元おっさんの幼馴染育成計画~ほのぼの集~

みずがめ

文字の大きさ
上 下
22 / 23

暮らしのためだよ火の用心(小学五年生)

しおりを挟む
「火の用心、マッチ一本火事の元ー!」

 そう元気よく声を張った男の子が嬉しそうに拍子木を鳴らす。
 町内にカンカンと拍子木を鳴らす音が響く。思ったよりも音が大きいものなのね。

 夜の町内を、大人と子供が一塊になって歩く。
 乾燥して肌寒くもなってきた季節。火事を未然に防ぐためにも、あたし達は町内の夜回りを任された。
 子供は登校する班のメンバーで固まっている。違うのは低学年の子達がいないことと、親がいっしょにいることだ。

 はぁ、と息が漏れる。
 朝学校に行く班ということは、俊成とはいっしょになれなかったってこと。そこまで家が離れているわけでもないのに、と文句の一つも言いたくなる。

「次は俺! 俺がやる!」
「ちょっ、待てよ! まだ俺の番だからな」
「コラコラ、ケンカするんじゃないぞー」

 男の子は元気に拍子木を取り合う。それを大人がたしなめていた。
 班でのあたしはいつも注意をする側だった。大人がいるだけでやることがなくなってしまう。

「次はそうだな……瞳子ちゃんどうだい? まだ一回も拍子木を叩いていないだろう」
「え、あたしですか?」

 付き添ってくれている町内会のおじさんに指名されてしまった。
 順番を待っている男の子達からうるさく言われるかもしれないと思ったけれど、むしろ笑顔で「どうぞ」と拍子木を渡されてしまった。
 実際に手に持ってみれば不思議な感触だ。ツルツルとした手触りなのに持ちやすかった。軽いけれど、ずっしりとした重みがあるように感じる。

「銀姉ちゃんがんばれ!」
「今変な呼び方した男子! ひっぱたくわよ!」

 犯人は「ひええっ」と逃げようとして、おじさんに首根っこを掴まれていた。
 まあ、変な呼び方したのはともかく、あれでもあたしを応援しようとしてくれていたのだろう。同じ登校班の付き合いだ。それは伝わってきた。

「いくわよ……」

 妙に緊張する。拍子木を持つ右手と左手が離れる。
 ドキドキする胸をそのままにして、あたしは拍子木を鳴らした。
 大きく甲高い音が、広い夜空まで届きそうだった。

「マッチ一本火事の元ー!」

 澄んだ空気。あたしの声もよく響いた。白い息が溶けていく。
 周りの子供達は楽しそうにしていた。先頭に立って拍子木を何度も叩く。なんだかあたしがみんなを引き連れているみたいね。
 火事はあってはならない。万が一にでも、あたしが知っている誰かの家が火事になったら……。考えるだけでも恐ろしい。
 火の用心。まあいいか、だなんていい加減ではいられない。きっとその気の緩みが火事の元なのだ。
 だからこそ、こうして町内みんなの気を引き締められるように。そのために拍子木を叩くのだ。

「火の用心。マッチ一本火事の元ー!」

 夜空まで声を響かせる。町内のみんなへと声が届きますように。そう願ってあたし達は進んでいくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...