根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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三章 冒険者編

第77話 いざ魔王の墓場へ

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 魔王の墓場は町のはずれ、森の奥深くにある。
 とはいえ距離だけでいえばそれほど離れているわけではない。ちょっと森を行くのが面倒なだけだ。弱小パーティーでは危ないほどに。

「ケケケ、ザコどもがうじゃうじゃ出やがる」
「マーセルさん、俺達に任せてあんたは下がっていてくれ。本番はこれから先にあるんだからな」
「ああ、任せたぜ。エルさんも高みの見物といこうぜ」

 ただでさえ夜の暗闇に魔物が同化している戦闘だ。さらには木々に囲まれ視界の悪さは視覚を強化していなければわたしだって苦戦しそうだというのに、「黒蠍」のメンバーはマーセル抜きでも強かった。
 不意を突かれることは一度もなく、的確に無駄なく出現した魔物を屠っていく。洗練された動きは作業じみていた。
 さすがはBランクパーティーだと唸らせる強さだ。絶対に褒めてやらないけど。
 でもわたしだったら戦う必要すらなく空を飛んで魔王の墓場まで行けるけどね。と、同じBランクの意地を心の中で呟いてみる。

「何やってるんだエルさんよ。早く行くぜ」
「……はいよ」

 人数がいるだけあって敵を倒すのも早い。わたしはそう待たされることなく森を突き進んでいった。

「ん」

 急な魔力の反応に喉が動く。先を行くマーセル達も足を止めていた。

「さーて、ここからがエルさんの仕事だぜ」

 前方にあるのは遺跡のようにも見える。感じた魔力はそこからのもので間違いないのだが、ここに来るまでまったく感知できなかったのはどういうことだ?

「この魔力の結界が聖女の力の一つってことだ。他者を寄せつけず、もし近づいたとしても排除する。外的要因はすべからく無力ってな」
「そんな結界相手にどうすればいいんだよ。そこまでのものならわたしが全力で魔法をぶつけたところでビクともしないってことだろ」
「なあに、手はあるんだぜ」

 マーセルはくぐもった笑いを零しながら案内する。
 遺跡……もしかしなくても魔王の墓場なのだろう。その魔王の墓場を中心にして張り巡らされた結界に沿って歩く。木々を縫うようにして進み、立ち止まった。

「ここだ」

 と、マーセルは言うけれど。ここに何があるのかまったくわからない。目の前には木しかないし。

「この結界には三つの支柱があってな。それらに解除する条件ってやつを送ってやればいい」
「条件って?」
「一つは聖女に備わっている固有の力。そしてもう一つが四大属性の上級魔力を同時に送り込むことだ」

 振り返るマーセルはやはり笑っていた。月明かりに照らされて牙のような歯がギラリと光る。

「後者の条件なら、エルさんにもできるんだろ?」
「……」

 マーセル相手に手の内をすべてさらした覚えはないのだが、わたしが上級レベルの魔法を使えることはバレバレみたいだ。
 しらばっくれることはできなさそうだ。どこまで手の内がばれているのかはわからないが、下手に嘘をつこうものならハドリーがどうなるかわかったものじゃない。

「わかったよ。ちょっとどいてて」

 心底やりたくない態度を出しつつも、わたしは支柱となっている木に近づく。
 ここまで近づいてみて初めて気づく。確かにこれはただの木なんかじゃない。手で触れられる距離になってようやく魔力のようなものを感じ取れた。
 あからさまな弱点だとわからないように認識阻害の魔法でもかけられているのだろう。接近してしまえば認識できるんだから大したものでもないんだろうけれど。よくもまあマーセル達はこんなものを見つけられたものだ。

「解除方法なんて聖女様だけができるようにしとけばいいのにね。おかげでわたしがこんなことをさせられるはめになる」
「そう言うなって。それに、聖女様にもしものことがあったらっていう保険でもあるんだろうよ。まっ、それができる奴がどれだけいるかって話だがな」

 数少ないであろうそのできる奴になれても嬉しくはない。
 四種類の魔力をまんべんなく流す。木が虹色の光を帯びて、消えた。いきなり大木とも呼べる一本の木がなくなるとさすがに驚いてしまう。

「ケケケケケ。俺の目に狂いはなかった。エルさんに頼んで正解だったぜ」

 マーセルの口が頬まで裂けんとしていた。いつもよりも上機嫌な笑いだった。わたしには耳障りでしかなかった。

「他の支柱も頼んだぜ。なあ、エルさん」
「……わかってる」

 身も心もドス黒い何かに沈められるような気分だ。不快な笑い声がわたしをあざ笑っているようにしか聞こえない。胸中に広がる何かを、見たくもないのに見てしまう。
 わたしが、わたしがやってしまった。わたしがこいつらを手引きしたということになるのだ。魔王の遺産とやらが盗まれればどれほどの罪になるのだろうか。今さら罪の重さなんてものを測ろうとしている自分の卑しさがやっぱり嫌だな。
 そんな風に罪の意識にさいなまれているフリをしながらも、残りの支柱も潰していく。起点を失った結界は自然に溶けるように消えてしまった。あっさり消えてしまったことが、自分でやっておきながら恨めしく思う。

「ついに……ここに入れる時がきたか」

 高笑いでも上げるのかと思ったが、マーセルは静かに呟くだけだった。未知の興奮を瞳にたたえているのを見ればただの冒険者の一人に見えなくもない。

「結界はなんとかしたんだ。ハドリーを解放しろよ」
「まあそう急かすなって。約束は守るぜ。ただ、ここから先にも行く手を阻む結界があるかもしれねえ。最後まで付き合ってくれなきゃ約束は守ったとは言えねえなぁ」

 ニヤニヤとそんなことをのたまうマーセルに舌打ちで返す。
 できることならここで引き返してしまいたかった。本当に約束を守ってくれる保証はなかったが、ハドリーに危険が及ぶかもしれないと思うと断るなんてできなかった。
 それに、ここまでやればわたしも同罪だ。今さら罪が軽くなるとも思えない。この先に進んだとしても何も変わらないだろう。
 そんな諦めたような気持ちを抱いたまま、わたしはマーセル達とともに魔王の墓場に足を踏み入れた。
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