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四章 決着編
第106話 侵入者からの情報
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小悪党顔に出っ歯。おそらく四十前後であろう年齢の小男。そんな男が年若い乙女の部屋に現れたとなれば絶叫ものだろう。通報されたって文句は言えないはずだ。
「久しぶりだねゾラン。まさか聖女様がいる城にくるだなんて思ってもみなかったよ」
まあこれでも顔見知りの関係だ。笑顔とまではいかなくても、出迎えてやるくらいの労力は惜しまない。
窓から入ってきた侵入者に椅子をすすめる。ゾランは遠慮を一切感じさせることなくドカッと音を立てて座った。静かにしなさいよ。
「エルさんのおかげで居場所を特定するのは簡単でしたからね。さすがにここに侵入するにはあっしでも骨が折れましたよ」
面通りの小悪党みたいな笑い方をする男。やっぱり通報しようかなー。
「別に来いと伝えたつもりはなかったんだけどね」
「でしょうね」
ゾランはフンッと鼻を鳴らす。依頼主だった相手になんてふてぶてしい態度だろうか。
「水臭いじゃあねえですか。別れの言葉もなしにこれでお終いですか? あっしとエルさんの関係はこんなことで切れちまうような薄っぺらいもんだったんですかい?」
「いや、結構薄っぺらい関係のつもりだったんだけど」
そもそも互いに何かあれば知らぬ存ぜぬでいこうと約束した関係だ。わたしが聖女様に目をつけられてしまった時点で、こいつから情報を得るのはもう無理だと思っていたし。
だからヨランダさんには悪いけれど、店の看板に印をつけさせてもらった。わたしにもしもの事態が起こった。そうゾランに伝えるための印だ。
それに気づいて、ゾランも姿を消すだろうって思っていたのにね。こいつはなんでここにいるんだろう?
「そんな冷たいこと言わないでくださいよ。あっしだって泣いちまいますぜ」
「大の大人が泣かないでよ……」
「本気で気味悪がる顔するのやめてください。さすがのあっしも面と向かってそんな顔されたら傷つきますぜ」
ちょっと落ち込む小男。本当にかわいそうに見えてきちゃった。
「で、こんな危険を冒してまでわたしに会いに来たってことは、何か伝えたい情報ってやつがあるんでしょ?」
「もちろんですよ。せっかく聖女様と縁ができたエルさんにはぜひ耳に入れておきたい情報ですぜ」
へへへ、とへりくだった笑いを見せながら声を潜める。わたしは距離を置いた。
あと聖女様とは良い意味での縁じゃないからね。訂正しないけど。
「マグニカで盗まれたっていう特別な魔石の話を覚えてますかい?」
「ああ、わたしが逃亡した日に盗まれたっていう」
王都が襲撃されて、被害が出たものの襲撃者のほとんどが亡くなった。
暴れるだけ暴れて、鎮圧したかと思えば宝が盗まれていたのだ。国としてはなんとしても犯人を見つけ出し、その特別な魔石を取り戻さなければならないだろう。
「探せというわりにその形はわからない。謎の物質を探せ、ってのはいくら王様の命令でも無茶が過ぎると思いませんか?」
「ゾランが調べられなかっただけ……ってのはないんだよね」
これでも腕の立つ情報屋だ。しかもそれほど秘密にしているわけでもなく、それなりの人を使って捜索しているらしい。
その魔石は一体どういう扱いなんだろうか。わたしも知らなかったし、少なくともみんなが見られるように展示しているわけでもないだろう。
「だから探しているのは魔石ではなく人なんですよ。名前が挙がっているのはディジーとアルベルトって野郎、それから……」
「わたしか」
頷くゾラン。って言われてもわたしには身に覚えがない。
「もしかしたらその特別な魔石はあっしらが知っているような普通の形じゃないのかもしれませんぜ」
「まあ特別っていうくらいだもんねぇ……」
……うん、なんだかちょーっと嫌な予感がするぞ。
最近似たようなものを人から作っているところを見た気がする。この言い方は正しくないんだけど……。あまり思い出したくない光景だ。
「それに、聖女様にも疑いがかかっているようなんですよ」
「聖女様って、ルーナ様のこと?」
小さく頷くゾラン。やっぱり聖女ってルーナ様なんだね。
「なんでまた。まったく関係ないと思うんだけど」
「あっしもそう思いますが……。実際、ここ何年かは聖女がマグニカ王国に来たという話はありませんね。なのに最近急に名前が挙がったそうです」
「最近って」
それってもしかしなくてもわたしのせい? どうつなげたかは知らないけど、わたしとグルじゃないかって勘違いされたんじゃないのか。
「エルさん、何か心当たりでも?」
「いや……」
また落ち込みそうになってる。今は後ろ向きになってる場合じゃないぞ。
「相手は聖女です。いくらマグニカ王国とはいえ、いきなりどうこうしようってわけじゃないでしょうが……、エルさんも近くにいるんですから気をつけるに越したことはないですよ」
「それを言いに来てくれたんだ」
わたし自身も当代の勇者様からお迎えがあるって話だけどね。
「それだけじゃなく、マーセルって野郎の話もあるんですがね」
ここでマーセル? 執事やってるっていう新情報ならもう間に合ってるよ。毎日見かけてはいるし。
まあマーセルとは『黒蠍』の頃にわたしとゾランでやり合ったことがある。今でも警戒していてもおかしくないか。
だからって、わたしには今となってはどうでもいい奴だ。共犯者ってことも、ルーナ様にばれている以上わざわざ関わる必要がない。
あまり期待せずにゾランの情報に耳を傾けた。
「マーセルですがね……どうやらカラスティア魔道学校の出身なんですよ」
カラスティア魔道学校……?
それはマグニカ王国にある魔道学校。わたしが在籍していたアルバート魔道学校と同じく、王都にある四つの学校のうちの一つだ。
「久しぶりだねゾラン。まさか聖女様がいる城にくるだなんて思ってもみなかったよ」
まあこれでも顔見知りの関係だ。笑顔とまではいかなくても、出迎えてやるくらいの労力は惜しまない。
窓から入ってきた侵入者に椅子をすすめる。ゾランは遠慮を一切感じさせることなくドカッと音を立てて座った。静かにしなさいよ。
「エルさんのおかげで居場所を特定するのは簡単でしたからね。さすがにここに侵入するにはあっしでも骨が折れましたよ」
面通りの小悪党みたいな笑い方をする男。やっぱり通報しようかなー。
「別に来いと伝えたつもりはなかったんだけどね」
「でしょうね」
ゾランはフンッと鼻を鳴らす。依頼主だった相手になんてふてぶてしい態度だろうか。
「水臭いじゃあねえですか。別れの言葉もなしにこれでお終いですか? あっしとエルさんの関係はこんなことで切れちまうような薄っぺらいもんだったんですかい?」
「いや、結構薄っぺらい関係のつもりだったんだけど」
そもそも互いに何かあれば知らぬ存ぜぬでいこうと約束した関係だ。わたしが聖女様に目をつけられてしまった時点で、こいつから情報を得るのはもう無理だと思っていたし。
だからヨランダさんには悪いけれど、店の看板に印をつけさせてもらった。わたしにもしもの事態が起こった。そうゾランに伝えるための印だ。
それに気づいて、ゾランも姿を消すだろうって思っていたのにね。こいつはなんでここにいるんだろう?
「そんな冷たいこと言わないでくださいよ。あっしだって泣いちまいますぜ」
「大の大人が泣かないでよ……」
「本気で気味悪がる顔するのやめてください。さすがのあっしも面と向かってそんな顔されたら傷つきますぜ」
ちょっと落ち込む小男。本当にかわいそうに見えてきちゃった。
「で、こんな危険を冒してまでわたしに会いに来たってことは、何か伝えたい情報ってやつがあるんでしょ?」
「もちろんですよ。せっかく聖女様と縁ができたエルさんにはぜひ耳に入れておきたい情報ですぜ」
へへへ、とへりくだった笑いを見せながら声を潜める。わたしは距離を置いた。
あと聖女様とは良い意味での縁じゃないからね。訂正しないけど。
「マグニカで盗まれたっていう特別な魔石の話を覚えてますかい?」
「ああ、わたしが逃亡した日に盗まれたっていう」
王都が襲撃されて、被害が出たものの襲撃者のほとんどが亡くなった。
暴れるだけ暴れて、鎮圧したかと思えば宝が盗まれていたのだ。国としてはなんとしても犯人を見つけ出し、その特別な魔石を取り戻さなければならないだろう。
「探せというわりにその形はわからない。謎の物質を探せ、ってのはいくら王様の命令でも無茶が過ぎると思いませんか?」
「ゾランが調べられなかっただけ……ってのはないんだよね」
これでも腕の立つ情報屋だ。しかもそれほど秘密にしているわけでもなく、それなりの人を使って捜索しているらしい。
その魔石は一体どういう扱いなんだろうか。わたしも知らなかったし、少なくともみんなが見られるように展示しているわけでもないだろう。
「だから探しているのは魔石ではなく人なんですよ。名前が挙がっているのはディジーとアルベルトって野郎、それから……」
「わたしか」
頷くゾラン。って言われてもわたしには身に覚えがない。
「もしかしたらその特別な魔石はあっしらが知っているような普通の形じゃないのかもしれませんぜ」
「まあ特別っていうくらいだもんねぇ……」
……うん、なんだかちょーっと嫌な予感がするぞ。
最近似たようなものを人から作っているところを見た気がする。この言い方は正しくないんだけど……。あまり思い出したくない光景だ。
「それに、聖女様にも疑いがかかっているようなんですよ」
「聖女様って、ルーナ様のこと?」
小さく頷くゾラン。やっぱり聖女ってルーナ様なんだね。
「なんでまた。まったく関係ないと思うんだけど」
「あっしもそう思いますが……。実際、ここ何年かは聖女がマグニカ王国に来たという話はありませんね。なのに最近急に名前が挙がったそうです」
「最近って」
それってもしかしなくてもわたしのせい? どうつなげたかは知らないけど、わたしとグルじゃないかって勘違いされたんじゃないのか。
「エルさん、何か心当たりでも?」
「いや……」
また落ち込みそうになってる。今は後ろ向きになってる場合じゃないぞ。
「相手は聖女です。いくらマグニカ王国とはいえ、いきなりどうこうしようってわけじゃないでしょうが……、エルさんも近くにいるんですから気をつけるに越したことはないですよ」
「それを言いに来てくれたんだ」
わたし自身も当代の勇者様からお迎えがあるって話だけどね。
「それだけじゃなく、マーセルって野郎の話もあるんですがね」
ここでマーセル? 執事やってるっていう新情報ならもう間に合ってるよ。毎日見かけてはいるし。
まあマーセルとは『黒蠍』の頃にわたしとゾランでやり合ったことがある。今でも警戒していてもおかしくないか。
だからって、わたしには今となってはどうでもいい奴だ。共犯者ってことも、ルーナ様にばれている以上わざわざ関わる必要がない。
あまり期待せずにゾランの情報に耳を傾けた。
「マーセルですがね……どうやらカラスティア魔道学校の出身なんですよ」
カラスティア魔道学校……?
それはマグニカ王国にある魔道学校。わたしが在籍していたアルバート魔道学校と同じく、王都にある四つの学校のうちの一つだ。
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