根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

文字の大きさ
上 下
126 / 127
四章 決着編

第118話 巨人vs巨人

しおりを挟む
 ドシン! 地響きが鳴って大地が揺れる。
 重量級の中でもここまでの対決はそうそう見られるものではない。なんたって巨人同士の戦いなんだから。

「頼むよ精霊さん。こういう時は信頼に応えて無限パワーを出してくれるもんだよ」

 神頼み精霊頼み。拝んでなんとかなるなら、わたしはいくらだって拝んでみせる。
 わたしの意思で巨大ゴーレムが動く。まるで巨大ロボットだ。ビームでも出せたら言うことなかったね。

「まさかここまでとは……。その力……危険です!」

 むしろビームを出せるのは相手の方だ。
 クエミーが操る光の巨人。これも勇者の力の一部なんだろうけど、仕組みはまったくわからない。
 微精霊は関係ないみたいだしね。それどころかクエミーが勇者の力を引き出すほど、微精霊が騒がしくなる。
 どうやら相性はあまりよくないらしい。水と油、みたいなイメージで合ってるのかな?

「って、いきなり!?」

 光の巨人が持つ剣が発光する。さっき山を吹き飛ばした破壊の光か!?
 これ以上周りに被害を出すわけにはいかない。勇者には自然保護の考えはないのだろうか。
 わたしは咄嗟に動いた。

「なっ!?」

 驚くクエミー。驚いただけで、あまりダメージはなさそうだ。
 わたしの巨大ゴーレムが両手を前に出して光の巨人を突き飛ばしたのだ。超重量級なだけあって倒すことに成功する。
 光の巨人が倒れてから、光線が空に向かって一直線に伸びた。本当にビームみたいで、あんなのが当たったら吹き飛ばされた山と同じ運命を辿ってしまう。

「この……っ」

 クエミーはじたばたともがいていた。光の巨人は身じろぎをするものの、上手く立ち上がれていなかった。

「……」

 あれ、もしかして今がチャンスなのでは?
 ゴーレムの指先を飛ばして弾丸にする。微精霊の力がびっしり詰まった特製の弾丸だ。
 弾丸は倒れたままの光の巨人に当たった。ありったけの微精霊の力が加わったためか、その威力は相当なもののようで、衝撃で地響きが鳴るほどだった。
 飛ばした指先はすぐに自己再生する。すぐにまた弾丸として放った。
 ズドンッ! ズドンッ! と、命中する度に大きな土煙を上げる。光の巨人でなければ見失ってしまいそうなほど視界が悪くなる。
 反撃はない。それどころか起き上がれてすらいない。こんな弱点があるとは思ってもみなかった。

「なんか引っくり返った亀みたい……。てかこのまま攻撃し続けていいのかな?」

 ほんのちょっぴり良心が痛む。
 でもやめない。下手に近づいて手痛い反撃にあったら嫌だし。そうでなくても何か変わったアクションがない限りは遠距離攻撃が正解のはずだ。
 なんだかはめ技をしている気分だけれど、これも戦いなのだから仕方がない。

「……」

 心なしか、ウィリアムくん達の視線が冷たいものへと変わっている気がする。え、これってわたしが悪いの?
 ええい! 反撃があるならさっさとしろ! 怒りを込めて岩の弾丸を放った。
 ズドォンッ!! ひと際大きな音だった。
 その瞬間、土煙の中でもはっきりわかるほど光の巨人の全身が発光する。第二形態にでもなるのかと警戒した。

「って、クエミー?」

 土煙と光が収まったかと思えば、すっかり光の巨人の姿は消えていた。
 代わりに本体のクエミーが地面に横たわっていた。目をつむっており、意識がないように見える。

「勝った……のか?」

 警戒してしばらく様子を見てみるが、クエミーの意識が戻ることはなかった。

「──バインド」

 距離を保ったままクエミーを拘束する。やっぱり意識がないようで、簡単に成功した。
 それから巨大ゴーレムを消滅させた。まともに戦闘を行ったわけでもないのに、でかさのせいかすごく疲れた。

「エル!」

 フラつくわたしを、ウィリアムくんが肩を持って支えてくれた。

「あっと……ウィリアムくん、ありがとうね。おかげで助かったみたい」
「ううん。僕よりもやっぱりエルがすごいよ。あの光の巨人になったクエミーを倒しちゃうんだから!」
「ははっ……」

 ウィリアムくんは褒めてくれるけれど、素直には喜べなかった。
 クエミーはあの光の巨人を扱いきれてはいないようだった。最後はただの自滅だ。助けられたという思いが大きい。
 彼女が冷静に戦っていたらこうはならなかっただろう。扱いきれない力に頼らなくたって、クエミーは強い。わたしよりもずっと。

「最弱の勇者、か」

 きっと、歴代の勇者の中で力が劣っていたわけじゃない。
 一度やられたことがある身としてはクエミーが弱かったとは考えたくない。それに、たぶん弱さの原因は心の脆さなのだろう。
 ……それを、わたしが言うとブーメランになっちゃうんだけどね。

「で、黒いの。これで終わったってことでいいのか?」
「ああ、うん、たぶんね……。サイラス、助けに来てくれてありがとう」

 武器を収めるサイラスに頭を下げる。
 彼らが来てくれなかったら危なかった。被害を抑えられたのは『漆黒の翼』の功績といっていいだろう。

「あの暴れてた勇者様はどうするんだ?」

 サイラスがくいっと顎でクエミーを示す。魔法の縄でぐるぐる巻きにされたクエミー。このまま放置するわけにはいかないだろう。

「もしも無力化できたら、聖女様に引き渡す約束なんだ」

 聖女様にとって普通に厄介事ではあるんだけど、クエミーも他国の山を吹き飛ばしたんだし、お咎めが何もないってわけにもいかないだろう。
 クエミーを撃退する。そうすれば、わたしの手助けをしてくれるってのが、ルーク様が出した条件だ。
 撃退っていうか、捕まえちゃったけど……これでもいいんだよね?
 足元が定まってきたし、意識のないクエミーに近づいてみる。

「っ!?」

 すると、突然水流が蛇のように発生した。それはクエミーを守るように包囲した。わたしじゃない。誰の魔法だ?

「そこまでだ。クエミー・ツァイベンの身柄はこちらで預からせてもらう」

 わたしとクエミーの間に入ったのは真っ赤な髪に目つきの悪さが特徴的な男。以前と変わらない特徴を持つホリンくんだった。
 いや、ホリン王子と呼ぶべきか? 友達感覚ではいられないのは確かだった。
 久しぶりに再会したけれど、嬉しさよりも戸惑いの方が強かった。なんでホリンくんがこんなところにいるんだ?

「コーデリア、クエミーを運べ」
「お任せくださいませホリン様」

 金髪の巻髪。さっきの水の魔法はコーデリアさんだったのか。確かに見覚えがある水魔法だった。
 ホリンくんはウィリアムくんに目を向ける。けれど何かを言うわけでもなく、次にサイラス達を見て、最後にわたしと目を合わせた。

「よう。久しぶりだな、エル」
「お、おう……久しぶりだねホリンくん」

 前に学校にいた時と同じような口調で話しかけてくるものだから、わたしも反射的に以前のノリで返してしまった。
 コーデリアさんに睨まれる。あっ、これ失敗した空気だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転生騒動記

高見 梁川
ファンタジー
とある貴族の少年は前世の記憶を取り戻した。 しかしその前世はひとつだけではなく、もうひとつ存在した。 3つの記憶を持つ少年がファンタジー世界に変革をもたらすとき、風変わりな一人の英雄は現れる!

投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~

カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。 「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」 魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...