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四章 決着編
第116話 破壊の光
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あまりの眩さに、わけもわからずその場に伏せた。するとすぐに誰かがのしかかってくる。見えないけどウィリアムくんだろう。
大きな音を何度も聞いたことはあるけれど、今回のは音というには暴力的すぎた。世界の終わりを想像させて、恐怖心から魔法でできるだけ音を遮断した。
「お、終わったのか?」
何が始まっていたのかさえわからなかった。
ウィリアムくんが体を離す。重みがなくなったことでわたしは目を開いた。
「一体何が……」
光が消えて、次いで気づいた。
「山がなくなってる……!」
遠くに見えていたはずの大きな山。それが上半分以上が消滅していた。
眩すぎる光は破壊の奔流だったのだろう。遠くの山を吹き飛ばした事実。その破壊力は計り知れない。
顔から血の気が引いていく。
持久戦なんかやっていられない。またさっきの攻撃をされてしまったら、次はどんな被害が出るかわかったもんじゃない。
村や町など、人がいる場所でなければ被害を考えなくてもいいと思っていたのに……。射程距離のわからない攻撃をされたんじゃあ防ぐ手段も限られる。
ズシンッ! と、大きい音がした。
「それ以上動くなっ!」
光の巨人に向かって精霊術で攻撃する。ダメージがないわけではないのだろうけど、あの巨体はビクともしない。
もっと大きい攻撃じゃないとダメだ。もっと大きくするためには、時間が必要だ。
「……ウィリアムくん」
彼を見る。
まだあどけない少年だったのに、たくましい青年に成長していた。雰囲気は記憶の中のウィリアムくんのままなのに、端々から感じる力強さが別人のようにも思わせる。
わざわざ、こんなわたしを助けに来てくれた。気持ちを悟られないようにクエミーと接し続けて、鍛錬を重ねてきたのだろう。
もう充分だ。これ以上頼ることは、負担が大きくなりすぎる。
「エル。言ってよ」
「え?」
ウィリアムくんはわたしを見下ろしている。本当に背が高くなった。
成長したのは背丈だけじゃない彼の心は、とっくにもうわたしよりも大人だ。
「時間を稼いでほしいんだよね? 時間があれば、エルはなんとかしてくれる」
信頼されている。その信頼はとても大きなものだった。
幼い頃からの刷り込みか。わたしはウィリアムくんの前ではヒーロー気取りだったから。
「エルがなんとかするって言うなら、僕もなんとか食い止めてみせるよ」
だからわたしの口から言ってほしい。彼はそう言った。
「……」
信頼が重い……。
でも、誰かに信頼されるから自分でいられる。存在を保っていられる。
期待が重いとプレッシャーで圧し潰されそうになる。そう思う一方で、期待してほしいと願っている。なんてワガママなんだろうね。
わたしはただ単に、誰かに「ここにいていいよ」と言われたいだけなんだ。そのために、信頼を欲していた。
「ウィリアムくん、少しだけでいい。時間を稼いでほしい」
そんなことだけのために、わたしはがんばってしまえるのだ。そして、人に頼ってもいいのだと知った。
「わかった。僕に任せて」
彼はそんなわたしを笑顔で肯定してくれる。
剣を構えて、ウィリアムくんは光の巨人へと突貫した。
俊敏に動くウィリアムくんは鈍重な巨人を翻弄する。クエミーも動きを追えていないわけじゃないけど、大きすぎる体が反応しきれていなかった。
「今のうちに……」
ウィリアムくんは宣言通りにクエミーを食い止めていた。だったら次はわたしの番だ。
微精霊が集まってくる。たくさん集まってくるけど、もっともっとと呼びかける。
できればアウス以上の力を出せるように。そのためにはとにかく数が必要だった。
「ウィル! いい加減にしてください!」
「やめてほしかったら捕まえてみてよ」
手足をバタつかせる巨人は、動きに繊細さのかけらもない。あれじゃあいくらやってもウィリアムくんを捉えられないだろう。
「いいでしょう。これで終わらせます」
不穏なことを口にしたクエミー。光の巨人の左手の輝きが増した。
剣を持っていない方の手だ。今度は一体何をするつもりなのだろうか?
何をするにしても、あのまま放置していたらいけない。また何かを破壊する予感があった。
「くっ……今援護を」
していいのか? ここで精霊術を使えばまた必要な時間が増えてしまう。
でもウィリアムくんにもしものことがあったらもっとダメだ。わたしは迷いを断ち切ってクエミーへと狙いを定める。
「伏せろ!」
「え? うわ!?」
背後から斬撃が飛んできた。声に従って伏せれば、頭の上を通り過ぎる。
その斬撃は光の巨人へと衝突する。
「ぐぅっ!? い、今のは!?」
飛ぶ斬撃が命中し、光の巨人が膝をつく。
光の巨人に明らかなダメージ。普通の攻撃じゃあ不可能なはずなのに、誰がやったんだ?
後ろを振り向く。そこには何人かの人影があった。
「おい黒いの。あれは一体なんなんだ?」
全身鎧に身を包んだ男、サイラスが前に出ながら尋ねてくる。
「まーたやべえのとやり合ってんな。俺達も混ぜてもらうぜ」
槍使いのブリギッドが口角を上げて槍を振り回した。
「黒い子ちゃんはケガしてない?」
魔道士のテュルティさんがわたしに駆け寄って心配そうな顔を見せる。
他のメンバーも含めた『漆黒の翼』が勢ぞろいしていた。スカアルス王国で最強の冒険者パーティーである。
大きな音を何度も聞いたことはあるけれど、今回のは音というには暴力的すぎた。世界の終わりを想像させて、恐怖心から魔法でできるだけ音を遮断した。
「お、終わったのか?」
何が始まっていたのかさえわからなかった。
ウィリアムくんが体を離す。重みがなくなったことでわたしは目を開いた。
「一体何が……」
光が消えて、次いで気づいた。
「山がなくなってる……!」
遠くに見えていたはずの大きな山。それが上半分以上が消滅していた。
眩すぎる光は破壊の奔流だったのだろう。遠くの山を吹き飛ばした事実。その破壊力は計り知れない。
顔から血の気が引いていく。
持久戦なんかやっていられない。またさっきの攻撃をされてしまったら、次はどんな被害が出るかわかったもんじゃない。
村や町など、人がいる場所でなければ被害を考えなくてもいいと思っていたのに……。射程距離のわからない攻撃をされたんじゃあ防ぐ手段も限られる。
ズシンッ! と、大きい音がした。
「それ以上動くなっ!」
光の巨人に向かって精霊術で攻撃する。ダメージがないわけではないのだろうけど、あの巨体はビクともしない。
もっと大きい攻撃じゃないとダメだ。もっと大きくするためには、時間が必要だ。
「……ウィリアムくん」
彼を見る。
まだあどけない少年だったのに、たくましい青年に成長していた。雰囲気は記憶の中のウィリアムくんのままなのに、端々から感じる力強さが別人のようにも思わせる。
わざわざ、こんなわたしを助けに来てくれた。気持ちを悟られないようにクエミーと接し続けて、鍛錬を重ねてきたのだろう。
もう充分だ。これ以上頼ることは、負担が大きくなりすぎる。
「エル。言ってよ」
「え?」
ウィリアムくんはわたしを見下ろしている。本当に背が高くなった。
成長したのは背丈だけじゃない彼の心は、とっくにもうわたしよりも大人だ。
「時間を稼いでほしいんだよね? 時間があれば、エルはなんとかしてくれる」
信頼されている。その信頼はとても大きなものだった。
幼い頃からの刷り込みか。わたしはウィリアムくんの前ではヒーロー気取りだったから。
「エルがなんとかするって言うなら、僕もなんとか食い止めてみせるよ」
だからわたしの口から言ってほしい。彼はそう言った。
「……」
信頼が重い……。
でも、誰かに信頼されるから自分でいられる。存在を保っていられる。
期待が重いとプレッシャーで圧し潰されそうになる。そう思う一方で、期待してほしいと願っている。なんてワガママなんだろうね。
わたしはただ単に、誰かに「ここにいていいよ」と言われたいだけなんだ。そのために、信頼を欲していた。
「ウィリアムくん、少しだけでいい。時間を稼いでほしい」
そんなことだけのために、わたしはがんばってしまえるのだ。そして、人に頼ってもいいのだと知った。
「わかった。僕に任せて」
彼はそんなわたしを笑顔で肯定してくれる。
剣を構えて、ウィリアムくんは光の巨人へと突貫した。
俊敏に動くウィリアムくんは鈍重な巨人を翻弄する。クエミーも動きを追えていないわけじゃないけど、大きすぎる体が反応しきれていなかった。
「今のうちに……」
ウィリアムくんは宣言通りにクエミーを食い止めていた。だったら次はわたしの番だ。
微精霊が集まってくる。たくさん集まってくるけど、もっともっとと呼びかける。
できればアウス以上の力を出せるように。そのためにはとにかく数が必要だった。
「ウィル! いい加減にしてください!」
「やめてほしかったら捕まえてみてよ」
手足をバタつかせる巨人は、動きに繊細さのかけらもない。あれじゃあいくらやってもウィリアムくんを捉えられないだろう。
「いいでしょう。これで終わらせます」
不穏なことを口にしたクエミー。光の巨人の左手の輝きが増した。
剣を持っていない方の手だ。今度は一体何をするつもりなのだろうか?
何をするにしても、あのまま放置していたらいけない。また何かを破壊する予感があった。
「くっ……今援護を」
していいのか? ここで精霊術を使えばまた必要な時間が増えてしまう。
でもウィリアムくんにもしものことがあったらもっとダメだ。わたしは迷いを断ち切ってクエミーへと狙いを定める。
「伏せろ!」
「え? うわ!?」
背後から斬撃が飛んできた。声に従って伏せれば、頭の上を通り過ぎる。
その斬撃は光の巨人へと衝突する。
「ぐぅっ!? い、今のは!?」
飛ぶ斬撃が命中し、光の巨人が膝をつく。
光の巨人に明らかなダメージ。普通の攻撃じゃあ不可能なはずなのに、誰がやったんだ?
後ろを振り向く。そこには何人かの人影があった。
「おい黒いの。あれは一体なんなんだ?」
全身鎧に身を包んだ男、サイラスが前に出ながら尋ねてくる。
「まーたやべえのとやり合ってんな。俺達も混ぜてもらうぜ」
槍使いのブリギッドが口角を上げて槍を振り回した。
「黒い子ちゃんはケガしてない?」
魔道士のテュルティさんがわたしに駆け寄って心配そうな顔を見せる。
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