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四章 決着編
第110話 再会のあいさつ
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相手の被害は甚大だ。
ほとんどの馬車はボロボロで動けない。負傷者も多数。まずは体勢を立て直したいところだろう。
「だけど突っ込んでくるのが約一名っと」
傷ついた仲間を構う素振りすらなく、クエミーがこっちに向かって駆け出す。当たり前みたいに空を走ってる姿に驚くわたしではない。この世界のファンタジー戦士はそのくらいやってくるってのはもう知っている。
「バキューン」
手をピストルの形にし、岩の弾丸を無詠唱で放った。手の形にとくに意味はない。でも勢いを増した気が、しなくもない。
放った岩は剣で薙ぎ払われる。これも見慣れた光景だ。
戦士タイプに接近されたら後衛職の魔法使いに勝ち目はない。わたしは無詠唱と身体強化がある分マシな方ってだけだ。
距離を離したまま魔法を放てるのが強み。そして剣の届かない距離にいることこそが最大の防御でもある。
「もう逃がしません!」
逃げませんよ。
さらに一足飛びで一気に距離を縮めてきた。こんなことができるってのに「魔法が使えない」とか言うんだから驚きだよ。空を走るとか魔法みたいなものじゃないか。
それにしてもこの世界の戦士は強過ぎないかな。目の前のクエミーといい『漆黒の翼』のメンバーといい、物理法則を書き換えているとしか思えないって。
例外として扱う連中ってのはわかってはいるけどね。もうちょっと魔法で無双させてほしかったよ。
「岩がダメなら炎でどうだ」
両手を天に向けて掲げる。その先から炎の塊が生まれた。
炎を圧縮。球体になったその中に魔力を込める。大きさを増し、煌々と光を発する。
技名は「炎帝」とかどうだろう? うん、調子に乗ってるなわたし。まだまだこれからだってのに興奮が止められないでいる。
ワクワクなんかしちゃいない。ドキドキは悪い意味でずっとしたままだ。
ただ体中に興奮物質が分泌されている。明らかに現代日本人に備わった以上の能力を持っているってのに、こういう緊張は凡人と同じってのが、ちょっとだけ納得いかない。
「うりゃっ」
気合いの入らない声とともに、でかい炎の塊を放った。
対するクエミーは回避する様子を見せない。何も問題ないとばかりに真っすぐ突っ込んでくる。
本当にかわす必要がないのか、はたまた空中では器用に動けないのか。判断はつかないけれど、効果があるかどうかはぶつけてみればわかる。
「ふっ!」
やはり剣で薙ぎ払うようだ。魔法はなんでもぶった切れるとか思ってそう。
実際にぶった切れるんだろうけどね。それでもいいよ。
足場のないはずの空中で、クエミーは走りながら剣を振るった。まさに目にも止まらぬ速さ。
「うわっと」
「くっ!?」
クエミーによって炎の球体が真っ二つにされた瞬間、轟音とともに炎の嵐を巻き起こした。
魔力をいっぱい詰め込んだからね。それを斬れるクエミーは規格外だ。代わりに詰め込んだ分の威力は放たれてしまったけれど。
魔力の嵐に巻き込まれながらも、最初に定めていた落下地点へと向かう。クエミーは……たぶん大丈夫だろう。
ふわりと軽やかに着地に成功してみせる。見上げれば空に炎の渦が発生していた。
「調整すればもっと綺麗に形を整えられそうだなぁ」
自分の魔法に対して呑気な感想が漏れた。別に被害はないだろうしね。
その炎の中から、白煙を上げて一つの物体が迫ってきた。
物体とか失礼だったね。体を丸めたクエミーが地面へと轟音を立てて着弾した。
もうもうと砂煙が上がる。もっと余裕を持って着地するかと思っていただけに、これにはびっくりだ。
「久しぶりだねクエミー」
再会のあいさつとともに岩の弾丸を三発放った。
「随分なあいさつですね」
砂煙の中からキラリと輝く。振るわれた剣が砂煙とともに岩の弾丸まで斬り裂いていた。
「そんなことはないでしょうよ。もしかしたらあいさつさえさせてもらえなかったかもしれないんだから」
もっと声が震えるんじゃないかって想像していたのにね。
実際にクエミーを目の前にしても過度な緊張はなかった。それなりの修羅場をくぐってきたからなのかもしれない。
あまり成長が見られないと落胆してたのに。自分ってものは一生変わらないって絶望していたのに。
気づかないうちに、思っていた自分ってものじゃなくなっていたらしい。環境が変わったからなのか、人との出会いがそうさせたのか、まだ判断はできない。
「抵抗はやめなさいエル・シエル。抵抗をやめないのであれば、手荒に拘束させてもらいますよ」
「これでも元クラスメイトだよ? 学友だったものとして、少しは恩情ってものがないのかな?」
「ありません。あなたの身柄を拘束するのが王命です」
「王命って言えば、継承戦はもう終わったのかな? ホリンくんはどうだった? ああ、クエミーはチェスタス様びいきだっけ」
「……よくしゃべりますね。あなたはこの状況がわかっているのですか?」
「そりゃ見たまんまじゃない。わたしとクエミーの二人きり。美少女が二人もいるだなんて華があっていいよね」
明るい調子で話し続ける。次第にクエミーの目つきが険しくなっていった。とはいえ、彼女の表情は変化に乏しい。わたしじゃなかったら気づかなかったかもね。
だから、踏み込んでくる一撃にも反応できた。
「今、わたしを真っ二つにするつもりじゃなかった? かわさなかったら死んでたんですけど」
背筋が凍るほどの風切り音を聞きながら尋ねる。けれどクエミーに悪びれる様子はなかった。
「手加減していますから問題ありません」
「問題大アリだよ!」
この子、手加減の意味知ってんのかな? 手加減はしてたかもしれないけれど、両刃の剣を一太刀でも喰らったら斬られちゃうって。わたしの体はそんなに硬くないんだからねっ。
「で、わたしを拘束して、それからどうするつもり?」
「あなたが隠している秘密を吐かせます。そして、罪相応の罰を受けてください」
「何それ? 乙女に秘密はつきものなんだぜ。それに罪って身に覚えがないんですけど。もしかしてかわいすぎて罪になっちゃったとか? 美少女罪とか斬新だねー」
大地を割る斬撃。大振りのそれをかわして少し距離を取る。
「ふざけないでください。あなたの行動には怪しい点が多くありました。あの日、反乱分子を王都に手引きしたのもあなたなのでしょう」
「断言してくれるね。まったく身に覚えがありません。って、言ったら信じてくれないかな?」
「牢を抜け出し国から姿を消した。その事実がある以上、その言葉になんの力もありませんよ。やましい事実があるから逃亡したのでしょう」
本当に身に覚えがないんだけどな。こっちは無実だってのに、まったく聞く耳を持ってはくれなさそうだ。
まあ、わたしが何かしてもしなくても、きっと答えは変わらなかったんだろうけど。
「エル。あの日、あなたは無断でカラスティア魔道学校に侵入していますね。そしてその夜、あなたが侵入した建物が爆破されました」
学校が爆破されたとか初耳なんですけど。
いや、わたしが捕まって脱獄した夜。王都の建物もいくつか被害が出たそうだ。カラスティア魔道学校もその被害の一つだったのか。
「あなたは入学してからあの日まで、アルバート魔道学校から外出した日が何度かありましたね。その時に何かしていたんじゃないですか? あなたの姿を見失ったとの報告を受けています」
「いや報告ってなんだよっ。もしかしてわたし見張られてたの? ただの一学生だったのに?」
「……」
ここで沈黙されると本当っぽいじゃないか。
まあ本当っぽいっていうか、本当だって知ってるんだけどね。
最初はわたしの故郷の近隣の貴族。わたしが無断でやってた医療行為に目くじらを立てたことから始まった。
それからわたしが対校戦で優勝したことでその意味合いが変わった。
そいつらだけじゃない。わたしに利用価値を求めた連中は他にも現れた。
厄介だったのは、そういう連中の地位や権力が随分と上だったこと。
「申し訳ないけど、わたしは役に立てるほどの頭も愛国心もなかったからね。無駄に力を持った不穏分子。そりゃ処分してしまった方が後腐れがなくていい」
ほとんどの馬車はボロボロで動けない。負傷者も多数。まずは体勢を立て直したいところだろう。
「だけど突っ込んでくるのが約一名っと」
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「バキューン」
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放った岩は剣で薙ぎ払われる。これも見慣れた光景だ。
戦士タイプに接近されたら後衛職の魔法使いに勝ち目はない。わたしは無詠唱と身体強化がある分マシな方ってだけだ。
距離を離したまま魔法を放てるのが強み。そして剣の届かない距離にいることこそが最大の防御でもある。
「もう逃がしません!」
逃げませんよ。
さらに一足飛びで一気に距離を縮めてきた。こんなことができるってのに「魔法が使えない」とか言うんだから驚きだよ。空を走るとか魔法みたいなものじゃないか。
それにしてもこの世界の戦士は強過ぎないかな。目の前のクエミーといい『漆黒の翼』のメンバーといい、物理法則を書き換えているとしか思えないって。
例外として扱う連中ってのはわかってはいるけどね。もうちょっと魔法で無双させてほしかったよ。
「岩がダメなら炎でどうだ」
両手を天に向けて掲げる。その先から炎の塊が生まれた。
炎を圧縮。球体になったその中に魔力を込める。大きさを増し、煌々と光を発する。
技名は「炎帝」とかどうだろう? うん、調子に乗ってるなわたし。まだまだこれからだってのに興奮が止められないでいる。
ワクワクなんかしちゃいない。ドキドキは悪い意味でずっとしたままだ。
ただ体中に興奮物質が分泌されている。明らかに現代日本人に備わった以上の能力を持っているってのに、こういう緊張は凡人と同じってのが、ちょっとだけ納得いかない。
「うりゃっ」
気合いの入らない声とともに、でかい炎の塊を放った。
対するクエミーは回避する様子を見せない。何も問題ないとばかりに真っすぐ突っ込んでくる。
本当にかわす必要がないのか、はたまた空中では器用に動けないのか。判断はつかないけれど、効果があるかどうかはぶつけてみればわかる。
「ふっ!」
やはり剣で薙ぎ払うようだ。魔法はなんでもぶった切れるとか思ってそう。
実際にぶった切れるんだろうけどね。それでもいいよ。
足場のないはずの空中で、クエミーは走りながら剣を振るった。まさに目にも止まらぬ速さ。
「うわっと」
「くっ!?」
クエミーによって炎の球体が真っ二つにされた瞬間、轟音とともに炎の嵐を巻き起こした。
魔力をいっぱい詰め込んだからね。それを斬れるクエミーは規格外だ。代わりに詰め込んだ分の威力は放たれてしまったけれど。
魔力の嵐に巻き込まれながらも、最初に定めていた落下地点へと向かう。クエミーは……たぶん大丈夫だろう。
ふわりと軽やかに着地に成功してみせる。見上げれば空に炎の渦が発生していた。
「調整すればもっと綺麗に形を整えられそうだなぁ」
自分の魔法に対して呑気な感想が漏れた。別に被害はないだろうしね。
その炎の中から、白煙を上げて一つの物体が迫ってきた。
物体とか失礼だったね。体を丸めたクエミーが地面へと轟音を立てて着弾した。
もうもうと砂煙が上がる。もっと余裕を持って着地するかと思っていただけに、これにはびっくりだ。
「久しぶりだねクエミー」
再会のあいさつとともに岩の弾丸を三発放った。
「随分なあいさつですね」
砂煙の中からキラリと輝く。振るわれた剣が砂煙とともに岩の弾丸まで斬り裂いていた。
「そんなことはないでしょうよ。もしかしたらあいさつさえさせてもらえなかったかもしれないんだから」
もっと声が震えるんじゃないかって想像していたのにね。
実際にクエミーを目の前にしても過度な緊張はなかった。それなりの修羅場をくぐってきたからなのかもしれない。
あまり成長が見られないと落胆してたのに。自分ってものは一生変わらないって絶望していたのに。
気づかないうちに、思っていた自分ってものじゃなくなっていたらしい。環境が変わったからなのか、人との出会いがそうさせたのか、まだ判断はできない。
「抵抗はやめなさいエル・シエル。抵抗をやめないのであれば、手荒に拘束させてもらいますよ」
「これでも元クラスメイトだよ? 学友だったものとして、少しは恩情ってものがないのかな?」
「ありません。あなたの身柄を拘束するのが王命です」
「王命って言えば、継承戦はもう終わったのかな? ホリンくんはどうだった? ああ、クエミーはチェスタス様びいきだっけ」
「……よくしゃべりますね。あなたはこの状況がわかっているのですか?」
「そりゃ見たまんまじゃない。わたしとクエミーの二人きり。美少女が二人もいるだなんて華があっていいよね」
明るい調子で話し続ける。次第にクエミーの目つきが険しくなっていった。とはいえ、彼女の表情は変化に乏しい。わたしじゃなかったら気づかなかったかもね。
だから、踏み込んでくる一撃にも反応できた。
「今、わたしを真っ二つにするつもりじゃなかった? かわさなかったら死んでたんですけど」
背筋が凍るほどの風切り音を聞きながら尋ねる。けれどクエミーに悪びれる様子はなかった。
「手加減していますから問題ありません」
「問題大アリだよ!」
この子、手加減の意味知ってんのかな? 手加減はしてたかもしれないけれど、両刃の剣を一太刀でも喰らったら斬られちゃうって。わたしの体はそんなに硬くないんだからねっ。
「で、わたしを拘束して、それからどうするつもり?」
「あなたが隠している秘密を吐かせます。そして、罪相応の罰を受けてください」
「何それ? 乙女に秘密はつきものなんだぜ。それに罪って身に覚えがないんですけど。もしかしてかわいすぎて罪になっちゃったとか? 美少女罪とか斬新だねー」
大地を割る斬撃。大振りのそれをかわして少し距離を取る。
「ふざけないでください。あなたの行動には怪しい点が多くありました。あの日、反乱分子を王都に手引きしたのもあなたなのでしょう」
「断言してくれるね。まったく身に覚えがありません。って、言ったら信じてくれないかな?」
「牢を抜け出し国から姿を消した。その事実がある以上、その言葉になんの力もありませんよ。やましい事実があるから逃亡したのでしょう」
本当に身に覚えがないんだけどな。こっちは無実だってのに、まったく聞く耳を持ってはくれなさそうだ。
まあ、わたしが何かしてもしなくても、きっと答えは変わらなかったんだろうけど。
「エル。あの日、あなたは無断でカラスティア魔道学校に侵入していますね。そしてその夜、あなたが侵入した建物が爆破されました」
学校が爆破されたとか初耳なんですけど。
いや、わたしが捕まって脱獄した夜。王都の建物もいくつか被害が出たそうだ。カラスティア魔道学校もその被害の一つだったのか。
「あなたは入学してからあの日まで、アルバート魔道学校から外出した日が何度かありましたね。その時に何かしていたんじゃないですか? あなたの姿を見失ったとの報告を受けています」
「いや報告ってなんだよっ。もしかしてわたし見張られてたの? ただの一学生だったのに?」
「……」
ここで沈黙されると本当っぽいじゃないか。
まあ本当っぽいっていうか、本当だって知ってるんだけどね。
最初はわたしの故郷の近隣の貴族。わたしが無断でやってた医療行為に目くじらを立てたことから始まった。
それからわたしが対校戦で優勝したことでその意味合いが変わった。
そいつらだけじゃない。わたしに利用価値を求めた連中は他にも現れた。
厄介だったのは、そういう連中の地位や権力が随分と上だったこと。
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