったんだからな!」
俺の気持ちがわかってくれたらしい。よかったよかった。
しかしフィーナ。ここで予想外の行動に出た。
いきなり「えいやっ!」と叫ぶと同時にビキニアーマーをカチャカチャいじり始めたのである。
間もなく派手な音を立ててビキニアーマーが床へと落下した。そうなればフィーナを守るものは本当に何もなく、豊満な肌色が目の前に広がった。
固まる俺。顔を赤くしたまま震えるフィーナ。
「何? うるさいんだけど──」
そして物音に反応した妹が、俺とフィーナを視認した。
……俺、なんか間違えたかなぁ?
山や川に囲まれて、自然豊かと言えばそうなのだろうが、華やかな都とは縁遠かった。
そもそも物理的な距離が遠すぎた。一番近い町に行くだけでもそれなりの旅支度が必要なほどに。
人口は少ないものの、普通に住むだけなら問題なんかない。俺だって、別に村を嫌ってるわけじゃないんだ。
だけど、この村にもたまに商人や吟遊詩人が訪れるのだ。そして語るは華やかな都や勇ましい冒険譚。村の子供たちは夢を知った。
こうなれば成人した子供たちが将来をどう選択するかは自明の理である。
「テッドーー!! ついに今日! 今日という日が来たぞ! これで私も十五歳、晴れて大人の仲間入りだーー!!」
元気な大声が我が家を揺らす。近所の子供……いや、大人のお出ましだ。
出迎えに出てみれば、まず目立つ金髪が目に入る。それから勝気な目と目が合ってしまった。見るからに柔らかそうな唇の端が上がる。
「フィーナ、獣みたいに大声を上げるのをやめろと何度も言……って」
「そんなこと言ってー。テッドも私の誕生日を祝いたいだろう? 十五歳になった私は自由を得た! さあ、いっしょに冒険者になろう!」
子供のように騒がしいが、十五歳から成人として認められる以上、目の前の女性を大人として見てやらねばならないだろう。
もともと騒がしいフィーナという少女。まだまだガキンチョみたいな性格なのだが、外面だけなら見目麗しい女性である。
みずみずしい肌は血色が良く、同年代の中でも成長が早いようで、肉づきのある立派な女の体は村の男どもの注目を集めている。本人はそんな下品な視線など意に介した様子はないが。
それでも、だとしても……、その格好はないだろ!
「フィーナ! お前なんて格好しているんだよ!」
「へっへーん。気づいた?」
得意げにはにかむフィーナ。どうやら事の重大さをわかっていないようだ。
フィーナはご機嫌な調子で、その場でくるりと一回転してみせた。金髪がキラリと舞い、むき出しになっている肩へと落ちる。
「このビキニアーマーは魔法が付与されててね、軽いのに防御力がぐーんと高くなってるんだ。すごいでしょ? これから冒険者になるんだからってお父さんがプレゼントしてくれたの!」
そう、フィーナが装備しているのはビキニアーマーなのである。
はっきり言って胸と股間しか守られていない防具である。それ以外に体を覆っているものは何もなく、フィーナのみずみずしくもさらなる成長を期待させる肌が惜しげもなくさらされていた。
なぜ防具なのに肌の露出があるのか。製作者の意図は不明である。もしかしたら魔法防御を円滑に行うためには肌の露出が必要不可欠なのかもしれない。んなバカな。
この際理由なんてどうでもいいよ。これじゃあ痴女じゃん。防御力がどれだけ高かろうが、社会からは守ってくれないよ。
このままフィーナが旅立って冒険者になってしまったら……。うん、故郷が痴女を輩出した村として名を残してしまいそうだ。
これでも近所の優しいお兄さんとしてフィーナと付き合ってきた。このまま旅立たせてしまうのは忍びない。つーか恥ずかしい!
ここは年上として、妹分の暴挙を止めてやらねばなるまい。
「フィーナ、今すぐそれを脱ぎなさい」
「へ? テッド? どうしたんだ急に?」
「いいから! その格好はダメだ。すぐに脱ぎなさい」
困惑しているところ悪いが、こればかりはしっかり注意してやらないとな。優しいだけが兄貴分の役割ではない。
「で、でも……」
渋っている。父親からプレゼントされた祝い品だ。それも高価なものだろう。惜しむ気持ちもわかるが、村から痴女を出すわけにはいかない。
それに、中身はどうあれフィーナの見てくれはいいのだ。野蛮な冒険者に絡まれでもしたらと考えると気が休まらない。
本人のためにもビシッと言ってやろう。
「嫌がる気持ちがわからないわけじゃない。だがなフィーナ、俺の気持ちもわかってほしい。だから……脱いでくれ」
「~~!」
フィーナの顔が真っ赤になる。ようやく恥じらいをわかってくれたのだろう。これが十五歳。大人の仲間入りだ。
「わ……かった。テッドがその気になってくれたなら……その、嬉しい……。わ、私も大人になったんだからな!」
俺の気持ちがわかってくれたらしい。よかったよかった。
しかしフィーナ。ここで予想外の行動に出た。
いきなり「えいやっ!」と叫ぶと同時にビキニアーマーをカチャカチャいじり始めたのである。
間もなく派手な音を立ててビキニアーマーが床へと落下した。そうなればフィーナを守るものは本当に何もなく、豊満な肌色が目の前に広がった。
固まる俺。顔を赤くしたまま震えるフィーナ。
「何? うるさいんだけど──」
そして物音に反応した妹が、俺とフィーナを視認した。
……俺、なんか間違えたかなぁ?
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる