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四章 決着編
第107話 いつからばれていないと錯覚していた?
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「カラスティア魔道学校って……また随分と懐かしい単語が出てきたね」
カラスティア魔道学校といえば、あのディジーが在籍していた学校だ。
わたしが在籍していたアルバート魔道学校は貴族しか通えないところだった。実力よりも家柄を重視していて、教育カリキュラムは魔法だけじゃなく、貴族のマナーも大事にしていた。社交ダンスも貴族のマナーなんだっけか。
逆にカラスティア魔道学校は完全実力主義で平民の学生も多い。もちろん貴族も通っていて、家柄関係なくその実力は高い。わたしも出場したことのある対校戦では常に優勝候補だった。
「つまりマーセルってマグニカ王国出身ってこと?」
「そうです。それも相当の魔法の実力者だったようで、対校戦の出場経験もありました」
対校戦に出場できるのは各校で八名ずつ。しかも優勝候補になっているカラスティアからなら出場しただけでかなりの魔法の腕があると判断していいだろう。
実際に奴は『黒蠍』のリーダーだったのだ。Bランク冒険者が弱いはずがなかった。
魔法使いっていうよりも盗賊って感じだったからね。学生マーセルくんだなんて想像しづらいよ。
「そんな奴がどうしてこんな遠い国で冒険者なんかやってるの? 対校戦に出たってことは王国に実力が認められているはずだろ? もっと楽に稼げる仕事がありそうなものだけど」
ゾランはわたしをじーっと見つめる。何その目?
「マーセルはマグニカ王国から逃亡した男でした。ある日突然、何の前触れもなく、です」
「ある日突然って……」
「エルさんは身に覚えがありませんかねぇ?」
……わたしも似たようなもんってことか?
いや、わたしの場合は何か事件が起こっていたはずなんだ。実際に目にできなかったけど、王都を襲撃した連中がいたらしいし。
「それでいえば、わたしが逃亡した原因の一つにゾランって男の存在があるんだけどね」
「む……」
ばつが悪そうに頭をかくゾラン。お互い痛いところしかないんだっての。
「で、マーセルが同じマグニカ王国出身だからってなんなわけ? それこそ今さらどうでもいいよ」
「マーセルは特別な魔石がどんな物なのか、知っているかもしれませんぜ?」
わたしが知らない情報。ゾランに調べさせてもそれは同じで、謎に包まれた物質だ。
ただ、わたしが追われている理由として、国外に逃亡したこと以上に、その特別な魔石とやらが関わっている気がしてならなかった。
「ここをはっきりさせましょうエルさん。特別な魔石の正体さえ掴めば、少なくとも勇者から追われることはなくなるかもしれませんよ」
「……」
確かに、いくらなんでもわたし相手にマグニカ三大戦力であるクエミーを差し向けるのはやり過ぎとは思っていた。
その理由がわたしと特別な魔石とやらをつなげているからなのだとすれば、無関係だと証明できれば興味を失ってくれるかもしれない。
「いや、別にいいよ」
「は、はぁ?」
でも、それこそ今さらどうでもいいんだ。
「わたしはクエミーを迎え撃つつもりだから。自分の実力で居場所を守ろうって決めたんだ」
すでに腹をくくって戦おうと決めている。
いや、どちらかといえばもう逃げる気力がなくなったというべきか。
ルーク様との約束もある。せっかく戦う場所を貸してくれるってなら、逃げるわけにはいかないでしょ。
一度命を失くしたと思えば少しは楽かな。そんなことはないんだろうけど、覚悟さえあればあまり恐怖は感じないみたい。
「き、気は確かですかい? 相手は当代の勇者でマグニカ三大戦力と呼ばれるほどの力を持っているんですよ!?」
焦るゾラン。それだけわたしが正気に見えないらしい。
「勇者の力は聖女と同じく、神に与えられた奇跡ですぜ。いくらエルさんが優れた魔法の使い手でも、どうにかできるもんじゃねえですって!」
「だよなぁ」
「だったら……」
「てなわけでゾラン」
わたしはスタスタとドアへと向かう。
ゾランはすっかり油断していた。らしくないね、ってのがわたしの感想。
ドアを開ければ、にこやかな表情の見目麗しい銀髪の聖女様のお姿があった。
「こんばんは侵入者さん。ルーナと申します。突然ですが、もう逃げられませんよ?」
ゾランは一瞬にして顔を青ざめさせた。まあしょうがないよね。
隠密スキルに自信があったのだろう。誰にも見つからず、わたしのもとまで辿り着けたと思っていたのだろう。
わたしも索敵能力には自信があるけれど、ルーナ様が相手だと比べるのもおこがましいってレベルだ。実際にこっそり逃げようとしていたマーセルをとっ捕まえたお方なのだ。ゾランがここに来た時点でもう手遅れだと察した。
「エルさん……、もしかしてあっしをはめたんですかい?」
「人聞きの悪いこと言うなよ。勝手に来たのはゾランの方じゃないか」
だから恨みがましい目を向けるんじゃないっての。わたしは一言も「来い」とは言ってないよ。
まあルーナ様に気づかれているだろうと察していたけど、それを教えてあげようとはしなかったか。だってほら、わたしは聖女様のメイドですし。
「ゾラン……と言いましたか。ここから逃げられないあなたの選択肢は多くありませんが、どうされますか?」
ニッコニコのルーナ様。月明かりで美しい姿がさらに幻想的になって美人度アップです! メイドのわたしは脳内でも主を褒めることを忘れませんよ。
対照的に小悪党顔の小男はがっくりと項垂れた。
「エルさんが黙ってここにいるってことは、逃げるってのは諦めねえとならないようですね……」
深いため息を吐いたゾランは、ゆっくりとわたしに顔を向けた。
「エルさんが勇者と戦うつもりってことは、何か勝算があるってことで、いいんですかい?」
「……どうだろうね」
しばし小悪党顔のおっさんと黒髪美少女が見つめ合う図。需要ないよ?
「……あっしも少しは情報を仕入れたつもりです。それを聖女様のために使えるってんなら、これほど嬉しいことはありませんねぇ」
「ええ。私も嬉しく思います」
ゾランは揉み手をしながらルーナ様の前に跪いた。
予想外ではあったけれど、わたしにとって貴重な戦力が加わった。
カラスティア魔道学校といえば、あのディジーが在籍していた学校だ。
わたしが在籍していたアルバート魔道学校は貴族しか通えないところだった。実力よりも家柄を重視していて、教育カリキュラムは魔法だけじゃなく、貴族のマナーも大事にしていた。社交ダンスも貴族のマナーなんだっけか。
逆にカラスティア魔道学校は完全実力主義で平民の学生も多い。もちろん貴族も通っていて、家柄関係なくその実力は高い。わたしも出場したことのある対校戦では常に優勝候補だった。
「つまりマーセルってマグニカ王国出身ってこと?」
「そうです。それも相当の魔法の実力者だったようで、対校戦の出場経験もありました」
対校戦に出場できるのは各校で八名ずつ。しかも優勝候補になっているカラスティアからなら出場しただけでかなりの魔法の腕があると判断していいだろう。
実際に奴は『黒蠍』のリーダーだったのだ。Bランク冒険者が弱いはずがなかった。
魔法使いっていうよりも盗賊って感じだったからね。学生マーセルくんだなんて想像しづらいよ。
「そんな奴がどうしてこんな遠い国で冒険者なんかやってるの? 対校戦に出たってことは王国に実力が認められているはずだろ? もっと楽に稼げる仕事がありそうなものだけど」
ゾランはわたしをじーっと見つめる。何その目?
「マーセルはマグニカ王国から逃亡した男でした。ある日突然、何の前触れもなく、です」
「ある日突然って……」
「エルさんは身に覚えがありませんかねぇ?」
……わたしも似たようなもんってことか?
いや、わたしの場合は何か事件が起こっていたはずなんだ。実際に目にできなかったけど、王都を襲撃した連中がいたらしいし。
「それでいえば、わたしが逃亡した原因の一つにゾランって男の存在があるんだけどね」
「む……」
ばつが悪そうに頭をかくゾラン。お互い痛いところしかないんだっての。
「で、マーセルが同じマグニカ王国出身だからってなんなわけ? それこそ今さらどうでもいいよ」
「マーセルは特別な魔石がどんな物なのか、知っているかもしれませんぜ?」
わたしが知らない情報。ゾランに調べさせてもそれは同じで、謎に包まれた物質だ。
ただ、わたしが追われている理由として、国外に逃亡したこと以上に、その特別な魔石とやらが関わっている気がしてならなかった。
「ここをはっきりさせましょうエルさん。特別な魔石の正体さえ掴めば、少なくとも勇者から追われることはなくなるかもしれませんよ」
「……」
確かに、いくらなんでもわたし相手にマグニカ三大戦力であるクエミーを差し向けるのはやり過ぎとは思っていた。
その理由がわたしと特別な魔石とやらをつなげているからなのだとすれば、無関係だと証明できれば興味を失ってくれるかもしれない。
「いや、別にいいよ」
「は、はぁ?」
でも、それこそ今さらどうでもいいんだ。
「わたしはクエミーを迎え撃つつもりだから。自分の実力で居場所を守ろうって決めたんだ」
すでに腹をくくって戦おうと決めている。
いや、どちらかといえばもう逃げる気力がなくなったというべきか。
ルーク様との約束もある。せっかく戦う場所を貸してくれるってなら、逃げるわけにはいかないでしょ。
一度命を失くしたと思えば少しは楽かな。そんなことはないんだろうけど、覚悟さえあればあまり恐怖は感じないみたい。
「き、気は確かですかい? 相手は当代の勇者でマグニカ三大戦力と呼ばれるほどの力を持っているんですよ!?」
焦るゾラン。それだけわたしが正気に見えないらしい。
「勇者の力は聖女と同じく、神に与えられた奇跡ですぜ。いくらエルさんが優れた魔法の使い手でも、どうにかできるもんじゃねえですって!」
「だよなぁ」
「だったら……」
「てなわけでゾラン」
わたしはスタスタとドアへと向かう。
ゾランはすっかり油断していた。らしくないね、ってのがわたしの感想。
ドアを開ければ、にこやかな表情の見目麗しい銀髪の聖女様のお姿があった。
「こんばんは侵入者さん。ルーナと申します。突然ですが、もう逃げられませんよ?」
ゾランは一瞬にして顔を青ざめさせた。まあしょうがないよね。
隠密スキルに自信があったのだろう。誰にも見つからず、わたしのもとまで辿り着けたと思っていたのだろう。
わたしも索敵能力には自信があるけれど、ルーナ様が相手だと比べるのもおこがましいってレベルだ。実際にこっそり逃げようとしていたマーセルをとっ捕まえたお方なのだ。ゾランがここに来た時点でもう手遅れだと察した。
「エルさん……、もしかしてあっしをはめたんですかい?」
「人聞きの悪いこと言うなよ。勝手に来たのはゾランの方じゃないか」
だから恨みがましい目を向けるんじゃないっての。わたしは一言も「来い」とは言ってないよ。
まあルーナ様に気づかれているだろうと察していたけど、それを教えてあげようとはしなかったか。だってほら、わたしは聖女様のメイドですし。
「ゾラン……と言いましたか。ここから逃げられないあなたの選択肢は多くありませんが、どうされますか?」
ニッコニコのルーナ様。月明かりで美しい姿がさらに幻想的になって美人度アップです! メイドのわたしは脳内でも主を褒めることを忘れませんよ。
対照的に小悪党顔の小男はがっくりと項垂れた。
「エルさんが黙ってここにいるってことは、逃げるってのは諦めねえとならないようですね……」
深いため息を吐いたゾランは、ゆっくりとわたしに顔を向けた。
「エルさんが勇者と戦うつもりってことは、何か勝算があるってことで、いいんですかい?」
「……どうだろうね」
しばし小悪党顔のおっさんと黒髪美少女が見つめ合う図。需要ないよ?
「……あっしも少しは情報を仕入れたつもりです。それを聖女様のために使えるってんなら、これほど嬉しいことはありませんねぇ」
「ええ。私も嬉しく思います」
ゾランは揉み手をしながらルーナ様の前に跪いた。
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