根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

文字の大きさ
上 下
108 / 127
四章 決着編

第99話 ハドリーは修行中

しおりを挟む
「ハドリー……なんでまだこんなところにいるの?」
「は? なんだよエルか。修行中だから静かにしてくれよ」

 ハドリーにしっしっと追い払われてしまう。
 あのハドリーがわたしにこんな態度をとるだなんて……。やばい、けっこうショックだ。

 メイドとしての仕事をこなしている最中である。中庭にハドリーの姿を見つけ、思わず声をかけていた。
 予定ではすでにヨランダさんのもとへと帰っているはずである。わたしについては来たけれど、聖女様のメイドをすることになったのだから仕方がない。サイラス達に頼んで町へと送り届けられたはずなのに……なぜかまだ城にいた。
 サイラスめ……まさか仕事を放り出したんじゃないだろうな。依頼料だって払ったのに……。後で冒険者ギルドに抗議してやろうか。

「集中しているんだ。邪魔してやるな」

 銀髪の青年、ルーク様に注意される。
 ……いたのか。ハドリーに気を取られていたせいでまったく気づかなかった。おかげでちょっとビビってしまった。

「集中って、ハドリーは一体何をしているんですか? 修行中って言ってましたけど」

 何やら修行しているらしいハドリーに気を遣って小声で尋ねる。
 ルーク様は小さく手招きする。ちこう寄れということらしい。

「貴様この坊主に魔法を教えてやっていたんだろう? それだよそれ」
「魔法の修行をしているんですか?」

 再びハドリーに目を向ける。
 中庭の中心でただ立ち尽くしているように見える。けれどもハドリーの周りに変化が見られる。
 大気のマナが動きを見せているのだ。まだ魔法としての形にはなっていないけれど、あともう少しというところまできているように感じられる。

「ルーク様が何か教えたのですか?」
「別に。俺様は坊主に場所を貸し与えたまでだ」

 口の端を上げる彼からは「やってやっただろう?」という空気があった。わたしはそれをスルーする。お綺麗な顔をしているだけに似合ってはいたけどね。
 マーセル達に誘拐されてから、ろくに魔法を教えられなかった。冒険者になりたいハドリーからすれば、何もしなかった時間に焦っても仕方がないのかもしれない。
 今の状態を見るに、もう体に巡る魔力の感覚は掴み始めているのかもしれない。ここまでくれば、わたしが彼にできることはないだろう。

「くっ! 上手くいかねえっ」

 目を閉じて集中していたはずのハドリーから苛立たし気な声。どうやら集中力が切れたらしい。

「エル!」
「あ、はい」

 年下相手に圧倒されてしまった。素で返事しちゃったよ。

「俺に魔力を流してくれ! いつもみたいにガーッと頼むぜ!」

 早く早くとせがまれる。やはりまだ子供だね。

「体に魔力を流す?」

 ハドリーへと近づこうとしたら、ルーク様から疑問が飛んできた。

「魔法を形にするため、その材料となる魔力を認識してもらうために他人の魔力を体に流すのですよ」
「ほう……」

 わかったようなわかってないような頷きが返される。
 外界からマナを取り込み、それを体内で魔力に変換する。さらに魔力に詠唱なりイメージを与えることで魔法として形となる。
 まずは魔力を体内に循環させる感覚を覚えなければ、自在に魔法を扱えない。わたしが魔力をハドリーに流すのは、その感覚とやらを自覚してもらう方法である。これは魔道学校で習ったやり方だ。
 ハドリーの魔力の循環には問題がない。あとはそれを自分自身で感じ取れれば魔法を使うのはぐっと容易くなるだろう。

「うぐ……」

 ハドリーの頭の上にぽんと手のひらを乗せる。加減を間違えないようにして魔力を流していると、彼の顔色が悪くなっていく。
 マーセル達のせいで特訓できていなかったからね。あの期間は本当にもったいなかった。

「はい、おしまい」
「も、もうかよ。まだ……俺は大丈夫だ」

 大丈夫じゃなさそうな調子だ。ちょっとブランクがあるってことでハードモードはやめておく。

「わたしはまだ仕事があるんだよ。それに、ハドリーはヨランダさんのところに帰りな。サイラス達が送ってくれるって話はどうしたの?」
「まだサイラスさんは王都にいるぜ? 用事があるとかなんとかで、帰る時にまた声かけてくれるって言ってたぞ」

 用事ってなんだろうか。巨額の報酬をもらったから王都で豪遊するとか? サイラスはどうかわからないけれど、ブリキッドあたりはやりそうだ。

「ハドリーはもしかして、ここに泊まってるの?」

 ルーク様の方をチラリと観察。うんともすんともする様子はない。

「おう。部屋は用意してくれるし、食いものも出してくれる。……いつか強くなって恩返ししないといけねえな」

 子供のわりに義理堅いよね。
 まあいいや。ルーク様がお目付け役みたいだし、もうわたしが関わることもなくなっていくだろう。
 早く魔法を使えるようになれるといいね。そうすれば、わたしの心配が一つなくなる。

「それじゃあ仕事に戻るよ。じゃあねハドリー。ルーク様、ハドリーをお願いします」

 そう言ってこの場から離れる。
 王城にいていいのかと疑問に思ったが、ちゃんと許可が出ているのならわたしが口を出すことはない。

「そういえばルーク様って……」

 自分を聖女だとか言っていたっけ。けれどもルーナ様と出会った。これじゃあ聖女が二人になってしまう。
 いやいや、普通に考えても、歴史的に考えても聖女という存在は一人しか存在していない。
 たぶんルーナ様が姉か妹なのだろう。同じようなキラッキラな銀髪だしね。
 それに、聖女なのに男ってのはおかしい。やはり「俺様は聖女……の兄(もしくは弟)だ!」ってオチなんだろうな。

「だとしても敬わなきゃいけないよね」

 間違えないように、自分に言い聞かせる。
 どんな立ち位置にしろ、それなりの立場である人には変わらない。ここで働くのなら、不敬は許されない。
 でも、ヨランダさんと親し気ではあったし、関係性くらいは尋ねてもよかったかもしれない。時間が経つにつれて、大したことがなくても聞きづらくなるよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...