上 下
105 / 127
四章 決着編

第96話 無事に王都へ

しおりを挟む
 スカアルス王国の王都の第一印象は白い建物が多いということだった。
 純白ばかりで、今まで目にしたどの町とも違っていた。もちろん、マグニカの王都とも違う。あそこはもっときらびやかな感じだから。
 見ようによっては簡素と感じるかもしれない。でも、純粋に綺麗だと思った。
 それでもさすがは王都。マグニカ王国ほどでないにしろ、人の多さは凄まじささえ感じる。
 馬車が真っすぐ城に向かって大通りを走る。その馬車に乗っているのが聖女だと知っているのだろう。大勢の人から歓声が上がっている。重なった声はわたしを威圧しているかのようだ。

「すっげえな! こんなにたくさんの人が集まってんの、見たことがねえよ!」

 ハドリーは元気だね。はしゃいでいるのが素直にすごいと思うよ。
 王都へと辿り着くのに十日以上かかった。さすがに疲れだって溜まる。

「ハドリーくんは王都に来るのは初めて?」
「おう! 建物もたくさんあるし、すげえところなんだな」
「ふふっ。時間があれば案内してあげるわよ」
「本当か!」
「ええ。あたし、けっこう王都に詳しいのよ」

 道中の間にハドリーとテュルティさんの仲は深まったようだ。これなら彼女の教えを素直に聞いてくれるかもしれない。
 少しの安心感を得て、馬車での旅路は終わりを迎えた。
 休む間もなくわたし達は王城へと通された。
 そういえばマグニカ王国では結局城に入る機会なんてなかったな。牢屋には入れられたけど。笑えないなぁ。
 城の中は広くて豪華だった。なんか語彙力が残念なくらい圧倒されていた。
 前世の残念な人生経験の中でも、こんなすごいところには来たこともない。天井がすごく高いし、絵画とか飾られていたりもする。この世界でちゃんとした絵を見るのは初めてだ。

「どうぞ。こちらでございます」

 場内に入ってから見た目大臣っぽい人が案内してくれる。わたし含めて冒険者ばかりのせいか、後を追って歩くだけなのにガチャガチャと物騒な音が鳴る。ほとんど全身鎧のサイラスのせいだ。
 高級そうな赤い絨毯の廊下を進む。慣れない感触に本当にここを歩いてもいいのかなと心配になる。
 先導する大臣っぽい人と兵士達に促されるまま歩いていると、これまた豪奢な扉に行き着いた。

「ここからは謁見の間になります。申し訳ありませんが武器を預からせていただきます」

 わたし達は言われた通り武器を預ける。わたしも杖を兵士の人に渡した。別に杖なくても魔法は使えるんだけどね。

「お、俺は入れないのかよ?」
「貴様は功績も何もないだろうが。俺様がいっしょにいてやるから留守番だ」

 さすがにハドリーまで謁見の間に入れるわけにはいかないようだ。ルーク様に首根っこを掴まれて止められていた。ていうかこの人いつの間にここにいたんだろう。派手な銀髪のわりに気配を感じにくいな。
 武器を取られたってのにサイラス達は動揺もせず堂々としたものである。
 自分の国なんだからそこまで警戒することもないのかな。今回は褒められるために来ているんだから当然か。
 扉の前で整列し直す。やはり王様の前に出るのだからそれなりのマナーというのものがあるのだろう。わたしは知らないけど。
 マグニカ王国から逃亡して、まさか他国の王様に会う機会があるだなんて想像もしていなかった。むしろ出会った時が詰みだろうと考えていたほどだ。
 大丈夫だろうか……。今になって緊張してきた。褒賞をもらえるだけだから、わたしが発言することなんてないよね? もしあったとしても変なことを口走らないようにだけは注意しないと……。
 考えている間に扉が開いていた。迷いなくサイラス達が扉の向こうへと進んでいく。わたしも慌てて追いかけた。
 マナーとかよくわかんないけど、サイラス達の真似をしていれば切り抜けられるだろうか。ある程度は荒くれ物の冒険者ってことで多めに見てもらおう。
 サイラスの大きな背中を参考にさせてもらう。こいつの後ろにいれば目立たないだろうし。
 謁見の間は足を踏み入れるだけで緊張感に襲われた。すごく視線を感じるほどだ。
 いや、その視線は勘違いでもない。わたし達が進んでいる両側に大臣っぽい人達がいた。なんだか観察されている気がする視線だ。
 それに兵士、いや騎士か? 今までとは鎧の装飾や、存在感が違う人達が混ざっている。謁見の間なのだから護衛がいて当たり前か。
 さすがに王様を護衛する騎士となれば只者ではない猛者ばかりだ。ちょっと手合わせは遠慮したいレベル。そう思うほどにはピリピリとした威圧感を放っている。
 何も問題がなければ襲ってくることもないはず。平常心平常心。わたし達はただ褒賞を受け取りに来ただけなんだからね。
 サイラスが片膝をついて首を垂れる。テュルティさんやブリキッドもそれに倣ってきびきびと続く。わたしも同じ姿勢になった。

「よい。顔を上げよ」

 厳かな声に顔を上げる。段を上がった高い位置に、玉座から見下ろす老人の姿があった。
 白髪と白ひげをたっぷりと蓄えている。金の王冠に豪奢な衣装はまさに王様といった風情だ。もうザ・王様! って感じ。

「魔王の復活……。何もできなかった余と違い、そなた達は勇猛果敢に戦い、そして国の被害を未然に防いだ。心から感謝する」

 恐縮して頭が垂れてしまいそうになる。
 国王として、魔王が復活した事実でさえ責任を感じていそうだ。本当に申し訳なくて直視できない。

「詳細な報告は聖女から聞いておる。ここまでの長旅で疲れたであろう。褒賞は後日、本日は体を休めることに努めるがよい」

 案外あっさりと解放してくれるらしい。まあ後日またここに来なきゃなんだろうけれど。むしろこれだけなら今顔合わせしなくてもいいんじゃないかって疑問である。
 そうして問題なく国王との顔合わせを終えることができた。退室した瞬間どっと疲労感に襲われる。思った以上に緊張していたらしい。
 でも今日は休ませてくれるみたいだし。お言葉に甘えてゆっくり寝させてもらおう。王城の客室ならふかふかのベッドが期待できるだろうし。
 そのことをハドリーに伝えようと姿を探すが見当たらない。いっしょにいたルーク様もいないし、城内を案内してもらえているのかもしれない。

「エル様。よろしいでしょうか?」

 油断しているところにメイドから声をかけられて肩が跳ねた。ちょっとだけだったから気づかれていないと思いたい。

「な、なんでしょうか?」
「聖女様に魔王との戦いの詳細をお伝えくださいますか。他の方からは聞いておりますが、エル様にはまだでしたので」
「あ、はい。わかりました」

 褒賞を受け取るためにも尋問は先にした方がいいのだろう。「聖女様はこちらでお待ちになっております」と案内するメイドについて行く。サイラス達は別のメイドに客室へと案内されていた。わたしも早く寝たい……。
 廊下を歩いているだけでも、その広さと豪華さに目が行ってしまう。庶民派のわたしには「すげぇ」という感想しか出てきてはくれない。貧しい語彙力に悲しくなる。

「こちらの部屋で聖女様がお待ちになっています」

 ドアの前で立ち止まり、こちらへ振り向いたメイドがそう言った。さっきの謁見の間の扉と違って普通なものだ。あくまで城内での基準でだけれど。
 メイドは傍らでじっとわたしを見つめている。部屋の中まで案内してくれる気はないらしい。
 ここから先は自分から足を踏み入れなくてはならないようだ。緊張をほぐすため、一度深呼吸をする。
 それで平常心に戻れたわけではないけれど、一歩を踏み出せる余裕くらいはできた。
 ドアをノックして応答を待つ。「どうぞ」という涼やかな声を確認してからドアを開けた。

「失礼します」

 部屋の中にいたのは目を見張るほど美しい女性だった。
 光沢を見せる銀髪を束ねている。柔和な目はそれだけで彼女の優しさを表しているよう。白くきめ細やかな肌は内面から滲み出る純粋さを表現していた。
 美しい女の人をたくさん目にしてきたけれど、目の前の人物はその中でも随一だ。髪色だけじゃなく、存在自体も輝いていたクエミーと同等かそれ以上の美貌である。

「どうぞ、お入りになってください」
「あっ、はい」

 呆けていたらしく、その女性から声をかけられて慌てて室内へと入った。
 これが聖女様か……。実際に目にしただけで、なぜこれほどまで国民から支持を集めているのかわかった気がする。存在感からして別次元の生き物だとわからせられる。
 微笑を浮かべる聖女様に、こっちまで穏やかな気持ちになる。

「ではエル・シエル。これからあなたに質問をさせていただきますね」

 その言葉を耳にした瞬間、背筋どころか全身が凍りついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

処理中です...