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三章 冒険者編
第80話 VS魔王
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相対するのは魔王。勇者でもないわたしが何をやっているんだろうか。
「……」
魔王はしゃべらないし、動かない。マーセル達が立ち去っていくのを黙って見逃すなんて予想外だった。こっちは警戒していただけで疲れたってのに。
血の臭いが気分を悪くさせてくる。すでに魔王は人を殺している。いくらわたしの治癒魔法が優秀といっても、死者を蘇らせることはできない。
この魔王は本当に蘇ったのか? 実は生きていたとか……さすがにそれはないか。それに、今はそんなこと無駄な考えでしかない。
「……」
無言でいられるだけでプレッシャーを与えられる。動かない魔王に、わたしの方は金縛りにあったみたいに動けない。それは明確な差だった。
魔王が一歩、足を踏み出した。って、動くのかよっ。
あまりにも動かないものだから意思がないと思っていた。敵対行動と判断した時にだけ動いているのだろうと考えていたのに。
マーセルが手を伸ばした時、それと攻撃された時。わかりやすく動きを見せたのはいずれも自らに害が及ぼうとした時だ。
逃げるマーセル達には反応しなかったから何もしなければこのまま睨み合いで済むと思ったのに……。そう上手くはいかないらしい。
とはいえ、その歩みは遅い。一歩一歩、亀のような歩みだ。
どうする? 攻撃すべきか? それともこのまま様子見するべき? わたしの最善な行動はなんだ?
第一は時間稼ぎ。マーセル達が町に戻って魔王の復活を伝える。そうすれば助けが来る。……それってどれくらいの規模が必要なんだろう。相手は魔王だ。生半可な戦力では犠牲者を増やすだけだ。
それに、マーセルはちゃんと事実を伝えるのか? そもそも町に戻る保証もない。だって悪いことをしていてこんなことになったのだ。わたしだったら正直に話せそうにない。
でも、このまま魔王を放置することはできない。外へと出してしまえば人間を襲うだろう。手近なところとなれば、わたしが拠点としている町になる。
そこにはお世話になっているヨランダさんがいる。捕まっているハドリーがいる。それに冒険者ギルドの受付嬢とか色々な人がいる。
別に仲良しになったといえるような関係ではない。それでもこんなわたしと関わってくれたんだ。わたしのせいで危険に遭わせるわけにはいかなかった。
すーと息を吸った。冷や汗は今でも流れている。でも関係ない。
「悪いけど、ここから先は通行止めだ」
間合いに入られる前に、石の弾丸をまとめて十発ほど放った。
「……」
表情はない。言葉もない。ただ魔王の手が振り上げられた。
風切り音とともに石の弾丸が砕かれていった。それを目にする前に横っ飛びで避ける。力の奔流がすぐ横を通り抜けていった。バキバキと、何もぶつかっていないはずなのに耳障りな音が体を震わせる。
危なかった。あのまま動かずにいたらわたしも真っ二つにされていたかもしれなかった。
だけど今のはなんだ? 無詠唱の魔法……にしては魔力を感じなかった。感知できない魔法か? 魔王の底が知れない。
「こっちだって無詠唱魔法が使えるんだよ!」
さっきよりも込める魔力量を増やして岩の弾丸を放つ。固定化込みでダメージが通るかどうか……。
魔王に向かった岩が衝撃音とともに砕け散る。当たったのか? 何かしら防がれると思っていただけに驚いてしまう。足を止めないまま魔王を観察する。
「まあ、倒せるとも思ってないけどね」
魔王は無傷だった。それどころか傷一つない。
あの質量が当たったとすれば、さすがに何もないってことはないだろう。それでも無傷ってことは当たっていなかったってことだ。
防御する様子はなかった。だとすれば結界だろうか。アルバート魔道学校にいた頃にはなじみ深かった魔石による結界。固定化をかけた岩を砕くとなればかなりの強度なのだろう。
「厄介な……っ」
文句を言ったって状況は変わらない。それならそうと気を引き締めるだけだ。
見た目からは魔石を持っているようには見えない。黒い布で体を覆っているし、どこかに隠し持っているのだろうか。
探す必要はない。隠せる程度の大きさの魔石程度の結界なら力ずくでなんとかなる。
岩の次は剣を作り出す。今度は一方向じゃない。魔王を中心に全方向に剣で取り囲んでやった。
刃先はすべて魔王に向いている。軽く百を超える数だ。そのすべてに上級レベルの固定化をかけている。並みの防御では防げないほどに硬い。
「串刺しになれ!!」
剣が一斉に魔王へと殺到する。いくつかは叩き落されたものの、ほとんどは結界に突き刺さった。ビキビキと不快な音が響く。もう少しだ。
ここで終わりはしない。魔力を解放させる。剣は形を保てず爆発を起こした。
地下で爆発させるなんてできればしたくなかったけど仕方がない。爆発といっても小さなものだったし、一般的な爆発とは根本的に違っていた。
魔法は魔力を形にしたものである。それには必要な魔力量があり、それを超えれば形を保てなくなる。
さっきの爆発はいわば魔力の暴走だ。普通なら魔法として形を保っている方が効率よくダメージを与えられるが、あれだけの至近距離ならば関係ない。魔力の塊をその身で受けるのはとても危険、と学校で教わった。
煙が晴れる。倒れてはくれないのだと、爆発の直後からわかっていた。
「……」
「ちょっとくらい痛そうにしてくれればいいのに。さすがに無表情にも飽きたっての」
相も変わらず無言でいる魔王。でも爆発によって体のところどころがくじれていた。
「……血は出ないんだな」
見た目からは魔王の体はボロボロだ。なのに血の一滴も出やしない。改めてただの屍なのだと認識する。
こいつは魔王の皮を被って動いているだけの人形だ。なぜ動いているかまではわからないが、魔王本来の実力ではないのだろうと思えば少しは気が楽だ。
それにダメージが通ったってことは結界を破壊できたということだ。おそらく個人が持てる程度の小さな魔石だったのだろう。それすら失ったとなればわたしにも勝機がある。
「これなら――」
いける、とは続かなかった。
魔王の目がわたしを捉える。やばいと思った時にはすぐそこまで接近されていた。
突き出される腕。ただただ速い。体の機能を強化していなければ動きを追えなかっただろうし、避けることもできなかっただろう。
「うわあああああっ!!」
情けなくも叫んでしまう。一瞬で死の恐怖に襲われる。魔力で強化された体は咄嗟に回避行動をとっていた。
ゴロゴロと地面を転がる。立ち上がった時に抱いたのは攻撃をかわせた安堵感なんかじゃなかった。むしろ恥ずかしさで唇を噛む。
もう情けない自分なんて見せないと決めていたのに……。こんなわたしが今ここにいるのは受け入れられなかった。
目指しているのは勇敢な自分。どんな強敵が現れたって怯むことなく立ち向かう。まるで物語の主人公のような、そんな強さがほしい。
そのために鍛えてきた。あれから二年の年月は無駄なんかじゃないんだって胸を張れるようにとがんばってきたんだ。
クエミー・ツァイベン。目標としたのは当代の勇者。わたしの記憶の中で鮮明に焼き付いた彼女を超えられるようにとやってきた。
ならば中身のない魔王相手にやられている場合じゃない。こんなところで簡単にやられていたら、やっぱりわたしがやってきたことが無駄だったんだって認めなきゃならなくなる。
手をかざす。地面から鎖が生えて魔王を捕らえた。錬金で鎖を作り出したのだ。
「悪いけど、あんたは人間じゃないから容赦はしないよ」
身動きが取れない……ていうか身じろぎすらしない魔王相手に容赦なく炎の弾丸を撃ち込んだ。
炎の弾丸が直撃して魔王の体を焼く。動いたり動かなかったり不安定な魔王だったな。まあおかげで勝つことができたけども。
燃え盛る姿を目にして勝ったと思った。そう思い込んでしまった。緊張と疲労で速くそう思いたかったのかもしれない。
ふぅと息を吐く。安心してしまったせいで一瞬、魔王から目を離してしまった。
「え?」
気配を感じてばっと顔を上げる。すぐ目の前にはさっきまで炎に包まれていた魔王が、何事もなかったかのように立っていた。
炎どころか焼け跡一つない。わたしの魔法なんてまるで通っていなかったんだ。その事実と自分を見下ろす冷たい目に身震いする暇はなかった。
咄嗟に左手を突き出す。無意識の行動だった。ただ左手の方が近かったから。とにかく距離を離さなければと突き飛ばそうとでもしたのだろう。
「あ」
その左手は容易く魔王に捕まえられてしまった。
急激に熱が左手から腕を通って駆け上がる。あまりの熱さに獣の咆哮のような絶叫を上げてしまう。苦痛から逃れるために無我夢中で魔法を放っていた。
本当に無我夢中で何がなんだかわからなくなっていた。気づいた時にはわたしは吹き飛ばされており、棺桶を巻き込み壁に衝突してようやく止まった。
「かはっ……」
地面にどさりと倒れ、強制的に息が漏れる。意識が保てそうにない。
今にも気を失いそうだ。それでも魔王を止めなきゃ……。重たくなった右腕を敵へと向ける。
なんでもいいからと魔法を放とうとした時だった。体内の魔力が急激に減った感覚がする。
いや、今なお減っている……? 違う。吸い取られているんだ!?
わたしの目は捉えた。わたしの魔力がどんどん魔王へと流れてしまっている。わたしの強味、拠りどころを吸い取っていた。
「待って……お願い、それ以上吸い取らないで……取らないで……っ」
魔力の流出をいくら抑えようとしてもどうにもならない。貯蓄していた魔力はすべて魔王に奪い取られてしまった。
脱力感がひどくて動けない。空っぽになったわたしは今度こそ気を失った。
「……」
魔王はしゃべらないし、動かない。マーセル達が立ち去っていくのを黙って見逃すなんて予想外だった。こっちは警戒していただけで疲れたってのに。
血の臭いが気分を悪くさせてくる。すでに魔王は人を殺している。いくらわたしの治癒魔法が優秀といっても、死者を蘇らせることはできない。
この魔王は本当に蘇ったのか? 実は生きていたとか……さすがにそれはないか。それに、今はそんなこと無駄な考えでしかない。
「……」
無言でいられるだけでプレッシャーを与えられる。動かない魔王に、わたしの方は金縛りにあったみたいに動けない。それは明確な差だった。
魔王が一歩、足を踏み出した。って、動くのかよっ。
あまりにも動かないものだから意思がないと思っていた。敵対行動と判断した時にだけ動いているのだろうと考えていたのに。
マーセルが手を伸ばした時、それと攻撃された時。わかりやすく動きを見せたのはいずれも自らに害が及ぼうとした時だ。
逃げるマーセル達には反応しなかったから何もしなければこのまま睨み合いで済むと思ったのに……。そう上手くはいかないらしい。
とはいえ、その歩みは遅い。一歩一歩、亀のような歩みだ。
どうする? 攻撃すべきか? それともこのまま様子見するべき? わたしの最善な行動はなんだ?
第一は時間稼ぎ。マーセル達が町に戻って魔王の復活を伝える。そうすれば助けが来る。……それってどれくらいの規模が必要なんだろう。相手は魔王だ。生半可な戦力では犠牲者を増やすだけだ。
それに、マーセルはちゃんと事実を伝えるのか? そもそも町に戻る保証もない。だって悪いことをしていてこんなことになったのだ。わたしだったら正直に話せそうにない。
でも、このまま魔王を放置することはできない。外へと出してしまえば人間を襲うだろう。手近なところとなれば、わたしが拠点としている町になる。
そこにはお世話になっているヨランダさんがいる。捕まっているハドリーがいる。それに冒険者ギルドの受付嬢とか色々な人がいる。
別に仲良しになったといえるような関係ではない。それでもこんなわたしと関わってくれたんだ。わたしのせいで危険に遭わせるわけにはいかなかった。
すーと息を吸った。冷や汗は今でも流れている。でも関係ない。
「悪いけど、ここから先は通行止めだ」
間合いに入られる前に、石の弾丸をまとめて十発ほど放った。
「……」
表情はない。言葉もない。ただ魔王の手が振り上げられた。
風切り音とともに石の弾丸が砕かれていった。それを目にする前に横っ飛びで避ける。力の奔流がすぐ横を通り抜けていった。バキバキと、何もぶつかっていないはずなのに耳障りな音が体を震わせる。
危なかった。あのまま動かずにいたらわたしも真っ二つにされていたかもしれなかった。
だけど今のはなんだ? 無詠唱の魔法……にしては魔力を感じなかった。感知できない魔法か? 魔王の底が知れない。
「こっちだって無詠唱魔法が使えるんだよ!」
さっきよりも込める魔力量を増やして岩の弾丸を放つ。固定化込みでダメージが通るかどうか……。
魔王に向かった岩が衝撃音とともに砕け散る。当たったのか? 何かしら防がれると思っていただけに驚いてしまう。足を止めないまま魔王を観察する。
「まあ、倒せるとも思ってないけどね」
魔王は無傷だった。それどころか傷一つない。
あの質量が当たったとすれば、さすがに何もないってことはないだろう。それでも無傷ってことは当たっていなかったってことだ。
防御する様子はなかった。だとすれば結界だろうか。アルバート魔道学校にいた頃にはなじみ深かった魔石による結界。固定化をかけた岩を砕くとなればかなりの強度なのだろう。
「厄介な……っ」
文句を言ったって状況は変わらない。それならそうと気を引き締めるだけだ。
見た目からは魔石を持っているようには見えない。黒い布で体を覆っているし、どこかに隠し持っているのだろうか。
探す必要はない。隠せる程度の大きさの魔石程度の結界なら力ずくでなんとかなる。
岩の次は剣を作り出す。今度は一方向じゃない。魔王を中心に全方向に剣で取り囲んでやった。
刃先はすべて魔王に向いている。軽く百を超える数だ。そのすべてに上級レベルの固定化をかけている。並みの防御では防げないほどに硬い。
「串刺しになれ!!」
剣が一斉に魔王へと殺到する。いくつかは叩き落されたものの、ほとんどは結界に突き刺さった。ビキビキと不快な音が響く。もう少しだ。
ここで終わりはしない。魔力を解放させる。剣は形を保てず爆発を起こした。
地下で爆発させるなんてできればしたくなかったけど仕方がない。爆発といっても小さなものだったし、一般的な爆発とは根本的に違っていた。
魔法は魔力を形にしたものである。それには必要な魔力量があり、それを超えれば形を保てなくなる。
さっきの爆発はいわば魔力の暴走だ。普通なら魔法として形を保っている方が効率よくダメージを与えられるが、あれだけの至近距離ならば関係ない。魔力の塊をその身で受けるのはとても危険、と学校で教わった。
煙が晴れる。倒れてはくれないのだと、爆発の直後からわかっていた。
「……」
「ちょっとくらい痛そうにしてくれればいいのに。さすがに無表情にも飽きたっての」
相も変わらず無言でいる魔王。でも爆発によって体のところどころがくじれていた。
「……血は出ないんだな」
見た目からは魔王の体はボロボロだ。なのに血の一滴も出やしない。改めてただの屍なのだと認識する。
こいつは魔王の皮を被って動いているだけの人形だ。なぜ動いているかまではわからないが、魔王本来の実力ではないのだろうと思えば少しは気が楽だ。
それにダメージが通ったってことは結界を破壊できたということだ。おそらく個人が持てる程度の小さな魔石だったのだろう。それすら失ったとなればわたしにも勝機がある。
「これなら――」
いける、とは続かなかった。
魔王の目がわたしを捉える。やばいと思った時にはすぐそこまで接近されていた。
突き出される腕。ただただ速い。体の機能を強化していなければ動きを追えなかっただろうし、避けることもできなかっただろう。
「うわあああああっ!!」
情けなくも叫んでしまう。一瞬で死の恐怖に襲われる。魔力で強化された体は咄嗟に回避行動をとっていた。
ゴロゴロと地面を転がる。立ち上がった時に抱いたのは攻撃をかわせた安堵感なんかじゃなかった。むしろ恥ずかしさで唇を噛む。
もう情けない自分なんて見せないと決めていたのに……。こんなわたしが今ここにいるのは受け入れられなかった。
目指しているのは勇敢な自分。どんな強敵が現れたって怯むことなく立ち向かう。まるで物語の主人公のような、そんな強さがほしい。
そのために鍛えてきた。あれから二年の年月は無駄なんかじゃないんだって胸を張れるようにとがんばってきたんだ。
クエミー・ツァイベン。目標としたのは当代の勇者。わたしの記憶の中で鮮明に焼き付いた彼女を超えられるようにとやってきた。
ならば中身のない魔王相手にやられている場合じゃない。こんなところで簡単にやられていたら、やっぱりわたしがやってきたことが無駄だったんだって認めなきゃならなくなる。
手をかざす。地面から鎖が生えて魔王を捕らえた。錬金で鎖を作り出したのだ。
「悪いけど、あんたは人間じゃないから容赦はしないよ」
身動きが取れない……ていうか身じろぎすらしない魔王相手に容赦なく炎の弾丸を撃ち込んだ。
炎の弾丸が直撃して魔王の体を焼く。動いたり動かなかったり不安定な魔王だったな。まあおかげで勝つことができたけども。
燃え盛る姿を目にして勝ったと思った。そう思い込んでしまった。緊張と疲労で速くそう思いたかったのかもしれない。
ふぅと息を吐く。安心してしまったせいで一瞬、魔王から目を離してしまった。
「え?」
気配を感じてばっと顔を上げる。すぐ目の前にはさっきまで炎に包まれていた魔王が、何事もなかったかのように立っていた。
炎どころか焼け跡一つない。わたしの魔法なんてまるで通っていなかったんだ。その事実と自分を見下ろす冷たい目に身震いする暇はなかった。
咄嗟に左手を突き出す。無意識の行動だった。ただ左手の方が近かったから。とにかく距離を離さなければと突き飛ばそうとでもしたのだろう。
「あ」
その左手は容易く魔王に捕まえられてしまった。
急激に熱が左手から腕を通って駆け上がる。あまりの熱さに獣の咆哮のような絶叫を上げてしまう。苦痛から逃れるために無我夢中で魔法を放っていた。
本当に無我夢中で何がなんだかわからなくなっていた。気づいた時にはわたしは吹き飛ばされており、棺桶を巻き込み壁に衝突してようやく止まった。
「かはっ……」
地面にどさりと倒れ、強制的に息が漏れる。意識が保てそうにない。
今にも気を失いそうだ。それでも魔王を止めなきゃ……。重たくなった右腕を敵へと向ける。
なんでもいいからと魔法を放とうとした時だった。体内の魔力が急激に減った感覚がする。
いや、今なお減っている……? 違う。吸い取られているんだ!?
わたしの目は捉えた。わたしの魔力がどんどん魔王へと流れてしまっている。わたしの強味、拠りどころを吸い取っていた。
「待って……お願い、それ以上吸い取らないで……取らないで……っ」
魔力の流出をいくら抑えようとしてもどうにもならない。貯蓄していた魔力はすべて魔王に奪い取られてしまった。
脱力感がひどくて動けない。空っぽになったわたしは今度こそ気を失った。
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