元おっさんの幼馴染育成計画~ほのぼの集~

みずがめ

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背比べ勝負(中学二年生)

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「高木くんってさ、けっこう身長伸びてない?」
「いきなりだなぁ」

 唐突な小川さんの言葉である。俺をまじまじと見つめる彼女はなぜか眉間にしわを寄せている。
 しかし言わんとすることはわからなくもない。
 現在俺と小川さんの目線は同じくらい。つまり身長は同じくらいである。小学生の頃は見上げるほどだった彼女も、成長期に入った俺ならば追いついてしまえるのだ。口にはしないが嬉しかったりする。
 それでも前世では小川さんは俺よりも背が高かったはずだ。並べたということは確実に俺は前世の自分を超えているということだろう。運動と睡眠の重要性を実感として身に染みる。

「でもさぁ、まだ私の方が高いよね?」
「む?」

 断言めいた口調の小川さんには悪いがそれはどうかな? 少なくとも見た目でわかる程度の差ではない。俺の方が若干高くなっていても不思議じゃないほどの差でしかないのだ。

「待ってくれよ。最近の俺は今こそ成長期のピークかってくらい身長が伸びてるんだ。もう小川さんを超えてたっておかしくないぞ」
「へぇー。だったら勝負でもする?」
「いいとも。勝者は敗者から今日の給食のプリンをもらえる、ってのでどうだ?」
「乗った!」

 かくして俺と小川さんの間でデザートのプリンを賭けた仁義なき争いが始まったのである。……ただの背比べだけどね。

「ほな、二人とも準備はええか?」

 審判は同じクラスの佐藤だ。心なしか面倒そうなオーラをかもし出している気がするのだけど、佐藤に限ってそんなこと思ってもないだろう。

「二人とも背中合わせて。背筋伸ばして顎を引くんや。背伸びなんてズルしたらあかんで」

 指示通りに小川さんと背中を合わせる。背中の感触だけではどっちが高いかなんてわからない。
 そういえば、小学生の頃は葵と瞳子ともこんな風に背比べしていたっけか。中学生になってからは身長差が広がって背比べすることもなくなった。
 その代わり、自然と上目遣いされることが多くなった。効果は抜群だ。ずっといっしょなのに未だドキドキさせてくるだなんて反則だと思う。

「んー……」

 見るだけではわからなかったようで、佐藤は俺と小川さんの頭に手を置いた。ちゃんと測ってもらうためなのだろう。小川さんの体に力が入る。

「うん、ちょっとだけやけど高木くんの方が背高いで」
「えー! 嘘でしょ!?」

 佐藤の判決に即座に抗議の声がかけられる。
 どれだけ言われようとも小川さんが納得を見せる様子はなかった。そんなに俺に身長を抜かされたのが嫌なのだろうか。

「わかったわかった。ならもう一回測ったるわ。それでええんやろ?」
「う、うん……。それでよし」

 佐藤が根負けしたような形でもう一度測り直すこととなった。
 俺と小川さんはもう一度背中をくっつける。それを確認した佐藤が先ほどと同じように俺達の頭に手を置く。今度こそ負けないようになのか、小川さんが背筋を伸ばした気配がする。

「小川さん動かんといて」
「う、動いてないし」

 とか言いつつ背後からいごいごした感覚。それを抑えようとしたのか頭に置かれた佐藤の手に力が入る。俺は別に動いたりしてないのにな。

「やっぱりちょっとやけど高木くんの方が背高いわ」
「そ、そお……」

 今度は大人しく納得してくれた。さすがに測り直しの二回目に抗議する気はないようだ。

「さ、佐藤くんも私と勝負してみる?」

 ここで小川さんは佐藤へと標的を変えた。どうしても勝ちがほしいのだろうか。
 ふっと笑みを見せる佐藤は、諦めにも似た感情を露わにしていた。

「僕はええわ。まだ小川さんに届かなへんてわかっとる。比べるまでもあらへん」

 佐藤の身長は男子の平均よりもやや下といったところである。女子の平均を大きく上回る小川さんよりもぱっと見ただけで低いのはわかりきっていた。
 前世では俺と佐藤に身長差はあまりなかった。だからこそ気持ちがわかるんだ。自分の背が低いだなんてわざわざ強調したくはない。

「……でも、いつかは追い抜いたる! 打倒小川さんや!!」

 佐藤の背後から何かが燃えているように見えた。今は届かないとわかっていながらも、未来を諦めた目ではなかった。自分の未来を、可能性を信じているのだ。身長の話だけどね。
 でも、佐藤は本当に強いな。前世で同じだからって気持ちがわかるだなんて軽々しく言えなくなる。逆行してようやくがんばろうと思えるようになった俺とは大違いだった。

「ま、まあ? いいんじゃない」

 打倒と宣言された当人はちょっとだけ恥じらいながらも応じたようだった。目を逸らしてしまっているのは佐藤の熱にやられたからなのだろう。

 その後の給食では残った牛乳を佐藤が全部飲み尽くしてしまった。気合いが入っているのはわかるけど……腹、壊すなよ。
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