根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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三章 冒険者編

第59話 冒険者になったわたし

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 森の中、茂みに隠れて身を屈めている。
 せっかくの晴天だっていうのにわたしは何をやってんだか。ピクニック日和なのにな。別に興味ないけど。
 木々や枝についた葉が覆い茂っていて日影になっている。影に隠れるようにして洞窟の入口があった。わたしはそれを茂みに隠れて覗き見している。
 気分は張り込みする刑事みたい。似たようなもんかな。アンパンと牛乳がないけどね。

「……来たか」

 がやがやとした気配が近づいてくる。がやがやというよりギャギャギャというなんとも耳障りなものだけれど。
 洞窟に向かってくる集団。人のように歩いているがそうではない。
 緑色の肌に顔のパーツがいろいろと尖っている。背丈はどの個体もわたしよりも低いようだった。
 数多くのファンタジー世界に存在する定番の魔物と呼べる存在、ゴブリンである。この世界にもいるんだなと素直な感想を述べてみる。
 近づいてくるゴブリンどもは七、八匹といったところか。遠くからだとあの緑色の肌は見づらいな。もしかしてあれも擬態の一種なのだろうか。
 ゴブリンどもはギャギャギャと意味のわからないゴブリン語(?)を話しながら洞窟へと入っていく。まるで我が家に帰ったような気安さというか、野生のくせに警戒心ゼロかよ。

「やっぱりあれがゴブリンの巣ってことで間違いなさそう」

 近隣の村からの依頼でゴブリンの駆除を依頼されたのだ。駆除というからにはその辺にいる連中を倒すだけでは足りないのだろう。
 まだ外に出ている個体がいるのかもしれない。けれど巣をなんとかしてしまえば集団で行動するらしいゴブリンでは当分村に被害を与える余裕はないだろう。
 それに聞いたところによればゴブリンは夜行性とのことだ。今帰ってきたゴブリンどもはおそらく夜勤組だったのだ。ブラック会社のような集団でなければすぐにお寝んねタイムだろうな。
 なら、やるなら今がベスト。わたしは立ち上がり茂みから出た。
 一応身につけているローブと帽子の汚れを払い落す。腰に差した剣はちゃんと抜けるかどうか確認する。こうした動作で緊張をほぐす。
 音を立てないように一気に飛び上がり洞窟の入り口へと降り立つ。

「ここからだと気配を感じないんだよなぁ」

 入口の穴の大きさからは判断できないが、想像以上に洞窟の中は広いのかもしれない。
「入口がここだけとは限らないか」
 独り言が板についたもんだ。でもわたしの魔法に言葉はいらない。
 手持ちの煙玉に火をつけて洞窟の中へと投げ入れた。すぐに無詠唱で岩を生み出す。その岩で洞窟の入り口を塞いだ。
 洞窟の中ではもくもくと煙まみれになっているんだろうな。自分でやっておきながら他人事のように眺める。まあ入口を塞いでいるので中がどうなっているかはわからないけども。
 浮遊魔法で空へと上がり、森を俯瞰する。しばらく待ってみれば少し距離を置いた場所から煙が上がったのが見えた。

「そりゃ他にも抜け道があるよね」

 煙の方向へと移動する。空を飛ぶのも慣れたもんだね。
 降り立つともう一つの洞窟を発見。まあ煙が出ている以上繋がっているんだろうけど。
 そこから十匹ほどのゴブリンが這い出て咳き込んでいた。あの煙玉にはしびれさせる効果があるんだけどな。洞窟から出られるほどの力が残っていたのか、それともただ運良く穴の近くにいただけなのか。

「まあ、どっちでも関係ないね」

 石の弾丸でゴブリンどもの頭を撃ち抜いていく。あっけなく絶命していった。
 確認のためもう一度空へと飛び上がる。他に煙が上がっている様子はない。
 ならばと煙の出る穴の前で待機することにした。他に出てくるゴブリンがいたなら仕留めればいい。

「……」

 煙が収まるまで待機する。その間にさっき仕留めたゴブリンどもの耳を切断し、他はとくに必要な部位はないので燃やして灰にした。
 魔物を倒したらその証明として体の一部を提示しなければならない。ゴブリンはその耳が特徴的なのだそうだ。
 さて、煙も収まったので突入させてもらおうか。
 魔法で視覚能力を強化する。これは遠くのものがよく見えるようになったり、動体視力が上がったりする。今回は暗視としての効果を期待してのことだ。
 洞窟の中へと入る。おー、よく見える見える。
 一本道を進むとその先に空間が広がっていた。たくさんのゴブリンが倒れている。少しは意識があるようだが、しびれ玉の効果でまともに動けるものはいないようだ。
 それにしても思った以上の数だ。他にもいるだろうし、無策で突っ込んでいたら万が一があったかもしれない。
 警戒を怠らないようにしながら倒れているゴブリンを仕留めていく。

「けっこう魔法を使ったけど、疲れたとかしんどいとかそういうのはないな」

 調子は問題ない。体調の管理は重要だ。
 トントンととんがり帽子を叩く。これも様になってきただろうか。
 時間をかけて洞窟内のゴブリンを掃討していく。取りこぼしがないように、慎重にしていると本当に時間がかかってしまった。
 洞窟を出たら外は暗くなっていた。
 急いで帰れば日にちをまたぐ前にベッドで眠れるだろうか。冒険者ギルドに寄るのは明日になってからかな。
 そう、十七歳になった現在のわたしは冒険者として活動していた。
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