元おっさんの幼馴染育成計画~ほのぼの集~

みずがめ

文字の大きさ
上 下
1 / 23

プール授業のお話①(小学四年生)

しおりを挟む
 プール開きの日がやってきた。
 夏になっての楽しみとしてはプールの授業があることである。いつもの体育に比べても、みんなの気分が三割増しくらいはしていた。
 小学校には低学年用の小さなプールと二十五メートルのプールがある。四年生の俺達が泳ぐのはもちろん二十五メートルの方である。

「私、向こうのプールでもいいかな……」

 スクール水着に着替えた葵ちゃんは低学年用のプールを指差しながら、そうおずおずと口にする。
 四年生になっても泳ぎが苦手な葵ちゃんである。未だに浮き輪がないと不安で仕方がないのだそうな。授業ではビート板が彼女の友達である。

「ダメに決まってるでしょ。葵だってちゃんと泳げるようになった方がいいわよ」
「う~……」

 瞳子ちゃんに言われてしまえば反論できない。葵ちゃんは唸りながら涙目になった。
 瞳子ちゃんは泳ぎが上手だ。というか俺よりも泳ぐのが速い。ダテにスイミングスクールで選手コースで鍛えているわけではないのだ。
 先生に呼ばれて俺達は整列した。小学生だとプールの授業でも男女いっしょに泳ぐのだ。
 先生の説明を俺達は体育座りをしながら聞いていた。とはいえ無駄に話が長くて早く泳がせてくれ、という生徒達の心の声が聞こえてきそうだった。

「ふおっ!?」

 突然意図せず変な声を漏らしてしまう。先生には気づかれなかったようで安心する。
 俺は犯人であろう後ろの人物に小さく声をかけた。

「赤城さーん。何をするのかなー?」
「高木の背中に字を書いただけ」

 俺の後ろで体育座りをしているのは赤城さんだった。彼女に背中を触れられて変な声を漏らしてしまったのだ。
 赤城さんは悪びれる様子もなく、無表情のまま再び俺の背中に指を這わせる。むき出しの背中がゾクゾクとした感覚に襲われた。
 彼女の指がすーっと動く。縦や横、斜めに動いてちょんちょん。どうやら本当に俺の背中に文字をなぞっているらしい。

「なんて書いたかわかる?」
「いや……わかんなかった」
「じゃあもう一回」

 そう言った赤城さんの指先が、またまた俺の背中を滑っていく。
 なんとも言えないぞわぞわした感覚。ちょっと癖になりそう……。

「高木、わかった?」

 赤城さんに尋ねられて意識が戻った。あまりこんなことを続けるもんじゃないと自分に喝を入れる。

「『た』『か』『ぎ』かな?」
「正解」

 相変わらず無表情な彼女だけど、俺が正解したからか口元が綻んだように見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

処理中です...