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三章 冒険者編
第65話 オーガを討伐せよ③
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冒険者はランク付けされている。
それは実力に見合った依頼をさせるためなのだろう。駆け出し冒険者にドラゴン退治をさせるなんて命の無駄使いだからだ。
まあただの権威付けに見えなくもない。ランクが高ければ周囲の冒険者からの目が違うし、ギルド職員の対応だって変わってくる。その分、危険な依頼を薦められやすいんだけどね。
ランクはAからFまである。もちろんAに近づくほどランクが高くなる。
低い順にざっと説明するとこんな感じ。
Fランク。駆け出し冒険者。みんなここから始まる。
Eランク。半人前。ある程度の依頼をこなして慣れたかなと思ってしまう。ちょっと危ない時期。
Dランク。一人前。このくらいから胸を張って冒険者だと名乗れる。依頼をする側から見ても信用してもらえるライン。
Cランク。中堅。修羅場をくぐり抜けた風格が漂ってくる。周囲から一目置かれる存在になれる。
Bランク。トップランカー。ギルド内でも指折りの実力者。ギルド職員が下手に出るようになる。
Aランク。英雄。英雄譚のような功績を残した者に与えられる栄誉あるランク。その国全体でも認められた人物。
大体こんな感じだ。
これで考えれば、Aランク冒険者のサイラスはかなりの有名人で実力者だったりする。
「で、どうなんだ黒いの」
サイラスは鎧越しでも筋肉質だとわかる。けれどオーガほどのマッチョな大男というほどでもない。
なのに、彼はオーガの怪力で振るわれたこん棒を剣で受けきっていた。しかもわたしの方に振り向いたままその体勢を維持している。
魔法で身体能力を向上させているわけでもなさそうなのに。クエミーの時も思ったけれど、こういうのって実際に目にしてみるとかなり不思議だ。
まさにフィクションじみている。この世界が本当にフィクションであるのならハッピーエンドを求むところなんだけどな。
「……別に、いらない」
様々な感情を押し隠した仏頂面を作って答えた。サイラスは表情を崩さないまま「そうか」と言ってオーガを吹き飛ばす。
「だがな、俺達もオーガ討伐の依頼を受けている。悪いが手柄を渡すわけにはいかねえ」
「はあ? だったら今の質問はなんだったんだよ」
「質問ってほどじゃない。ただの確認だ」
サイラスはオーガの群れに突貫して行った。
いくら強さに自信があるからって肉体自慢のオーガ相手にそれは無謀じゃなかろうか。わたしは援護……のつもりはないけど魔法を放ち、サイラスが囲まれるのを防ぐ。
「このオーガどもにはロードがいるぞ!」
一応忠告はしたけど聞こえたかな? サイラスは構わないとばかりにオーガに剣を振るっていた。
「ヒョオオオオオオオオウウッ!! サイラス! 俺様の分を取るんじゃあねえぞ!!」
男が奇声を上げながらサイラスの背後にいたオーガを槍で突き刺した。
「ブリキッド。遅かったな」
「俺様が遅いだって? バカ言ってんじゃあねえよ!」
ブリキッドと呼ばれた男が槍を回転させオーガを薙ぎ払う。彼の間合いになってしまえば一方的だった。
ブリキッドの突きの嵐。その長いエモノを前にしては、オーガの屈強な肉体でも近づけない。
強い。少なくとも接近戦ではわたしなんかじゃこの二人の足元にも及ばないだろう。
「黒い子ちゃん、大丈夫? ケガはないかしら?」
戦闘中なのにおっとりとした女性の声が聞こえた。というかわたしにかけられたものだった。
声の方に顔を向ければちょっとばかし露出が目立つ服装のお姉さんがいた。これでも魔道士らしい。
「テュルティさん。てことはパーティーメンバー全員揃っているんですか?」
「うふふ、もちろんよ。ほら、体見せて?」
「いえ、ケガとかはないんでいいです」
「ダメよ、強がり言わないで。こんなに汚れちゃっているじゃない」
「これは地面を転がっただけです。土がついちゃっただけなんで洗えばすぐ落ちますってば」
「んもうっ。いいからお姉さんに見せなさい!」
頬を膨らませての「んもうっ」だと? わたしよりも年上のはずなのにかわいいじゃないか。
退いてくれる様子がないので仕方なく体を見てもらう。前方ではまだオーガがいるってのに何のんびりしてんだろ。
わたしがテュルティさんに体を見てもらっている間に、続々とサイラスのパーティーメンバーが集まりオーガどもを倒していった。
「グルガアアアアアアアアッ!!」
「おお、やっとこさロードのお出ましかい」
「油断するなよブリキッド」
「俺様に言ってんのかサイラス。誰がこんなのに後れを取るかよ!」
ブリキッドが単身オーガロードに挑む。サイラスや他の仲間達は手を貸さないようだ。
手を貸さない代わりに邪魔が入らないように他のオーガを倒していく。その手際は鮮やかで、さすがはAランク冒険者だと唸らせた。
「ほらぁ、ここ擦り傷になっちゃってるじゃない。ちゃんと治さなきゃダメよ?」
「わ、わかりましたって。後で自分で処置します」
「ダーメ。今あたしがやっちゃうわね」
わたしの意志を無視してテュルティさんは治癒魔法の詠唱を始めてしまった。
さっきまでわたしが戦っていたはずなのに……。今ではのんびりと治癒魔法を受けながらの観戦である。
「おいブリキッド。まだ終わらないのか」
気づけばオーガロードを残すだけとなっていた。あの短時間でオーガを全滅させてしまったのか。
「もう終わらせるぜ!」
気づけばオーガロードは血まみれだ。何度も槍で貫かれたのだろう。むしろまだ生きているのかと褒めてやりたいほどの姿だった。
「グルルガオアアアアアアアアアアアアアッ!!」
オーガロードは四方八方に魔法を放ち、こん棒を力の限り振り回した。
でも、これはただ無茶苦茶に暴れているだけだ。狙いも何もあったもんじゃない。それほどになるほどに追い詰められているのだ。
そんなものがAランク冒険者に通じるはずもなく、ブリキッドはその攻撃のすべてをよけて、槍でオーガロードの脳天を貫いた。
断末魔を上げてロードは絶命した。槍を引き抜いたブリキッドは勝鬨を上げる。
「このブリキッド様がオーガロードを討ち取ったぜ!!」
ブリキッドが槍を天に掲げ、サイラスを始めとした仲間達が歓喜の声を上げる。わたしはその光景をただ眺めるだけだった。
※ ※ ※
「報奨金はいらないです」
わたしはきっぱりはっきりと言い切った。
「でもね黒い子ちゃん。半分はあなたが倒したのでしょう?」
オーガの残骸を見ながらテュルティさんは優しげな態度を崩さない。
今回のオーガ討伐は急務なこともあってかいくつかのパーティーが同時に受けた依頼だった。
わたしだけじゃなく、サイラスをリーダーとした『漆黒の翼』も同じくこの依頼を受けていたのだ。パーティー名が中二病っぽいと強い法則があるのかなとか今はどうでもいい。
受けた依頼が被っている場合、その報奨金は当たり前だけど達成したパーティーに配られることとなっている。今回で言えばオーガロードを倒した『漆黒の翼』のものというわけだ。
「テュルティよ。本人がそう言ってんだからいいじゃんかよ。これは俺様達の手柄だぜ」
「そうだな。黒いのにもプライドってものがあるんだろう」
ブリキッドとサイラスは勝手に納得している。まあどちらかと言えばわたしに報奨金を半分こしようとか提案したテュルティさんがおかしいんだけども。
それにサイラス達は六人で、わたしは一人だ。分配しようと思ったらややこしくなる。
これは早い者勝ち。わたしだって冒険者なのだ。それくらいわかっている。
「それにしてもラッキーだったぜ。先に戦ってくれていたおかげでオーガを探す手間が省けたんだからな。爆発する音が聞こえてなかったらお前さんも危なかったな」
「別に、何とかはできていたよ」
「けっ、かわいげのねーことで」
そりゃあそれなりには覚悟した。でも命の危機とまではいかなかった。
あの時みたいに情けなくうろたえるほどではない。なら、わたしにとってはピンチではなかったのだろう。
「だがこれでわかったんじゃないか? 一人では限界がある。せっかくの実力も、魔道士一人ではどうにもならない状況ってのがあるってことがな」
「……」
サイラスの冷静な視線が痛かった。居たたまれなくて顔を逸らす。
「俺から言えることなんてないのかもしれない。だがな、今日感じたことを忘れるな。早死にしたくないんならな」
それだけ言ってサイラスは背を向けた。Aランクパーティーを率いるリーダーには強者の風格のようなものがあった。
サイラス達が去ってから、わたしはようやく口を開いた。誰にも届けたくない言葉を呟いた。
「うるさい……っ」
それは実力に見合った依頼をさせるためなのだろう。駆け出し冒険者にドラゴン退治をさせるなんて命の無駄使いだからだ。
まあただの権威付けに見えなくもない。ランクが高ければ周囲の冒険者からの目が違うし、ギルド職員の対応だって変わってくる。その分、危険な依頼を薦められやすいんだけどね。
ランクはAからFまである。もちろんAに近づくほどランクが高くなる。
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Fランク。駆け出し冒険者。みんなここから始まる。
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Dランク。一人前。このくらいから胸を張って冒険者だと名乗れる。依頼をする側から見ても信用してもらえるライン。
Cランク。中堅。修羅場をくぐり抜けた風格が漂ってくる。周囲から一目置かれる存在になれる。
Bランク。トップランカー。ギルド内でも指折りの実力者。ギルド職員が下手に出るようになる。
Aランク。英雄。英雄譚のような功績を残した者に与えられる栄誉あるランク。その国全体でも認められた人物。
大体こんな感じだ。
これで考えれば、Aランク冒険者のサイラスはかなりの有名人で実力者だったりする。
「で、どうなんだ黒いの」
サイラスは鎧越しでも筋肉質だとわかる。けれどオーガほどのマッチョな大男というほどでもない。
なのに、彼はオーガの怪力で振るわれたこん棒を剣で受けきっていた。しかもわたしの方に振り向いたままその体勢を維持している。
魔法で身体能力を向上させているわけでもなさそうなのに。クエミーの時も思ったけれど、こういうのって実際に目にしてみるとかなり不思議だ。
まさにフィクションじみている。この世界が本当にフィクションであるのならハッピーエンドを求むところなんだけどな。
「……別に、いらない」
様々な感情を押し隠した仏頂面を作って答えた。サイラスは表情を崩さないまま「そうか」と言ってオーガを吹き飛ばす。
「だがな、俺達もオーガ討伐の依頼を受けている。悪いが手柄を渡すわけにはいかねえ」
「はあ? だったら今の質問はなんだったんだよ」
「質問ってほどじゃない。ただの確認だ」
サイラスはオーガの群れに突貫して行った。
いくら強さに自信があるからって肉体自慢のオーガ相手にそれは無謀じゃなかろうか。わたしは援護……のつもりはないけど魔法を放ち、サイラスが囲まれるのを防ぐ。
「このオーガどもにはロードがいるぞ!」
一応忠告はしたけど聞こえたかな? サイラスは構わないとばかりにオーガに剣を振るっていた。
「ヒョオオオオオオオオウウッ!! サイラス! 俺様の分を取るんじゃあねえぞ!!」
男が奇声を上げながらサイラスの背後にいたオーガを槍で突き刺した。
「ブリキッド。遅かったな」
「俺様が遅いだって? バカ言ってんじゃあねえよ!」
ブリキッドと呼ばれた男が槍を回転させオーガを薙ぎ払う。彼の間合いになってしまえば一方的だった。
ブリキッドの突きの嵐。その長いエモノを前にしては、オーガの屈強な肉体でも近づけない。
強い。少なくとも接近戦ではわたしなんかじゃこの二人の足元にも及ばないだろう。
「黒い子ちゃん、大丈夫? ケガはないかしら?」
戦闘中なのにおっとりとした女性の声が聞こえた。というかわたしにかけられたものだった。
声の方に顔を向ければちょっとばかし露出が目立つ服装のお姉さんがいた。これでも魔道士らしい。
「テュルティさん。てことはパーティーメンバー全員揃っているんですか?」
「うふふ、もちろんよ。ほら、体見せて?」
「いえ、ケガとかはないんでいいです」
「ダメよ、強がり言わないで。こんなに汚れちゃっているじゃない」
「これは地面を転がっただけです。土がついちゃっただけなんで洗えばすぐ落ちますってば」
「んもうっ。いいからお姉さんに見せなさい!」
頬を膨らませての「んもうっ」だと? わたしよりも年上のはずなのにかわいいじゃないか。
退いてくれる様子がないので仕方なく体を見てもらう。前方ではまだオーガがいるってのに何のんびりしてんだろ。
わたしがテュルティさんに体を見てもらっている間に、続々とサイラスのパーティーメンバーが集まりオーガどもを倒していった。
「グルガアアアアアアアアッ!!」
「おお、やっとこさロードのお出ましかい」
「油断するなよブリキッド」
「俺様に言ってんのかサイラス。誰がこんなのに後れを取るかよ!」
ブリキッドが単身オーガロードに挑む。サイラスや他の仲間達は手を貸さないようだ。
手を貸さない代わりに邪魔が入らないように他のオーガを倒していく。その手際は鮮やかで、さすがはAランク冒険者だと唸らせた。
「ほらぁ、ここ擦り傷になっちゃってるじゃない。ちゃんと治さなきゃダメよ?」
「わ、わかりましたって。後で自分で処置します」
「ダーメ。今あたしがやっちゃうわね」
わたしの意志を無視してテュルティさんは治癒魔法の詠唱を始めてしまった。
さっきまでわたしが戦っていたはずなのに……。今ではのんびりと治癒魔法を受けながらの観戦である。
「おいブリキッド。まだ終わらないのか」
気づけばオーガロードを残すだけとなっていた。あの短時間でオーガを全滅させてしまったのか。
「もう終わらせるぜ!」
気づけばオーガロードは血まみれだ。何度も槍で貫かれたのだろう。むしろまだ生きているのかと褒めてやりたいほどの姿だった。
「グルルガオアアアアアアアアアアアアアッ!!」
オーガロードは四方八方に魔法を放ち、こん棒を力の限り振り回した。
でも、これはただ無茶苦茶に暴れているだけだ。狙いも何もあったもんじゃない。それほどになるほどに追い詰められているのだ。
そんなものがAランク冒険者に通じるはずもなく、ブリキッドはその攻撃のすべてをよけて、槍でオーガロードの脳天を貫いた。
断末魔を上げてロードは絶命した。槍を引き抜いたブリキッドは勝鬨を上げる。
「このブリキッド様がオーガロードを討ち取ったぜ!!」
ブリキッドが槍を天に掲げ、サイラスを始めとした仲間達が歓喜の声を上げる。わたしはその光景をただ眺めるだけだった。
※ ※ ※
「報奨金はいらないです」
わたしはきっぱりはっきりと言い切った。
「でもね黒い子ちゃん。半分はあなたが倒したのでしょう?」
オーガの残骸を見ながらテュルティさんは優しげな態度を崩さない。
今回のオーガ討伐は急務なこともあってかいくつかのパーティーが同時に受けた依頼だった。
わたしだけじゃなく、サイラスをリーダーとした『漆黒の翼』も同じくこの依頼を受けていたのだ。パーティー名が中二病っぽいと強い法則があるのかなとか今はどうでもいい。
受けた依頼が被っている場合、その報奨金は当たり前だけど達成したパーティーに配られることとなっている。今回で言えばオーガロードを倒した『漆黒の翼』のものというわけだ。
「テュルティよ。本人がそう言ってんだからいいじゃんかよ。これは俺様達の手柄だぜ」
「そうだな。黒いのにもプライドってものがあるんだろう」
ブリキッドとサイラスは勝手に納得している。まあどちらかと言えばわたしに報奨金を半分こしようとか提案したテュルティさんがおかしいんだけども。
それにサイラス達は六人で、わたしは一人だ。分配しようと思ったらややこしくなる。
これは早い者勝ち。わたしだって冒険者なのだ。それくらいわかっている。
「それにしてもラッキーだったぜ。先に戦ってくれていたおかげでオーガを探す手間が省けたんだからな。爆発する音が聞こえてなかったらお前さんも危なかったな」
「別に、何とかはできていたよ」
「けっ、かわいげのねーことで」
そりゃあそれなりには覚悟した。でも命の危機とまではいかなかった。
あの時みたいに情けなくうろたえるほどではない。なら、わたしにとってはピンチではなかったのだろう。
「だがこれでわかったんじゃないか? 一人では限界がある。せっかくの実力も、魔道士一人ではどうにもならない状況ってのがあるってことがな」
「……」
サイラスの冷静な視線が痛かった。居たたまれなくて顔を逸らす。
「俺から言えることなんてないのかもしれない。だがな、今日感じたことを忘れるな。早死にしたくないんならな」
それだけ言ってサイラスは背を向けた。Aランクパーティーを率いるリーダーには強者の風格のようなものがあった。
サイラス達が去ってから、わたしはようやく口を開いた。誰にも届けたくない言葉を呟いた。
「うるさい……っ」
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