根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

文字の大きさ
上 下
94 / 127
三章 冒険者編

第86話 堅牢なる戦士

しおりを挟む
「こんなに、でかいゴーレムだと……? 大きさだけならレッドドラゴン以上だ……」

 空中に足をつけるサイラスが見上げる。呟かれた言葉から驚きを隠す余裕すらなさそうだ。歴戦の冒険者でさえ、あのサイズは規格外なのだろう。
 わたしに至っては完全に言葉を失っていた。何をどう言葉にすればいいのか、感情まで見失いそうだ。
 大きい。それだけで単純な力の底上げである。
 わたしがアウスとの共同ゴーレムで作れたのはせいぜい数メートル程度のものだ。大きいというだけでコントロールが難しくなる。つまり、これだけ大きいゴーレムをコントロールができるのだとすれば、魔王の実力は魔道士の頂点と言っても過言ではないのかもしれなかった。
 わたしとアウスのゴーレムはクエミーに通用しなかった。いや違う。あれはわたしだけに問題があった。わたしさえちゃんとしていれば勇者にだって通用していたはずの力だ。
 魔法で作るゴーレムと、精霊が作るゴーレムは根本からして違う。もし魔王のゴーレムが本当に精霊の力で作ったものだとしたら……。

「おいおいなんだありゃ? 魔物どもがびびって逃げちまったぜ」

 ブリキッドが宙を蹴りながらこっちに近づいてくる。こいつもサイラスと同じで謎の足場を作れるようだ。
 魔物の大群が逃げてくれたのは朗報だが、目の前の脅威が去ったという意味ではない。体長五十メートルのゴーレムだなんて、下手しなくてもこっちの方が危険度が高い。
 これだけのサイズなら歩くだけで町を壊滅させられるだろう。まさに怪獣がやってきたみたいだ。

「とりあえず、バラバラにしちまえばいいのか?」

 ブリキッドは軽い口調で言ってくれる。恐怖を感じさせない態度が、今はありがたかった。

「あれを見て、簡単にできると思うか?」

 サイラスの重々しい口調に、さすがのブリキッドも口を閉じる。大きいだけじゃない、ゴーレムに纏う魔力とは別物の力を感じ取ったのだろう。
 あれはただの土の塊ではない。仮にも精霊の力を借りて作られたのだ。人の身で簡単にできる代物じゃないんだ。
 少なくとも、わたしだけじゃあ倒せない。もしアウスがいたとしても難しいかもしれない相手だ。

「分析するのはいいけどよ」

 ブリキッドがヒュンヒュンと風切り音を立てながら槍を回す。その矛先が魔王のゴーレムへピタリと止まった。

「求める結果はあれを倒すことには変わりないだろ。わかってんのはやるしかねってことだ。ゴーレムがでかかろうが強かろうが、俺達がすることは変わらねえ」
「……そうだな。俺達『漆黒の翼』はドラゴン殺しの英雄だ。こんなところで止まっていたら、後ろがついて来ねえ」
「おうよ! 行くぜサイラス!」
「ああ。遅れるなよブリキッド」

 二人の男が友情めいたものを確認して、魔王のゴーレムへと突貫した。
 わたしは黙って見ているだけだった。あの目で語り合っている雰囲気は苦手だ。わたしにはよくわからない世界だから。
 長年連れ添った仲間。それを見せつけられたわたしにやることなんてあるのだろうか。このままあの二人がゴーレムを倒してくれそうな気がする。一人じゃできないことでも、きっと仲間といっしょなら困難を乗り越えられるだろう。

「ヒョオオオオオオオオオオオオオ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ブリキッドとサイラスが裂帛の気合いとともに魔王のゴーレムへと襲いかかる。
 空を駆けながら、ゴーレムを斬撃の的にする。目で追うのがやっとだ。近づけば動きを見失ってしまうだろう。それほどの速度だ。
 ゴーレムはサンドバッグだった。槍で突かれても、剣で斬りつけられても微動だにしない。
 実力者二人の攻撃だ。巨大なゴーレムといえども傷を負っていく。ガリガリと削られていく。

「なんだと!?」
「修復されていく……」

 だけど、ゴーレムは傷なんてなかったみたいに勝手に治っていった。魔王を一撃で倒したサイラスの攻撃よりも早い回復力を見せる。
 微精霊が外から治していくのだ。自分だけの魔力なら限界があるが、外から持ってくるものの限界なんてないのと同義だ。
 本来の精霊の力は無限大なのだから。

「……ブリキッド、いったん退くぞ」
「ちっ……わかったよ」

 幸いなことにゴーレムはまだ動きを見せない。ただのかかしだ。最高に丈夫なかかしだけども。
 だが、魔王のゴーレムを排除しない以上安心なんてできないだろう。動かないとしても、存在するだけで人々の恐怖心を煽る。
 二人は地上へと降りていく。魔物の大群がいなくなっているけど、ほとんどの冒険者もいなくなっていた。大き過ぎるゴーレムを目にして敵わないと思って逃げたのだろう。
 その判断は正しい。これだけ大きい相手となると、数の優位なんてあってないようなものだ。ゴーレムが本来の力を見せたなら、実力もない冒険者はアリのように踏みつけられるだけの存在でしかない。

「黒い子ちゃーん!」

 なぜか地上からわたしを呼ぶ声がする。「黒い子」は不本意ながらわたしのことである。
 こんな状況だ。何か用があるのだろう。わたしも地上へと降りた。

「無事で良かったわ黒い子ちゃん!」
「ちょっ、テュルティさんっ」

 わたしを呼んだ張本人であるテュルティさんが抱きついてきた。……胸でかいな。
 この場に残っている者はそう多くはない。わたしと「漆黒の翼」のメンバー、それと――

「ケケケ。元気そうで安心したぜ。エルさんよ」
「マーセル……」

 今回、わたしと同罪なのだといえる男が残っていた。
 軽口を叩いてはいるが、顔色はとても悪い。青色通り越して土気色になっている。
 きっと立っているのもやっとだろう。それでも、マーセルはこの場に残っていた。逃げることなく、ここで戦力になろうとしている。

「で、あのゴーレムはなんだ? でかいだけで微動だにしないけどよ。ただの置物ってわけでもないんだろ?」

 マーセルの質問に、あのゴーレムの中に魔王がいることと、ゴーレムが動き始めれば町が壊滅してしまうであろうことを話した。
 大きさはそれだけで武器になる。しかし、大きくなればなるほどゴーレムの操作は難しくなる。精霊が力を貸してくれるのならそこんとこは解消されてそうなものだけれど。どうだろうか、動かないからわからない。
 そういえば、ゴーレムを出す前から魔王はすぐ攻撃してくることはなかった。
 こちらを観察しているのか、好機を狙っているだけなのか。それとも、ただぼーっとしているだけなのか判断できない。
 などと考えていると、ゴーレムの目が光った気がした。

「いっ!?」

 地響きが鳴った。ドスンと、大きい音までした。
 魔王のゴーレムが一歩、踏み出していたのだ。大きな一歩である。

「う、動いた!?」

 たったの一歩で体が浮いた。規格外の重量である。
 そして二歩目。方向を決めて進んでいるのか?
 ゴーレムの向かう先にはわたし達……ではなく、町を目指しているようだった。

「あのゴーレムを止めろ!!」

 サイラスも気づいて声を張り上げる。わたし達は同時に動き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したもののトカゲでしたが、進化の実を食べて魔王になりました。

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
異世界に転生したのだけれど手違いでトカゲになっていた!しかし、女神に与えられた進化の実を食べて竜人になりました。 エブリスタと小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...