上 下
2 / 23

プール授業のお話②(小学四年生)

しおりを挟む
 準備体操を終えればようやくプールに入れる。

「いやっほーい!」

 よほど待ちわびていたのだろう。数人の男子が上がったテンションのまま盛大な水音を立ててプールの中へと飛び込んでしまった。
「気持ちいいーーっ!」と楽しそうに顔を出すのは結構だが、プール授業では先生の許可がなければ飛び込みはしてはいけないということになっている。怒られるぞー。

「ちょっとあんた達! 勝手にプールに飛び込んだら危ないでしょ!! 早く上がりなさい!」

 案の定男子達は怒られていた。先生にじゃなくて瞳子ちゃんにだけど……。
 彼女の剣幕に恐れてしまったのか、男子達は「ごめん……」と謝罪を口にしながらプールから上がった。さすがは瞳子ちゃんだ。仕事を取られてしまった先生は苦笑いである。

「飛び込んだせいでケガなんかしたら大変なんだからね。水の中は楽しいばっかりじゃなくて怖いことだってあるんだから」

 瞳子ちゃんに諭されて男子達はしゅんとうなだれた。本当に先生のやることがないな。
 瞳子ちゃんはスイミングスクールに通っていてここにいる誰よりも泳ぎの経験がある。だからこそ水に対して真摯に向き合っているのかもしれない。

「わ、悪かったよ木之下……」
「……フンッ」

 プールに飛び込んだ男子の中には本郷もいたようだ。謝ってはいるが、瞳子ちゃんは鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。イケメンのモテ男とはいえ、この態度にはがっくりと落ち込んでしまった。いい薬だな。
 気を取り直してみんなでプールの中へと入る。少し冷たく感じてしまう。泳いでいるうちに慣れるだろうけどね。

「まずはバタ足からいくぞー!」

 先生からの指示でみんながプールの縁に掴まる。笛の音で一斉に縁を掴んだままでのバタ足を始めた。
 バシャバシャと足で水面を叩く音が響く。水しぶきを派手にしてやろうと足の付け根を大きく動かした。

「次は向こう側まで泳いでみようか。ビート板を使ってもいいぞ」

 縦二十五メートルのプールだが、横は十五メートルほどなので小学四年生なら問題なく泳げるだろう。泳ぎに自信がない子でもビート板があるなら大丈夫……とは言えない子はいるんだよなぁ。

「高木、競争しようか」

 おっ、赤城さんが挑戦的なことを言う。瞳子ちゃんほどじゃないにしても俺だって泳ぎには自信がある方だぜ?

「いいよ。やろうか」

 俺はにやりと笑ってみせる。赤城さんも運動には自信があるみたいだけど、水泳では負けないね。これでもスイミングスクールで選手コースを提案されたくらいにはタイムが良いのだ。
 先生の合図でみんなが一斉にスタートする。勝負ともなれば全力を尽くすもんだ。俺はクロールでぐんぐんと進んでいく。

「ぷはっ」

 端に手がついて顔を上げると、すでに瞳子ちゃんと本郷がゴールしていた。瞳子ちゃんにはともかく、水泳なら本郷に勝てると思ったんだがなぁ……。
 でも赤城さんには勝ったもんね。女子に勝って満足しようとしている元おっさんがいた。というか俺だった。
 で、その赤城さんはどこだ? 今泳いでいる子達の仲から見当たらないんだけども。

「ぷっはぁっ」
「うおっ!?」

 赤城さんが急に水面から顔を出してびっくりしてしまった。え、どこにいたの?
 無表情のまま赤城さんが俺の方に顔を向ける。

「負けたか」

 と、ちょっとだけ残念そうな声色である。俺は気になって尋ねてみた。

「赤城さん、ここまでどうやって泳いできたの?」
「潜水」

 そうこともなげに言う赤城さんになぜだか負けた気になってしまった。この子、スイミングスクールに通っていたら瞳子ちゃんのライバルになっていたのではなかろうか。
 潜水だったにも拘わらず、クラスで四位になった赤城さんなのであった。そして葵ちゃんはビート板があっても十五メートルを泳ぎ切ることができなかったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女子高校生集団で……

望悠
大衆娯楽
何人かの女子高校生のおしっこ我慢したり、おしっこする小説です

放課後の生徒会室

志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。 ※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...