根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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三章 冒険者編

第85話 最強の加勢

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「ヒョオオオオオオオオオオオオオ!!」

 地上から奇声が聞こえると思って見てみれば、魔物が次々と槍に貫かれ倒れていく光景が広がっていた。
「漆黒の翼」はサイラスだけじゃない。槍使いのブリキッドの奮戦に、押されていた冒険者達から希望の声が沸き立つ。

「炎よ集え、猛る灼熱の炎となりて、すべてを焼き尽くし、食い尽くせ!」

 テュルティさんの静かでありながらよく通る詠唱が鼓膜を震わせる。次の瞬間、炎の竜が大勢の魔物を飲み込み、焼き尽くしていった。
 ブリキッドを先頭にして、魔法や弓矢での攻撃を絡めてどんどん魔物を駆逐していく。魔物どものさっきまでの勢いを削ぐほどの強さだ。一人一人が一騎当千の猛者。これがAランクパーティーの実力か。

 英雄クラスの冒険者パーティー。その戦力は国の軍隊とそん色ないと言われている。実際、わたし達Bランク以下の冒険者の集まりよりも、サイラス達「漆黒の翼」の方が強いだろう。
 この目で今行われている無双っぷりを見てしまえば嘘だなんて言えやしない。さっきまでの苦戦が嘘のような光景が広がっているのだから。あっ、オークロードが死んだ。

「さて黒いの。こいつを倒せばこの騒ぎは収まるのか?」

 サイラスは顎をくいと動かして魔王を指し示す。
 そもそもこいつはなんで平然と空中に立っているんだよ? 鋼鉄の鎧に剣を携えている見た目通り戦士職のはずだ。魔法を使えるなんて話は聞いていない。
 しかし、ツッコんでいる場合でもない。わたしは無言で肯定の頷きを返した。

「ほう、人間……じゃないようだな。覚悟があって挑むのならどちらでもいいが」
「……」

 サイラスはニヤリと笑って魔王を見つめた。対する魔王はサイラスの眼光にも平常運転の無表情を貫いている。
 サイラスはゆっくりと剣を抜き放つ。大きな剣は見るだけでとてつもない重量を感じさせた。
 魔王が構える。今まで構えなんてあってないようなものだった。わたしと違って警戒すべき相手だと認識したのだろう。
 なんだか邪魔になる気がして少しだけ距離を取る。それが合図だったかのように、いきなり空気がピリリと張り詰めた。
 しばしの静寂。地上から何かしら音が聞こえてきているはずなのに、この空間だけは静寂を保っていた。

「……」
「……」

 サイラスの表情から笑みが消えている。魔王と同じく無表情だ。それでも、隠せないほどの威圧が無表情の下から漏れ出ていた。
 見ているだけで口の中が渇いてくる。強者の空気に体が強張る。

「えっ!?」

 驚きの声を上げたのはわたしだけだった。
 バンッ! と空気を叩き壊す音が震えたと感じた時には、すでにサイラスは魔王を斬り伏せていた。

「なんだ。少しは手応えのある奴かと思って本気出したんだがな。どうやら期待外れだったようだ」

 呆れ気味のサイラスのの言葉と同時、肩口から腰までバッサリ斬られた魔王は地面に向かって落下を始める。
 まったく見えなかった……。気を抜いていたわけがなく、油断なんてもってのほか。少しの挙動ですら見逃すまいと視覚を魔法で強化し、集中していた、はずだった。
 強い弱いはともかくとして、今のわたしの目なら当代の勇者の動きだって捕らえられるはずだ。そのはずだったのだ……。
 勇者、そんな単語を出すくらいだから最強クラスの強さを持っていると思っていたのに。上には上がいるとはわかっていたつもりだったけれど、世界はわたしなんかが考える以上に広いらしい。

「えっと……」

 魔王は倒した。地上での戦いもブリキッド達が加勢してくれたおかげで、こちらの勝利という決着が見えてきた。
 そんなMVP級の働きをしてくれた人達に、どう声をかけたものかと迷ってしまう。
「ありがとう」も「お疲れ様」も違う気がする。そもそもわたしのせいでこんなことになったんだし……。何を言っても言い訳にしかならないだろう。
 魔王を倒してくれたサイラスには感謝している。被害を最小限に食い止められたのは間違いなく彼の実力のおかげだ。
 だからこそ、わたしを断罪する剣になりえる。こんな状況にしておきながら、恐怖を感じてしまっていた。

「おい」

 サイラスの声に体が跳ねる。咄嗟に返事ができなかった。

「な、何?」

 何を言われるのだろうと身構える。サイラスはそんなわたしに目を向けることなく、指を差した。

「あれ、なんだかわかるか?」

 指を差された方向を見る。その先には倒され、空中から落下した魔王の姿があった。

「あれは……?」

 淡い光が魔王を包み込んでいた。光は優し気な印象を抱かせる。
 邪気はなく、敵意すら感じさせない。だがそれは徐々に嫌な予感へと変わっていった。
 あの光が悪いものではないと思うのは、光の一つ一つが微精霊だとわかるから。でも、なぜ微精霊が魔王へと集まるのかが理解できない。
 どういうことかと観察する。そんな悠長なことをしている暇はなかったのだと、すぐに思い知ることになった。
 魔王を包む光がいきなり大きくなった。驚くよりも、それが巨大なものへと変わる方が早い。

「ゴーレムだと!? いやしかし……この大きさはなんだっ」

 サイラスが警戒心を露わにする。それもそうだ。そのゴーレムはあまりにも大き過ぎた。
 まるで突然怪獣が出現したかのようだ。ゴーレムは目算で五〇メートルはあるようだった。
 こんなのが暴れでもすれば、怪獣映画のように簡単に町が壊されてしまうだろう。

「これは……わたしとアウスの……」

 いや、問題なのはその脅威じゃない。
 精霊の力で生成されたゴーレムには見覚えがあった。それどころか身に覚えがある。
 巨大なゴーレムの中には魔王がいる。わたしには感じられる。精霊という存在を知覚できるわたしにはよくわかった。魔王がどうやってこんな巨大なゴーレムを作ったか、わかってしまった。
 ……どうやら、魔王はわたしと同じ、精霊使いらしかった。
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