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四章 決着編
第99話 ハドリーは修行中
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「ハドリー……なんでまだこんなところにいるの?」
「は? なんだよエルか。修行中だから静かにしてくれよ」
ハドリーにしっしっと追い払われてしまう。
あのハドリーがわたしにこんな態度をとるだなんて……。やばい、けっこうショックだ。
メイドとしての仕事をこなしている最中である。中庭にハドリーの姿を見つけ、思わず声をかけていた。
予定ではすでにヨランダさんのもとへと帰っているはずである。わたしについては来たけれど、聖女様のメイドをすることになったのだから仕方がない。サイラス達に頼んで町へと送り届けられたはずなのに……なぜかまだ城にいた。
サイラスめ……まさか仕事を放り出したんじゃないだろうな。依頼料だって払ったのに……。後で冒険者ギルドに抗議してやろうか。
「集中しているんだ。邪魔してやるな」
銀髪の青年、ルーク様に注意される。
……いたのか。ハドリーに気を取られていたせいでまったく気づかなかった。おかげでちょっとビビってしまった。
「集中って、ハドリーは一体何をしているんですか? 修行中って言ってましたけど」
何やら修行しているらしいハドリーに気を遣って小声で尋ねる。
ルーク様は小さく手招きする。ちこう寄れということらしい。
「貴様この坊主に魔法を教えてやっていたんだろう? それだよそれ」
「魔法の修行をしているんですか?」
再びハドリーに目を向ける。
中庭の中心でただ立ち尽くしているように見える。けれどもハドリーの周りに変化が見られる。
大気のマナが動きを見せているのだ。まだ魔法としての形にはなっていないけれど、あともう少しというところまできているように感じられる。
「ルーク様が何か教えたのですか?」
「別に。俺様は坊主に場所を貸し与えたまでだ」
口の端を上げる彼からは「やってやっただろう?」という空気があった。わたしはそれをスルーする。お綺麗な顔をしているだけに似合ってはいたけどね。
マーセル達に誘拐されてから、ろくに魔法を教えられなかった。冒険者になりたいハドリーからすれば、何もしなかった時間に焦っても仕方がないのかもしれない。
今の状態を見るに、もう体に巡る魔力の感覚は掴み始めているのかもしれない。ここまでくれば、わたしが彼にできることはないだろう。
「くっ! 上手くいかねえっ」
目を閉じて集中していたはずのハドリーから苛立たし気な声。どうやら集中力が切れたらしい。
「エル!」
「あ、はい」
年下相手に圧倒されてしまった。素で返事しちゃったよ。
「俺に魔力を流してくれ! いつもみたいにガーッと頼むぜ!」
早く早くとせがまれる。やはりまだ子供だね。
「体に魔力を流す?」
ハドリーへと近づこうとしたら、ルーク様から疑問が飛んできた。
「魔法を形にするため、その材料となる魔力を認識してもらうために他人の魔力を体に流すのですよ」
「ほう……」
わかったようなわかってないような頷きが返される。
外界からマナを取り込み、それを体内で魔力に変換する。さらに魔力に詠唱なりイメージを与えることで魔法として形となる。
まずは魔力を体内に循環させる感覚を覚えなければ、自在に魔法を扱えない。わたしが魔力をハドリーに流すのは、その感覚とやらを自覚してもらう方法である。これは魔道学校で習ったやり方だ。
ハドリーの魔力の循環には問題がない。あとはそれを自分自身で感じ取れれば魔法を使うのはぐっと容易くなるだろう。
「うぐ……」
ハドリーの頭の上にぽんと手のひらを乗せる。加減を間違えないようにして魔力を流していると、彼の顔色が悪くなっていく。
マーセル達のせいで特訓できていなかったからね。あの期間は本当にもったいなかった。
「はい、おしまい」
「も、もうかよ。まだ……俺は大丈夫だ」
大丈夫じゃなさそうな調子だ。ちょっとブランクがあるってことでハードモードはやめておく。
「わたしはまだ仕事があるんだよ。それに、ハドリーはヨランダさんのところに帰りな。サイラス達が送ってくれるって話はどうしたの?」
「まだサイラスさんは王都にいるぜ? 用事があるとかなんとかで、帰る時にまた声かけてくれるって言ってたぞ」
用事ってなんだろうか。巨額の報酬をもらったから王都で豪遊するとか? サイラスはどうかわからないけれど、ブリキッドあたりはやりそうだ。
「ハドリーはもしかして、ここに泊まってるの?」
ルーク様の方をチラリと観察。うんともすんともする様子はない。
「おう。部屋は用意してくれるし、食いものも出してくれる。……いつか強くなって恩返ししないといけねえな」
子供のわりに義理堅いよね。
まあいいや。ルーク様がお目付け役みたいだし、もうわたしが関わることもなくなっていくだろう。
早く魔法を使えるようになれるといいね。そうすれば、わたしの心配が一つなくなる。
「それじゃあ仕事に戻るよ。じゃあねハドリー。ルーク様、ハドリーをお願いします」
そう言ってこの場から離れる。
王城にいていいのかと疑問に思ったが、ちゃんと許可が出ているのならわたしが口を出すことはない。
「そういえばルーク様って……」
自分を聖女だとか言っていたっけ。けれどもルーナ様と出会った。これじゃあ聖女が二人になってしまう。
いやいや、普通に考えても、歴史的に考えても聖女という存在は一人しか存在していない。
たぶんルーナ様が姉か妹なのだろう。同じようなキラッキラな銀髪だしね。
それに、聖女なのに男ってのはおかしい。やはり「俺様は聖女……の兄(もしくは弟)だ!」ってオチなんだろうな。
「だとしても敬わなきゃいけないよね」
間違えないように、自分に言い聞かせる。
どんな立ち位置にしろ、それなりの立場である人には変わらない。ここで働くのなら、不敬は許されない。
でも、ヨランダさんと親し気ではあったし、関係性くらいは尋ねてもよかったかもしれない。時間が経つにつれて、大したことがなくても聞きづらくなるよね。
「は? なんだよエルか。修行中だから静かにしてくれよ」
ハドリーにしっしっと追い払われてしまう。
あのハドリーがわたしにこんな態度をとるだなんて……。やばい、けっこうショックだ。
メイドとしての仕事をこなしている最中である。中庭にハドリーの姿を見つけ、思わず声をかけていた。
予定ではすでにヨランダさんのもとへと帰っているはずである。わたしについては来たけれど、聖女様のメイドをすることになったのだから仕方がない。サイラス達に頼んで町へと送り届けられたはずなのに……なぜかまだ城にいた。
サイラスめ……まさか仕事を放り出したんじゃないだろうな。依頼料だって払ったのに……。後で冒険者ギルドに抗議してやろうか。
「集中しているんだ。邪魔してやるな」
銀髪の青年、ルーク様に注意される。
……いたのか。ハドリーに気を取られていたせいでまったく気づかなかった。おかげでちょっとビビってしまった。
「集中って、ハドリーは一体何をしているんですか? 修行中って言ってましたけど」
何やら修行しているらしいハドリーに気を遣って小声で尋ねる。
ルーク様は小さく手招きする。ちこう寄れということらしい。
「貴様この坊主に魔法を教えてやっていたんだろう? それだよそれ」
「魔法の修行をしているんですか?」
再びハドリーに目を向ける。
中庭の中心でただ立ち尽くしているように見える。けれどもハドリーの周りに変化が見られる。
大気のマナが動きを見せているのだ。まだ魔法としての形にはなっていないけれど、あともう少しというところまできているように感じられる。
「ルーク様が何か教えたのですか?」
「別に。俺様は坊主に場所を貸し与えたまでだ」
口の端を上げる彼からは「やってやっただろう?」という空気があった。わたしはそれをスルーする。お綺麗な顔をしているだけに似合ってはいたけどね。
マーセル達に誘拐されてから、ろくに魔法を教えられなかった。冒険者になりたいハドリーからすれば、何もしなかった時間に焦っても仕方がないのかもしれない。
今の状態を見るに、もう体に巡る魔力の感覚は掴み始めているのかもしれない。ここまでくれば、わたしが彼にできることはないだろう。
「くっ! 上手くいかねえっ」
目を閉じて集中していたはずのハドリーから苛立たし気な声。どうやら集中力が切れたらしい。
「エル!」
「あ、はい」
年下相手に圧倒されてしまった。素で返事しちゃったよ。
「俺に魔力を流してくれ! いつもみたいにガーッと頼むぜ!」
早く早くとせがまれる。やはりまだ子供だね。
「体に魔力を流す?」
ハドリーへと近づこうとしたら、ルーク様から疑問が飛んできた。
「魔法を形にするため、その材料となる魔力を認識してもらうために他人の魔力を体に流すのですよ」
「ほう……」
わかったようなわかってないような頷きが返される。
外界からマナを取り込み、それを体内で魔力に変換する。さらに魔力に詠唱なりイメージを与えることで魔法として形となる。
まずは魔力を体内に循環させる感覚を覚えなければ、自在に魔法を扱えない。わたしが魔力をハドリーに流すのは、その感覚とやらを自覚してもらう方法である。これは魔道学校で習ったやり方だ。
ハドリーの魔力の循環には問題がない。あとはそれを自分自身で感じ取れれば魔法を使うのはぐっと容易くなるだろう。
「うぐ……」
ハドリーの頭の上にぽんと手のひらを乗せる。加減を間違えないようにして魔力を流していると、彼の顔色が悪くなっていく。
マーセル達のせいで特訓できていなかったからね。あの期間は本当にもったいなかった。
「はい、おしまい」
「も、もうかよ。まだ……俺は大丈夫だ」
大丈夫じゃなさそうな調子だ。ちょっとブランクがあるってことでハードモードはやめておく。
「わたしはまだ仕事があるんだよ。それに、ハドリーはヨランダさんのところに帰りな。サイラス達が送ってくれるって話はどうしたの?」
「まだサイラスさんは王都にいるぜ? 用事があるとかなんとかで、帰る時にまた声かけてくれるって言ってたぞ」
用事ってなんだろうか。巨額の報酬をもらったから王都で豪遊するとか? サイラスはどうかわからないけれど、ブリキッドあたりはやりそうだ。
「ハドリーはもしかして、ここに泊まってるの?」
ルーク様の方をチラリと観察。うんともすんともする様子はない。
「おう。部屋は用意してくれるし、食いものも出してくれる。……いつか強くなって恩返ししないといけねえな」
子供のわりに義理堅いよね。
まあいいや。ルーク様がお目付け役みたいだし、もうわたしが関わることもなくなっていくだろう。
早く魔法を使えるようになれるといいね。そうすれば、わたしの心配が一つなくなる。
「それじゃあ仕事に戻るよ。じゃあねハドリー。ルーク様、ハドリーをお願いします」
そう言ってこの場から離れる。
王城にいていいのかと疑問に思ったが、ちゃんと許可が出ているのならわたしが口を出すことはない。
「そういえばルーク様って……」
自分を聖女だとか言っていたっけ。けれどもルーナ様と出会った。これじゃあ聖女が二人になってしまう。
いやいや、普通に考えても、歴史的に考えても聖女という存在は一人しか存在していない。
たぶんルーナ様が姉か妹なのだろう。同じようなキラッキラな銀髪だしね。
それに、聖女なのに男ってのはおかしい。やはり「俺様は聖女……の兄(もしくは弟)だ!」ってオチなんだろうな。
「だとしても敬わなきゃいけないよね」
間違えないように、自分に言い聞かせる。
どんな立ち位置にしろ、それなりの立場である人には変わらない。ここで働くのなら、不敬は許されない。
でも、ヨランダさんと親し気ではあったし、関係性くらいは尋ねてもよかったかもしれない。時間が経つにつれて、大したことがなくても聞きづらくなるよね。
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