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野球しようぜ!②(小学五年生)
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日曜日。六年生と野球の試合をする日がやってきた。
河川敷のグラウンドに集まって準備運動している。六年生も同じくだ。一学年の違いだけだが、小学生という成長期だと体格の違いを思い知らされる。
「なあ本郷」
「なんだよ高木?」
「俺達、助っ人率が高くないか?」
五年生チームのスタメンには俺と本郷はもちろんのこと、瞳子ちゃんに赤城さんと小川さん、それから佐藤まで含めた計六人の助っ人で占められていた。
さすがにこれはいかがなものか。もともと野球やってた子達が黙ってないのではないかと心配になる。
「しょうがないだろ。あいつらが勝てるならなんでもいいって言ってこんなオーダーになったんだからさ」
それでいいのか野球少年達よ。
だけど、この試合で負けてしまえば野球を楽しむ場所を取られてしまう。そう考えればプライドにこだわっている場合でもないのかもしれない。
……負けられないな。
バシッ! ミットに矢のような速球が突き刺さる。
「ナイスボール!」
キャッチボール相手の本郷に向かって声を張る。サッカーの実力は相当なものだけど、野球をやらせても申し分のない才能を見せつけてくれる。
たぶん球速は一〇〇キロを軽く超えてるんじゃないだろうか。捕球した左手が痛い。
そんな本郷は当然のごとく本日のピッチャーを務める。キャッチボールの相手をしている俺はキャッチャーだ。慣れないキャッチャーミットに苦戦させられている。
試合当日にきて道具が使いづらいとか言っていられない。今日まで本郷が投げるボールを捕り続けてきたんだ。後ろに逸らすというヘマだけはしないつもりだ。
互いに体が温まってきたところで、試合開始だ。
一回表。俺達五年生チームの攻撃だ。
トップバッターは本郷。実力的には四番にどっしりと座ってほしかったのだが「一番が一番いいに決まってんだろ」との本人の意見を尊重する形となってしまった。
「しゃあっ! いくぜ!」
気合いが入った大きな声。気持ちは充分に試合に入っているようだ。
対する六年生チームはピッチャーに坂本くん、キャッチャーは田中くんというバッテリーである。
六年生の子はよく知らないのだけど、この坂本くん田中くんのバッテリーは相当な実力を持っているのだそうだ。本郷が学校で一番サッカーが上手いように、野球ではこの二人が一番なんだとか。
だからそんなに上手けりゃ少年野球のチームとかいろいろあるでしょうに。わざわざ野球で遊んでいる年下を相手にしなくてもと思うよ。まあ野球ができるくらい広い場所なんてあんまりないかもしれないけどさ。
本郷が打席に入る。彼の能力の高さは六年生の間でも知られているだろう。なのに、マウンド上にいる坂本くんの表情からは余裕すら感じられる。
「プレイボール!」
審判が試合開始を告げる。審判とはいっても近くにいた野球好きのおじさんだけどね。子供の無茶ぶりのお願いにも拘わらず、快く引き受けていただきありがとうございます!
「嘘だろ……」
坂本くんの投げる球は速かった。詳しい球速がわからないけど、本郷が投げる球よりも速いように見える。
いくら本業ではないとはいえ、本郷は俺達五年生の中で一番運動能力が高いのだ。たとえ年上相手だろうが圧倒してくれるという信頼感があった。
その本郷よりも速い球を繰り出す坂本くん。小学生だってのに風格のようなものを感じてしまう。
簡単に空振り二つを献上し、本郷はツーストライクと追い込まれた。
本郷のピンチに、俺達五年生チームのベンチに緊張が走る。
「ねえねえトシくん」
そんな中、助っ人で唯一スタメン落ちしている葵ちゃんが呑気な声で俺に話しかけてきた。
「どうしたの葵ちゃん?」
緊張感に逆らって葵ちゃんに応対する。ニコニコと笑顔を見せる彼女からは、俺達五年生の中で最強の本郷がやられてしまうかもという、ピンチの状況を一切感じさせない。
「あの人が投げてるボール、いつものより小さい気がするんだけど。それに投げ方だっておかしいよ。上からこう投げてる」
葵ちゃんは坂本くんの投げ方をマネしながら指摘する。間違い探しを見つけたかのような、すごく嬉しそうな表情をしていた。とても良い笑顔です。
さて、葵ちゃんは何を言っているのだろうと首をかしげる。そしてすぐに彼女が何を言いたいかがわかった。
「ああ。葵ちゃんが言っているのはソフトボールだね。今回は軟球を使った野球の試合なんだ」
体育の授業は野球ではなくソフトボールをしていた。どうやら同一のものとしてインプットされているようだ。
違いがわかっていない葵ちゃんにすぐ理解しろというのは難しい話である。顔を見てれば困惑が伝わってくる。
初めから戦力外とされていた葵ちゃんは練習に参加しなかった。そもそもタイミングが悪く、ピアノ教室と被ってしまい練習を見てすらいないのだ。野球とソフトボールの違いを知るヒントすらもらえなかった状態。これは仕方がない。うん、葵ちゃんは悪くないよ。
俺が葵ちゃんに野球とソフトボールの違いを説明している間に、本郷は見事なツーベースヒットを放っていた。見逃したのは俺と葵ちゃんだけである。
河川敷のグラウンドに集まって準備運動している。六年生も同じくだ。一学年の違いだけだが、小学生という成長期だと体格の違いを思い知らされる。
「なあ本郷」
「なんだよ高木?」
「俺達、助っ人率が高くないか?」
五年生チームのスタメンには俺と本郷はもちろんのこと、瞳子ちゃんに赤城さんと小川さん、それから佐藤まで含めた計六人の助っ人で占められていた。
さすがにこれはいかがなものか。もともと野球やってた子達が黙ってないのではないかと心配になる。
「しょうがないだろ。あいつらが勝てるならなんでもいいって言ってこんなオーダーになったんだからさ」
それでいいのか野球少年達よ。
だけど、この試合で負けてしまえば野球を楽しむ場所を取られてしまう。そう考えればプライドにこだわっている場合でもないのかもしれない。
……負けられないな。
バシッ! ミットに矢のような速球が突き刺さる。
「ナイスボール!」
キャッチボール相手の本郷に向かって声を張る。サッカーの実力は相当なものだけど、野球をやらせても申し分のない才能を見せつけてくれる。
たぶん球速は一〇〇キロを軽く超えてるんじゃないだろうか。捕球した左手が痛い。
そんな本郷は当然のごとく本日のピッチャーを務める。キャッチボールの相手をしている俺はキャッチャーだ。慣れないキャッチャーミットに苦戦させられている。
試合当日にきて道具が使いづらいとか言っていられない。今日まで本郷が投げるボールを捕り続けてきたんだ。後ろに逸らすというヘマだけはしないつもりだ。
互いに体が温まってきたところで、試合開始だ。
一回表。俺達五年生チームの攻撃だ。
トップバッターは本郷。実力的には四番にどっしりと座ってほしかったのだが「一番が一番いいに決まってんだろ」との本人の意見を尊重する形となってしまった。
「しゃあっ! いくぜ!」
気合いが入った大きな声。気持ちは充分に試合に入っているようだ。
対する六年生チームはピッチャーに坂本くん、キャッチャーは田中くんというバッテリーである。
六年生の子はよく知らないのだけど、この坂本くん田中くんのバッテリーは相当な実力を持っているのだそうだ。本郷が学校で一番サッカーが上手いように、野球ではこの二人が一番なんだとか。
だからそんなに上手けりゃ少年野球のチームとかいろいろあるでしょうに。わざわざ野球で遊んでいる年下を相手にしなくてもと思うよ。まあ野球ができるくらい広い場所なんてあんまりないかもしれないけどさ。
本郷が打席に入る。彼の能力の高さは六年生の間でも知られているだろう。なのに、マウンド上にいる坂本くんの表情からは余裕すら感じられる。
「プレイボール!」
審判が試合開始を告げる。審判とはいっても近くにいた野球好きのおじさんだけどね。子供の無茶ぶりのお願いにも拘わらず、快く引き受けていただきありがとうございます!
「嘘だろ……」
坂本くんの投げる球は速かった。詳しい球速がわからないけど、本郷が投げる球よりも速いように見える。
いくら本業ではないとはいえ、本郷は俺達五年生の中で一番運動能力が高いのだ。たとえ年上相手だろうが圧倒してくれるという信頼感があった。
その本郷よりも速い球を繰り出す坂本くん。小学生だってのに風格のようなものを感じてしまう。
簡単に空振り二つを献上し、本郷はツーストライクと追い込まれた。
本郷のピンチに、俺達五年生チームのベンチに緊張が走る。
「ねえねえトシくん」
そんな中、助っ人で唯一スタメン落ちしている葵ちゃんが呑気な声で俺に話しかけてきた。
「どうしたの葵ちゃん?」
緊張感に逆らって葵ちゃんに応対する。ニコニコと笑顔を見せる彼女からは、俺達五年生の中で最強の本郷がやられてしまうかもという、ピンチの状況を一切感じさせない。
「あの人が投げてるボール、いつものより小さい気がするんだけど。それに投げ方だっておかしいよ。上からこう投げてる」
葵ちゃんは坂本くんの投げ方をマネしながら指摘する。間違い探しを見つけたかのような、すごく嬉しそうな表情をしていた。とても良い笑顔です。
さて、葵ちゃんは何を言っているのだろうと首をかしげる。そしてすぐに彼女が何を言いたいかがわかった。
「ああ。葵ちゃんが言っているのはソフトボールだね。今回は軟球を使った野球の試合なんだ」
体育の授業は野球ではなくソフトボールをしていた。どうやら同一のものとしてインプットされているようだ。
違いがわかっていない葵ちゃんにすぐ理解しろというのは難しい話である。顔を見てれば困惑が伝わってくる。
初めから戦力外とされていた葵ちゃんは練習に参加しなかった。そもそもタイミングが悪く、ピアノ教室と被ってしまい練習を見てすらいないのだ。野球とソフトボールの違いを知るヒントすらもらえなかった状態。これは仕方がない。うん、葵ちゃんは悪くないよ。
俺が葵ちゃんに野球とソフトボールの違いを説明している間に、本郷は見事なツーベースヒットを放っていた。見逃したのは俺と葵ちゃんだけである。
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