根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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三章 冒険者編

第69話 ハドリーの処遇

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 急いでハドリーを地上へと運び出した。

「まだ意識は戻らないか」

 魔力の流れは滞りない。すぐに目を覚ますとは思うんだけど、今はまだぐったりとしたまま動く気配がなかった。
 地べたに寝かせるわけにもいかない。いろいろ考えた末、わたしの部屋で寝かせることにした。

「あんたが面倒見るんなら構わないよ」

 家主のヨランダさんから許可をもらえた。まあ目が覚めるまでのちょっとの間だから問題ないだろうと思ってわたしも提案したのだけどね。
 ベッドに少年を寝かせている。呼吸に乱れはない。ただ眠っているようにしか見えない。
 服は汚れがひどかったので脱がせてもらった。その代わりにわたしの服を着せている。少年の体が小さくてよかった。さすがに成人男性だったらわたしの服は入らなかっただろう。
 まあそれでも体の汚れもひどかったせいでベッドは汚れてしまったんだけどね。後で洗わないといけない。

「こんな子に無詠唱魔法か……」

 ハドリーの寝顔は普通の子供と変わりない。こんな子が無詠唱魔法を使うだなんて思ってもなかった。
 冒険者として活動するようになって、魔道士という存在が一般的にどういうレベルかが段々とわかってきた。
 今まで無詠唱での魔法を行使できる者は、冒険者に限って言えばいなかった。出会った中ではわたしを含めてもアルベルトさんとコーデリアさんくらいしかいない。
 そんなこともあって最初は本当に驚かれたものである。パーティーでの行動を推奨されている冒険者で、わたしがソロでの活動を認められていたのは無詠唱魔法という強みがあったからだ。
 高速詠唱でもかなり数が少ない。ギルドによっては一人もできる者がいないなんてざらである。
 今思えばマグニカの魔道学校のレベルは高かったのだと言える。少なくとも対校戦に参加できる生徒ならば冒険者としても即戦力でやっていけるだけの実力があった。
 そんなレベルの高いマグニカ王国の魔道学校でも、無詠唱魔法が使えるのはコーデリアさんくらいなものなのだ。わたしがウィリアムくんに教えてもできなかったことを考えると、もしかしたらこれは教えてできるようなものではなく才能の領域なのかもしれない。

「ちゃんと自分のものにできれば、この子はやっていけるのかも」

 詠唱の時間は魔法にとっての弱点だ。その弱点がないとすれば、きっとハドリーを見るみんなの目も変わるだろう。
 なんて考えながら彼を見つめていると、ゆっくりとそのまぶたが上がっていく。

「ここは……?」
「目が覚めたみたいだね。自分が倒れたの、憶えてる?」

 ハドリーはゆっくりと体を起こす。フラつきはないようだ。

「スライムがエルを……。エル! そうだ大丈夫か!?」
「おかげ様でね。あのスライムは駆除したから安心して」
「そっか~。良かった」

 彼が脱力する。どうやら心配されていたのはわたしの方だったみたい。
 そりゃあ強いと思っていた奴が弱かったら心配にもなるか。そのせいでハドリーが倒れてしまったのだし。
 これに関しては本当に面目ない。言い訳のしようがなかった。

「つーかここはどこなんだ? 知らない場所だぞ」
「ああ、わたしの部屋だよ」

 まあ借りている屋根裏部屋なんだけどね。
 ハドリーはぽかんとしている。ん? 聞こえなかったか。

「ここはわたしの部屋。ついでに今キミの服は洗濯して干してあるから」
「え、ちょ、ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーっ!?」

 うるさいな。声が大きいんだよ。ヨランダさんに怒られたらどうすんだ。
 ハドリーは自分の服を確認して「なんじゃこりゃあ!?」と叫んだ。もう少し落ち着きというものを学んでほしい。

「さすがにすっぽんぽんは嫌でしょ。それわたしの服だから」

 ハドリーは頭を抱えてさらに叫び声を上げた。その拍子にベッドから転がり落ちる。子供って元気過ぎる。
 ドアがギイと開く音がして振り向いた。ヨランダさんが顔の半分だけ見せる。ちょっと怖いと思ってしまったのは内緒だ。

「うるさいよ。商売の邪魔になるだろ」
「は、はいっ! ごめんなさい黙らせます」

 ヨランダさんが去ったのでわたしはハドリーに拳骨を落とした。彼は再び意識を失ってしまったのでまた待つはめになってしまった。


  ※ ※ ※


 ハドリーが目を覚ました。
 目を覚まして早々「服を返せ!」と騒ぎだしそうになったので干していた服を渡した。着替えるのを待っていると「出て行け!」と怒鳴られてしまった。わたしの部屋なのにな。

「も、もういいぞ」
「はーい」

 部屋に入るといつものハドリーの姿があった。いつものと言うほど彼のことを知らないんだけどね。

「おいエル」
「何?」
「そう簡単に男を部屋に入れるな。もっと慎みを持てよ。年頃の女なんだから」
「はあ」

 なぜか年下の男の子に説教じみたことを言われる。まだ子供だろうに。しっかりしているとでも言えばいいのかな。

「そんなことよりも体は大丈夫? どこか痛いとかしんどいとかないかな?」
「そんなことって……。別にどこも痛くもかゆくもねえよ」

 ハドリーの額に手を当てて魔力の流れを見させてもらう。確かにどこも異常は見られなかった。

「お、おいっ。何なんだよ?」
「ちょっと体に異常がないか調べさせてもらっただけだから気にしないで」

 そりゃわたしなんかに触れられるなんて嫌だよね。手を離して反省する。

「なあ」
「何?」
「俺、パーティーに入れてもらえるのか?」

 そういえばそんな話だったね。
 無我夢中だったにせよ、ハドリーには無詠唱魔法を使えるほどの才能がある。つまり魔法適正はかなりのものなのだろう。
 今のままではそれも扱いきれてはいない。扱えるようになるまでは冒険者として活動はできないだろう。
 だけど、少し鍛えて魔法を使えるようになれればどこかのパーティーに入れてもらえる可能性がある。どうしても魔道士という存在は絶対数が少ないからね。
 そうなればあとは実践で鍛えていけるだろう。そのくらいの手伝いならわたしにもできるだろうか。
 ……また余計なことをしようとしているだろうか?
 でも、ハドリーの様子を見るにまともに食べれてはいないのだろう。どうやって生活しているかもわからない有り様だ。
 早く職にありつかないとどの道行き倒れだ。ハドリーが冒険者にこだわるのなら、冒険者になれるかどうかにかかっている。
 だったら、何かしようがしまいが変わらないのではないだろうか。そんな失礼なことを考えて、わたしは結論を口にした。

「パーティーには入れない。でも、キミが冒険者になれるように手伝ってあげる」
「え、それって……?」
「何をするにしても冒険者ギルドに登録できなきゃ始まらないでしょ。とりあえずそれまでは鍛えてあげる。話はそれから」
「お、おおっ! 本当かエル!」

 少年は笑顔を輝かせた。純粋な笑顔って眩しい。
 鍛えて稼げるようになったら分け前の一部を献上してもらおう。それならわざわざ手伝いをする意味があるってもんだ。
 純粋な少年を眺めながら、わたしはそんな悪いことを考えていたのであった。
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