元おっさんの幼馴染育成計画~ほのぼの集~

みずがめ

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野球しようぜ!①(小学五年生)

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 秋が深まる季節。読書の秋。食欲の秋。そして、スポーツの秋だ。

「野球しようぜ!」

 その本郷の明るい声が始まりだった。もうとっくに甲子園は終わったぞー。
 本郷永人はサッカー少年である。その実力は上級生含めて学校一だろう。サッカーに情熱と愛情を全力で注いでいると言っても過言ではない。
 そんな彼がサッカーではなく野球をする理由とは? そこまで興味はないけど考えてみることにした。

「どうしたんだ本郷? サッカーから野球に乗り換えたのか」
「違うって。次の試合、絶対に勝たなきゃいけないからって助っ人頼まれたんだよ」
「助っ人?」

 本郷が説明するに、五年生が河川敷のグラウンドで草野球をやっていたのだが、そこへ六年生が場所をよこせとやってきた。
 年上が相手というのもあり、時間を区切って使おうと提案したが、自分達は上級生だからとそれを拒否。ならば試合で勝った方のものだと、話が飛躍していったのだそうだ。

「同級生の仲間が困ってんだ。手を貸してやらなきゃだろ」
「そうだな。そういうことなら協力するよ」
「高木ならそう言ってくれると思っていたぜ」

 品川ちゃんの件ではみんなに世話になった。困っている時に助けてもらったのなら、その借りを返さなくちゃならないだろう。
 どちらともなく腕をぶつけ合う。たまにはこういうノリも悪くない。

「トシくん、本郷くんと何お話しているの?」

 男の友情を確かめ合っている現場を葵ちゃんと瞳子ちゃんに目撃されてしまう。割とノリでやってたけど、改めて聞かれるとなんか恥ずかしいな。

「木之下もいいところに来たな。お前も野球の試合に出てくれよ」
「は? 野球?」

 唐突な誘いに眉間にしわを寄せる瞳子ちゃん。あと瞳子ちゃんを「お前」呼びすんなっ。
 本郷は二人に事情を説明した。

「何よそれ。上級生だからって横暴じゃないの。わかったわ。あたしも試合に出るわ!」

 義憤に燃える瞳子ちゃん。彼女の正義感に火がついたようだ。
 女子だからとあなどるなかれ。体育で瞳子ちゃんはどんな球技でも上手にこなすのだ。その実力は相手が年上の六年生だろうと安心して助っ人を頼めるレベルである。

「なんか面白そうな話してるじゃない。私も混ぜなさいよ」
「助っ人って聞こえた。あたしもなんの話をしていたか興味ある」

 さらに話を聞きつけた小川さんと赤城さんまでやってきた。本郷が事情を説明する。本日三度目の説明である。
 小川さんと赤城さんは瞳子ちゃんほどではないにしろ、女子の中ではトップ3に入るほど運動ができる。同学年では男子含めてもトップクラスだろう。

「本当に面白そうじゃない! 私も出たい出たい。カッキーンってかっ飛ばしてあげる」

 エアバットを振る小川さん。その打撃フォームを見るに、某虎球団の主砲ではないかと予想してみた。完成度高いね。

「あたしは……人が足りないなら出てもいいよ」
「なら出ろよ赤城。お前なら戦力になるぜ」

 どっちでもよさそうな赤城さんの背中を押すどころか、手を引っ張るくらいの勢いで仲間へと引き込む本郷。これには彼女も「わかった」と素直に頷いた。というか誰にでも「お前」呼びするのな。

「みんな集まってどないしたんや?」

 ここで佐藤も入ってきた。本郷に四度目の説明をさせるのは心苦しいので、俺が簡単に説明する。

「へぇー、みんなで野球するやなんて楽しそうやん。僕も混ざりたいなぁ」

 そう言って、その場でエア素振りをする佐藤。それさっき小川さんがやってたぞ。佐藤も某虎球団のファンだと看破する。

「けっこう集まったな。これなら六年生相手だろうが絶対に勝てるぞ」

 俺達の顔ぶれを確認しながら、本郷は満足そうに頷いた。

「ねえねえ。私は?」
「え……」

 表情を輝かせながら尋ねる葵ちゃんに、本郷は固まった。
 葵ちゃんが運動できるかどうかは、本郷がまったく触れなかったことで察してほしい。そうだな、控えめに言って戦力外である。

「宮坂は……」

 普段から物怖じすることなんてない本郷が言葉を詰まらせる。期待に満ちた目が言葉を重くさせる。
 戦力外通告はする方もつらいのだ。本郷はぐっと拳を握り、言い放った。

「宮坂は……、秘密兵器だ! ここにいる誰もできないことをやってもらうつもりだ!」
「私が秘密兵器……? 誰にもできないことを、やる……」

 大仰に頷く本郷。おい、そんなこと言って大丈夫なのか? 葵ちゃんの目が期待に満ちまくってんぞ。

「そういうわけで、次の日曜日に試合があるからな。それまで特訓するぞ! おー!!」

 葵ちゃんのことは先送りにしたらしい。まとめにかかった本郷のかけ声に、俺達は遅れて続いたのであった。
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