上 下
14 / 23

野球しようぜ!④(小学五年生)

しおりを挟む
「く~! あんなの当たんないわよぉ」

 五番バッターの小川さんは空振り三振に倒れた。当たれば飛んでいきそうなスイングだったんだけどね。ものすごい大振りだったけど。
 これでスリーアウト、チェンジだ。一回表の攻撃は終わった。
 一対〇。俺達五年生チームのリードだ。
 だが六年生チームの攻撃はこれからである。気を引き締めていかなきゃならないだろう。

「しまっていこー!!」

 グラウンドに大声を響かせる。守備についたみんなも応えるように声を返してくれた。
 キャッチャーマスクを被り、俺も守備位置につく。マウンドに立つ本郷は自信満々だと態度に出ていた。相手は六年生だってのに強気だねぇ。
 そんな本郷がいるからこそ、俺達も強気でいられる。俺はミットを構えた。
 相手ピッチャーに触発されてなのか、本番モードの本郷が投げるボールには勢いがあった。
 ズバンッ! ズバンッ! と続けて気持ちのいい音を響かせてくれる。坂本くんの速い球と比べても負けていない。
 六年生チームの一番と二番バッターを連続三振に仕留める。最高の出だしだろう。

「あいつ、けっこう良い球投げるじゃねえか」

 声に顔を上げれば、三番バッターの坂本くんが右打席に入るところだった。
 マウンド上でも風格を感じてはいたけど、打席に立っている姿からもできる奴って感じがする。これが小学生だなんてね。将来が楽しみである。

「まあ、お手柔らかにお願いします」
「ハッ、お前にもタイムリー打たれたの忘れてねえからな」

 おっと、怖い目つきがこっちにもきたぞ。キャッチャーマスクしていて助かった。
 さっきまでと同じ気持ちで挑んでいたら打たれそうだ。低めにミットを構える。
 ダイナミックな投球動作から、小学生レベルでは剛速球であろうボールが放たれる。相手の実力を感じ取ったのか、一段ギアを上げたようだ。

「ボール!」

 だが指先から放たれた球はストライクゾーンよりも高かった。
 さらにボール球を二つ続けてしまう。本郷が逃げているわけじゃない。良い球を投げようとした結果、力んでコントロールできなくなっているのだろう。悔し気な顔がそう物語っている。
 ボール球を三つ続けてしまった。あと一つでフォアボールだ。ただで塁に出すわけにはいかない。
 まずは一つ、ストライクがほしい。真ん中に構えて……ってのは本郷らしくないか。
 スポーツに関しては常に真剣だ。そんな奴がストライクを置きにいく球を投げるはずがない。
 勝負だ。俺は変わらず低めにミットを構えた。

「ストライク!」

 バシッ! と構えたところにきた。こいつ、追い込まれてからがすごいな。どんな心臓してるんだよ。

「そうこなくっちゃよ」

 坂本くんも嬉しそうに口角を上げる。
 第五球。豪快なフォームからの一球は威力充分。
 けれど、甘いコースだった。
 坂本くんが鋭いスイングでボールを捉えた。痛烈な打球がピッチャー本郷の右を抜けていく。

「と」

 そのままセンター前ヒットかと思われた打球を、セカンドの守備についていた赤城さんが飛びついて捕球した。

「嘘だろ!?」

 一塁へ走る坂本くんが驚く。俺も驚いた。
 でも捕るのが精いっぱいだ。送球できる態勢ではない。

「木之下っ」
「任せて!」

 そんな考えをあっさりと裏切ってくれた。赤城さんはショートの瞳子ちゃんへとボールをトスした。受け取った瞳子ちゃんは駆ける勢いのまま送球する。
 瞳子ちゃんが投げた球を、ファーストの小川さんがキャッチした。ほぼ同時に坂本くんが一塁ベースを駆け抜ける。

「セーフ!」

 ファインプレーだったけど、僅かな差で間に合わなかった。坂本くんの足が並だったらアウトだったはずだ。
 次は四番キャッチャーの田中くん。いかにも打ちそうな体格だ。本郷の球をジャストミートした坂本くん以上の打力があると覚悟しておいた方がいいだろう。
 でも、こっちには鉄壁の二遊間コンビがいるんだとわかったはず。敵には脅威に、味方には頼もしく映った。ランナーは出したけれど、流れまでは渡してなんかいないぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

普段しっかり者で可愛い上司(♀)が風邪を引いて弱ると、やっぱり可愛かった話

みずがめ
恋愛
普段はしっかり者の上司が風邪を引いた。部下の男がいてもたってもいられず家までお見舞いに押しかける話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...